サプライヤーエンゲージメントとは?なぜ今重要視される?
サプライヤーエンゲージメントとは、企業がサプライヤー様と連携し、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減を目指す活動です。業種によっての違いはありますが、多くの企業では自社の直接排出量(Scope1・2)より、調達から廃棄に至るサプライチェーン排出量(Scope3)が大幅に上回ります。このScope3の削減には、サプライヤー様との協力が不可欠です。
近年、ISSBやSSBJによるサステナビリティ開示基準の整備が進み、プライム上場企業の一部にはScope3開示が義務化されます(2027年3月期より順次適用)。CDPなどの評価機関もサプライヤーエンゲージメントを重視しており、脱炭素経営と企業価値向上に不可欠な戦略となっています。
企業が取り組むべきScope3削減対象カテゴリ
Scope3排出量削減では、削減効果の高い排出量の多いカテゴリから取り組みます。多くの企業様にとって、特に「カテゴリ1:購入した製品・サービス」が主要な排出源となります。このカテゴリはサプライヤー様からの調達に直結するため、サプライヤーエンゲージメントの主要対象となりやすい傾向にあります。先ずは主要カテゴリを特定し、具体的な項目についての削減目標設定と改善の方向性をつけることが最初のステップです。
サプライヤーエンゲージメント実践の現状と課題
サプライヤーエンゲージメントは現在「導入期」にあり、特にプライム上場企業様や欧州の顧客にビジネスを展開する企業様で先行しているとも言えます。ただ、非上場企業様も顧客からのアンケート要望は出始めており、将来的な要請に備えた準備が望まれます。
実践上の課題は、まず「エンゲージメント対象の選定」です。排出量や影響度が考慮されますが、現場ではサプライヤーへの要望が、値上げ要請に繋がる可能性からもコスト増への懸念となり、調達部門などの抵抗感から、全社推進が難航する場合があります。それ故に、経営方針としてのサプライヤーエンゲージメントについての指針が不可欠となっております。サステナビリティの担当部署だけで進められるものではなく、社としてパートナーとなるサプライヤーとの在り方が明確となり、その方針を軸として推進していく必要があります。
サプライヤーエンゲージメントを「攻め」に変える視点
サプライヤーエンゲージメントは、規制対応という「守り」に留まらず、新たなビジネスチャンスを生む「攻め」の戦略でもあります。導入期の今こそ、積極的な取り組みが他社との差別化に繋がります。
サプライヤー様の脱炭素化支援や、低排出製品・サービスの提供は、環境意識の高い顧客からの評価を高め、取引拡大に貢献します。例えば、SBT認定を取得・目指すサプライヤー様は、優先的な取引対象となる可能性があります。この時期にサプライヤーエンゲージメントを推進し、自社の強みとして確立することが、将来の競争優位性を築く鍵となります。
今後企業がサプライヤーエンゲージメントで進めるべきこと
サプライヤーエンゲージメントを効果的に進めるためには、以下の段階的なアプローチが重要です。
Scope3排出量の把握と主要カテゴリの特定:
自社のサプライチェーン排出量を算定し、主要な排出源を明確にします。環境省・経産省の「基本ガイドライン」や「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」などを活用できます。方針・目的・対象サプライヤー様の明確化:
エンゲージメントの方針、具体的な目標、協力を依頼するサプライヤー様を設定します。排出量の多い先や協力的な先を優先するのも有効な手段です。サプライヤー様への協力依頼と支援:
CO2削減の協力を要請する際は、算定ツールの提供やノウハウ共有といった支援策も検討し、共に課題解決を目指す姿勢が求められます。取り組み状況の積極的な開示:
進捗状況をウェブサイトなどで開示することで、ステークホルダーからの信頼を得て企業価値向上に繋げます。関連規制への対応確認:
特に最近では欧州向けの取引がある企業様は、CBAM(炭素国境調整措置)への対応もサプライヤーエンゲージメントと併せて確認し、準備を進めてください。
サプライヤーエンゲージメントは、短期で企業価値としての成果が出るものではありません。しかし、サプライヤーとは自社の成長においても重要なパートナーでもあり、共に良くなるべく共存共栄の関係であることは不偏です。だからこそ、自社が顧客に選ばれることが、サプライヤーにも好影響となることについての理解を得る必要があります。顧客から選ばれる企業になることを目的として、サプライヤーとの対話を進めて頂ければと存じます。
執筆者: カーボンニュートラルチーム ディレクター 貴船 隆宣 きふね たかのぶ |