① 変革を迫られる「対顧客(CX)最前線」の現在地
長きにわたり、日本のビジネスシーンにおいてコンタクトセンターは「コストセンター」というレッテルを貼られる傾向にあります。
企業の利益を直接生み出すことはなく、ひたすら大量の手続きへの回答やクレーム対応を行う。
そんなイメージが強いのがコンタクトセンターです。
しかし、2026年現在のコンタクトセンターを取り巻く環境は、かつてない激動の中にあります。
少子高齢化と人口減少に伴う深刻な労働力不足、そして店舗の統廃合という物理的な顧客接点の減少により、非対面チャネルであるコンタクトセンターへの期待は、企業の生命線を握るほどに高まっています。
顧客の期待は多様化し、単なる問題解決だけでなく、一人ひとりに寄り添ったホスピタリティやパーソナライズされた体験を求めるようになっています。
もはやコンタクトセンターは、マイナスをゼロに戻すだけの場所ではありません。
顧客体験(CX)向上の中核を担い、企業の「ファン」を創出することで、持続的な競争優位性を確立するための「価値のハブ」へと進化しなければならないのです。
② 世界水準のマネジメントモデル「COPC」が指し示す道
コンタクトセンターをファン創出の拠点へと変貌させるには、属人的な運営や、場当たり的な「勘・経験・度胸(KKD)」による管理を脱却しなければなりません。
属人化脱却に向けて有効な規格が、グローバルスタンダードなマネジメントモデルである「COPC(Customer Operations Performance Center)」です。
1996年に米国で策定されたこの規格は、現在世界約70の国と地域、約2,000の組織で活用されており、CXや収益性、品質、生産性を向上させ、組織を「筋肉質化」させるための成功方程式として知られています。
特に最新の「COPC CX規格 リリース8.0」では、これまでのフレームワークの概念を超え、戦略から成果までを明確化する「マネジメントサイクル」への移行が提唱されています。
本コラムでは、この最新の知見と国内のコンサルティング実績に基づき、コンタクトセンターが「ファンを創り、収益に貢献する」ための戦略的アプローチについて詳述します。
③ ファン創出を支える4つの戦略的柱
コンタクトセンターを「ファン創出の拠点」にするためには、以下の4つの領域における構造改革が不可欠です。
1. 顧客体験(CX)の可視化と「エフォート」の排除
ファンを創るための第一歩は、顧客が抱える不満やストレス、すなわち「手間(エフォート)」を徹底的に取り除くことです。
多くの企業が「クレームが少ない=顧客は満足している」と錯覚しがちですが、実際には不満を抱えたまま黙って去っていく「サイレント・マジョリティ」が収益を蝕んでいます。
顧客の満足度を下げる要因は、主に以下の「5つの手間」に集約されます
《5つの手間》
探索の手間:WEBサイトやFAQで解決できず「最初から電話させるな」と思わせてしまう
説明の手間:たらい回しにされ、何度も同じ説明を強いる
思考の手間:専門用語や難解なポリシーで「結論だけ教えて」と顧客を困惑させる
忖度の手間:マニュアル一辺倒の対応で、個別の状況に応じた柔軟な判断を欠く
やり直しの手間:一度で解決せず、再入電(FCRの失敗)を発生させる
これらを解消するには、顧客がある目的(例:購入、登録、問題解決)を持って企業サービスを利用する際、そのリクエストが完了するまでの一連の行動。すなわち「サービスジャーニー」を可視化し、顧客がどこで「つまずき」を感じているかを特定しなければなりません。
最高のサービスとは、極論すれば「顧客に電話をさせないこと」です。
自己解決チャネルを整備し、どうしても必要な時だけ有人の高度なサポートを提供することが、結果として顧客の信頼と愛着に繋がります。
2. 「ヒト×テクノロジー」の理想的なハイブリッド・モデル
AI(人工知能)の進化は、コンタクトセンターの役割を劇的に変容させています。しかし、テクノロジーの導入を単なる「コスト削減」や「省力化」の道具と捉えるのは、失敗の入り口です 。
