多くの企業経営者にとって『脱炭素』は他人事ではなくなりました。
とは言え、「何をどうしたらよいのでしょうかわからない」「そんな面倒なことに取り組んで一体何の得があるのか」といった声も挙がっています。
そこで、今回は「中小企業のための脱炭素では何をしたらよいのか」「脱酸素に取り組むことのメリット」について、弊社スマートエネルギー支援部 グループマネージャーの穂垣勇介さんに解説してもらいました。
中小企業経営者からは「脱炭素とか、綺麗事で飯が食えるのか?」といった声も聞こえてきますが…
確かに「脱炭素がすぐに業績を左右するかどうか?」と訊かれたら、「すぐには結果がでない」という答えになるでしょう。
ただし、船井総研では創業以来、経営の大原則として『時流適応』を唱えています。
つまり、業績を伸ばすためには時流に合わせた経営の仕方をすること、時流に合わせて変化していくことが重要だということです。
そういった意味で考えると、「脱炭素」は間違いなく昨今の時流ですので、「やらないという選択肢はない」と我々は断言しています。
「時流だ」と考える理由は?
我々のご支援先である再生エネルギー設備/省エネ設備の販売・施工をされている会社様の動向からです。
2021年頃から、ご支援先の大手企業や大手企業グループ会社から「脱炭素化の相談に乗ってほしい」「まだまだ知識がないので、知見を貸して欲しい」というお問い合わせが急増いたしました。
船井総研に対しても、懇意にしている金融機関様から「脱炭素」に関するお問い合わせが増えています。
そのあたりが肌で感じている部分と言えますね。
「脱炭素」に取り組む具体的なステップ
まずは「なぜ脱炭素経営をするのか」という目的を設定してもらいます。
脱酸素だけでなく、どんなことでも目的は重要です。
そのうえで、「脱炭素」に取り組む5つのステップを設定してもらいます。
・ステップ①『目的の設定』
○現状/今後の困りごとを整理する
○脱炭素に取り組む動機を持つ
・ステップ②『イニシアチブの選定』
○目的にあったイニシアチブを選ぶ…つまり、どこの団体/組織に入って目標設定をするかということ
○脱炭素に取り組むイニシアチブとして一番有名なものがSDGs
・ステップ③『削減目標の設定』
○温室効果ガス排出量をいつまでに何%減らすのか決める
○達成可能な目標を設定する
・ステップ④『具体的手法の検討』
○脱炭素のために具体的に何をしていくのか
・ステップ⑤『取り組みの発信』
○商売に「脱炭素」を生かしていくためには、取り組みを発信していくことが重要
○早くから脱炭素に取り組んだ会社は、自分から発信しなくても、地元の新聞やマスメディアの方に取り上げてもらえるなどのメリットがある
ステップ①目的設定
設定する目的は、大きく分けると「資金調達」「製品の差別化」「取引先の開拓」「知名度の獲得」、この4つに分けることができます。
・『資金調達』
「融資を受けたい」「良質なIRを作りたい」などの目的達成のため、脱炭素に取り組むことで金融機関からの受けを良くし、資金調達を有利に進めることができます。
・『製品の差別化』
今の時代、当然、大手企業は率先して脱炭素していく必要がありますが、そうすると、サプライヤーに対しても「脱炭素への協力お願いします」という話になるでしょう。
ですので、大手企業に対して製品を売り込むのであれば「うちの製品は脱炭素しています。CO²ゼロです」というPRをすることで、製品の差別化ができます。
・『取引先の開拓』
「脱炭素」による製品の差別化を推めることで、これまで取引のなかった脱炭素に取り組む大手企業からも「うちも脱炭素してるから、お宅の製品を使ってみようかな」と検討してもらえる機会が増え、新しい取引先の開拓に繋がります。
・『知名度の獲得』
一例ですが、新卒採用している会社の場合、「脱炭素に取り組んでいる社会性の高い会社」と「取り組んでいない普通の会社」では見られ方が変わってきます。
そういった観点から考えれば、「脱炭素」を採用に活かすことができるでしょう。
また、地域での認知向上のために使うこともできます。
4つの目標のうち、どれか1つを選択するのか、4つを組み合わせるのか?
