IPOとは
司会:まずはそもそもIPOとはどういう意味なのか見ていきたいと思います。
前田:それではIPOについてご説明をさせていただきます。IPOとは英語でInitial Public Offeringの略でございますが、日本語では新規株式公開や新規上場などの意味になります。
各証券取引所の上場企業数
前田:日本の上場企業は約4,000社あると言われておりまして、市場は有名な東京証券取引所だけではなく、地方証券市場と言われている札幌証券取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所があります。それぞれの上場企業数は画面に記載の通りですが、最も上場企業の多い東京証券取引所のプライム市場が1,841社で、続いてスタンダード市場、グロース市場の順となっております。
2022年の東証市場区分変更
前田:前のページをご覧になってお気づきになられた方もいらっしゃるかと思いますが、2022年4月には東京証券取引所の市場再編がございました。具体的には市場区分の見直しが行なわれまして、従来はスライド資料上部にある五つの市場でしたが、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の三つに再編されております。従来の東証一部に当たるのが東証プライム市場で従来の東証二部とジャスダック市場に当たるのがスタンダード市場、それから成長企業向け市場であるマザーズ市場に当たるのがグロース市場になっております。
2022年の名証市場区分変更
前田:併せて名古屋証券取引所も東京証券取引所の市場再編と同じタイミングで市場再編が行なわれております。名古屋につきましても東京と同じくプレミア市場メイン市場、ネクスト市場の三つの名前の市場に再編されております。
新規上場企業数の推移(TOKYO PRO Marketを除く)
前田:こちらが2012年以降にIPOした企業数の推移でございます。2020年までは1年間に毎年90社前後の会社が上場していましたが、2021年は例年を大きく超える125社が上場を果たしております。
司会:なるほど、2021年は例年よりも多くの企業が新たに上場企業となった訳ですね。上場企業のイメージとして業績の良い大企業が上場できるイメージがありますが、実際にはどのような企業が上場しているのでしょうか。
新規上場企業の売上高及び経常利益
前田:こちらが直近5年間の新規上場企業の売上高のまとめになります。こちらのデータは市場区分変更前の2021年までのデータですが、ご了承いただければと思います。一口に株式市場と言っても様々な市場がありますので、大企業向けの東証一部から成長企業向けの東証マザーズなど市場によって会社の規模も様々になっております。東証一部に上場する企業の売上高は数千億円規模になりますが、マザーズ市場では新規上場企業の売上高の中間値は概ね20億円台になっております。同じくマザーズの中でも売上高が100億円を超える規模の会社もあれば、最小値0でも上場している状況でございます。
前田:こちらが経常利益に関するデータでございます。マザーズ市場での上場企業の経常利益の中間値は1.5億円から2億円となっております。
2021年新規上場企業数の経常利益分析(TOKYO PRO Marketを除く)
前田:先ほどマザーズ市場での経常利益中間値は1.5億円から2億円となっております。2021年の上場企業全体で見ると、125社のうち経常利益が2億円未満の会社は61社と実に半数近くを占めています。更に経常利益1億円未満で上場している会社が42社と全体の3分の1以上を占めております。
経常利益2億円未満の新規上場企業分析(TPMを除く)
司会:なるほど、幅広い業績の企業が上場している訳ですね。
前田:こうした経常利益2億円未満の会社というものは大体概ね上場先がマザーズ市場またはジャスダックとなっております。過去には福岡札幌名古屋といった地方市場にも上場している事例もあるということで本社が東京以外であれば地方市場もターゲットとなるということが少なくない状況でございます。従ってこちらは自社に合った市場を選択するということが非常に重要になってまいります。
2021年新規上場企業の社長の年代層
前田:それからこちらは参考までに2021年に上場した企業の経営者の年代の分布になっております。平均年齢が49.9歳それからマザーズ市場だけ見ても平均で47歳ということでおそらく皆様がイメージされている年齢層よりも実際には高いのではないかと考えております。
2021年新規上場企業のうち経営者が60歳以上の企業
前田:それから社長が60歳以上の会社というものをピックアップしただけでも全体で125社のうち26社あるということになっております。中には75歳で上場を果たした企業の経営者様もいらっしゃいます。このようにIPOはどうしても新興ベンチャー企業が行うイメージが世の中では報道でも出ておりますので、そういったイメージを持たれてる方もいらっしゃるかもしれないんですけれども、実際には様々な会社が上場しているということになっております。
各証券取引所の上場企業数
司会:ところで、先ほどのグラフに出ていたTOKYO PRO Marketはどのような市場なのでしょうか。
TOKYO PRO Market新規上場企業数の推移
