保育業界の時流
まず保育業界の時流という少し大きい話から入っていければと思っています。こちらは、一カ月前に公表された厚生労働省から毎年出ている資料でして、皆様の中でもご覧になった方いらっしゃるかとは思いますが、各種毎年4月時点の保育業界の様々な数値データをとりまとめたものになっていまして、そこから抜粋したものになるのですが、大きいトレンドを押さえていくと、保育の利用率が上がっていること、待機児童数が非常に減少しているという点が大きなトレンドです。
令和4年4月時点の全国の待機児童数は3,000人をきり、2,944人という数値のデータが上がってきています。約5、6年前までは50倍近い待機児童がいたことを考えると近年は非常に速いペースで待機児童が減ってきていることは今回のデータを見てとれると思いますし、皆様の運営している周りの自治体でも待機児童の話は以前ほど聞かなくなった方も多いのではないかと思います。数年前までは、待機児童問題は社会問題化する勢いでしたが、少子化が進んでいることや保育の受け皿が作られたこともあって減少している状況にあります。
このような状況を踏まえて、こちらも厚生労働省から出ている資料になっているのですけれども、少し細かくて見づらいかもしれませんが、先程示した保育業界利用率や利用児童数の推移とこれからの予測としてどのように推移していくかを示した資料になっていまして、この資料の中央辺りが現在の状況だと思っていただければと思います。各指標がありますが、ここでご注目いただきたいところは、この緑色の棒グラフの保育の利用児童数の推移です。保育業界においては、子どもごとの単価変動は起こりにくいので、利用児童数が保育業界の市場規模に直結してくると考えていくと、これまでは右肩上がりで利用児童数が増えてきていた中で、現在辺りを境にそれが横ばいになっている状況が受け取れるかと思います。
これまで増えてきた背景としましては、上にも青い線がありますが、今も上がり続けている状況ではあるのですけれども、女性の就業率が上がってきていて、人口自体は減り続けている影響力で就業率の上げ幅が大きかった分の利用児童数が増えてきたわけですが、現在辺りを境にそれも天井を迎えてきています。ここから一気に下落していく予想はされていないのですけども、これまでのように伸びてきていくという予想ではなく横ばいが今後は続くと予測されています。
これを市場のライフサイクルと言いますけれども、保育に限らず様々な産業で称する概念なのですけれども、大きく産業のフェーズを四つの段階に分けた時に先程見ていただいた通り保育業界はこれまで待機児童のあおりを受けて成長している業界でしたが、天井を迎えて緩やかに推移するようになることを考えていくと、市場のライフサイクルでは成長段階から成熟期に入っている、ライフサイクル上の転換点にあります。もちろん自治体によって都市部や地方で状況が変わってくると思いますが、大きく見ると遅かれ早かれフェーズの切り替えのタイミングを迎えている自治体が多いのではないかと思います。
では成長期と成熟期で何が変わってくるのかをざっくり言いますと、需要と供給のバランスが変わってきます。成長期においては圧倒的に供給より需要が多い状況にありましたので、ある意味では売り手優位と書きました。保育所側からすると自分たちの定員数に対してあり余るほどお子様を預けたい保護者がいる状況がありましたが、言い方を選ばなければ何もしなくてもお子様を預けたいと思っていただけている方がたくさんいらっしゃる状況にあったのが成長期フェーズでの保育業界でした。
ただ、これが成熟期に入ってくるとどのような変化が起こるのかと言うと、供給が増え、需要が緩やかに減少して、需要と供給のバランスが取れてくるのが成熟期の特徴となります。このようになりますと、場合によっては買い手側が優位になることもあると思います。供給が足りていなかった場合、保護者側は保育所を必死になって探す必要がありましたが、供給量が追いついて需要が落ちていくと保護者側が園を選べる側になりますので、買い手側が売り手側を吟味して選べる時代になることが非常に大きな違いになってきます。
保護者目線で考えていくと成長期においては預かってもらえる保育所を見つけることができない。預けないと働くことができないなど必死な状態になってしまう方が多く、だからこそ社会問題にもなっていたのですけれども、成熟期になると近隣の園を見渡した時に、例えばA園、B園、C園があった時に、どこも預けられそうな状況が生まれてくるのが成熟期です。そうなってくると発想として我が子を預けるなら良い園に預けたいという気持ちになり選べるだけの余力が保護側に生まれてくるからこそ先程お伝えした買い手が優位で保護者が園を選ぶ時代に入りつつあります。
続きましては、そのため質にこだわる点についてです。成長期においては先程も繰り返しお伝えしている通り、園のことを認知さえすればある程度にニーズが生まれます。成長期では質ももちろん大切にしていますが、預けるのに必死にならないといけない状況でしたが成熟期に入ると、認知してもらうことは当たり前なのですが、園を比較検討したうえで選択肢の中で一番良い園を選ぶ余裕が生まれてくるのが保育の成熟期ですので、比較検討の段階で他所に負けない保育運営における質がより一層求められてきます。
保育の「質」を高めるために
次に質とは一体何なのか、どのように高めていくのかという点です。保育業界における保育の質は法人ごとに解釈の仕方は変わってくると思います。保育の待機児童が多かった頃も保育の量に関する議論が非常に多く挙がっていましたが、最近は内閣府の資料やその他の資料も含めて保育の質に関する議論が起こるようになっていると思います。曖昧な質をどのように定義してどのように高めていくのか、業界全体で関心が高まっています。
ただ、ここは法人によって様々な定義があって、この議題だけでまた一つ別のセミナーができてしまうぐらいの深いテーマになってくるのです。しかし、一つ言えるところは、現場の保育を体験しているのは間違いなく職員であるという点です。いかに経営者側が崇高な質を定義して、取り組みを現場に落とそうとしても、現場の職員が理解していない、またはうまく機能していなければ、保育の質を高めることは難しいので、保育運営における質は現場で保育に当たる職員さんの質と密接に連動していることに注視して職員の質を高めていく必要があります。
職員の質を高めると法人運営全体で良いスパイラルが生まれます。職員の保育スキルのレベルが高ければ子どもに対して、提供できる保育の幅を広げていくことができますし、保護者に対しても適切な対応をしていくことで、保護者の信頼感を獲得し預けることの満足度を高めていくことができますし、対職員同士の側面で考えても、人間関係をうまく築いていただける方が多く集まって、良好な職場環境につながる、もしくは高いスキルを持って後輩や部下の育成指導が回ることで結果良好な職場環境が出来上がるので様々な場面でメリットをもたらすと思います。そのようなスパイラルが浸透していくことで園の運営力の質向上にもつながりますし、保護者の中で「あそこの園良いらしいよ」という話が広がり評判が挙がることで良い職員が集まっている職場で働きたいという求職者が集まってきますので、全体の評判が上がる好循環ができます。
ただ、逆もまた然りで、質が下がってしまうと、先程した反対の話の内容になるのですけれども、子どもに対する保育の提供内容が弱くなると保護者の満足度や信頼度が下がってしまい職員の環境が悪くなるため、部下が育たず、定着しない職場になってしまいます。そうなると園全体の質が下がり、評判の低下につながって職員が集めづらくなってしまいます。
いずれにせよ職員の質を起点にして良いスパイラルになっていくのか、悪い負の連鎖になってしまうのかが大きく分かれる重要なポイントになってきますので、保育の質を高めることを考えると一番に職員の質をどのように担保していくかが非常に重要になってきます。
▼続きかこちらからダウンロードいただけます