【インタビュイー】船井総合研究所 財務コンサルタント 石田武裕
はじめに
今回は船井総研の財務コンサルタントである石田さんに、信用金庫との上手な付き合い方について教えてもらいたいと思います。
信用金庫と付き合いを深める三つのメリット
まず初めに、銀行ではなく、信用金庫と付き合いを深めるメリットを教えてください。
銀行と信用金庫の違いから考えていただくといいと思います。
銀行は営利企業なので、利益を株主のために追求します。
信用金庫は営利企業ではないので、株主ではなく、所属している組合員のために利益を追求します。組合員とは、融資をしている会社や預金をもらっている個人や法人の方々です。
銀行は営利企業で信用金庫は非営利企業なので、関係者に対する利益の提供が信金の方が深くて狭いイメージでいいと思います。
銀行だと上場していたりするので、株主のために利潤を追求していかないといけないというのがあるのですが、信金に関しては、組合員のためにその利益を追求しなくてもいいという違いがあります。
だいぶスタンスが違うので財務コンサルティングの現場でも付き合いの仕方を変えています。
メリット1:数字だけでなく、経営者自信を評価してくれる
まず一つ目のメリットですが、信金だと決算数字だけではなく、経営者自身を評価してくれるというのが大きな特徴です。
銀行に融資を受ける際に、格付けされるという言葉を使うことがあるのですが、格付けとは一般的に決算書の財務の数字に基づいた指標やスコアを指します。例えば、自己資本比率が一定の水準を超えているのでこの会社はいい会社であるとか、逆に利益率がある一定程度下回っているのでそんなに積極的融資はできないといったことを、過去の実績から評価するのがいわゆる定量的な格付けのシステマチックな仕組みです。財務スコアリングとも呼ばれています。
信用金庫もその手法を使ってはいるのですが、その割合が低いのが特徴です。経営者との関係が銀行との関係に比べるとよりウェットなので、スコアが一定を下回っているけれどこの経営者だったら大丈夫でしょうという風に、銀行よりも人を見てくれるというのが信金の特徴だと思います。
経営者の将来性を見てくれているのですね。
経営者の将来性もそうですが、信用金庫は今の取引状況や日々の資金の動きなどを銀行よりも密に見ています。集金についても、信金の人のほうが銀行よりも頻度が高く、毎週あるいは毎日、融資先の店頭に行ってお金を集めているので、リアルタイムの動きは銀行よりもフェイスtoフェイスで付き合っている信金の方がわかっているのです。なので、例えばいつもと入金額が違う、入金が遅れているなど何かあったときに気づきやすいというのがあります。
将来性を見ているというよりも、今の状況をリアルに把握できるのが信用金庫なので、決算の数字は良くないけれど、今の資金繰りの状態であれば大丈夫というのがわかっているので融資ができる、だから格付けにあまり依存しなくてもいいというところが特徴だと思います。
メリット2:支店長との距離が近く、アドバイスを受けやすい
二つ目は、支店長との距離が近いので、支店長に物が言いやすく、支店長からも経営の指導が受けやすいという点です。
銀行の支店長と会っても、時効の挨拶などセレモニー的になることが多いのですが、信用金庫の支店長は、融資している、支援している会社に良くなってほしいという思いが強いので、良い情報提供をしようとされることが多いです。
例えば、ビジネスマッチングと言われる取引先同士を引き合わせる動きを積極的に開いたり、不動産の情報や地域内で扱っている情報を積極的に持ってきてくれたりなどです。そういった手厚いサービスが受けられるのと、あとは逆に耳が痛いことも経営者に対してアドバイスしてくれるのが信金の支店長です。
私がお付き合いしている信金の支店長も、コンサルタントよりも辛辣なことを言うことがあるので、経営者にとっては、信金はそうやって見ているのだと気づきが得られます。
