銀行員に言ってはいけない一言
宮井:今回は船井総研の財務コンサルタントである石田さんにご登場いただき、
「思っていても決して言ってはいけない銀行員への一言」をご紹介いただきたいと思います。
宮井:石田さんは元銀行員でしたが、銀行との関係が悪くなるような発言をしてしまう経営者の方にお会いしたことはありますか。
石田:ありますね。
多いですね。
関係を悪化させるようなことを言ってしまう経営者の方は多いです。
銀行が考える企業との関係づくり
宮井:銀行員の方は企業とどのような関係性を築いていきたいと思っているのでしょうか。
石田:銀行の方は企業と長くお付き合いしたいというのが前提になっています。
できれば長く太くですが、細くても長いお付き合いというのが銀行サイドの本音で、そのように皆様とお付き合いしたいと思っています。
宮井:基本的には付き合い続けるということですか。
石田:はい、長いお付き合いかつ、お互いにWinWinな関係を志向されていることが多いです。
中小企業の皆様が銀行に与えることを与えて、銀行からも与えられてという、相互にお互いのメリットを享受し合えるような関係を銀行側としても望んでいると思います。
宮井:企業側から与える、銀行側からも与えられる、その与えるというのは具体的にはどういったものがありますか。
石田:簡単に言うと金利収入は銀行にとっての収益源になっていますので、皆さんは金利を払う側です。
それは与えているということになります。
また、私もそうですが、皆さん個人で預金口座を持っていますし、法人でも預金口座を持っています。
企業側から与えているもの
・融資を受ける際の金利
・預金
預けたお金で銀行は運用先として融資をしているという関係なので、皆さんはお客さんでもあり、仕入れ先でもある、販売先でもあり仕入れ先でもあるという不思議な関係が銀行との関係性になってきます。
宮井:与える、与えられるは、長く付き合う関係としてはいいのでしょうか。
石田:そうですね。
宮井:ありがとうございます。
銀行と良好な関係を築けていると判断するには?
企業としてはどういう関係性、状態になっていると銀行と良好な関係を築けていると判断できるのでしょうか。
石田:企業側としては融資を受ける際に望む条件で融資が受けられている状態というのが、良好な状態だと思います。
企業がお金を借りたいときに銀行側から能動的に良い提案が受けられる状態が、銀行と良好な関係を築けている会社の証明かと思います。
それをするためにしなければならないことはこれからお話します。
宮井:わかりました。
自分が希望する融資を受けられないと、良い関係ではないということですね。
石田:そうですね。
そうすると銀行側もあの社長は良い条件にできないから近づけなくなるし、経営者側もあの銀行は良い提案をしてくれないから疎遠になってしまいます。
お互いが遠ざけ合うと歩み寄れないという関係になってしまうので、それで長いお付き合いを最初に志向していても、途中で切れてしまうというのが残念な終わり方です。
良い関係性だったものを壊してしまう行動や発言
宮井:良い関係性だったものを壊してしまう行動や発言が経営者側にはあるということですが、そちらをいくつか紹介してもらえますか。
石田:三つのタイプをご紹介します。
自分の要求しか伝えないタイプ
石田:一つ目が自分の要求しか伝えない独りよがりなタイプです。
例えば
「金利を下げてほしい」
「融資する期間を長く設定してほしい」
「借入条件を良くしてほしい」
ということばかりを言う経営者の方は引かれます。
宮井:つい言ってしまいがちな言葉のような気がします。
石田:そうですね。
こういうものの言い方をする経営者の方は、
・なぜ金利を下げなければならないか
・借入期間をなぜそこまで伸ばさなければならないのか
という合理的な理由を説明できない方がほとんどです。
経営者側が合理的な理由が言えないということは、銀行の方が稟議を書けないということを意味します。
つまり金利を下げる理由がないのに、「あの経営者の方が『金利を下げたい』と言っているから下げたいと思います」、という稟議は銀行の中で書けません。
つまり、こういうものの言い方をすると、結果、金利が良くならないという悪循環に陥ってしまいます。
宮井:銀行員というのは変更するときに行内で稟議をあげることがルールなのですね。
石田:銀行は基本的にはお客さんである経営者から言われたら何とか対応してあげようと思いますが、そこに合理的な理由がない場合はできません。
例えば金利を下げてほしいという要求だけ言ってそれを鵜呑みにしたとすると、金利が今3%だから2%に落としてほしいと言われるのを全部受け続けたら銀行の経営が成り立ちません。
銀行側は中小企業や中堅企業、大企業から預金を預かってそれを運用先として融資をしているわけなので条件を簡単に変えることはできません。
そこに合理的な理由さえあれば考えてくれます。
宮井:稟議をあげなければいけないけれども、理由がなければ困った要望になってしまうわけですね。
石田:そうですね。
今金利がマイナス金利の状態ですし、例えば「資材とか世の中のものの値段が上がっている環境の中で単価が上がります」というのは説明しやすいです。
しかし、銀行側の仕入れ値が1円も上がっていない中で、例えば「市中金利がみんな上がっているからうちも上げてください」というときには言いますが、市中金利がこれ以上ないところまで下がっているのに金利を下げるのは銀行側にとっては自分で自分の首を絞めるだけなので、銀行側から提案してくることはないです。
宮井:自分の要求をどうしても伝えたい場合には、しっかりとその背景であったり合理的な理由を添えて伝えることが、取るべき行動ということでしょうか。
石田:はい。
加えて銀行と良い関係性を築いた上でというところがベースにあります。
宮井:ありがとうございます。
では二つ目をお願いいたします。
