「100億企業化」を専門とし、「日本の未来を担う企業の成長を加速させる」ことをミッションに据えている部門、アカウントパートナー室のマネージング・ディレクターの鈴木圭介です。前回は「地域コングロマリット経営を実現するために中堅・中小企業ならではの新規事業への取り組み方」についてお話をしました。今回は「新規事業を第二本業化し、成長を加速させる!中堅・中小企業ならではの新規事業への取り組み方③」と題してお話をさせて頂きたいと思います。書籍の内容もご紹介と共により深堀をしつつ、お話を致します。
第二本業化で成長を加速させ、新規事業の収益貢献度を高める 新規事業に参入した後は、それを成長させていくフェーズに入る。それを一言で表すと「第二本業化」ということになる。第二本業化とは、既存事業を第一本業としたときに、それに次ぐような収益貢献度のある事業に育て上げていくということだ。売上はそれほどでなくても、利益率が高い事業であれば、収益貢献度は高い。経営の柱となるような事業を増やし、企業・グループとしての高収益化を実現していく。それでこそ、新規事業に参入する意義は大きくなる。逆に新規事業が小さいままでは、それほど効果は発揮されない。 そもそも日本企業には人口減少という課題から、既存事業で顧客数を増やしていくことも、人材を集めていくことも難しいという状況があり、そのために地域コングロマリット経営が有効となると述べてきた。 地域コングロマリット経営とは、たとえ小さくとも新しい事業を作り、それを増やすことで売上を確保するといった考え方ではないのだ。小粒な事業をいくら増やしたところで、それが企業に資することはなく、むしろ足を引っ張りかねない。 ただし、自社にとって何が第二本業になっていくかは予想がつかないところもある。 そのため、第二本業化できる事業を早くに見出さなければならず、PDCAを回していく必要がある。事業参入を決め、実行し、検証して、さらなる追加投資をする。特に変化の著しい昨今では、そのペースではあっという間に抜かれていってしまう。スタートが遅れるほどに環境は悪くなる。「果報は寝て待て」ということはない。迷っているうちに他社が参入していく。そうして結局、地域内でのシェアが奪われてしまったり、好立地の物件が無くなっていたりもするのだ。今日の王者が、明日には転落していてもおかしくはない。次々とプレイヤーが入れ替わる中で、その波に乗っていくためにも、素早く参入して検証していってほしい。早い決断、早い参入、早い検証、そして早い実行。まずはクイックスタートこそ勝ち筋だ。
第一本業の足腰は強いか 第二本業化を進める上では、そもそも第一本業の足腰の強さも大事になってくる。新規事業への参入と、その第二本業化を勧めはするものの、第一本業の仕組み化ができていなければ経営資源は分散する。仕組み化とは、経営者がそれほど目を光らせていなくても、高収益が上がる体制になっているということだ。それができていないということは、本業が本業として成り立っていない。「将来の経営幹部が育っていない」「ロイヤリティの高い顧客を掴めていない」「各所にムリ・ムダ・ムラがある」「経営が安定していない」……。こうした課題があるとすれば、まだまだ本業に成長の余地がある。 著者は肌感覚として、新規事業での成功確率と、経営者または経営幹部の関与度は比例するように感じている。いや、もはや絶対条件であるとすら思う。中小企業で経営者が関与せずに新規事業が成功しているという話は寡聞にして知らない。そのため、まずは第一本業を経営者がそれほど関与しなくても済むように仕組み化できている必要がある。誰かに任せられる状態にまで持っていくのだ。その上で、経営者は「既存事業を3割、新規事業を7割」くらいの力の入れ方で、新規事業を推進していくべきだろう。 第一本業の仕組み化ができていれば、調達力もあるはずだ。金融機関からの信用もあり、本業での融資枠から新規事業への投資に割くことも可能だろう。逆にもし本業が上手くいっていなければ、金融機関も、新規事業参入には否定的な対応をするはずだ。この点からも第一本業の足腰の強さが求められることは覚えておいてほしい。信用があれば、好立地の物件を探す際にも情報を得やすかったりするなど、メリットは多々ある。第二本業がそのうち第一本業になっていくことはあり得る。だから第一本業がいつまでも強いということはないし、先が見えないからこそ第二本業を作っていく必要がある。ただ参入の際には、まずは足腰の強い第一本業あってこそ、第二本業化を安心して進めていくことができる。
