多くの企業様がIPO準備に踏み出す前に抱える悩み
それでは、講座の内容に入らせていただきます。まずはじめに、多くの企業様がIPO準備に踏み出す前に抱える悩みについてです。「いつかはIPOをしたいという気持ちはお持ちではあるものの、そもそも何から着手すればいいのかが分からない」という声が代表的だと思います。
それでは、どうしてこのような状況が起きるのかについて考えていきたいと思います。まず、IPOという一つの目的に向かって踏み出すためには向かうべき目的地はどこなのか、つまり、「IPOをするためにどのような基準をクリアすべきなのか」「費用はどれぐらいかかるのか」「必要な期間は何年ぐらいなのか」ということと、現在地はどこなのか、つまり、「基準に照らして自社が今できていないことは何なのか」「どの項目の優先順位が高いのか」「どの項目の難易度が高いのか」を把握し、ギャップを埋めるための行動を始めなければなりません。
IPO準備を始めるにあたり、目指す姿がうまくイメージできないため、目指す姿と自社の現状とのギャップが具体的に見えない。そのため、何からどのように始めたらいいのか分からない状態に陥っているケースがほとんどではないかと思います。こうした悩みはIPOに関する体系立った情報が世の中に広く周知されていないことや、自社の現状を客観的に分析する術がないことに起因していると推測されます。
IPO準備開始後に想定される課題
次に、「何から着手すればいいのか分からない」という悩みを乗り越え、何とかIPO準備を始めてみた後に想定される課題についてです。今度は、「IPO準備を始めてみたはいいが、思っていた以上にIPO準備が進まない」ケースが考えられます。
このような事態が発生する原因について考えていきたいと思います。ご覧のようにIPO準備を始めた場合、従来から実施している業務に加えて①IPO実現に向けた課題の抽出、②課題解消のための具体策の検討と整備、③体制整備後の運用実績の積み上げ等の業務が新たに加わります。つまり、単純に社内における業務量が増加することになります。
こうした中で、具体的にIPO準備の実務に対応できる人材が社内にいない、採用活動を行ってもめぼしい人材が獲得できないなどの理由により、具体的なIPO準備がなかなか進まないケースが想定されます。また、仮に担当者を配置できたとしても、担当者自身の経験が不足していたり、経験不足なわけではないが、何らかの理由により十分に活躍できていないケースも想定されます。このように、業務量増加に対応可能な人材がいない、増員採用もうまくいかない、または、担当者が配置できたとしてもパフォーマンスが上がらない等の理由が、IPO準備を始めたはいいが、なかなか進まない事態につながっているものと思われます。
事例紹介
それでは、続きましてIPO準備を始めたはいいけど、何から着手したらいいのかが分からない、何とかIPO準備を始めてみたけど思うように準備が進まない等の課題を乗り越えるためのポイントを、実際にIPOを実現した事例を基にこれから考えていきたいと思います。
事例とする会社はA社でございます。2018年の3月に東証マザーズに上場しております。事業内容としましては、パートタイム型の人材派遣業を営む就労支援事業、学童クラブを運営する放課後事業、認可保育園を運営する保育事業の三つの事業を運営している会社です。
業績及び従業員数の推移はご覧のとおりとなっております。スライドにはN-5期と記載しておりますが、上場の5期前の2013年5月期の売上高は12億円程度でした。上場した2018年5月期の売上高は50億円超と、5年前から4倍以上に成長しております。従業員数も、上場申請期の期末には正社員386名、パートタイマー・アルバイト等の臨時雇用者が1,895名と5年間で大幅に増加している会社です。
事例紹介―どのようにIPO準備に踏み出したのか?
それでは、こちらの会社がどのようにIPO準備に踏み出したのかについて見ていきます。こちらの会社ではIPO準備に踏み出すにあたって、社内にIPO経験者が不在でノウハウがない、管理部門は経理担当1名、人事総務担当2名のみでIPO準備を始めるには増員が必要という課題がありました。
この課題に対しましてN-4期末、上場から遡ること4年程前に、かねてから面識のあったコンサルティング会社と契約を締結しております。こちらのコンサルティング会社の紹介により監査法人、証券会社、証券代行、証券印刷等の関係者との接点を持てるようになりました。そこから3、4ヵ月後、上場に向けた業務増加に対応するため、経営企画室を新設し担当者を中途採用しております。ここで特にお伝えしたいポイントは、採用した経営企画担当者は一般的な経営企画業務の経験はあったものの、IPO準備の業務については全くの未経験だったということです。こうしてコンサルティング会社や、証券会社の営業担当者などの関係者から提供された情報を参考に、経営企画室が担当となってIPO準備業務に実際に踏み出すことができました。
続いて、どのようにIPO準備を進めていったのかについて見ていきます。IPO準備を開始しましたが、依然として管理部門の体制強化、特に上場企業レベルの経理業務の知見がある人材の採用が必須となっておりました。この課題に対し上場の約2年半ほど前に、管理部門の責任者と経理部門のマネージャーを中途採用しております。採用した管理部門責任者は、内部監査の担当者として過去にIPO経験がある人材です。経理部門のマネージャーは上場企業レベルの経理業務の知見がある人材です。
ここで、経理業務をはじめとした管理部門体制と監査法人による監査への対応力が強化されました。そこからさらに半年後、上場の約2年前には、内部監査の責任者を中途採用することに成功しています。スライドに書いておりますように途中人事異動等も行ないましたが、これでIPO準備に関わる主要な組織体制が概ね整ったことになります。また、N-2期中頃に主幹事証券会社とのアドバイザリー契約を締結しました。IPO準備を本格的に進めながら、管理部門の組織体制の強化を目的としたこれらの採用活動を同時並行で進めておりました。
事例紹介:管理部門の組織体制の変化
続いて、上場準備前後の管理部門の組織体制の変化についてお話します。こちらがN-3期の期初、IPO準備の担当部門として経営企画室を配置する前の組織です。管理部は社長直轄の組織として設置されていました。管理部長は不在で、社員は3名のみの状況でした。それから3年半後の上場申請時にはご覧の組織体制となっております。管理担当取締役を配置し、管理部は人事総務課、経理課、情報システム課の3課からなる部門になっております。
また管理部以外にもバックオフィス部門として、社長直轄の経営企画室、内部監査室を設置しております。こうして上場準備開始前は3名だった管理部門は3年半後の上場申請時には21名と7倍の人数に急拡大しています。
事例紹介:成功要因-なぜIPO準備に踏み出せたのか?
それでは、ここから成功要因について考えていきます。まず、なぜIPO準備に踏み出せたのかですがこちらは3つのポイントがあると考えております。
1つ目のポイントはコンサルティング会社と契約を締結したことです。ここでコンサルティング会社の知見に基づくアドバイスを得ることができたことと、コンサルティング会社の人脈を活用し監査法人や証券会社を始めとする主要な関係者との接点を作れたこと、それにより、経営者自身が何をすべきかを関係者から直接聞いて具体的なイメージを固めることができたことが大きかったのではないでしょうか。
2つ目のポイントは・・・