1.プロジェクトの概要
プロジェクト開始前の課題
美容・ヘルスケア分野の広告審査において、薬機法や景品表示法などの法規制が厳格化し、丸の内ソレイユ法律事務所には企業からの審査依頼が急増していました 。広告マーケティングの現場では「スピード」が求められる一方、法律事務所としては過去の膨大な審査結果や最新の法令を正確に参照し「審査の品質」を担保しなければなりません。しかし、弁護士のリソースには限界があり、大量の依頼をスピーディに処理する体制の構築が急務でした。同事務所は過去に別のベンダーとAI開発に挑戦したものの、当時の技術的な限界もあり、事務所独自のノウハウやデータベースをAIに十分に学習させることができず、開発は難航していました 。
提供したソリューション
当初の段階では「RAG(検索拡張生成)」が主流になりつつありましたが、船井総合研究所はさらに一歩先を行く「AIエージェント(マルチエージェントシステム)」を標準装備として提案。最新の生成AI技術を駆使し、複数のAIが役割分担して働く「協調型AIエージェント・システム(Boss-Workerモデル)」を活用した広告審査AIシステム「AI AD CHECK “SOLEIL VIEW”」の開発をご提案・実行しました。
全体の進行とレポート作成を担う「BOSS AIエージェント」の配下に、「法令・ガイドライン調査エージェント」「過去審査結果調査エージェント」「インターネット情報取得エージェント」を配置。各エージェントが専門的なタスクを並行処理することで、熟練の弁護士チームのような多角的な審査を実現しました。また、広告特有の画像内の文字を正確に読み取る高度な「AI-OCR」も組み込んでいます。
「SOLEIL VIEW」は、既存の文章校正ツールとは次元が異なり、「熟練の審査チームのノウハウをデジタル上に再現したもの」です。1つのAIがすべてを処理するのではなく、役割を分担した以下のAIエージェントが並列で情報を検証し、高精度なリスク判定を行います。
●司令塔(BOSS)エージェント
全体の進行管理を行い、各エージェントからの報告をまとめて最終的なレポートを作成するリーダー役
●法令リサーチエージェント
最新の薬機法、景品表示法、特定商取引法などの条文データベースを参照し、違反の有無を厳格にチェック
●過去ログ参照エージェント
丸の内ソレイユが長年蓄積してきた「膨大な審査結果(OK/NG事例)」のデータベースにアクセスし、「過去に似た表現でNGを出した事例はないか」「事務所としての判断基準はどうだったか」を確認する、いわばベテラン弁護士の経験則を引き出す役割
●Web検索エージェント
インターネット上の最新情報(成分の効能に関する論文や、他社の市場動向など)をリアルタイムで検索し、判断材料にする
これらのエージェントが連携することで、「この表現は薬機法第66条に抵触する恐れがあります。なぜなら……」といった根拠に基づいた判定が可能になります。出力されるレポートには、問題箇所、4段階のリスク評価、該当法令、修正案、そして判定根拠が明示されます。
また、実務を知り尽くした弁護士事務所ならではの機能として「除外ワード設定」も実装されています。「この表現は法律的にはグレーに見えるが、トクホとして許可を得ているので使用可能」といったケースにおいて、事前に除外ワードを登録しておくことで、実務に即した柔軟な審査を可能にしています。
さらに、広告審査において最も手間がかかっていた「画像内の文字情報」の確認についても、高度なOCR(光学文字認識)機能を内蔵。ユーザーが審査したい広告のPDFや画像ファイルをシステムにドラッグ&ドロップするだけで、AIが微細な文字まで瞬時に読み取り、審査を実行します。「わざわざ文字起こしをする」という前工程が消滅し、実務担当者の作業時間を大幅に短縮しました。
導入後の効果
AIによる精度の高い一次審査(叩き台の作成)が瞬時に行われるようになり、弁護士がゼロから確認する手間が大幅に削減されました 。これにより、審査のスピード感と処理能力が飛躍的に向上。「24時間放送の通販番組に登場する商品の全チェック」といった、これまでは物理的に困難だった大量案件も受注可能な体制が整っています。
さらに、AIが過去に丸の内ソレイユで行われた判断の基準を忠実に再現するため、若手弁護士がAIを「壁打ち相手」や「先生」として活用し、心理的な負担なく自主学習を進められるようになり、教育スピードの加速と品質の標準化という大きな副次的効果も生まれました。
