多くの企業が直面する「規模の壁」は、統計的にも明らかです。
従業員数30〜99人の企業は全体のわずか1.85%に過ぎず、100人以上の規模に到達できる企業はさらに限定的です。
この壁を越え、地域コングロマリット化を推進するために必要なのは、既存事業の延長線上にある採用や育成ではなく、経営戦略と密接に連動した戦略人事による組織改革です。
コングロマリット化に向けた5つの点検項目として、以下の要素が挙げられます。
- 採用合致: 理念と実務の両面で最適な人材を確保できているか
- 育成再現: 誰でもリーダーになれる共通プログラムがあるか
- 投資還元: 人への投資が利益に直結しているか
- 幹部輩出: 新規事業を任せられる「挑戦層」が可視化されているか
- 戦略人事: 人事が「社長直轄」で組織改善を主導しているか
特に重要なのは、人事をバックオフィス事務から解放し、社長直轄の戦略人事部として再定義することです 。
■ 組織進化の方程式:三つの柱
成長企業に共通する組織進化は、「ロードマップデザイン力」×「幹部輩出力」×「カルチャー推進力」の三要素で構成されます
① ロードマップデザイン力
未来のビジョンから逆算し、次の成長段階で求められる組織・人・役割の進化プロセスを描きます。単なる人員計画ではなく、中期経営計画と連動した「人材ポートフォリオ」のデザインが戦略人事の重要な任務となります。
② 幹部輩出力
社長の分身となる経営人材を、偶然に頼らず「仕組み」として生み出し続ける力です。
船井総研の事例では、マネジメントコースや専門職コースなど、多様なキャリアパスを明文化し、ジョブオファー(社員公募)制度や戦略人事会議を通じて、意図的にリーダーを育成しています。この「任せられる層の厚み」を作ることこそ、戦略人事の真骨頂といえます。
③ カルチャー推進力
組織が拡大・分散しても、判断がブレない状態を作ることです。
創業者の精神(Founder's Spirit)を言語化し、パーパス(存在意義)を全社員に浸透させるプロセスが必要です。
戦略人事は、価値観ムービーやサーベイを用いてカルチャーを可視化し、組織の統治(ガバナンス)を強化します。
■ 実装!社長主導の「戦略人事」
戦略人事を実装するには、従来の人事業務(採用・労務・給与計算)といった「オペレーション」から、人材価値を最大化させる「戦略・実行」へと機能をアップデートしなければなりません 。
戦略人事が担うべき4つの象限は以下の通りです:
1.戦略デザイン: 事業計画に連動したロードマップの策定
2.実行施策策定: 人材開発・組織開発の具体的プラン立案
3.人事業務改善: 既存業務の効率化と仕組み化
4.実行マネジメント: 経営者・幹部との連携および全社的な推進
成功しているコングロマリット企業の事例として、北海道のヤブシタグループという持続的に成長し続けている中堅企業があります。
この企業に共通するのは、「社員第一、お客様第二」といった明確な経営哲学を持ち、戦略人事的アプローチによって高いエンゲージメントと事業多角化を両立させている点です。
■今すぐ「戦略人事」を立ち上げるべき理由
地域コングロマリット化を成功させ、人材不足を解消するためのセンターピンは「幹部輩出の仕組みづくり」にあります。事業成長の限界は、社長の分身となる幹部の数で決まるからです。そのためには、事務処理を行う「人事部」ではなく、経営のど真ん中に位置する戦略人事部を即座に立ち上げる必要があります。
現状、動かせる人がいない、今の担当者には負荷が大きすぎるという懸念はあるかもしれませんが、まずは社長が「戦略人事を実装する」と決断し、物理的な時間を確保することが第一歩となります。
戦略人事によって、従業員生涯価値(ELTV)を最大化し、データ(BI)に基づいた意思決定を行う体制を整えることで、地域企業は「サステナグロースカンパニー(持続的成長企業)」へと進化することができるのです。
貴社の現在の人材戦略において、戦略人事の機能はどの程度機能しているでしょうか。
まずは現状の可視化から始めることをお勧めします。
| 執筆者: 地域コングロマリット支援部 ディレクター 中川 洋一 なかがわ よういち |
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