ここ数ヶ月、私はお誘いいただいた会社ごとに、その会社の業務に合わせた専用のデモを作ってからお会いするようにしています。金融機関の事故受付、製造業の修理受付、サービス業の予約変更。持参するのは資料ではなく、その会社の業務でAIが実際に声でやり取りする「動くもの」です。デモをご覧になった経営者の方の反応は、業種を問わずほぼ同じです。「AIって、もうここまで話せるんですか」「これ、そのまま使えますよね」。はい、使えます。私がお伝えしたいのは、特定の業界や特定の業務の話ではありません。「声でやり取りできる業務システム」を、自社の業務仕様のまま自分たちで持てる時代が始まった、という全社的な話です。
【「話せるAI」と「作れるAI」が同時に実用段階に入った】
これまでのAIは、要約や議事録、文章作成など「人がパソコンの前で使う道具」でした。この半年から一年で、二つのことが変わりました。
一つ目は、AIが「声で自然にやり取りできる」ようになったことです。以前の音声AIは一問一答が中心で、相手が話し終わるまで待ち、割り込みや沈黙に弱く、会話と業務処理が分かれていました。現在は、聞きながら話し、自然に割り込みや発話交替をこなし、騒音や数字にも対応し、会話の中で検索やシステム操作まで行えます。電話に出るだけではありません。現場で手が離せない社員が声で記録や照会をする、お客様がアプリに向かって声で状況を確認する、社内の規程を声で尋ねる。「声」が業務システムの入口になった、ということです。
二つ目は、業務アプリを「AIと対話しながら作れる」ようになったことです。これまでは、コードの一部を補助してくれる程度で、画面・処理・公開は別々の作業でした。現在は、日本語で業務を説明すれば、画面を作り、データやAPIをつなぎ、テストして、クラウドに公開するところまで一気に進みます。
この二つが合流した結果、「しゃべる業務アプリ」までを一気に作れるようになりました。これがAIエージェント時代の入口です。
図1 「話せるAI」と「アプリを作れるAI」が合流した
【例えば、ロードサービスの受付ではこうなる】
一つの例として、損害保険会社向けに作ったロードサービス受付のAIエージェントをご紹介します。事故を起こしたお客様からの電話にAIが出て、契約を確認し、SMSで送ったURLから地図をタップしてもらって現在地を特定し、安全確認をしてレッカーを手配します。お客様が話の順番を飛ばしても、途中で割り込んでも、AIエージェントは受け止めて必要な確認に戻ります。過失割合のような判断が必要な相談は「担当者にお繋ぎします」と人に渡し、会話の内容はすべて引き継ぐので、お客様が一から説明し直す必要はありません。手配後の「レッカーはまだですか」という問い合わせは、お客様がアプリに向かって声で聞けば、業者の現在地を参照してAIが即答します。
大切なのは、このデモが「一つのAIが全部やっている」わけではないことです。一次受付は軽量なAI、状況のヒアリングはボイスLLM、現場確認は画像と位置情報、判断と手配は高性能なAIと業務機能、最終判断は人。裏側ではFAQ、CRM、地図、SMS、基幹システムをつないでいます。業務を分解し、それぞれに適したAIと機能と人を配置する。AIエージェントの設計とは、このモデルの選定と役割分担そのものです。
図2 業務を分解し、複数のAIと機能と人をつないで個別設計する(ロードサービス受付の例)
そしてもう一つ。デモの中で、お客様が「修理代は保険で出るんですか?」と聞く場面があります。最初、AIエージェントは「契約内容によります。担当者にお問い合わせください」としか答えられません。そこで社内のナレッジを一枚だけ書き換えると、次の通話からAIエージェントは同じ質問にはっきりと答えます。応対の品質を決めるのは「誰が出るか」ではなく「会社としてどんな知識を持っているか」になった、ということです。
【2026年8月時点:主要3社のAIは、同じ方向には進化していない】
経営者の方から必ず聞かれるのが「結局どのAIを使えばいいのか」という質問です。答えは「一つに決めない」なのですが、それでは不親切なので、2026年8月時点での私の整理をお伝えします。主要3社のAIは、それぞれ進化の方向が違い、得意なことも、コストも、はっきり分かれています。
OpenAIは、対話の質では現時点で最高峰です。GPT-Realtimeの新世代とGPT-Liveは、複雑な会話を理解し、細かい指示を最後まで守り、予約や手配、通知といった業務を会話の中で完了させます。相手が感情的になっている、話が込み入っている、条件が複数ある、途中で用件が変わる。こうした「難しい対話」を任せるなら第一候補です。ただし、音声対話のコストは3社の中で最も高く、すべての問い合わせにこれを使うと採算が合いません。したがって使いどころは、クレームの一次対応、富裕層や重要顧客との相談、複雑な手続きの案内など、失敗できない対話や単価の高い顧客接点に絞るのが現実的です。
