近年、中堅企業やスタートアップ企業の経営者様の間で、「TOKYO PRO Market(TPM)」への関心が急速に高まっています。
TPMの上場会社数は2025年9月末時点で149社に達し、累計では200社を超えました。特に注目すべきはその成長スピードです。2020年の上場会社数は41社でしたので、この5年で100社以上も増加しています。
出典:東京証券取引所 「プロマーケットの今後の方向性について」
「TPMって何だっけ?」という方もまだまだ多いかと思いますので、TPMについてもご説明いたします。
■TOKYO PRO Market (TPM)とは
TPMは、2009年に開設された「プロ投資家(特定投資家)」向けの株式市場です 。
一般市場(プライム・スタンダード・グロース)がすべての投資家向けであるのに対し、TPMは参加者をプロに限定しています 。これにより、一般市場とは異なる柔軟な制度設計が最大の特徴となっています 。
TPMの主な特徴
①柔軟な上場基準: 一般市場のような「株主数」や「時価総額」「利益額」といった形式的な数値基準がありません 。J-Adviser制度: 東証が認定する「J-Adviser」が、上場適格性の調査や上場後のサポート(指導・助言)を一貫して行います 。
②負担の軽減: 上場時の監査証明は「最近1年間」(一般市場は2年間)でよく、四半期決算やJ-SOX(内部統制報告制度)への対応も任意です 。これらの柔軟性により、企業の成長ステージや業種を問わず、多様な企業が上場を目指せる門戸が開かれています。
出典:東京証券取引所 「プロマーケットの今後の方向性について」
■TPMが成長している背景
【理由1】信用力・知名度の向上という「伝統的なニーズ」
TPMが成長してきた背景には、まず「上場企業」というステータスがもたらす伝統的なメリットがあります。TPM上場の主なニーズは、事業拡大に向けた「知名度・信用力の向上」にあります 。
実際に企業が感じている効果としても、以下の点が挙げられます。
①資金調達(融資): 「TPM上場後、銀行からの借入が圧倒的にしやすくなった」という声があります 。
②経営者保証の解除: 金融機関からの信用力が上がることで、経営者の個人保証が外れやすくなります。これは「後継者を育てても事業承継ができない」という課題を解決する手段にもなっています 。
③採用力の強化: 「上場」という信頼感から、優秀な人材、特に管理系の人材を採用しやすくなる効果が報告されています 。
④M&A機会の創出: 監査済みの財務情報が開示されているため、M&Aの対象として一定の安心感を持たれ、M&Aの打診が増えるケースもあります 。
⑤ガバナンスの強化:事業承継を考えるうえで企業の管理体制を強化しておきたい。このように考える経営者にとってはTPM上場し、親族や従業員に「経営承継をさせやすくする体制構築面で良かった」という声があります。
これらのメリットを求めて、特に地方の中堅企業などがTPMを活用するケースが定着してきました。TPM上場企業(149社)のうち、東京本社の企業は40%に留まり、一般市場(例:グロース市場 76%)と比べて地方企業の比率が高いのが特徴です 。
【理由2】一般市場への「ステップアップ」という「新たなニーズ」
そして、ここ数年の急成長を牽引しているのが、新たなニーズの顕在化です。 それは、TPMを「一般市場(グロース市場など)へのステップ」として活用する企業が急増していることです 。
この背景には、グロース市場の上場維持基準の見直し(例:上場5年経過後時価総額100億円など)があり、直接グロース市場を目指していた企業が、戦略的にTPMを経由する動きが顕著になっています 。
ある非上場会社は、「グロース市場の基準は満たせる規模だが、上場後の投資家の成長期待にしっかりと応えるべく、TPMで地固めを行い、大きく成長できる体制を整えてから一般市場に上場しようと考えている」とコメントしています 。
「ステップアップ」としてのTPMの価値
段階的な体制整備:いきなり一般市場の厳しい開示体制や内部統制を整備するのは、組織への負担が非常に大きいのが実情です 。TPMでまず「上場企業」としての意識を醸成し、管理体制を段階的に整備することで、スムーズな移行が可能になります 。
成長の「助走期間」: TPMで事業を成長させ、企業価値を高めてから一般市場に上場することで、より高い時価総額での上場を目指せます。
実際に、TPMから一般市場へ上場した企業はすでに15社存在します 。
出典:東京証券取引所 「プロマーケットの今後の方向性について」
【理由3】オーナーシップ(経営権)を維持したまま上場できる
TPMには流通株式数の基準や時価総額基準がありませんので、オーナーが大多数の株式を保有しながら上場できます。そのため、上場すると「経営の自由度がなくなるのでは…」と危惧されている経営者からもメリットとして捉えられています。
上場時や上場後において、株式による資金調達・株式の売出しを実施する企業は限定的です。
昨年、弊社(船井総合研究所)がJ-AdviserとしてサポートさせていただいておりますBABY JOB 株式会社が上場時初の売出しを行い、注目を集めています。今後、「ステップアップ」を目指す成長意欲の高い企業が増えるにつれ、このTPMでの資金調達に関しては活性化されていくことが期待されています。
出典:東京証券取引所 「プロマーケットの今後の方向性について」
TPMは、「上場」の信用力・知名度向上を手に入れる場から、「成長への助走」と「資金調達」を両立させる場へと、まさに今、進化の過渡期にあります。 企業の成長戦略における新たな選択肢として、TPMの動向に引き続きご注目ください。
