賃貸業界の現実とデジタル推進が加速しない理由
皆様の現場で、まずこんなことが起きていませんかということで挙げさせていただきます。同一情報の多重入力、やり取り履歴がない、正確なデータがない、タテ割りシステム依存と書かせていただいておりますが、一つずつ見ていきましょう。
同一情報の多重入力といったところでは、私が実際に経験して、現場のコンサルティングをしているときに実感としてあったことです。賃貸仲介の社員様と賃貸管理の社員様、別々の部門でいらっしゃる会社様でしたが、それぞれの社員さんに管理個数と入居率を聞くと、個数が違ったり、入居率が違ったりというところで、仲介部が管理している管理戸数、入居率というものと、管理部が管理している管理戸数、入居率でずれが出てきてしまうということです。これはなぜかというと、それぞれが情報を管理しているからです。
社長さんはぜひ、このセミナーが終わったあとに社員さんでそれぞれ違う部門の方に同じ情報を聞いてみてください。すると、違う数字が出てきたりすることが起きていないか確かめてみてください。
あとは、やり取り履歴がないというところでは、お客様とかつてやり取りした情報などが残っていなくて、これは極論を書きましたが、お客さんから不信感の原因になってしまうといったことになります。「かつて、問い合わせて個人情報も開示して、お宅の営業さんのお名前を忘れたけれど、お伝えしましたが、その情報ってもう残っていないのでしょうか」というかたちで、お客さんの不信感につながってしまったり、毎回その度に聞き直して毎回ゼロベースから発信したりしているということがあったりするのは、よく不動産会社で起きている現象です。
あと、正確なデータがないといったところでは、これもよくあることですが、ベテラン社員さんが持っているノウハウや経験値などは、性格というよりかは経験値状態になっているので、生字引状態というようなかたちで書きましたが、正確なデータや情報がないゆえに、社内で共有が図れずに、その人の頭だけに入っているといったようなかたちです。むしろその人がいなきゃ困るといった状態になっているのは経営として、非常にリスクになってきます。これは、上の役職者様になればなるほど起きやすい現象だと思います。結果として、若手社員の育つ阻害要因になっていたりします。
あとは、タテ割りシステムといったところでは、ゲスト講師の鎌田社長にお話いただきましたが、部門ごとにシステムというものが存在していて、システムを超えるみたいな話が、なかなかなくされていないということです。会社の経営は全社統合してデータベースは作りたいものの、現場と実務の咬み合わせがうまくいっていないということがよく起きています。
それで「このようなことが起きませんか」と聞いて、「そうそううちでも起きているよ」と言う会社さんが非常に多くいらっしゃいました。われわれもヒアリングを全国100社以上DXの実態調査を今年の年始にさせていただきましたが、なかなかうまくいっている会社さんが多くないといったところで、どんなことが課題に挙がるのかなといったところを三つ上げさせていただきました。
まず一つ目です。コトベースのアプリ・ツールが多すぎて、たくさん入れてしまうといったことです。二つ目としては、外注放任・ベンダー主義で、業務フローを構築しているため、自社のシステム、やり方に合っていないということがよくあるということです。三つ目としては、アナログ依存で属人化した業務で、どういうやり方でやればいいのかといったような適切解が出せずにいる会社さんが多いといったかたちです。この三つの課題を一つずつ深掘りして、このあと見ていきたいと思います。
まず一つ目です。こちらのスライドは不動産テック協会様が出している不動産テックカオスマップというものの変遷になります。不動産テックカオスマップを初めて聞いた方ももしかするといらっしゃるかもしれません。簡単にお伝えしますと不動産テックという言葉ができましたが、不動産にかかるITツールやアプリケーションといったものがたくさんありすぎてカオス状態になっていますよというようなマップです。
一番直近で出されたものが1版から6版まで、バージョンが6番になっているものまで出しましたが、最初の状態でもう既に80個あって、最新のもので言うと324個あります。不動産テックは比較的最近できた言葉ですが、もう既に324種類のものがあります。よく私は船井総研のコンサルタントとして、全国いろいろな会社様にお伺いをしてヒアリングしていると、相談を受ける質問の一つにこういうものがあります。「片野さん、どんなアプリケーションを入れればいいの」「どんなITツールを使えばいいの」という話がありますが、私も非常に答えに困ります。