人材登用は最大の壁 新規事業への参入には相応の苦労が予想される。そのため、意欲や能力の高い人材をつけなければならないと考える方は多い。しかし現実問題、そのような優秀な人材であれば既存事業の中核を担っている。なかなか外しにくい。優秀な人材が潤沢にいればいいが、そうそう都合よくいない。余っているとすれば、よほど特殊な事情があるか、既存事業での人材配置が何かおかしい。そこで結局、人材不足から新規事業参入に至らないということはわりとある。けれども、今この瞬間に、新規事業に配置できる優秀な人材がいないとしても、必要以上に心配することもない。これには理由が2つある。 1つ目の理由は、事業の立ち上げに関わることで、人も変わっていくからだ。事業の立ち上げには、他の仕事にない特別な経験がある。新たな情報刺激によって、視野は広がり、ノウハウも積まれ、飛躍的な成長が期待できるだろう。担当者が幹部人材として成長し、それによって新規事業が拡大し経営の柱となっていけば、企業にとってこの上ないメリットになる。これを見越して、幹部育成のためのプログラムに、新規事業開発を取り入れている企業もあるほどだ。一方でこれはやや楽観的でポジティブなシナリオではある。そこで異なる観点から補足すると「新規事業で人が変わる」というのは、ネガティブな要素をつぶすという意味合いでもある。 例えば、経営者が人材不足の理由を、従業員の成長意欲の低さだととらえている場合もある。この場合、成長意欲が低いように見えても、それが本心からとは限らない。既存事業に諦めの念を抱いているだけという可能性もあるからだ。このような従業員は放っておけばそのまま離職につながってしまう。そこで新規事業参入がカンフル剤となって再び意欲を取り戻すことがある。あるいは、そこまで積極的な姿勢に変わらないにしても、新規事業により離職を思いとどまらせる一定の効果はある。既存事業だけで成長を続けていくと、いつしか限界が訪れる。新たな拠点を作れなくなり、管理職ポストは既存の数だけで頭打ちになる。そうなったときに、上のポストが空くのを待つほど悠長な従業員ばかりではない。ドライな指摘に感じるかもしれないが「自社の従業員は大丈夫」とは思わないほうがいい。何も変わらないと思われれば、キャリアアップの道を他社に求めても、おかしくはないのだ。成長意欲が高い人材ほど、新しい環境を求めている。人材の流出を防ぐためにも、ポストを用意していく必要はあり、新規事業への参入はこの点でも有効な手立てだ。
次に2つ目の理由を挙げよう。優秀な人材が今、社内にいないとしても、新たに採用するという方法がある。著者はこれまで確かに、採用が難しいという課題を述べてきた。しかし一方で力のある企業には人が集まることも事実だ。地域コングロマリット経営とは、成長のストーリーをこれからも描くということであり、積極的な攻めの姿勢を見せるということでもある。大きくなるほどに採用に有利になるため、キャリア採用を検討するというのも視野に入れておきたい。先ほど「成長意欲が高い人材ほど、新しい環境を求めている。」と述べたが、これは翻せば、他社の優秀な人材が自社に来る可能性もあるということだ。経験値やスキルの高い人材に参画してもらえれば、事業の成功確率も高まることだろう。これらの理由から、たとえ今は優秀な人材がいないからと言って、新規事業の参入を踏みとどまることはない。
挑戦を支える企業文化を作る 新規事業参入にあたって、優秀な人材がいないことはそれほどまで心配しなくてもいい。参入の過程で人は成長する。または、あまりに心配であれば、より成功確率の高い事業を選ぶという手もあるだろう。参入難易度が比較的低い事業を選ぶことで負担を下げれば、自社がどのような状況でも新規事業に参入することは可能だ。 それよりも配慮すべきは、新規事業の担当者への評価である。 想像してみてほしい。もしも新規事業が失敗したときのことを。せっかく投資をしたのに結果は出せず、会社に損失まで与えてしまった、そのときの担当者の気持ちを。この担当者は失敗に心を痛め、いたたまれずに離職してしまうことも想像に難くない。事業が失敗しないとは誰にも言えない。不確定要素はいくらでもあり、何が原因でつまずくかは分からない。そのため担当者がすべてを背負いすぎることはないはずだ。しかし、得てして日本社会では失敗に厳しく、キャリアに傷がつくと、その後の出世がおぼつかなくなってしまう。 失敗したことは本人が一番分かっている。精神的なダメージは大きい。さらに、社内の他部門から厳しく冷たい目が向けられることもあるかもしれない。そうでなくとも、本人たちは必要以上に自責の念にかられ、離職してしまうこともある。一度の失敗で離職にまでつながれば、事業の失敗よりはるかに大きな損失となる。 企業としては、その担当者が優秀だからこそ新規事業を任せていたりする。また先に述べたとおり、その担当者は、事業を始めていく過程でとても貴重な経験を積み、成長をしていたりもする。そのため、もしも失敗したとしても、企業はその人材を守ることが非常に大事だ。 たとえ失敗しても元に戻れるようにポストやルートを設けておくなどの制度面の整備や、挑戦した人への敬意という企業文化の醸成も重要となる。新規事業への参入とは、片道切符を握らせるということではないと、社内にきちんと知ってもらう必要がある。
今回は、中小・中堅企業における新規事業と本業の関係についてお話をさせて頂きました。 |