Googleは、対話のコストが低く、ストリーミングで音声と映像をリアルタイムに扱えることが最大の強みです。Gemini 3.1 Flash Liveは、自然な音声、数字の聞き取り精度に加えて、お客様にカメラを向けてもらって損傷や現場の状況を確認する、位置情報を踏まえて案内するといった「音声プラス映像」の対応ができます。日本語での割り込みにも対応します。コストが低いので、問い合わせの全量をまずGeminiで受け、難しい対話だけを人や上位モデルに渡す、という設計が成り立ちます。件数の多い定型の一次受付、現場からの声による報告、映像を伴う確認は、ここに任せるべき領域です。先ほどのロードサービスデモも、この特性を活かしてGeminiで構築しました。注意点としては、まだプレビュー段階の機能が多く、リージョンやモデルの提供期間に制約があることです。モデルの差し替えを前提に、業務ロジックはモデルから切り離して設計しておく必要があります。
Anthropicは、リアルタイムの音声対話は3社の中で最も苦手です。Claudeにも音声モードはありますが、電話の一次受付にそのまま据えるのには向きません。しかし「作れるAI」としては圧倒的に強く、私自身、業務アプリの構築にはClaude Codeを使っています。日本語で業務を説明すれば、画面を作り、データやAPIをつなぎ、テストして公開するところまで進みます。さらに、長い契約書や規程を読み込んで判断材料を抽出する、応対の裏側で「この相談は人に回すべきか」「約款上どう答えるべきか」を判断する、といった用途では最も信頼できます。つまりClaudeは表舞台の会話ではなく、裏方の構築と判断を担うAIです。
この3社の違いを一つの業務フローに当てはめると、こうなります。件数の多い一次受付と現場確認はGeminiが安価に受ける。込み入った対話や重要顧客はGPTに切り替える。裏側ではClaudeで作ったアプリが動き、約款や規程に照らした判断材料をClaudeが用意する。そして最終判断は人が下す。一つの業務の中でさえ、AIは一社ではなく使い分けるものになっています。
表2 主要3社の使い分け(2026年8月時点・筆者整理)
OpenAI(GPT-Realtime/ GPT-Live) | Google(Gemini 3.1 Flash Live) | Anthropic(Claude/ Claude Code) | |
対話の質 | 最高峰。複雑な会話・指示順守・会話の中での業務遂行 | 自然で速い。数字の聞き取りに強く、割り込みに対応 | リアルタイム音声対話は最も苦手 |
音声対話のコスト | 高い | 低い | (前面の対話には使わない) |
固有の強み | 難しい対話を最後までやり切る | ストリーミングで音声+映像を同時処理、位置情報 | アプリ構築、長文書の分析、裏側の高度判断 |
向いている場面 | クレーム一次対応、重要顧客との相談、複雑な手続き案内 | 件数の多い定型の一次受付、現場からの声による報告、映像を伴う確認 | 業務アプリの開発、契約書・規程の読み込み、人に回すかの判断 |
向かない場面 | 全量の一次受付(採算が合わない) | 高度な交渉や複雑な条件整理を単独で任せること | 電話の一次受付そのもの |
設計上の注意 | 難しい対話に絞って投入する | プレビュー機能・提供期間の制約。モデル差し替え前提で設計 | 表舞台ではなく裏方として組み込む |
図3 主要AI3社の進化の方向性と向いている領域(2026年8月時点・筆者整理)
つまり、どれか一社がすべてに最適なのではありません。声でやり取りする部分、映像を伴う現場対応、文書の分析、アプリ開発と、業務によって適性もコストも異なります。だからこそ「一つのAIにすべてを任せる」のではなく、業務ごとに、さらには一つの業務の中でも場面ごとに使い分けることが重要です。特定の製品に業務を合わせるのではなく、業務に合わせて複数のAIと機能をつないで個別に組む。これが2026年のAIエージェント活用の基本形だと考えています。
【同じ考え方で、どの業務も「会話できる業務システム」になる】