「うちと同じような状況の会社ないですか」という質問がありますが、状況的には同じことはありますが、324ツールの組み合わせと考えると、かなり無数に可能性が出てきてしまい、なかなか企業の状況に合っているものがなかったりします。なぜこんな状態が起きているのかというと、下のNGワード例として出させていただきましたが、ツールを使って何かを実現したいみたいなかたちに依存しすぎると、無数に広がってしまいます。
ツールを1個としてカウントするのであれば、324パターン考えられます。実現したいこと、会社として目指すべき方向性が324パターンもあってしまっては、社員様がどこを目指していいか分からなくなってしまいますから、しっかりとアプリに依存しないかたちを作っていただかなければいけません。ここで伝えたいのは、アプリ主導や、ITツール主導に決してなってはいけないということです。
二つ目、外注放任・ベンダー主導と書きましたが、これは業種業界問わずですが、経産省が出している資料の中で、日本企業が問題視している点が一つあります。これがITやシステムの話となると、「うちは専門じゃないから餅は餅屋に任せよう」というようなかたちで、すぐ外注したり、ベンダーさんを挟んだりといったことで、決して悪いことではないですが、発注しますと、右側の図になりますが、納品されるものがユーザーさんの企業のオーダーメイドになっている確率が少ないわけです。
なぜならベンダー企業さんはいろいろなところから発注依頼を受けるので、納品するものといっても汎用性の効くものを納品します。なので、自社にカスタマイズするというよりかは、ほかの会社さんの声を統合すると、「要はこういうことだから、これを使ってくれ」というかたちで納品されていくというのが日本のシステムになります。
これを諸外国のように変えていこうというのを経産省が推進しています。諸外国の例というかたちで書きました。社内にITエンジニアを雇うかたちにして、社内でノウハウが進化するようなかたちにします。外注しなくても自社で解決できるようなかたちを目指してくださいというように経産省が出しているDX推進指標というものが定義して、こういう方向を目指しましょう、日本企業もこっちに行きましょうということをもう既に提唱しています。
なので、皆様の企業では、ITエンジニアの社員、SEさんやエスアイヤーの方を雇うといっても、なかなかハードルが高いと思います。しかしながら今、アプリケーションやソフト、ベンダーさんが発注するものというのは社内でカスタマイズできて、自社で独自にできます。今回、salesforceさんを活用した事例をフレンドホームの鎌田社長にお話いただきましたが、あれ自体もsalesforceというプラットフォームをご購入されて、社内でいろいろな声を拾いながら作っていったというお話がありましたが、まさにITエンジニアにならなくても、最低限のパソコン設定ができるスキルさえあれば、大体できるようなかたちに今はなってきています。もちろん専門的なところで、専門的な開発を必要とする場合もありますが、昔よりかは外注に任せきりという状態から解放されている状況になっています。
三つ目の課題として書きましたが、属人的な業務フローになってしまっているということです。不動産は制度も改正されて資格も格上げされてといったかたちで、いろいろな知識や専門的なスキルを要するような業界ですから、なかなか人が育ちにくいという課題もありますが、それをそのまま放置してしまっていては、生字引状態になってしまうと先程表現しましたが、社内で情報格差が起きてしまいます。要は経験しない限り、情報が得られないような社員さんが育っていってしまうということです。
そうするとどうなるかというと、若手社員さんはその人に聞いたり、自分で経験したりしないと、その人のスキルレベルが同じにはなりません。そうすると、経験しなければというような場当たり的なかたちになってしまうので、社員様の育成スピードがなかなか上がりきらないと言えます。
上にいる方が経験値を積んでいる状態になると、組織がマンネリ化して大きくなりにくいという課題が出てきます。「自分の会社でも同じようなことが起きている」と思われた会社さんがもしかするといらっしゃるかもしれません。それを一つずつ紐解いていきましょうというかたちです。
日本が掲げるDX推進の指標と指針
先程から何回か紹介しております経済産業省が「DX推進の指標とガイダンス」といったものを出していて、それを私のほうで賃貸管理業界向けに翻訳をしてお伝えできればと思いますので、そのポイントを押さえていただいて進めていかないと、日本が目指すDXのかたちになっていませんよということを、まずお伝えします。
まず、DXの定義から確認します。DXの定義というものを経済産業省の定義で読みます。スライドの四角の中の文章です。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革させるとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と書いてあります。
どういうことかと言うと・・・