日本経済における労働生産性の向上と経済成長は、喫緊の課題です。こうした背景から、政府は売上高100億円を目指す「100億企業」の創出を加速させようと、設備投資補助や税制優遇策を打ち出しています。この大きな目標を達成するために、多角化経営と、それを強力に推進するCRM(顧客関係管理)の活用が不可欠となります。
多角化経営の5つの主要パターン
企業が成長を目指して既存事業とは異なる新しい分野に進出する「多角化経営」は、事業間の関連性によって5つの主要なパターンに分類できます。
1.垂直多角化
定義: サプライチェーンの川上(原材料など)または川下(販売・サービスなど)の事業を自社に取り込む戦略です。
目的: コスト削減、品質管理の強化、サプライチェーンの安定化。
例: 中古車ディーラーが、販売だけでなく、整備や保険販売まで自社で行うケース。
2.水平多角化
定義: 既存の顧客層に対し、主たる商品・サービスに付随する別の商品やサービスを提供する戦略です。
目的: 既存顧客のニーズを深掘りし、売上単価や顧客満足度を向上させる。
例: 美容院が、ヘアケア商品や美容機器の販売も行うケース。
3.同心円型多角化
定義: 既存事業で培った技術やノウハウを活かし、関連性の高い新市場へ進出する戦略です。
目的: 既存資産を最大限に活用し、事業間の相乗効果(シナジー)を生み出す。
例: 金属加工技術を持つメーカーが、その技術を活かして航空機部品や医療機器の製造に参入するケース。
4.集中型多角化
定義: 既存事業の資源やノウハウを応用し、同じ事業ドメイン内で異なるニーズを持つ顧客層を獲得する戦略です。
目的: 事業領域を深く掘り下げ、マーケットでの地位を確立する。
例: 住宅事業者が、分譲住宅、注文住宅、リフォームなど、住宅に関する多様なサービスを提供し、顧客層を広げるケース。
5.コングロマリット型多角化
定義: 既存事業との関連性がほとんどない、全く新しい分野に進出する戦略です。
目的: 特定事業のリスクを分散させ、企業のポートフォリオ全体を強化する。
例: 本業で得た収益を使い、飲食業、不動産業、フィットネスジムなど、異業種に次々と参入するケース。
多角化経営とCRMの強力なシナジー
これらの多角化経営を成功させる上で、CRMは不可欠なツールとなります。CRMを導入することで、既存事業で培った顧客情報やリードを新規事業でも活用できるようになり、企業全体で事業成長を推進することが可能となります。これにより、新規事業立ち上げ時の集客コストを抑え、より効率的な顧客獲得が期待できます。
CRMプラットフォームによる一元管理の絶大なメリット
多角化経営を進める多くの企業が直面するのが、事業ごとの顧客情報が「サイロ化」してしまう課題です。各事業が独自のシステムで顧客情報を管理していると、以下のような問題が発生します。
•事業間のシナジー効果が上がらない。
•LTV(顧客生涯価値)の最大化が図れず、多事業の恩恵を受けられない。
•経営データの取得に時間がかかり、スピーディーな意思決定ができない。
•データ集計に人手と手間がかかる。
•多角化経営の真のメリットを享受できない。
しかし、CRMプラットフォームによって顧客情報を一元管理すれば、これらの課題は劇的に解決されます。事業横断型のCRMプラットフォームを導入するメリットは以下の通りです。
•事業間のシナジー効果が最大化される
顧客情報が共有されることで、異なる事業間でのクロスセルやアップセルが促進され、顧客への多角的なアプローチが可能になります。
•LTVの最大化
顧客の購買履歴や興味関心、接点履歴を包括的に把握できるため、個々の顧客に最適化されたサービスを提供でき、LTVが向上します。
•迅速な経営判断
各事業の経営データがリアルタイムで取得できるため、経営層は常に最新の情報を基に意思決定を下せます。
•データ集計の自動化
手作業による煩雑なデータ集計が不要となり、人手と手間の大幅な削減につながります。
•多角化経営の真価を発揮
上記すべてを通じて、多角化経営が本来持つメリットを最大限に引き出し、企業全体の成長を加速させます。
CRM導入事例から学ぶ成功戦略
実際にCRMを導入し、成果を上げている企業の事例を見てみましょう。
医療・福祉系企業の事例
薬局、老人ホーム、弁当宅配など多様な事業を展開するグループが、グループ全体で統合CRMを構築しました。導入前は各事業が独自のシステムを使用しており、本部での集計は手作業で煩雑でしたが、統合CRMが各事業の販売管理システムと連携可能になったことで、ほぼリアルタイムでの数値管理が実現しました。その結果、データに基づいた経営が推進され、全事業でのLTV最大化を実現しています。
建設・住宅系企業の事例
新築、リフォーム、リノベーションなど住宅事業を展開する企業が、事業別に顧客リストを所有し、事業間シナジーが生まれない状況にありました。そこで、すべての顧客情報をCRMに統合し、LTVの最大化を実現しました。さらに、MA(マーケティング・オートメーション)機能も活用し、見込み客のWeb行動を追跡し、自動メール配信やアポイントメント抽出を効率化しました。これにより、来店率向上や、来店1人あたりの広告費の削減といった具体的な成果を上げています。
企業成長の羅針盤となるCRM
これらの事例が示すように、CRMは単なる顧客情報管理ツールではありません。現代の企業経営において、顧客とのあらゆる接点をデータとして資産化し、事業横断的な成長戦略を支える「企業成長の羅針盤」として機能します。
激変する市場環境と熾烈な競争を生き抜くためには、単一事業に留まることなく、多角化によって新たな成長エンジンを創出することが不可欠です。そして、その多角化を成功へと導く鍵こそ、顧客データを基盤としたCRM戦略に他なりません。
今こそ、企業の未来を切り拓くために、CRMを経営の中核に据えるべき時です。