2026年現在の成功モデルは、AIと人間が「協働」するハイブリッド・モデルです
AIの役割:データの全件抽出、事務作業の代行、不便の数値化など「マイナスをゼロに戻す」領域を担います
人間の役割:複雑な問題解決、共感、改善提案など「ゼロをプラスにする」クリエイティブな領域に集中します
特に品質管理において、AIによる全件モニタリングとテキスト化が可能になったことは革命的です。
これにより管理者は「監視役」から、コミュニケーターに寄り添う「伴走者(コーチ)」へと役割を変えることができます。テクノロジーは現場を救うための「武器」であり、パートナーであるというマインドセットが不可欠です 。
3. 働きがいを創出する人材育成とキャリアパス
「ファンを創るコミュニケーター」を育てるには、まずコミュニケーター自身が企業に満足していなければなりません。
高い離職率は、新規採用や教育のコスト増を招くだけでなく、残ったスタッフへの負担増と応対品質の低下という負の連鎖を引き起こします。
コミュニケーターを離職に追い込む「3つの欠如」を解消することが急務です。
《3つの欠如》
納得感の欠如:数件のサンプリングによる不公平な評価を避け、客観的なデータに基づいた公平な評価制度を構築する
接続感の欠如:孤独を感じさせないコミュニケーションを。特にカスタマー・ハラスメント(カスハラ)が発生した際の精神的なケアが重要です
展望の欠如:昇格の基準を明確にし、本人の志向(役職を目指すのか、スキルを極めるのか)に合わせた多様なキャリアパスを提示する
役割ごとに最低限必要な「ミニマムスキル」を定義し、それを習得するための体系的な研修カリキュラムを整備することで、コミュニケーターは自身の成長を実感し、高いモチベーションで顧客に応対できるようになります。
4. 戦略的VOC活用による「価値のハブ」への進化
コンタクトセンターに集まる顧客の声(VOC)は、商品開発やマーケティングにとって最も鮮度が高く、貴重な情報資産です。これをセンター内だけで留めず、社内の関係部門へ戦略的にフィードバックする仕組みを構築しなければなりません。
COPCリリース8.0が提唱するように、タスク(業務)とパフォーマー(実行者)を再定義し、業務プロセスの精度を高め、AI実装への即応性を持つことで、オペレーションの透明化が図られます。
センターが掲げるKPI(重要業績評価指標)が、最終的に企業の経営計画(KGI)にどう直結し、利益にどう貢献しているかを可視化することが、企業内でのポジションを確立する鍵となります。
④これから。サステナブルな成長を支える拠点へ
2026年、コンタクトセンターは「コストセンター」という過去を完全に清算し、企業のサステナブルな成長を牽引する「ファン創出の拠点」へと歩みを進めるべき時です。
最新のテクノロジーを使いこなしつつ、それ以上に「人」を大切にする。AIが得意なことはAIに任せ、人間が人間にしかできない「共感」や「高度な判断」に注力する。
こうした「ヒト×テクノロジー」の融合こそが、次世代のコンタクトセンターが進むべき王道です 。コンタクトセンターの担当役員や管理職の皆様に求められるのは、現場で日々顧客と向き合うコミュニケーターが「この企業の代表として働いている」という誇りを持てる環境を整えることです 。
そのための具体的な手立てとして、COPCのような世界水準のフレームワークを活用し、客観的なデータに基づいた健全なマネジメントを実践してください 。
今日提供した一つの心地よい体験が、明日の熱狂的なファンを創り、ひいては企業の10年、20年先の未来を創ります。コンタクトセンターには、それだけの力が備わっているのです。
⑤最後に
船井総合研究所では文中に触れました最新の「COPC国際規格」を学べる研修を提供しています。
世界水準のマネジメントモデルを取り入れ、コンタクトセンターを「ファン創出の拠点」に進化させてみてはいかがでしょうか。
![]() | 執筆者: プロシード事業部 マネージング・ディレクター 野村 昇平 のむら しょうへい |

