【インタビュアー】株式会社船井総合研究所 宮井亜紗子(以下:宮井)
【インタビュイー】株式会社船井総合研究所ものづくり支援室ディレクター片山和也(以下:片山)
中小企業にDXは無理?
DXという言葉を聞く機会が増えています。
しかし、一方で、
・中小企業にDXは無理なのでは?
・ツールを売りたい企業のポジショントークでは?
という声も多くあります。
実際はどうなのか、本記事にて解説いたします。
いまは最悪の経済状態
片山:今、時流的に、景気が良いか悪いかでは景気は悪いです。
業種業界によって温度差はありますが、専門家の予測によると2022年の下半期のGDPはもともとプラスの2.0%等、当然インフレなのでGDPが上がってしかるべきです。
しかし、下期は各社一様にその予測を1ポイントくらい引き下げています。
つまり、景気が良くないということです。
例えば、テスラという会社があります。
経営者のイーロンマスクが「一割従業員を減らす」と発信しています。
理由は、「先行き不透明だから」です。
住宅業界であればウッドショックと言って材料が手に入りにくい、また、製造業全般は、車も人気の車種は手に入りません。
半導体が手に入らないという事もありますが、実は半導体だけではなく、昔であれば瞬時に手に入っていたようなスイッチやリレーやコネクターなどの部品が手に入りづらくなっています。
上海がロックダウンし、色々な理由でサプライチェーンが混乱して手に入らない状態です。
一つのスイッチが手に入らないがゆえに、その装置が完成しないので、出荷ができないという問題が色々な業界で起きています。
今年の冬も電気が足りないという話が出ています。
今、ロシアからの天然ガスの輸入ができないことや、円安のほうに振れて、資源高でガソリンが高くなります。
今までは日本の経済というのはデフレでしたが、物の値段が急に下がり、急に今はインフレになり、かつ景気が悪くなっています。
景気が悪くなると普通は需要が増えてインフレになります。
ところが、色々なことが理由で景気が悪くなっているにも拘らず国際市況や物不足等、インフレが進む状態のことをスタグフレーションと言います。
スタグフレーションというのは中学校で習いますが、教科書には「最悪の経済状態」であると書いてあります。
景気が悪く客が来ない中で、仕入れの値段がどんどん上昇する。
そうすると売り上げを伸ばすことが難しくなり、コストダウンも難しくなります。
不景気の中利益を出す仕組み作り
スタグフレーションにおいてどう利益を出すのか。
例えば、
・お客さんの数が増えなくても受注率を高めるような仕組みを作る
・今まで50時間程度かけていた業務を5時間程度でやる
等、そういった省力化、効率化をしていく必要があります。
そうでないと、これから明らかに乗り越えられなくなります。
手段としてやはりデジタルしかありません。
スタグフレーションの時代にしなければいけないことは、「ビジネスモデルの見直し」です。
一番わかりやすい方法がデジタルトランスフォーメーション=DXです。
DXというのはバズワードです。
一瞬流行りはしますが、誰も使わなくなってしまう言葉のことをバズワードといいます。
これは言葉の実態がないキーワードになります。
例えばインダストリ4.0という言葉がそうでした。
今はインダストリ4.0と言う人はいません。
インダストリ4.0を導入して業績が上がった会社というのはあまり聞いたことがありません。
DXは取り組んだ結果、業績が上がったという会社が非常に多いですし、中小企業もDXを導入して業績が上がったという例は非常に多いです。
そのときにはパラダイムシフト、思考の転換が必要です。
今まではIT等の情報システムというのは経営者が知らなくてもよく、デジタルに詳しい担当者が知っていればいいことでした。
これからの時代は、デジタルの基礎的な知識を経営者が知っておくことがマストです。
DXはバズワードではなく、パワーワードなので必ず100%押さえておかなければならないキーワードです。
中小企業だとできない、うまくいかないということはなく、成功事例はたくさんあります。
身近なDXの事例
従来のビジネスプロセスの一部、あるいは全てをデジタルに置き換える変革のことをデジタルトランスフォーメーションと言います。
