1. なぜ今、評価制度が必要なのか?
最初のテーマとして、「なぜ今、評価制度が必要なのか」という点を掘り下げます。この問いを考える上で、私たちは院長「市場」「競合」「自社」院長という3つの軸で現状を分析する必要があります。
(1)市場の変化:「難航する採用」と「低迷する利益率」
市場では、「難航する採用活動」と「低迷する利益率」という状況が見られます。
本日ご参加いただいた背景には、既存スタッフの給与をどう上げるか、あるいは近隣の看護師の給与提示額が上昇している、といったインフレの影響があるかと存じます。
市場のキーワードは以下の3つです。
1. インフレと既存スタッフの賃上げ
インフレが賃上げの直接的な背景となっています。2. 株式会社の医療参入の加速
コロナ禍以降、株式会社の医療参入が加速しています。美容医療など高収入が魅力となる分野へ、病院やクリニックから看護師が転職するケースが相次いでいます。場所によっては、看護師の給与が1.5倍ほどになっているケースも見られます。3. 診療報酬のタイト化
2024年の改定では、外来クリニック様の場合、メインとなる点数の算定手続きが煩雑になり、一部で利益率が落ちている法人様もあるのではないでしょうか。
在宅医療に関しても、点数が落ちた結果、私たちのお客様先で前年より売上が約2%落ちているという実態もあります。
このように、報酬がタイトになる一方で、スタッフ給与はインフレや他業界からの人材獲得競争によって上昇している、というのが現在の市場背景です。
(2)競合の変化:「30代を中心に飛躍するヘルスケア事業」
次に、競合を見ていきましょう。私たちは、「30代を中心に飛躍するヘルスケア事業」に注目しています。
最近、訪問看護ステーションやクリニックなどのヘルスケア系事業で、急速に成長している企業があります。私が今年取材した数件の企業に共通していたのは、30代中心で組織を構成している点です。そして、その背景には必ず評価制度が存在していました。
なぜこの30代中心の事業体を取り上げたかというと、成長スピードが非常に早いからです。例えば、4年で4.5億円の売上を達成したステーションや、2年で約2.7億円を達成しているケースなど、飛躍的に成長されています。
この「30代のエネルギー」を経営のエンジンとして組み込む動きは、クリニックや介護事業関連でも始まっています。
(3)自社の課題:「マネジメントの限界」
3つ目の軸である自社については、「マネジメントの限界」という課題があります。
一般的に、どんなに優秀な院長でも、スタッフが10人を超えるとマネジメントの限界が訪れると考えられます。一人の人間が見られる人数は通常7人程度と言われており、10人を超えると目が行き届かなくなります。
スタッフが10人を超えたタイミングで、以下のような人事・労務問題が圧倒的に増え始めます。
・コミュニケーション不足による離職
1対1で変化に気づけていたとしても、院長が常に院内にいるわけではない場合(例:訪問診療)、コミュニケーションが不足し、離職につながる事態が増え始めます。・組織の3階層化の失敗
院長が見切れなくなった際、院長とスタッフという2階層の間に、リーダーや主任といった役職を挟む(3階層化する)ことを考えます。
しかし、「リーダーって何をするんですか?」といった疑問が出たり、院長の思い通りに組織が動かなかったりと、これがうまくいっているクリニックは圧倒的に少ないのが現状です。・ビジョンの浸透不足
人の数が増えると、組織の方向性、つまり院長が本当にやりたいこと(例:別事業の展開、クリニックの将来像)といったビジョンが、スタッフにうまく浸透しているかという問題が出てきます。
これらの「マネジメントの限界」を突破し、組織を円滑に運営するためにも、人事評価制度は非常に有効です。
市場、競合、自社の3つの背景から、今、経営におけるセンターピンに「人事評価制度」があると言えます。