『資金調達』は、他と少し離れますが、残りの3つ『製品の差別化』『取引先の開拓』『知名度の獲得』というのは、それぞれ関連し合う部分があります。
ただし、どの目標を最初に設定するのかは、決めて頂いた方がスムーズでしょう。
ステップ②イニシアチブは必ず選定すべきか?
はい、必ずなにかしら選んでもらいたいと考えています。
たとえば、SDGsは一番メジャーなイニシアチブですので、認知度を上げるということにも当然使えます。
SDGsの目標は全17個ですので、エネルギーや脱炭素は、一部分ということになります。
COOL COICEは金融機関などが積極的に取り組んでいますが、SDGsに比べると「個人に対して、こういった取り組みをしています」という意味合いが強いです。
「より企業での認知度を上げていく」となると、RE100という企業で使われている電気を100%再エネにするというものや、再エネ100宣言という「中小企業版のRE100」みたいなものがあり、この辺りに加盟し、具体的な削減目標を設定して「脱酸素に向けこういった取り組みをしています」というPRをすると良いでしょう。
選定すべきイニシアチブに関しては、我々の方では上記のような区分けをしています。
どのようにしてイニシアチブを決めていけば良いのか
イニシアチブにもそれぞれ特徴があるので、目的に合うものを選ぶと良いでしょう。
例えば、金融機関を強く意識するのであれば、TCFDが候補に挙げられます。
TCFDの情報開示は多くの投資家も注目しているので、金融機関に対して訴求をしたいなら、TCFDに入る…このようにして、決めていきます。
加入するイニシアチブは1個だけですか?
複数入っている会社も多いです。
大手企業であれば、主要なイニシアチブ全てに加入しているという会社もあります。
ただし、イニシアチブを掲げる為には、設定した目標をクリアしていかなくてはならないので、まずは順番に一個ずつ入っていくのが良いのかなと思います。
中小企業の方にお勧めのイニシアチブは?
再エネ100宣言です。
REアクションと呼ばれるこのイニシアチブは、企業経営の中の使用エネルギーを100%再エネにしていくことを最終目標に掲げる団体です。
具体的に2050年までに◯%にする、2030年に△%にするとか、そういった目標設定を行うことを推奨しています。
再エネ100宣言は、中小企業を対象としたイニシアチブですので、こちらが一番適していると思います。
ステップ③削減目標設定のポイント
最初に「自分たちが、今どれだけCO²を排出しているか」という自己分析をして現状を確認します。
「現状どのくらいなのか」ということや「自分たちは、どのくらい再生エネルギーを使っているのか」などをチェックし、いつまでになにをするのかを設定しましょう。
ステップ④具体的手法の検討方法
たとえば、削減目標を「2030年までに再エネ使用率を△%高める」と定めたのであれば、いつまでに何をするかを検討します。
省エネ設備を導入し「電気消費量を下げる」、または「自分たちの設備や建物に太陽光発電システムを付ける」という手法が考えられるでしょう。
こういった形で再エネ比率をどんどん上げていくというのが一番メジャーな方法です。
つまり、まずステップ③で「自分たちが今どれぐらいCO²を使っているのか」を計り、そこから削減の量を決め、ステップ④で具体的な手法を検討していくという流れになります。
ステップ⑤ベストな発信方法とは
一般的なのは、自社ホームページで「このイニシアチブ/組織に加盟しました」「これから脱炭素・再エネ100%目指して頑張っていきます」と発信することですが、これは誰にでもできるやり方です。
それよりも、以下のような一歩踏み込んだ発信をオススメ致します。
・採用説明会で発信する
・IR情報に掲載する
・プレスリリースを打つ