ロードサービスは一例にすぎません。同じ考え方で、業務ごとに「会話できる業務システム」を個別に設計できます。下の図は金融機関の例ですが、住宅ローン相談、相続相談、法人融資の一次ヒアリング、保険事故受付、行員向けの規程照会、口座や各種手続きの案内と、どれも「会話→整理→案内→記録→引き継ぎ」という同じ流れでできています。
図4 同じ考え方で、業務ごとに「会話できる業務システム」を個別に設計できる(金融機関の例)
これを御社の業務に置き換えると、次のようになります。業種は違っても、AIエージェントが前段の「会話・整理・案内・記録」を担い、人は最終判断と交渉に集中する、という構造はまったく同じです。
表1 業種別「会話できる業務システム」の例(筆者整理)
| 業種 | 会話できる業務システムの例 | AIエージェントが担う前段 | 人が担う最終判断 |
| 金融機関 | 住宅ローン・相続の相談受付、保険事故受付、口座・各種手続き案内 | 条件ヒアリング、必要書類案内、面談予約、事故状況・位置の確認 | 審査、補償可否、過失割合、示談交渉 |
| 製造業 | 修理・保守の受付、納期・在庫照会、見積依頼の一次ヒアリング、現場からの声による作業記録 | 症状・型番の聞き取り、訪問日候補の提示、納期回答、日報の音声入力 | 見積金額、技術判断、生産計画の変更 |
| 小売・サービス業 | 予約の受付・変更・キャンセル、店舗への問い合わせ、会員の注文・配送状況照会 | 予約枠の案内と確定、営業時間・在庫の回答、配送状況の即答 | クレーム対応、返品・返金の可否、個別の値引き |
| 工事業(建設・設備) | 現場からの声による進捗・安全報告、資材や職人の手配依頼、施主からの問い合わせ受付 | 報告内容の整理と記録、手配の一次受付、工程・訪問日の案内 | 工程変更、追加費用、施主との仕様確認 |
| 医療・歯科 | 予約の受付・変更、初診前の問診、治療後のフォロー、受付での再来案内 | 予約枠の案内、問診票の聞き取り、注意事項の案内、リコール通知 | 診断、治療方針、緊急度の判断 |
| 自動車販売・整備 | 来店予約、車検・点検の受付、故障や事故時の一次対応、下取り・在庫の問い合わせ | 希望車種・予算の聞き取り、入庫日の調整、症状と位置の確認、在庫の即答 | 査定額、値引き、修理可否、保証適用の判断 |
| 住宅・不動産 | 初回相談のヒアリング、来場予約、物件・土地の問い合わせ、引渡し後のアフター受付 | 希望条件の整理、資金計画の一次案内、来場予約、不具合の聞き取り | 資金計画の提案、価格交渉、契約条件 |
| 物流・運送 | 配送状況の問い合わせ、集荷依頼、ドライバーからの声による報告 | 伝票番号での即答、集荷日時の確定、遅延理由の記録と案内 | 事故・遅延時の補償、配車の最終判断 |
| 全業種共通 | 採用の応募対応、社内ヘルプデスク、規程・マニュアルの照会 | 応募者への即時応答と面接調整、社内FAQへの回答、規程の検索と案内 | 採否、例外承認、人事上の判断 |
どの業種にも共通するのが、採用の応募対応と社内ヘルプデスクです。「誰かが本業の手を止めて対応している」場面は、すべてAIエージェントに前段を任せられる業務だと考えてください。
これまで業務システムは「パッケージに自社の業務を合わせる」か「高額なスクラッチ開発で作り込む」かの二択でした。これからは、自社の業務仕様のまま「声でやり取りするAIエージェント」と「それを支える個別アプリ」を自分たちで持てます。専任の担当者がいない中堅企業ほど、その効果は大きくなります。
【だから今、ボイスAIと個別アプリを自社に入れましょう】
AIエージェントの導入は、難しく考える必要はありません。私がおすすめしている始め方は三つです。
一つ目は、業務を一つ選ぶことです。同じ質問や同じ手続きが繰り返される業務ほど、AIエージェントの効果は大きくなります。
二つ目は、「AIが受けていい話」と「人が判断する話」を線引きすることです。全部をAIに任せる必要はありません。前段の整理・案内・収集はAIエージェントに、判断や交渉は人に。引き継ぎの仕組みさえあれば、それで十分に成立します。
三つ目は、資料を作る前に、まず動くものを作って触ることです。動く未来を見た瞬間に、社内の議論は「やるべきか」から「どこから始めるか」に変わります。
私たちは、この「動くもの」を最初にお見せするところからご支援しています。冒頭でお伝えしたとおり、お声がけいただければ、御社の業務に合わせた専用のデモを作ってお持ちします。御社の業務でAIエージェントがどう声でやり取りするのか、まずは動くものをご覧いただき、そこから一緒に設計を始めましょう。
![]() | 執筆者: 株式会社 船井総合研究所 橋本 吉弘 はしもと よしひろ |