DX事例1
わかりやすい例がNetflixです。
TSUTAYA DISCASの会員はTSUTAYAにCD、DVDを借りに行くこと、これは完全にアナログです。
TSUTAYA DISCASというのがあって、これはネットで予約するとDVDが封筒に入って送られてきます。
それを見て、投函すると次に予約しているものが送られてくる、これは半分デジタルです。
ネットで予約して郵送で送られてくるわけです。
ネットフリックスはもともとはTSUTAYA DISCASと同じことをしていた会社でした。
アメリカにはブロックバスターというビデオチェーンがあり、これはリアル店舗で勝負しているチェーン店ですが、TSUTAYA DISCASがDVDを郵便で送ってくるのに対して、Netflixは常時接続です。
ネットに直接常時つながっていてオンデマンドで好きなときに好きな作品が見られるということで、これがわかりやすいデジタルトランスフォーメーションです。
今の話を聞くと、そのようなことはうちの業界ではできないと思われる方がたくさんいると思います。
DX事例2
もう一つDXの勝ち組企業で有名な例を挙げると、それはマクドナルドです。
コロナパンデミックで外食産業は軒並み業績を落とす中、過去最高の利益を出した会社の一つが日本マクドナルドです。
マクドナルドが導入したのは、アプリです。
今まではお店に行ってお店で注文してお店でお金を払って受け取って帰るというかたちでした。
マクドナルド渋滞と言って、ドライブスルーが渋滞することもあります。
アプリで事前に予約して行くと、アプリで選んで購入して予約してお金を払ってお店で受け取るとなり、とても便利です。
更にクーポンも送られてきます。
マクドナルドは、例えばこの人は主婦、この人は子供がいる、この人はビジネスマンなど、20ぐらいのペルソナで異なるメルマガの情報を発信します。
例えば「お子様セットのクーポンを今度の日曜日にあげます」と告知し来客を促します。
スターバックスやケンタッキーフライドチキンなども同じような仕組みを導入しました。
これが身近なわかりやすいDXの例だと思います。
中小企業のDXが進まない理由
宮井:日本においてはDXをうまく進めたところが業績を上げていますが、中小企業においてDXが進んでいません。
この原因は何だとお考えですか。
片山:DXの幅が広すぎることだと思います。
DXというのは大きく2つあります。
顧客回りのDXとバックオフィスのDX
上述のマクドナルドのように、アプリでお客さんにネットで予約してもらい決済するというお客さんのインターフェースになる部分を顧客回りのDXと言います。
それに対し、会計システムの入れ替え、勤怠管理や労務管理などを効率化させて工数を削減することをバックオフィスのDXと言います。
顧客回りのDXで求められる色々なポイントや要件と、基幹系のDXで求められるポイントや要件のタイミングが異なります。
日経新聞にもDXというキーワードがありますが、顧客回りのDXなのか、バックオフィスのDXなのか、本当は分けて議論をしなければいけません。
このようなわかりにくさが一つの理由ではないかと思います。
カオスマップという言葉がありますが、DXを実現するためのデジタルツールの種類が非常にたくさんあります。
宮井:どれを選んでよいかわからないですね。
片山:例えばテレビ会議をする際、Zoom以外にも色々なものがあります。
〇〇がオススメとか、様々なツールを各々見つけていたと思います。
諸問題はありましたが弊社は結局Zoomに落ち着きました。
船井総研はこういうツール選定で外したことがなく、最初からZoomを使用していました。
ビデオ会議システムは開発にはすごく投資がかかるので、誰でも開発ができるわけではありません。
それでもたくさんの選択肢がありました。
基幹系:財務システム、財務、会計、労務、勤怠
顧客回り:SFAやマーケティングオートメーション、チャットボット
すごい種類がある中でどれを選べばいいのかわかりません。
ツール選定に失敗するとDXは失敗します。
そこでつまずいているケースが非常に多いです。
中小企業のDX障壁への解決策
宮井:上記で述べた理由以外にも、中小企業は
・デジタル人材の不足
・予算不足