ただし、幸いなことに「脱炭素」という取り組みは、まだまだブーム初期と言えますので、「こんな取り組みをしました」「この団体に入りました」と簡単に発信するだけでも、地元の新聞社や各メディアから「取材させて欲しい」という連絡が舞い込んでくる、というのが現状です。
「脱炭素」は、これから確実に来る流れなので、いかに早く取り組めるかというところがポイントです。
周りの様子を見ながら「あの会社が脱炭素したら、うちも」というように、他の会社が取り組み始めてから取り組むのでは、あまり目立てないでしょう。
事例紹介
「脱炭素」は国も積極的に取り組んでいる取り組みです。
そのため、環境省が脱炭素に取り組んでいる会社を表彰したり、脱炭素経営を勧めるパンフレットを制作したりしています。
そちらのパンフレットには、実際に脱炭素に取り組んでいる企業例が掲載されているので、ぜひ参考にしてみてください。
印刷会社の事例
脱炭素に取り組む会社として代表的な印刷会社の事例です。
沢山紙を印刷している製造業の会社で、早期から脱炭素・再エネ化に取り組んでいました。
この会社の素晴らしいところは、「脱炭素」を商品に生かしているところです。
脱炭素によって得られた効果のひとつが、新規取引先の急増だそうですが、「脱炭素の環境印刷」という形で、わかりやすく自社商品に脱炭素の取り組みを落とし込んだことで、脱炭素を目指したい他の会社にとって、買いやすい商品になったのですね。
脱炭素と売上は繋がらないイメージを持たれがちなので、面白い事例です。
国が脱炭素に取り組むことを推奨しているため、多くの自治体が積極的に脱炭素に取り組んでいます。
そういった背景から、その印刷会社は自治体ともコラボをし、一緒にセミナーを開催しているそうです。
「印刷会社にとって、セミナーをするメリットがあるのか?」と思われるかもしれませんが、セミナーで新しい取引先を開拓できるといったメリットがあり、延いては売上向上にも繋がったということです。
また、「脱炭素の環境印刷」という製品は、印刷工場に太陽光発電設備を付けた「再生エネルギーで、稼働している印刷工場」で製造しています。
その施設では、停電が起きた時にも、太陽光発電設備があるので、非常時でも電気を使うことができ、工場が稼働できた…という出来事もあったそうです。
つまり、脱炭素の取り組みは売上アップだけではなく、リスクヘッジにも繋がっているということですね。
意識の高い企業からの引き合いが増えているの?それは何故?
意識の高い企業が何故、脱炭素に取り組む製品を求めるかというと、今のご時世、代表的な株主・投資家などステークホルダーに対して、国や世界が推奨している「脱炭素」に対し「しっかりと取り組んでいます」と、言わなければならないからです。
印刷製品も「火力発電でCO²を沢山出している電気で作った印刷製品」ではなく、工場の太陽光発電設備を使った再生エネルギー、つまり「CO²ゼロの電気で作った印刷製品」を取り入れることで、「脱炭素の印刷製品で作ったものをお客様に提供しています」という事をステークホルダーに示せるのです。
「脱炭素といった意識の高い取り組みをしても誰が買うんだ?」と思われている経営者さんもいると思いますが、時流は「脱炭素」に向いています。
「脱炭素」に取り組むことで、付加価値を高められるでしょう。
皮革製品製造会社の事例
次は、皮革製品製造会社の事例です。
燃やさずに土に還る、環境に配慮した製品を製造している会社で、大規模な会社ではありませんが、先ほどご紹介した中小企業にお勧めのイニシアチブ、REアクションに加盟している会社です。
環境にやさしい製品は、脱炭素や環境経営を目指す会社など、対外的にも強く支持されているそうです。
今はコロナ禍ですので、訪日観光客は少なくなっていますが、海外から来られる方に対して「環境に優しい製品をお土産やプレゼントとして差し上げたい」「重要なご来賓の方に、環境に配慮した製品をご提供したいかた御社の商品を使わせて欲しい」といった問い合わせが増えているという声も聞いています。