以前のコラムで「社員数が増えて、社長の声が、末端の社員にまで伝わりにくくなりました」というお声を多数いただくとお伝えしました。
規模の拡大により、社長の声が伝わらなくなると同時に、経営者の皆様にお考えいただきたいのは、「社員の意識も変化している」ということです。
街の食料品店からスタートして、全国に店舗を展開するようになったあるスーパーマーケットチェーンの話です。
その会社が創業したのは、日本でも屈指の高級住宅地でした。現在も本店を構えるそのお店に買いに来られるのは「本物のお金持ち」で、「その地のお客様に、私たちは育てていただいた」と経営者や長く勤務する社員は言います。
本物のお金持ちが求めるのは、品質がよいのは当然のこと、ものがよいだけでもダメで、「よいものをできるだけ安く」不相応に高いものは見向きもされず、よいものがお買い得と言えるくらいの価格ならば売れる。
また、本当によいものと思ってもらえれば、金額だけ見ると高いと感じられるようなものも「これだけのものならば、この値段は決して高くない」と買ってもらえたといいます。
それだけ厳しい目を持つ創業の地の顧客に、どう喜んでもらえるか、それがその会社の創業以来のDNAだといいます。
また、全国に店舗を構えるようになった今、創業の地の顧客とやりとりをした経験のない社員が増えていることが、その会社の課題でもあるといいます。
古参の社員であれば、新たに開発する商品の判断基準が「本店のお客様はどう思うか?」ですぐに同じ考えを共有できるそうなのですが、そうでない社員が増えている現在、そのような統一の見解を持ちにくくなっているそうなのです。
また、会社が大きくなることで、経営者の声が届きにくくなると同時に、社員が自社を見る目も変わってきています。
新たに入社してくる社員は、その会社の創業以来のDNAを直に体験できていません。志望動機が「大きな会社だから」という社員も増えています。
そのような経営者と社員の、会社のステージが変わったことによる意識のずれは、どうしても生まれるものです。
その会社が創業以来のDNAを新しい社員にも伝えるために行っているのは、「何度でも伝える」ことでした。
朝礼でも、年に数回の全社員が集まる場でも、社内報でも、社長は大事にしていることを何度も手段を変えて伝えてきました。
その中でも特に効果があったと感じられたのは「外の目」だったといいます。その会社が取材を受けた際、メディアが創業以来の大事にしていたことに興味を持ち、大々的に取り上げてもらえました。
メディアに取り上げられたあとで、社長のもとには比較的新しく入った社員から「会社が大事にしてきた創業以来の考えを、初めて知りました。これからはその思いを大事に働いていきます」という声が多々寄せられたそうです。
「創業以来の思いは、何度も伝えてきたはずなんだが……」と社長は複雑な思いを抱いたそうで、そのくらい社長の思いは新しい社員には伝わりにくいということと、「他者に評価してもらう」のも、意識のずれが生じている社員と足並みをそろえるうえでは、大事なことと言えます。
会社の成長に伴う、社員の意識の変化を認識しよう
2021年10月22日