前田:TOKYO PRO Marketは東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの市場で一般の投資家が売買できない金融機関等のプロの投資家が参加できる市場になってます。従って投資家向けのメディアに登場する機会も少なかったので、これまで知名度が低い点が指摘されていたんですが、こちらの画面にあります通り最近では上場企業数が増加傾向にあります。2012年から2021年までの上場企業数の推移ですけれども、右肩上がりで増えている状況でございます。
新規上場企業の売上高及び経常利益(TOKYO PRO Market)
前田:次のページはTOKYO PRO Marketの上場企業の売上高に関するデータになっております。TOKYO PRO Marketについては過去5年間で売上高の水準も増加傾向にありまして、規模の大きな会社が上昇している傾向が見られます。こちらは経常利益のデータでございまして、金額が同じように増加していますので、規模の大きな会社も上場している傾向にございます。
TOKYO PRO Market上場企業の経常利益分析
前田:金額が増加傾向にあると言いましても、上場時の経常利益の9割が2億円未満となっています。つまり3社中2社は経常利益1億円未満で上場していることになりますので、TOKYO PRO Marketについては企業規模が比較的小さくて業績がこれから伸びていく成長過程にある会社が非常に多く上場している市場になります。
司会:TOKYO PRO Marketのご説明ありがとうございます。
IPOの目的
司会:上場企業と言っても赤字で上場している企業があり経営者が60歳以上で上場している企業もあるなど必ずしも世間がイメージされるような大企業やベンチャー企業だけがIPOをしているわけではないことが分かりました。では、次にIPOの目的について見ていきたいと思います。
前田:IPOの目的ですけれども、今画面に映させていただいている通りで大きく四つございます。資金調達、事業拡大、個人資産の形成、創業者メリットの4点でございます。資金調達については、上場時に株式を発行して直接一般の投資家から資金調達するものでございます。それに加えて、上場すると会社としての信用力がアップしますので、銀行での借入も有利になると言われております。それから事業拡大もメージが付きやすいと思いますがこちらもメリットになります。会社の知名度や信用力の向上、営業力強化、人事や採用に有利になるとも言われております。それから、個人資産形成の観点に置きましても、上場によって創業者利益を確保するために上場前に創業者の方が持たれていた株が上場することによって値段が上がり、かつ市場で自由に取引できるようになりますので、会社の創業者の方の個人資産が増えることになります。同じように従業員持株会やストックオプション制度を導入している会社さんの場合は従業員の皆様の資産形成にもつながるメリットがございます。それによって、最後に創業者メリットと書いてありますが、経営者人材の獲得につながることもございますし、あるいは先ほど個人資産形成の観点でも触れさせていただきましたが、創業者の方が上場して株を売却して経済的な利益を得るなど我が国の健全なベンチャー企業の発展に資する効果も期待されております。それと同時に株式上場手続きの簡素化もありますが、上場前の会社では株を親族以外の方に買っていただくのはM&Aなどの特殊な場合を除いてそれほど多くはないんですけれども、上場することによって誰でも株が買えるようになりますので、株式を相続あるいは売却して引退することもありますので手続きが簡素化されるメリットもございます。
IPOのメリット
司会:経営者がIPOを目指される目的には様々なものがあるのですね。それでは次にIPOのメリットについて見ていきましょう。
前田:IPOの目的は先ほど申し上げた通りなんですけれども、上場準備をしていく過程でも会社の組織を強化していくことができるのがIPOのメリットになります。一番最初に社内管理体制の強化として、上場準備や上場する前後を通じて管理体制の強化の例として予算の実績を管理するために会社の数字の見える化、月次決算を早期化していくなどが経営基盤の強化に繋がるメリットとして挙げられております。二番目は先ほど目的の部分でもご説明させていただきましたが、知名度や社会的信用が上がることで事業拡大につながるメリットがございます。三つ目も先ほどの個人資産の形成で触れさせていただきましたが、役員や従業員の方々にインセンティブを付与すること、それから福利厚生の向上としてIPOをすることによって例えば従業員の方でも住宅ローンを借りやすくなるといったようなことがあります。従ってその結果として人材採用が強化されますし、会社の離職率が下がって定着率が向上するメリットもございます。それから創業者メリットとして先ほど申し上げました通り、個人資産の形成で創業者の方が株を売り出して利益を得ることもありますし、あるいは上場すると一般的に銀行に入れている個人保証が外れることがありますので、個人の方も今まで持っていた個人保証の負担を免れるメリットがございます。
IPOのデメリット
司会:ありがとうございます。IPOには様々なメリットがあることが分かりました。では逆にIPOをすることによるデメリットはあるのでしょうか。
前田:IPOのデメリットとして画面に映させていただいている通りなんですけれども、一つ目が・・・