・知識不足
というような障壁がありますが、その解決策はどうすればよいのでしょうか。
片山:世界的な潮流で大きく2つあります。
ノーコード、ローコード
ノーコード、ローコードというのが一つの潮流です。
DXで行き詰るケースは、
・導入したがシステムが自社の業務に合わない
→カスタマイズが必要
→カスタマイズに多額の費用がかかる、あるいはカスタマイズができない
→結局使えない、あるいは使っているけれど非常に非効率な使い方をしてしまう
ということが多いです。
ノーコード、ローコードとは
今までは少し改造するのに30万円から50万円かかり、しかもそれをベンダーに頼んで改造するのに1月程リードタイムがかかるというようなことが、1分、2分ですぐにできます。
それがノーコード、ローコード、いわゆるクラウドです。
これが1つの潮流です。
ビジネスプロセス
2つ目が、ビジネスプロセスです。
お客様から問合せが来る
→SFAで商談管理
→マーケティングオートメーションでお客様をナーチャリング
→売り上げが立ったら販売管理システムに入れる
→債権管理しお金が入ってきたら会計処理
というように、問合せから会計までのビジネスプロセスというものが、多くのデジタルツールで分断されています。
SFAだけ、MAだけ、もしくは販売管理だけ、会計だけです。
2つ目の潮流はこのすべてのビジネスプロセスを網羅することです。
2つの要件を満たすデジタルツールは世界中に2つしかありません。
2つの要件を満たすデジタルツール
1.セールスフォースドットコム(アメリカの会社)
2.Zoho
この2つのプラットフォームのどちらかに世界の潮流はなってきています。
宮井:中小企業で上記のツールを導入するのは難しくないでしょうか?
片山:ノーコード、ローコードで自社の業務に合わせて簡単にカスタマイズができる機能と、1つのプラットフォームでほとんどすべてのビジネスプロセスを網羅しているデジタルツールです。
クラウドという技術で、世界で最初に開発したのがセールスフォースドットコムという会社で、最初から大企業をターゲットにし、比較的高額な値段設定です。
一方、Zohoは中小企業をターゲットに作られています。
コストは何を導入するかにもよりますが、例えばマーケティングオートメーションだと一般的なデジタルツールと比べ、20分の1、あるいは10分の1程度の費用で導入できます。
ノーコード、ローコードで最低限の基本設定でカスタマイズができるので、中小企業の社員の方でも少しの勉強ででき、ハードルは低いです。
システムに疎い経営者が押さえておくべき知識とは
宮井:経営者の方でシステムに関する知識に自信があるという方は少ないと思いますが、そういう方が会社に導入させるためにはどういったポイントを押さえればよいでしょうか。
片山:システムというのは、システムを作る技術と作らせる技術は別物です。
経営者が細かいシステムのマニアックなことを知る必要はまったくありません。
経営者は作らせる側ですから、作らせるための知識があればいいです。
自身の業種のDX成功事例を知る
具体的に作らせるための知識とは何かというと、事例です。
業種、業界の事例です。
業種が違うとビジネスプロセスはまったく違うため、事例は使えないと思う方も多いですが、同じ業種、業界の事例は必ず横展開できるので、まずそれをすべきです。
自転車と一緒で、乗ったことがないのに語れないのと同じで、デジタルツールは一度導入してみないといけません。
まずはご自身の業種の成功事例を知り、自社に落とし込むにはどうすればいいのかをイメージしてください。
その点でいうと、船井総研の場合は数多くの業種に対して成功事例がありますので、そういった情報提供をすることができます。
また、デジタルツールのことはよくわからないので社員に任せるケースが多いですが、社員というのは現状を変えたくないことが大いにあります。
本当に大事なこと、戦略的なところ、例えば工数が大幅に削減できる等は社員に任せきりにしないことが大事で、事例を知った上でその道の専門家に相談をしてください。
そして、その専門家は1人でない方がいいです。
色々な立場の方に聞いて、社員に任せきりにせずに経営者自ら主体的に関わるということが2つ目の大事なポイントです。