以前の動画「銀行員に言ってはいけないこと」の中で、担当者を変えてくれといったことがありました。銀行の場合、あまり満足のいかない担当者の人に当たってしまっても特に何も言えないけれど、信金の場合だと支店長にも話を聞けるということでしょうか。
そうですね。支店長になってらっしゃるくらいなので、直接支店長に言ってしまえば、大抵のことは回答を持ってきてくれるというのはあります。担当者だと10言っても1しか持ってきてくれないところを、信用金庫の支店長だと10言ったら8は絶対持ってきてくれるところが多いです。
個人的には担当を変えてくれというのは銀行だけでなく信金でもあまり言ってはいけないと思うのですが、ただ、支店長に言えばある程度要望は応えてくれるので、支店長との距離が近いことはメリットです。また、支店長もそれよりも上席の方、例えばトップの理事長などを年に何回か連れてくることも結構あります。
それぐらい融資先のことを考えてくれていて手厚い恩恵が中小企業の皆さんにとって受けられるので、やはり活用しない手はないと思います。
メリット3:協調融資を受けやすい
三つ目は、政府系の金融機関から協調した融資を受けやすいという点が挙げられます。
協調融資とは、金融機関が一行だけでなく複数集まってお金を貸すことを言います。例えば1億円のお金を借りたいとなった時に、A行とB行が5,000万円ずつお金を貸してくれるといった感じです。
信用金庫はそこまで融資量が多くなく、例えば2億円を一気に無担保で出すことはかなりハードルが高いのですが、協調融資を使うとそこまで規模が大きくない会社でも資金を集めやすいというのがあります。
協調融資をしてくれる相手が地銀や信金などではなくて、もっと取り組みしやすい日本政策金融公庫と信金がタッグを組んで融資をしてくれるというのはすごく使いやすい点だと思います。実際日本政策金融公庫の方にお話を聞くと、信用金庫さんと一緒に協調融資するのはすごくやりやすいと言ってくれます。
というのも、信用金庫は言ってしまえば逃げないからです。
例えば地方銀行が他の県に出店して、その店舗が未来永劫あるかと言われると、保証できないですよね。東京に地方の地方銀行が出てきたとしても、東京支店の例えば上野支店をいつか閉めるかもしれないけれど、一緒に10年の融資を出しましょう。10年間、上野支店は居続けますかと言われた時に、ちょっと安心できないですよね。なので、信用金庫であれば、上野に支店を出したら、基本未来永劫いますので、10年間融資してもこの人たちは逃げない、だから一緒に10年間出しましょうという判断がしやすいみたいです。
別に撤退することを悪いと言っているわけではないのですが、一緒に融資をする際に、政府系の金融機関は、信金が逃げないという点を高く評価して一緒にやりたがっているというのは間違いないです。
信用金庫よりも銀行の方が良いケースとは
大きく三つ挙げると、金額、エリア、お金を借りる手法、この三つに割と制限があるので、信金よりも銀行の方がいいというケースが多くなります。
ケース1:金額
信用金庫の融資額は1兆円を超えているところが100も200もある訳ではないので、例えば2億円を信用金庫一金庫から借りるというのは相当ハードルが高いです。
1千億円の信用金庫があるとすると、1千億円融資している信用金庫が1億円出すということは1000分の1を一社に対して出すことになるので、それは現実的に出しづらいですよね。元々の資金量が地方銀行やメガバンクに比べると小さいので、一社に対してシェアを高められず、1億2億という金額のレンジになってくるとかなり慎重になってくるというのが特徴です。ですからそこは金額によって、銀行と信用金庫を使い分けなければならないというのはあります。
また先ほど話した協調融資と組み合わせることもあります。3,000万円だったら信用金庫の資金量の中で対応できるけれども、合わせて1億だときついので、日本政策金融公庫や地方銀行と一緒に出すというケースもあります。
ケース2:エリア
二つ目はエリアです。