2.プロジェクトの詳細
丸の内ソレイユ法律事務所 代表弁護士の中里妃沙子氏と、開発リーダーの小池章太氏にお話を伺いました。
先駆者としての「広告審査」への参入と、直面した壁
――まず、貴事務所が広告審査業務に注力されるようになった背景について教えてください。
中里氏: 当事務所は元々、離婚分野において業界に先駆けて特化型のサービスを展開し、成長してきました。しかし、事務所のさらなる成長のためには、BtoCだけでなくBtoB(企業法務)の柱を立てる必要がありました。2015年頃からこの分野に注力し始めましたが、当時はまだ世間が現在ほど広告規制に敏感ではありませんでした。しかし「これから先、ヘルスケアビジネスは間違いなく伸びる。そして同時に、規制は必ず厳しくなる」という確信がありました。実際、2023年のステマ規制導入などを経て、ルールは厳格化し、IPO(新規上場)の審査においても広告表現のリーガルチェックは非常に厳しく問われるようになっています。
小池氏: 私は前職で薬剤師として調剤薬局に勤務し、システム関連の業務にも携わっていました。その知見を活かせるのが、この広告審査という領域でした。美容液やサプリメントなどの商材は、薬機法、景表法、健康増進法など複数の法令が絡み合い「どこまで表現していいのか」の見極めが非常に難解です。事務所として膨大な審査結果の知見を蓄積してきましたが、依頼が増加するにつれて「質を担保すること」と「大量の依頼をスピーディに処理すること」の両立が大きな課題となっていました。
最初のAI開発の難航と、船井総研との出会い
――そこでAIの活用に踏み切られたのですね。しかし、最初はご苦労もあったと伺っています。
中里氏: 私は以前から「広告審査は、AIがするべき仕事」と考えていました。また、私たちは常に業界の「フロントランナー」でありたいと考えています。AIが一般化し始めたとき「速やかにAIを広告審査に導入しなければ、私たちの優位性は失われてしまう、フロントランナーではなくなってしまう」という強い焦りがありました。そこで、以前から作成していた独自の審査データベースとAIを組み合わせようと、別のベンダーに開発を依頼しました。しかし、当時はまだRAG(検索拡張生成)技術が一般化する前であり、私たちが最も重視していた「過去の事務所の審査結果をAIに読み込ませる」ということが上手くできなかったのです。
小池氏: 技術の進歩が日進月歩すぎる時期でした。前のベンダーさんでは最新の技術に追いつけず、開発がストップしてしまいました 。そこで改めてコンペを実施し、4社ほどにお声がけをした中で、圧倒的な技術力と提案力を見せてくれたのが船井総研さんでした 。
想像を超えた「AIエージェントシステム」の進化
――船井総研とのプロジェクトはどのように進んでいきましたか?
小池氏: 最初は「RAGを使って過去のデータベースを参照できれば」と考えていたのですが、船井総研の技術者の方から「今はもう『AIエージェント』の時代です」と、役割を分担した複数のAIを協調させるマルチエージェントシステム(SOLEIL VIEW)をご提案いただきました。「法令リサーチエージェント」が最新の条文をチェックし、「過去ログ参照エージェント」が過去の類似事案を引っ張り出し、「Web検索エージェント」が最新の成分情報をネットから取得する。それを「BOSSエージェント」がまとめるという仕組みです。AIのエンジンも、用途に合わせて最適なものを随時提案・組み替えてくれました。技術の進化に遅れることなく、最新のアーキテクチャを実装していただいたことには本当に驚きました。
中里氏: 毎月行われるステアリングコミッティ(進捗会議)が本当に楽しみでした。船井総研のチームの皆さんが、「こんなこともできますよ!」と本当に楽しそうに開発を進めてくださるんです。AIという新しい技術を業務の根幹に導入するのは、企業としてリスクを伴うため躊躇するケースも多いと聞きます。しかし、私たちは「フロントランナーを行くなら絶対に必要な投資だ」と決断しましたし、船井総研の皆さんがその決断に対して、確かな技術と熱量で応えてくれました。
「SOLEIL VIEW」がもたらした実務へのインパクトと新たな発見
――実際に「SOLEIL VIEW」が稼働し始めて、現場の反応はいかがですか?
