あるいは、巷にある事業開発に関する書籍なども、こうした導入期の研究開発や新しいアイデアの発想に重点が置かれることが多く、事業のタネをいかに見つけ、育てていくかといった考え方です。しかしながら、中堅・中小企業が、こうした研究開発的なものに取り組むことは現実的ではありません。その理由は詰まるところ、大手企業と中堅・中小企業の経営資源の差という1点に尽きる。人材、ノウハウ、資金、マーケットシェア……。中堅・中小企業は一般的に、いずれも大手に劣ってしまう。特定のポイントで勝っていても、総合力では厳しい闘いとなってしまいます。研究開発のための資金調達も、貴重な人材をそこに選任させることも難しいです。もしも失敗したときに本業に与えるダメージは大きいと予想され、経営自体が危うくなる可能性もあります。まず企業規模により新規事業戦略が異なるということは大前提となります。その上で、中堅・中小企業における新規事業参入の鉄則は次の4つとなります。
鉄則①時代を先取りしない 第一に、中堅・中小企業の新規事業参入では、時代を先取りしては難しいです。先に述べたとおり、大企業ではライフサイクルの導入期にあるものに手をつけ、そこに経営資源を投入していくことが多いです。そして、これを中堅・中小企業が真似をすることは危ういと述べました。また、よくある参入方法として、他社が育て、ようやく成長期に入った事業を早々と見つけ、自社の事業として拡大させるというものがあります。ドラッカーの言う創造的模倣です。これについても中堅・中小企業には勧めません。やはり資本力が物を言う部分があるためです。我々が進めるのは顧客ニーズが顕在化しているビジネスへの参入です。成長期の真ん中にあるようなものを勧めます。「時代を先取りしたビジネスは大手に任せる」というくらいの気持ちでいたほうがいいとも言えます。導入期に参入したほうが、市場の成長幅も大きく魅力的ではありますが、やはり市場規模が大きいほうが理想的です。しかしコストは大きいです。成長期の真ん中あたりからの参入でも、成長の余地はまだまだあります。特に、都心のビジネスモデルを地域に持ってくることで、その地域で時代を先取りすることは十分にできると考えられます。
鉄則②事業アイデアは創造しない 第二に、事業アイデアは新たに生み出すものではないと考えたほうがいいといえます。事業アイデアとは、創造するのではなく選択するものとも言えます。ゼロから事業を生み出せれば、イノベーターとして圧倒的な利益を享受できることもあります。立ち上げから実行までに多大な分析や社内稟議を含め、多大なコストが発生するため、コストの少ない参入方法を「選択」することが重要となります。事業アイデアはすでに世の中に多くあり、仕入れを強化し、そこから、自社に合うものを選び取ったほうが効率的だと言えます。
鉄則③ローカライズが肝 事業アイデアは至るところにあります。隣県から、都心、さらに海外など。もっともインパクトが大きいのはまだ地域では競合のいない、海外のビジネスモデルを持ってくることといえます。しかしながら、単に海外のものを持ってきたところで地域に受け入れられることは少ない。その事業アイデアを地域にすり合わせていく必要があり、ローカライズ技術が重要となります。ローカライズの例として女性専用のフィットネスクラブの「カーブス」が挙げられます。カーブスは90年代にアメリカで生まれ、日本には2000年代に上陸しました。カーブスは運動習慣のなかった女性向けで、その点で敷居の低さに特徴がありました。しかし、アメリカのものをアメリカ的なままに提供すれば、多くの日本人にとってはやや目線の高いサービスに感じられてしまいます。そこで日本では「井戸端会議」にコンセプトが寄せられ「トレーニング」ではなく「憩いの場」に、「フィットネス」ではなく「健康体操」に変化させました。目的を変え、あえてオシャレさを薄めました。そのために看板一つとっても、アメリカ風のデザイン性あるものではなく、親しみやすさを打ち出しています。結果的に日本のカーブスは、運動習慣がなかった日本の中高年女性向けのフィットネス市場を開拓することに成功しました。ローカライズは、第三の鉄則です。地域企業として地域の特性を知っているという強みを活かし、是非、既存事業をローカライズ化し、独自のビジネスに進化させて頂きたいと思います。
鉄則④まとまりを意識した新規事業参入を 第四の鉄則は、まとまりを意識することです。新規事業はともすると、バラバラで何の関連もなく、まとまりのないものになりがちです。しかし、成功している企業を見ていると、実は何かしらの共通項を持って事業を行っていることが分かります。 例えば、カフェをやり、焼肉屋をやり、となるとまとまりがないように思われるかもしれませんが、フランチャイズビジネスの場合は事業を増やしても責任者は一人でよくなります。また、観光立地に特定のスイーツを専門的に扱う、単品スイーツ専門店というビジネスモデルがありますが、1店舗目がプリンで、2店舗目がチョコレート、3店舗目がケーキにしたところで、そこまで経営資源が分散するわけではありません。それぞれカテゴリーが同じだからです。 さらに地域コングロマリット経営という点では、地域内にまとめることは非常に重要となります。これは資源調達とマネジメントの観点からメリットが大きいです。離れた地域で急に新規事業を始めるとなると、管理も行き届かず、人材も集めづらいということが起こりやすいです。また、やや違った観点になるが、企業の成長ビジョンに合っているかどうかというのも大事です。あまりにもカラーの違う新規事業に取り組むというのも、まとまりがなくなります。まとまりを考える上では、段階的に広げていくのも良いです。既存の事業と、新たに参入したい事業とが乖離していることもあります。その新規事業は市場規模が大きかったり、成長トレンドにあるなど魅力的な市場だとした場合、そこで一足飛びに未経験の事業に参入すると苦戦する可能性があります。その場合は、既存事業と新規事業のあいだにある狭間事業から始めてみる。例えば、家具店がリフォーム事業を展開したいとなれば、家具の修理事業を挟んでから、リフォーム事業へと展開することで、スムーズに参入できます。
このように、中小企業の新規事業参入における鉄則は4つあります。地域コングロマリット経営ではM&Aにより規模を広げていくという事例は多いです。広島県で自動車販売を行う広島マツダは22年1月に、お好み焼き店「みっちゃん総本店」を運営するISE広島育ちの全株式を取得されました。広島マツダは以前から、自動車販売以外の事業へも参入しており、その一環です。地域にある企業が、地域の文化を守り、そして広げる。こうしたストーリーは共感を呼びやすいという点でも、結果的に新規事業参入の成功確率を上げることにつながると考えられます。業種という垣根を超え、新規事業に参入していくことの意義を教えてくれる一例であり、これこそ地域コングロマリット経営の本領発揮だと考えられます。
今回は、中小・中堅企業における新規事業の鉄則についてお話をさせて頂きました。次回コラムでは中小・中堅企業における新規事業と主事業のシナジーについてお話をさせて頂きます。
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