なぜ、企業の新人育成は「場当たり的」になってしまうのでしょうか?
「新人の育成は、現場の上司や先輩に任せているから大丈夫」
「研修は外部に依頼しているが、結局は現場のOJT次第だ」
もし、あなたが人事・育成担当者として、このような状況に心当たりのある場合、貴社の育成体制は「現場任せ」になっているかもしれません。現場任せの育成には、必ず限界が訪れます。
•教育の質のバラつき:指導者(上司・先輩)のスキルや意識によって、教える内容やレベルが大きく異なってしまいます。
•現場の負荷増大:教育計画や教材づくりまでを現場に委ねると、本来の業務が圧迫され、指導者の疲弊につながります。
•会社全体としてのノウハウが蓄積されない:優秀なOJT担当者が持つ「教え方」の技術や「育成の成果」が、その担当者の異動や退職と共に失われてしまいます。
特に、若手社員の定着や早期戦力化が急務となっている現代において、属人性の高い「現場任せ」の育成は、企業成長の大きな足かせとなりかねません。
本コラムではこの「現場任せの壁」を打ち破り、企業独自の育成力を高める「内製化・仕組み化」に焦点を当てた新しい育成研修のあり方について解説します。
①「現場任せ」がもたらす致命的な3つの問題点
まずは、「現場任せ」の育成体制が、長期的に企業と社員にもたらす致命的な問題点を具体的に見ていきましょう。
1. 「育成」よりも「目の前の業務」が優先される
現場の指導者は、当然ながら自身の業務目標を達成することが最優先です。新人の育成は「やらなければならないこと」ではなく、「余裕があればやるべきこと」という認識になりがちです。
結果として新人が最も教育を必要とする初期段階で、十分な時間やフィードバックを得られず、不安や孤立感を抱え、早期離職につながるリスクを高めます。
2. 育成が「属人化」し、指導者も新人も疲弊する
育成のノウハウが特定の優秀な指導者に依存することを「育成の属人化」と呼びます。
•指導者の疲弊:育成の全てを引き受ける指導者に業務が集中し、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こしかねません。
•新人の混乱:指導者が変わるたびに教え方や評価基準が変わり、新人は「誰の言うことを聞けばいいのか」と混乱し、主体的な行動を起こせなくなります。
3. 会社としての「育成の資産」がゼロになる
最も深刻な問題は、時間とコストをかけて行っているはずの育成活動が、企業の「資産」として蓄積されないことです。
教育計画、指導マニュアル、OJTでの成功事例、フィードバックの具体的な方法など、本来企業全体で共有し、ブラッシュアップしていくべきノウハウが、現場のPCや個人の経験の中に埋もれてしまいます。これは、「次世代の育成に必要な知恵を毎回ゼロから作り直している」のと同じであり、非常に非効率的です。
②脱却の鍵は「内製化」と「仕組み化」のハイブリッド
「現場任せ」の壁を破るためには育成の根幹を人事部門主導で「内製化」し、それを誰もが実行可能な形に「仕組み化」することが不可欠です。
ここでいう「内製化・仕組み化」とは、全ての研修を自前で行うことではありません。外部の専門家の知見を借りつつ、企業独自の成功パターンを体系化し、社内に定着させるプロセスを指します。
1. 内製化の核となる「育成の設計図」を作る
まず、人事部門が主導し、企業独自の「育成設計図」を作成します。
これは、新人に求める「到達レベル」と、その到達に必要な「学習コンテンツ」、そして「評価基準」を明確に定義したものです。
•到達レベルの定義:入社3ヶ月後、6ヶ月後、1年後に、業務スキルだけでなく、ビジネスマインドや主体性の面で、具体的にどのような行動ができるようになっているかを言語化します。
•コンテンツの分解:新人が抱えるであろう疑問や課題を先回りし、それを解消するための研修やOJTのコンテンツを、「共通スキル」「専門スキル」「マインド」の3つに分解し、誰が(人事か現場か)、いつ、どのように教えるかを明確にします。
この設計図があることで、現場は「教えるべきこと」に集中でき、人事部門は「育成全体の進捗と質」を管理できるようになります。
2. 仕組み化の要:研修とOJTの「連動」を担保する
仕組み化の最大のポイントは、「集合研修(座学・外部研修)」と「現場でのOJT」を完全に連動させることです。受けて終わりの研修を脱却します。
特に重要なのが、「指導者(OJTリーダー)」への研修です。仕組み化された育成においては、指導者は「知識を教える人」ではなく、新人が「自ら考え、行動し、内省できるようにサポートする人(メンター)」としての役割を担います。人事部門が、この指導者を育成するための研修とマニュアルを整備します。
3. ノウハウを「デジタル資産」として蓄積・共有する
育成のノウハウを属人化から解放するため、全てのドキュメントとデータを一元管理する仕組みを構築します。
•ラーニング・マネジメント・システム(LMS):研修資料、育成マニュアル、OJTチェックリストなどをLMSに集約し、いつでも誰でもアクセスできるようにします。
•フィードバックの共通化:指導者が新人に対して行ったフィードバックや、新人の行動記録をシステム上で共有・記録し、育成進捗を人事部門と現場がリアルタイムで確認できるようにします。
これにより、誰が指導しても一定のクオリティが担保されるとともに、蓄積されたデータが次年度の研修改善のための貴重なインサイト(知見)となります。
③内製化・仕組み化がもたらす企業へのリターン
育成を「仕組み化」することへの投資は、単なるコストではなく、企業競争力を高める確実な「投資(リターン)」となります。
1. 若手の「早期戦力化」と「定着率」の向上
明確な育成設計図と連動したOJTにより、新人は「何を、いつまでに、どうすればいいか」が明確になり、迷いなく成長の階段を上ることができます。これにより、目標達成へのモチベーションが高まり、早期に戦力化するだけでなく、「自分は会社に期待され、成長できている」という実感を持つことで、定着率も大きく向上します。
2. 現場の「指導力」と「生産性」の向上
現場の指導者は、属人的な「教え方」から解放され、明確なマニュアルと共通の評価基準に基づいて指導できるようになります。指導における迷いが減ることで、指導時間そのものが短縮され、現場の業務効率と生産性が向上します。さらに、指導スキルそのものが向上することで、現場全体のマネジメントスキルも底上げされます。
3. 企業の「育成文化」の醸成
育成の仕組み化は、単なるマニュアル化に留まりません。指導者が育成スキルを磨き、そのノウハウを共有し合う文化が醸成されることで、企業全体で「人を育てること」を重視する風土が生まれます。これが、持続的な企業成長を支える最強の「育成文化」へと進化していくのです。
若手・新人育成の成否は、その場限りの優秀な指導者に依存するのではなく、「教育を企業としてどれだけ体系化し、仕組みとして運用できているか」にかかっています。
•「現場任せ」で、毎年同じ悩みを繰り返していませんか?
•「研修コスト」を「未来への投資」に変えたいと思いませんか?
もしあなたが、育成の仕組み化によって、若手・新人社員を確実に成長させ、現場の負担を軽減し、自社の育成力を高めたいとお考えであれば、その具体的な「設計図」が必要です。
私たちがご提供する「内製化・仕組み化」のための具体的な手法では、貴社の現状の育成課題を詳細に分析し、「育成の設計図」の作成、「指導者研修」の内製化サポート、そして「評価とフィードバックの仕組み」の導入までを一気通貫でご支援します。
育成体制を本質的に変革するための第一歩を、今、踏み出しませんか?
| 執筆者: ヒューマンキャピタル支援部 マネージング・ディレクター 滝本 千晶 たきもと ちあき |