小池氏: 劇的な変化が起きています。まず、広告のPDFや画像をドラッグ&ドロップするだけで、高度なAI-OCRが文字を瞬時に読み取り、AIが一次審査(叩き台)を作成してくれます。人間がゼロから指摘箇所を探し出し、関連法令と照らし合わせる作業がAIによって自動化されたことで、弁護士は「AIが指摘した箇所が本当に問題か、どう修正提案すべきか」という高度な判断業務に集中できるようになりました。
中里氏: そして、意外だったのが「若手弁護士の教育」への効果です。これまでは、新人が審査の感覚を掴むまで、先輩弁護士に何度も質問し、時には怒られながら(笑)学んでいく必要がありました。しかし今では、新人はまずAIに審査してもらい「事務所の基準ならこう判断する」という答え合わせをいつでも気軽に行えます。AIが「先生」となり、心理的なプレッシャーなく学習できるため、若手の成長スピードが格段に上がりました。
小池氏: 一方で、AIを使い込むことで「やはり最後は人間(弁護士)が必要だ」ということも明確になりました。例えば、現場の空気感や、顧客企業との長年の関係性、行政窓口の微妙なニュアンスまではAIには読み取れません。法的な正論だけでなく「どう局面を変えるか」といった交渉の妙やバランス感覚は、弁護士ならではの付加価値です。AIによって業務を効率化できたからこそ、私たちが介在する本当の価値が見えてきたと感じています。
AIと共に拓く、士業の未来
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
中里氏: AIの処理能力を活用することで、これまでは手が回らなかった「24時間放送のテレビショッピングの全商品の広告審査」といった、大規模な案件にも対応できるようになります。また、化粧品や健康食品だけでなく、医療機器や美容機器など、より専門性の高い領域への拡張も進めていきたいと考えています。
「AIを使いこなせなければフロントランナーではない」。私たちは今後も、AIという強力な武器と、弁護士としての高度な専門性・人間力を掛け合わせ、依頼者の皆様に最高のリーガルサービスを提供し続けていきます。
3.船井総研を選んだ理由
中里氏:AIが飛躍的に進歩する中で、その進化に全く遅れることなく、最新の『AIエージェント』の提案をしてくださいました。開発中も、毎回私たちが想定していた以上の機能を提案していただき、エンジニアの方々が本当に楽しそうに開発を進めてくださったのが印象的で、嬉しかったです。船井総研さんと組めたからこそ、この素晴らしいシステムが完成したと感謝しています。
小池氏:船井総研さんは、私たちが分からない部分も1から10まで丁寧に説明してくれ、システムがどのように動いているのかを実際に見せながら進めてくれました。非常に安心感がありましたし、出力されるレポートの形式など、私たちの細かな要望にも完璧に応えてくれました。
4.担当者コメント
丸の内ソレイユ法律事務所様は、業界に先駆けて広告審査領域に参入され、常に新しい挑戦を続けられている素晴らしい企業です 。今回の「AI AD CHECK “SOLEIL VIEW”」の開発プロジェクトは、我々にとっても最新のAIエージェント技術を高度な専門業務に社会実装する、非常にエキサイティングな挑戦でした。
一度目のAI開発でのご苦労を伺っていたからこそ、我々は「絶対に中里代表と小池先生のご期待を超えるものを作る」という強い意志を持って臨みました。技術の進化が極めて速い生成AI領域において、初期の要件定義に縛られることなく、プロジェクトの進行と共により優れたアーキテクチャへと柔軟に舵を切れたのは、丸の内ソレイユ様が我々開発チームを信頼し、フロントランナーとしての決断を下してくださったからです 。
「AIを活用することで、若手弁護士の教育システムまで変わった」「AIを入れたからこそ、人間の弁護士の価値が再定義できた」というお言葉は、AIコンサルティングに携わる我々にとって最高の褒め言葉です 。今後も、丸の内ソレイユ様がさらなる飛躍を遂げられるよう、最新技術とコンサルティングの両輪でしっかりと伴走支援を続けてまいります。
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