資金調達多行取引から目安投資額が丸わかり
本記事では「新規事業のための財務戦略」について解説します。
すでに地域で一定の成功を収めている企業が、次のステージへ進むために重要なのが新規事業です。
しかし、多くの経営者が資金調達について頭を悩ませているのではないでしょうか。
今回は、そんな資金調達を円滑に進めるために重要となる、金融機関との付き合い方と新規事業への目安投資額について解説します。
新規事業に限らず資金調達で重要な2つのこと
新規事業に限らず、資金調達をするための財務戦略として重要なポイントは2つです。
①多行取引、取引する金融機関の数を増やすことです。
②一行あたりの融資額を増やすことです。
資金調達に効果的な多行取引
多行取引とは、お付き合いする金融機関の数を増やすことです。
取引する金融機関の数を増やすことで、資金調達の選択肢を広げ、安定性を高めることができます。
多行取引を円滑に進めるために、特に注意すべき点と具体的な進め方をご紹介します。
いきなり銀行窓口で融資を申し込むのはNG
取引する金融機関の数を増やす際に、新規の金融機関と接点を持つことが最初のハードルになります。
この時やってはいけないのは、いきなり銀行の窓口に行って「融資してください」と言うことです。
突然の融資依頼に対しては、営業担当者ではなく、融資の事務担当が対応することが多いです。
そのため、金融機関側から積極的な提案がもらえない、怪しい目で見られたりするといった可能性があります。
「お金に困っている企業」として見られないようにすることが、最初の重要なポイントです。
金融機関同士を過度に競争させない
当初の段階で、金利の値下げなどを求めたり、他の競合とコンペで過度に競争させたりすることもやめましょう。
金融機関も、経営者の皆さまと同じように、過度な競争を強いられる顧客とは「付き合いを控えよう」と判断する可能性があります。
自分がされて嫌なことは相手にもしないという意識が大切です。
賢い多行取引の進め方
新たな金融機関とのお付き合いをスムーズに始めるための方法を3つご紹介します。
①第三者に紹介してもらう
最も話が進みやすい方法は、信頼できる第三者からの紹介です。
知人の経営者、顧問の税理士、または付き合いのあるコンサルタントなどから紹介を受けることで、スムーズに接点を持てます。
②飛び込み営業の「折り返し」として対応する
金融機関の融資担当者は、新規融資先の開拓を目標にしているため、常に新しい取引先を探しています。
過去に電話や飛び込みで営業に来た担当者の情報を控えておきましょう。
その後、改めてこちらから「名刺をいただいたので、お電話しました」という形で連絡し、商談の機会を設けましょう。
社員にも、金融機関からのアプローチがあった際に無下な対応をしないよう、あらかじめ伝えておくことが重要です。
③法人の口座を開設する
法人の口座をその金融機関でつくるのも、効果的な方法です。
金融機関の営業担当者は、毎日法人の新規口座開設をチェックしています。
融資取引がなく、ホームページや帝国データバンクなどの情報を踏まえ、優良企業と判断されれば、金融機関側から営業の連絡がきやすいです。
法人口座の新設は、金融機関に自社を認知させ、アプローチのきっかけを与える有効な手段になります。
一行あたりの融資額を増やす上で重要なこと
資金調達において、もう1つの重要な柱は、一行あたりの融資額を増やすことです。
取引金額が増えるほど審査基準は厳しくなるため、戦略的な対応が求められます。
融資額の増大を実現するために必要なポイントと、財務担当者を置く適切なタイミングについて解説します。
融資額で決裁者が変わる
金融機関は、融資金額によって審査・決済を行う担当者や役職が変わります。
例えば、2億円までは支店長、2〜3億円は本部の審査役、5億円超は取締役会などです。
決裁者が上がれば上がるほど、稟議に必要な情報が深く、詳細に求められる点が大きなポイントになります。
財務担当者の設置が融資額増加の鍵
大きな金額の融資を受けようと思えば思うほど、情報開示すべき中身の質と量を高めておかなくてはいけません。
より詳細な事業計画や財務状況の説明資料を用意し、企業としての透明性と将来性を示す必要があります。
融資額が増えるにつれて、金融機関への提出資料の作成や対応にかかる時間と労力も増大します。
社長が一人で全ての金融機関対応を行うことは難しくなり、結果として一行あたりの融資額が伸び悩む原因となります。
この問題を解決し、融資額を継続的に増やすためには、金融機関対応ができる財務担当者を配置し、情報開示の質と量を安定して高めることが非常に重要です。
財務担当者を置くべき適切なタイミング
財務担当者を置くタイミングの目安は、企業の成長段階によって異なります。
年商10億円以上の企業は、今後の成長を見据えて財務担当者の設置を検討し始めるべき段階です。
遅くとも年商30億円までには財務担当者を用意することが望ましいです。
財務担当者は、①社員として内製化する、②外部の専門家を活用する、の2パターンがあります。
新規事業を加速するための財務戦略
新規事業を成功させるためには、適切な資金調達と投資計画が不可欠です。
金融機関が新規事業への投資を判断する際の目安となる指標と、事業の投資回収期間について解説します。
融資における各種目安
借り入れられる金額の上限目安
金融機関は、企業が新規事業へ投資するために借り入れられる金額について、一定の目安を持っています。
新規事業を含む事業投資費用に借り入れられる金額の目安は、会社全体の「償却前利益の10〜15倍」が上限とされています。
※償却前利益:減価償却費を引く前の営業利益、EBITDAとも呼ばれる
これは、その企業の融資残高が、この「償却前利益の10〜15倍」に収まっているかどうかが1つの基準となるためです。
融資残高がこの目安を超えると、金融機関は融資を検討しづらくなり、融資されたとしても、次回の融資を受けることが難しくなる場合があります。
投資額の目安が変動する要素
この投資額の目安(償却前利益の10〜15倍)は、企業の業態によって変動します。
例えば、在庫をたくさん持っている会社は、在庫を仕入れるための借り入れが必要となるため、必然的にこの目安が膨らむ傾向があります。
投資回収の目安となる期間
金融機関が新規事業への融資を判断する際、その投資がどれくらいの期間で回収できるのかという点も重視されます。
投資回収の目安となる期間は投資対象によって大きく異なりますが、一般的には「5年以内」に回収できるかどうかが1つの大きな判断基準となります。
倉庫への投資など大規模な設備投資であれば、10年超えの回収期間となるケースもありますが、基本的な事業投資においては「5年以内」を目安とすることが重要です。
まとめ
金融機関との円滑な取引には、複数の銀行との付き合いを深める「多行取引」が欠かせません。
「いきなり融資を申し込む」「過度に競争させる」といったNG行為を避け、紹介や法人開設を通じて賢く多行取引を進めましょう。
また、新規事業への投資額は、償却前利益の10〜15倍が融資残高の上限目安です。
この投資を確実に実現するため、情報開示の質を担保する財務担当者を年商30億円までに確保し、投資回収期間は「5年以内」を目安とすることが重要です。
いかがでしたでしょうか。
本日のポイントを踏まえて金融機関からの融資を得ることで、新規事業をより大きく成長することができると思います。
他にも、最新の業績アップ事例を踏まえて、事業に役立つ情報を発信していく予定です。
楽しみにしていてください。