私自身も経験があるのですが、多店舗展開をするようなビジネスモデルの会社で、本社があるところの信金とは付き合えるけれど、例えば本社がある上野ではなく、埼玉県の大宮にお店を出すための資金を貸してくださいというのは、基本信用金庫だとNGになります。
なので、多店舗展開をして信用金庫が出せないエリアに出店をしたい場合は、やはり銀行を使うことになります。上野本社で大宮に出したいとなると、信用金庫だと難しいけれど、地方銀行やメガバンクであれば群馬でも埼玉でも大丈夫ですというケースが多いので、そこのエリアの使い分けはしていくことが多いです。
ケース3:融資の手法
三つ目は融資の手法です。
信用金庫だと融資の手法が比較的限定されていて、例えばシンジケートローンという、先程話した協調融資のもっと大がかりなバージョンのような融資の形態があるのですが、30億円のお金を調達しなければならないので、たくさんの銀行からお金を集めて、シンジケート団を組んで融資しましょうという時に、信用金庫が組成できることはほとんどないです。
シンジケートのような銀行団を調整して、調整した後には信用金庫が契約書を作らなければいけないのですけども、その部署自体がないことが多いので、複雑な金融手法になってくると対応できないケースが増えてきます。
例えば貿易取引があったり海外に進出したりする会社に対しても、先ほどの国内向けの支店の例みたいな形で、うちは国内のこのエリアで商売をするA社に融資するので海外の分は出しづらいといった制約があるので、そういったときは銀行に頼ることが多いですね。
銀行と信用金庫と付き合う上での注意点
銀行と信用金庫の特性を理解した上でうまく使い分けしていただきたいと思います。
特に企業の成長ステージで言うと、創業期から成長期ぐらいで信用金庫を使っていない会社はかなりの割合でいますが、本当に損していると思ってしまいます。
例えば、メガバンクと付き合うとかっこいいからとか、ステータスが高く見られるからといった理由で、信用金庫を使わないのはすごくもったいないですね。
先程言ったように、経営者に対しズバズバと言いづらいこともアドバイスしてくれる良きアドバイザーには、メガバンクや地方銀行はなりづらいので、そこのアドバイザーとしての役割やサービス提供がいろいろ受けられる時期に信用金庫を使っていないと成長のスピードが遅くなってしまうと思います。信用金庫を使わずに成長していくというのは現実的じゃないとまで思っています。
ただ先程話した通り、金額が出しづらくなってくるレンジや、手法、エリアのところで対応しづらくなってくるところはあるので、そうなってくると相談先が銀行になってくるイメージですね。卒業はしないけれど、長く付き合いは続けるというところです。
信用金庫を選ぶ際の基準
信用金庫を選ぶ時は、どういったところを見るとよいのか
僕の個人的な意見で言うと、近くにある信用金庫でいいと思っています。
融資量を調べるとか、信用金庫がいくつもあるエリアに所在しているとか、色々な事情はあると思うのですが、最も頻度高く接触できそうな一番近くの信用金庫とお付き合いするのが経営者の方にとっては一番幸せだと思います。近くの信用金庫さんとべったりお付き合いをして成長に伴走してもらう、支店長に来てもらえるし理事長にも年に何回か来てもらえるという関係性で、自社がVIP的な扱いをされるようになるには、近いというのはすごく大きな要素なので、実は選ぶ基準は「近さ」と言ってもいいです。
融資量にはどうしても限界があるので、融資が必要になったら銀行さんとお付き合いするぐらいに考えて、やはりお近くという立地が一番大事ということです。
近くにいくつか信金があったときは、複数行と取引したほうがいいのか
取引が分散されてしまうので、複数行じゃない方が僕はいいと思っています。例えば、給与振込はAという信用金庫で、販売先からの入金口座はBという信用金庫でという風に、機能ごとに口座や信用金庫の使い方を分けてしまうと、深い関係を築くという信用金庫の一番のメリットが活かせずに、広く浅い付き合いに終始してしまいます。
ですので、一金庫に集約するのが信用金庫との付き合いは一番いいと思いますね。