新規事業というと、「良いアイデアさえあれば進む」と思われがちです。しかし実際には、アイデアが出た後に止まってしまう企業も少なくありません。その理由は、新規事業では既存事業とは異なる能力やマネジメントが求められるからです。
本コラムでは、ご相談頂く多くの企業様から頂く、「アイデアはあるが進まない」を紐解き、新規事業を自社でどう前に進めるか?を解説させて頂きます。
①新規事業では「一人何役」も求められる
新規事業の難しさがまさにここです。多くの企業では、既存の事業については高度に分業が進んでいます。営業・マーケティング・商品開発・財務・法務・人事など、それぞれ専門部署があり、多かれ少なかれ、それらの能力を育成し、実務を回す仕組み、評価の仕組まで、体制が整っています。それらを統括するマネジメント層も、多くが自社内で経験を積んでいます。
一方、新規事業の構想段階・立ち上げ期は、当然ながらまだ十分な人員を配置できません。
そのため担当者は、
- 市場調査
- 顧客ヒアリング
- 商品・サービス設計
- 収支計画
- 社内プレゼン
- 経営陣との調整
- パートナー企業との交渉
など、本来であれば複数の部署が担う仕事を、少人数(それも多くの場合は一人)で進める必要があります。
つまり、新規事業担当者には「アイデアを考える力」だけではなく、調査・企画・数字・営業・社内調整など、多種多様なスキルが必要になるということです。結果として、「アイデアはあるが、収益モデルを作れない」「市場性はありそうだが、どう検証すればよいか分からない」「企画書まではできたが、その先に進めない」といった状態が起こります
まずはこの認識を持つことが重要です。もちろんこれらをすべて出来るスーパーマンが社内にいれば別ですが、基本的には、新規事業を進めるためには、個人の能力だけに頼らず、必要な機能をどう補完するかが重要です。場合によっては、社内だけで進めようとせず、必要な機能を外部に委託するという選択肢も検討する必要があります。
②実は「担当者のマインド」以上に、経営トップの支援が重要
もう一つ見落とされがちなのが、社内環境とマインド面です。新規事業は、既存事業に比べて、 すぐに売上が立たない、成功するか分からない、仮説検証の途中で方向転換する、一見すると「成果が出ていない」ように見える、といった特徴があります。
そのため、既存事業と同じ評価軸で担当者を評価してしまうと、どうしても「失敗しない案を出そう」「確実性が高くなるまで動かないでおこう」という方向に担当者が動きやすくなります。
そこで重要になるのが、経営トップのバックアップです。
例えば、
☑社内へのアピール
「この新規事業は会社として重要な取り組みである」と経営トップ自身が発信する。
☑既存事業とは評価軸を分ける
参画するメンバーの評価を、既存事業の評価とは切り分け、短期的な売上だけではなく、顧客検証数や仮説検証の進捗など、立ち上げ段階に合った評価を行う。挑戦を許容する。すべての仮説が成功することを求めるのではなく、「検証によって何を学んだか」を評価する。
こうした環境を作ることで、担当者も安心して新規事業らしい動き方ができるようになります。逆に、これらの支援を怠ると、兼務で新規事業を担当してもらっている場合は、どうしても評価されやることが明確な既存事業の方にウエイトを置いてしまいがちで、ただでさえ難しい新規事業の成功確度をさらに落としてしまいます。
③一度、詳細の計画を作る
どうせ変わるから、未確定のことも多いからと計画を緻密に立てないケースもありますが、ここにも落とし穴があると考えています。
新規事業は不確実性が高いことは確かですし、計画を立てたところで変更が生じるのは確かです。一方で、しっかり事業計画を作ることで、目指す姿を言語化・定量化・図式化することで、事業推進メンバー間での齟齬を無くしてスムーズに推進ができる、というメリットもあります。
新規事業については、かなりメンバーや経営トップ、まわりのメンバーとの間に認識のギャップがあることが往々にしてあります。意外と基本的なことが伝わってなかったり、目指す数字感が全く異なっていたりすることも多くあります。
そのまま進んでしまうと、重要な場面で判断が食い違ったり、その都度あらためて説明や合意形成が必要になったりします。結果として、意思決定のスピードが落ち、新規事業の成功確度を下げる要因にもなります。
だからこそ、新規事業では一度、できる限り詳細な事業計画を作ってみることが重要です。
市場規模はどの程度か、どの顧客を狙うのか、どのような価値を提供するのか、競合とどう差別化するのか、どのように収益を上げるのか、いつまでにどの水準の売上・利益を目指すのか。その実現のために、どのような人員・投資・パートナーが必要なのか。
また、これらを一度具体化しておくことで、「何が決まっていて、何がまだ仮説なのか」も明確になります。最初に基準となる計画があるからこそ、「当初の仮説と何が違ったのか」「どこを修正すべきなのか」「このまま進めるのか、方向転換するのか」を判断しやすくなります。
新規事業の事業計画は、未来を正確に予測するためのものというより、関係者の認識をそろえ、仮説検証と意思決定の基準を作るためのものと捉えるとよいでしょう。
新規事業は、良いアイデアがあれば自然に事業化できるものではありません。むしろ、アイデアが生まれた後に、
・少人数で幅広い業務を担える体制をつくる
・経営トップが新規事業に適した環境や評価の仕組みを整える
・一度、詳細な事業計画を作り、関係者の認識と判断基準をそろえる
といった「事業化のための準備」が重要になります。
特に新規事業では、既存事業と同じ進め方をそのまま当てはめようとすると、担当者の負担
が大きくなったり、社内の理解が得られなかったり、意思決定に時間がかかったりしがちです。
「アイデアはあるのに、なかなか事業化まで進まない」という場合は、アイデアそのものを見直
す前に、事業化するための体制・環境・計画が整っているかを一度確認してみることをおすすめ
します。
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