デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せる中、多くの企業が競争力強化を目指してシステム刷新に動いています。しかし、多額の投資を行いながらも「期待した効果が出ない」「現場が混乱して使いこなせない」といった失敗事例が後を絶ちません。
なぜ、莫大なコストを投じたプロジェクトが迷走してしまうのか。
その最大の要因の一つは、システムの選定プロセスそのものにあります。コンサルティングの現場で目にする「選定の落とし穴」を指摘し、DXを成功に導くための正しいアプローチを解説します。
なぜ、システムを「今の業務」に合わせてはいけないのか
多くの企業が陥りがちな失敗は、現在の業務プロセスをそのままシステムに当てはめようとすることです。
長年続いてきた社内業務には、独自の慣習や過去の経緯から生まれた非効率な手順が多分に含まれています。現状(As-Is)を前提にシステムを選定・構築してしまうと、単に「非効率をデジタル化」するだけに留まり、DXの本来の目的である抜本的な変革は望めません。
DXにおける選定で最も重要なのは、「現在の業務にシステムを合わせるのではなく、業務プロセスをあるべき姿(To-Be)に再設計した上で、その実現に最適なシステムを選ぶ」ことです。単なるシステム導入ではなく、業務そのものの抜本的な見直し(BPR:業務プロセス再構築)を先行させる。この「あるべき姿」からの逆算こそが、投資対効果を最大化するための絶対条件となります。
「選定」を困難にする市場の現状と現場の悩み
いざシステムを選ぼうとしても、市場には多種多様なソフトウェアが溢れ、製品ごとに異なる強みを持っています。自社の将来ビジョンに合致する最適な組み合わせを見つけ出すのは至難の業です。
現場からは、次のような切実な相談が寄せられます。
「製品が多すぎて、自社にとっての最適解が判別できない」
「各社の強み・弱みの比較が難しく、契約条件も複雑で不透明」
「社内で必要・不要な機能の優先順位がつかず、意見がまとまらない」
「予算内でどの製品が最も高い導入効果(ROI)を生むのか判断できない」
これらの課題に対し、専門知識が不足したまま「ベンダーの提案(言いなり)」で選定を進めてしまうことが、プロジェクトを迷走させる最大の原因となります。
失敗しないための「5つの重要評価軸」
客観的かつ合理的な判断を下すために、以下の5つの評価軸を策定し、多角的に検証することをお勧めしています。
①目的整合性
導入目的や課題に対し、製品機能が合致しているか。ベンダーが同業種・同規模の知見を持っているか
②必要機能・性能
「理想の業務」に必要な機能を網羅しているか。製品の品質やベンダーの技術力は十分か
③信頼性
導入実績、セキュリティ体制、ベンダーの経営安定性。長期的なパートナーシップを築けるか
④費用対効果
初期費用だけでなく、運用・保守を含むトータルコスト(TCO)が投資に見合うか
⑤システム連携
既存システムとの互換性が高く、スムーズなデータ統合や拡張が可能か
成功を確実にする「RFP(提案依頼書)」と選定フロー
理想の業務プロセスを実現するには、RFP(提案依頼書)を介したコンペ形式での比較が不可欠です。
まず現状分析を行い、業務フローを整理した上で、「新しい業務運用案」を策定します。このステップを経てからRFPを作成することで、各ベンダーから「理想の実現」に向けた精度の高い提案を引き出すことが可能になります。
RFPには、機能要件だけでなく、インフラ、拡張性、SLA(サービス品質合意)、移行計画、さらにはプロジェクトマネージャー(PM)の資質要件まで詳細に盛り込みます。基準を明確にすることで、見積金額の妥当性も論理的に精査できるようになります。
システム導入を「真の変革」にするために
システム導入はゴールではなく、理想の業務を実現するための「手段」に過ぎません。
現状の業務をそのままデジタル化するだけでは、DXの真の価値は享受できません。大切なのは、あるべき姿を明確に描き、そこから逆算して最適なパートナーと製品を選び抜くことです。この「正しい選定」こそが、投資を無駄にせず、企業の未来を切り拓くための最短ルートとなります。
