東京・福岡、そして札幌へ――広がる「プロ市場」
2026年6月30日、札幌証券取引所が新たなプロ投資家向け株式市場「Sapporo PRO Frontier Market」を開設します。
東京証券取引所の「TOKYO PRO Market(TPM)」、福岡証券取引所の「Fukuoka PRO Market」に続く、国内3番目のプロ市場です。この新市場で上場審査と伴走支援を担うのが「S-Adviser(エス・アドバイザー)」ですが――そもそも、なぜ今、地方も含めて「プロ市場」が次々と生まれているのでしょうか。
その背景には「上場の常識」そのものの変化があります。
プロ市場の全国的な広がりは、中堅・地方企業の経営者にとって、上場がこれまで以上に現実的な経営の選択肢になっていることを示すサインなのです。本稿では、プロ市場が増えている3つの理由を、お伝えいたします。
理由1:一般市場のハードルが、年々高くなっている
かつて、成長企業の「上場のゴール」といえば東証グロース市場(旧マザーズ)への直接上場でした。しかし近年、グロース市場では「上場後5年で時価総額100億円」といった高い基準が課されるなど、上場後の成長プレッシャーと審査の厳格化が進んでいます。実力のある企業であっても、「いきなり一般市場へ上場して投資家の期待に応え続けられるか」という不安は小さくありません。
そこで現実味を増しているのが、まずプロ市場で「上場企業」としての実績と体制を整え、その後に一般市場へステップアップするというルートです。実際、TPMから一般市場へステップアップした企業は17社にのぼります。「プロ市場で助走し、一般市場で飛躍する」――この成長モデルの定着が、プロ市場拡大の大きな原動力になっています。
理由2:上場のメリットはそのままに、負担を抑えられる
プロ市場が経営者の関心を集める最大の理由は、「上場で得られる効果」と「上場にかかる負担」のバランスの良さにあります。プロ市場には株主数や流通株式比率といった形式基準がなく、オーナー経営者が株式の大半を保有したまま上場できます。
四半期開示や内部統制報告書の提出も任意とされ、監査期間も短く、上場までの期間や管理コストを抑えられます。さらに、J-Adviserのような専門アドバイザーが上場準備から伴走するため、初めて上場に挑む企業でも体制を着実に整えられます。
一方で、得られる「上場企業」というステータスの価値は、一般市場と変わりません。
採用力の強化、銀行融資における個人保証の解除や金利の改善、取引先からの信用力向上、さらには監査済みの財務情報による事業承継・M&Aの円滑化――。人材難や後継者問題に悩む中堅企業にとって、これらを一度に前進させ得る経営の打ち手であることこそ、プロ市場が選ばれる本質的な理由です。
資金調達の面でも、プロ市場では株式による公募・売出が任意とされていますが、数億円規模の調達を実現した企業もあり、一般市場に引けを取りません。「上場企業としての信用力をテコに、金融機関からの借入や成長投資を進める」という、自社のペースに合わせた柔軟な資金戦略を描けることも、プロ市場ならではの強みです。
理由3:国策の追い風と、上場を支える「アドバイザー」の広がり
3つ目の理由は、地方創生・国策の後押しです。
福岡に続く札幌のプロ市場は、「北海道・札幌GX金融・資産運用特区」の取り組みの一環として誕生しました。GXや金融など指定領域で条件を満たす企業には新規上場料の優遇(通常250万円→200万円)が設けられるなど、地方の成長企業に門戸を開く制度設計がなされています。なお、札幌のプロ市場は北海道関連に限らず全国の企業が対象で、アンビシャス市場やグロース市場へのステップアップの「最初の入り口」としての活用が期待されています。
そしてもう一つ見逃せないのが、上場を支える「アドバイザー」の広がりです。
プロ市場では、取引所に代わって上場審査と伴走支援を担うアドバイザー――東京の「J-Adviser」、福岡の「F-Adviser」、そして札幌の「S-Adviser」――の存在が欠かせません。証券会社だけでなく、上場審査の経験を持つM&A仲介会社や経営コンサルティング会社がこの資格を取得して担い手となることで、これまで上場が遠かった地方の企業にも、専門家による伴走支援が届くようになりました。札幌のS-Adviserには、2026年6月時点で7社が認証されています。
(図2)全国に広がる3つのプロ市場とアドバイザー制度
| 項目 | TOKYO PRO Market | Fukuoka PRO Market | Sapporo PRO Frontier Market |
|---|---|---|---|
| 運営取引所 | 東京証券取引所 | 福岡証券取引所 | 札幌証券取引所 |
| アドバイザー制度 | J-Adviser | F-Adviser | S-Adviser |
| アドバイザー社数 | 21 社 | 9 社 | 7 社(開設時) |
| 位置づけ | 国内最大のプロ向け市場 (累計 200 社超) | 九州発の上場を後押し | 全国の企業が対象・国内 3 番目の最新市場 |
出典:各証券取引所公表資料をもとに船井総合研究所作成
また、弊社もこのたびS-Adviser資格を取得しました。これにより、東京・福岡・札幌という国内3つのプロ市場すべてで、企業の上場をサポートできる体制が整いました。
結論:上場は、もはや「一部の企業」のものではない
プロ市場の全国的な広がりが示しているのは、「上場」が一部のメガベンチャーだけの特別な選択肢ではなくなったということです。
実際、2026年3月25日に東京証券取引所(TOKYO PRO Market)および福岡証券取引所(Fukuoka PRO Market)へ同時に上場を果たした田村ビルズグループさまは、1879年(明治12年)創業という140年以上の歴史を持つ老舗企業です。
地方の中堅企業が、自社の理念とオーナーシップを守りながら、信用力・採用・資金調達・事業承継といった経営課題を一気に前進させられる――。その現実的な手段として、いま多くの経営者がプロ市場に注目しています。
貴社にとって、今のタイミングでどの市場を目指すのが最適なのか。それは単なる「規模」の問題ではなく、将来どのような成長曲線を描きたいかという「戦略」の問題です。まずは情報収集の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
| 執筆者: IPO支援室 マネージング・ディレクター 渡邊 功一 わたなべ こういち |
なぜ中堅企業は「グロース」ではなく「TOKYO PRO Market」を戦略的に選ぶのか?