業績が悪いときに情報を出し渋るタイプ
石田:二つ目が、タイプで言うとええかっこしいというタイプです。
これは業績が悪いときに情報を出し渋るタイプです。
こういう経営者の方は嫌われます。
宮井:これもよくありそうな行動な気がします。
石田:経営者のマインドで仕方ないとは思いますが、やはり良いときはすぐに報告しても、業績が悪いときに全然報告しないという方は端的に嫌われてしまいます。
宮井:良いときは良いと思いますが、悪いときは経営者も理由があって出しにくいと思います。
例えば業績が悪いから銀行にそれで嫌われてしまったりとか、無下にされてしまうと思う経営者もいるかもしれないですけど、そんなことはないでしょうか。
石田:そんなことはないです。
情報提供を遅らせれば遅らせるほど銀行側からの評価が下がってしまうので、良いときも悪いときも同じ頻度で淡々と情報開示してくれる経営者の方が、一番信用を積み重ねます。
宮井:それが信用になるのですね。
石田:例えば決算のタイミングは1年に1回あります。
決算の報告を毎年6月にやるけれども業績が悪いから7月にするとか、そういう場合はあの経営者の方、毎年6月なのにどうしたのかな、悪いのかなというように勘繰られてしまうので、6月に提出しているのであれば6月に必ず報告をします。
悪い理由、それこそ合理的な理由、なぜこういう結果になったのか、銀行に対してお願いしたい事項は何なのかということを同じ頻度でやっていくことが、一番信用を積み重ねることになります。
宮井:自分事に置き換えて考えてみていただくと、部下とかメンバーに仕事を依頼したときに仕事が遅くなってくる、部下から連絡が遅くなると不安になってしまうことと同じ心理でしょうか。
石田:そうですね。
経営者の方は部下ではないですが、WinWinなビジネスパートナーである銀行には、なぜ悪いのかというところを出し渋ることがないようにしていただきたいです。
皆さんが情報を出し渋ると銀行は貸し渋りに転じてしまいますので、長きにわたる関係性を作る際には決算は6月と決めたら6月です。
毎月試算表を20日に提出すると決めたら20日に提出して、それがなぜ悪かったのか良かったのかという理由をきちんと合理的に説明できる経営者の方は信用を積み上げてらっしゃいますので、悪くなったときに引かれることはなくなります。
担当者や支店をすぐに代えてくれというタイプ
宮井:わかりました。
三つ目をお願いします。
石田:少し変わった切り口ですが、担当者や支店をすぐに代えてくれという人は嫌われます。
宮井:これはどういうタイミングで言われるケースがありますか。
石田:銀行の方は転勤が大体多いところだと2年サイクルぐらいで入ってきますけれど
も、前の担当者のほうが良かったから、あのくらいレベルの高い担当者に代えてくれと支店長に言ってしまう方がいます。
気持ちはすごくよくわかります。
担当者もですが、今お付き合いしている支店自体を代えてくれと言う経営者の方もいらっしゃいます。
優秀な人の支店に代えてほしいとか、この支店の規模が小さいので大きな支店、融資量の多い支店で決済の権限が多い支店に代えてくれとか、こういう方は思っていても口に出すと嫌われてしまう典型的な例です。
宮井:これも言ってしまいそうですね。
石田:僕らコンサルタントに、「あの担当者は前よりも良くない」とか「良くなった」とか言ってくれるのはいいのですが、銀行の方にこれを言ってしまうとかなり印象は悪くなります。
「仕振り」が悪いという言い方を銀行の方はされますが、行儀が悪いという言い方を銀行員の用語で「仕振り」が悪いと言ったりします。
宮井:どうしてそこまで言われるほどのことがあるのでしょうか。
私も言ってしまいそうだなと思ったので、それが銀行にとって重大なことなのかということを説明していただけるとありがたいです。
石田:担当者や担当支店を代えるということは金利を下げてくれということ以上に合理的な理由が必要です。
担当者を代える理由は、例えばこの担当者で事故が起こってしまった等、銀行側の信用が著しく失墜するような場合以外はないです。
支店も一緒で担当支店を代えるということは、例えば本社を東京から大阪に移転したので物理的に東京の支店とお付き合いしていたらお付き合いがしづらいので大阪の支店に代えてくれというような、誰が見ても「それは代えないと駄目だよね」という理由がない限りは基本的に検討もしないところです。
宮井:一般の会社は例えば営業の方だったりカスタマーサポート、もしかしたら船井総研でもコンサルタントで言うと、「この担当、不安だから代えてくれ」とか「あまり対応が良くないから代えてくれ」というのはよくある話だと思いますが、銀行だとそういう習慣が違うというように捉えておいたほうがいいということでしょうか。
石田:はい、そのように捉えていただいて結構です。
それを「社長、まあそうは言わずに付き合ってくださいよ」ということは面と向かって言ってくれますが、面と向かわずに支店に帰ったあとで「あの会社は行儀が悪い、仕振りが悪い」というようにチェックを付けられてしまうところが銀行の特徴です。
お会いしたタイミングで何を話したとか記録に残されてしまうと、行儀が悪い会社認定がずっと記録で残ってしまうわけです。
宮井:怖い。
石田:そうですよね。
なので言ってはいけないことを覚えておけば言わないで済みます。
宮井:銀行ならではの習慣というのがありそうなので是非今日のこの話を経営者の方は頭に入れておいていただきたいなとすごく思いました。
石田:自分に置き換えてやっていないかなと思っていただきたいです。
やっていたとしたらものの言い方を変える工夫をしていただいたり、あとは金利を下げてくださいと直接言うのではなくて、関係性を良くしてから条件交渉に入るというところを意識していただけるといいと思います。
宮井:すごく勉強になりました。
今日はどうもありがとうございました。
石田:はい、ありがとうございます。