多角化時代を勝ち抜く!中堅企業が目指すべき「攻め」のグループ経営
将来の予測が極めて困難な「不確実性の時代」の環境下において、中堅企業が単一事業のみに依存し続けることは、経営リスクを高めるだけでなく、持続的な成長の足かせとなりかねません。 そこで今、多くの成長企業が取り組んでいるのが「グループ経営化」です。
しかし、単に子会社を増やして箱を作るだけでは、真の成長は望めません。グループ全体としてのシナジーを生み出し、「企業価値」を最大化させるためには、従来の延長線上にない「攻めのグループ経営」への転換が必要です。
本コラムでは、グループ経営化を通じて企業価値を最大化するための具体的な方法論と、その成功の鍵となる「仕組みづくり」について解説します。
経営トップが「本来の役割」に専念できる体制づくりと次世代幹部の育成
多くの中堅企業では、経営トップが日々の事業執行(エグゼキューション)とグループ全体の経営管理(マネジメント)の双方を一人で担っているケースが少なくありません。しかし、企業規模が拡大し事業が多角化する中で、すべてをトップ一人で判断・実行し続けることは、物理的な限界だけでなく、企業の成長スピードを鈍化させる要因にもなり得ます。
企業価値を最大化させる「攻めのグループ経営」において最も重要なことは、経営トップが「経営トップにしかできない重要な意思決定」に専念できる環境(時間とリソース)を確保することです。 具体的には、グループ全体の10年後のビジョン策定、大型M&Aやアライアンスの決断、あるいは抜本的な事業ポートフォリオの組み換えといった、未来を創るための戦略業務です。
これを実現するためには、経営トップの意図を汲み、自律的にグループ経営の一翼を担える「経営幹部」の育成が不可欠です。単に担当事業の売上を作るだけでなく、財務、人事、企画といったグループ全体を俯瞰する視点(全体最適の視点)を持った幹部を計画的に育て、権限と責任を委譲していく必要があります。
そうすることで、トップは現場の指揮から離れ、大局的な視点での舵取りに集中できるようになります。つまり、グループ経営化とは、組織を拡大するだけでなく、経営トップがより高度な経営判断に集中し、企業の成長スピードを加速させるための「役割分担の再構築」なのです。
企業価値最大化のエンジン「事業ポートフォリオ・マネジメント」
グループ経営において、企業価値を最大化させるための核心的な手法が「事業ポートフォリオ・マネジメント」です。
企業価値を持続的に向上させるためには、投資家が期待する収益率(ハードルレート)を上回る利益(ROIC等)を生み出し続ける必要があります。そのためには、グループが保有する複数の事業を「成長性」と「収益性」の軸で客観的に評価し、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を最適に配分しなければなりません。
具体的には、以下のようなサイクルを回すことが求められます。
1. 事業の「見極め」と「分類」: 各事業のPL(損益計算書)だけでなく、BS(貸借対照表)を含めた資本効率を可視化し、事業の現在地を評価します。そして、「成長事業」「主力事業」「成熟事業」「低成長事業」といった4つの象限に分類し、それぞれの役割を定義します。
2. 資源の「移動」と「撤退」: 日本企業において特に課題となりがちなのが「撤退基準」の曖昧さです。収益性が低く、将来の成長も見込めない事業からは勇気を持って撤退・縮小の判断を下し、そこで浮いた経営資源を、今後伸びしろのある「成長事業」や「新規事業」へと大胆にシフトさせる必要があります。
3. 新規事業の創出とM&A: 既存事業の延長だけでなく、M&Aや戦略的な新規事業開発を通じて、常に新しい収益の柱(第二本業)を育て続けます。
「攻めのグループ経営」では、このように明確な基準を持ってポートフォリオを管理し、全体最適の視点でリソースを配分し続けることが、企業価値向上に直結するのです。
グループ経営本部機能の強化と「次世代経営人材」の育成
こうした高度なグループ経営を実行するために不可欠なのが、強力な「グループ本部機能」です。 ホールディングス化というと、「本社経費の増加」と捉えられがちですが、そうではありません。グループ本部は、単なる管理部門ではなく、グループ全体の成長を牽引する「司令塔」であるべきです。
具体的には、成長ステージに合わせて以下の機能を順次強化する必要があります。
• グループ企画・戦略: M&A、新規事業開発、グループ全体のビジョン策定
• グループ財務・経理: 投資戦略、連結会計による予実管理、財務戦略の立案
• グループ人事: 次世代リーダーの採用・育成、グループ全体の人事戦略
そして、これらを動かすのは結局のところ「人」です。 持続的な成長を実現するためには、カリスマ社長一人に頼るのではなく、組織的に経営を行える「次世代経営幹部チーム」の育成が急務です。
事業会社の社長ポストを意図的に若手や幹部候補に任せることで「経営の実戦経験」を積ませ、現場を知り尽くした上でグループ全体の視点を持てる人材(ホールディングス取締役候補)を計画的に輩出するキャリアパスの設計が重要となります。
[図解:事業会社部長→事業会社社長→HD部長→HD取締役へのキャリアパスイメージ図]
まとめ:中堅企業こそグループ経営へシフトせよ
「グループ経営」は、大企業だけのものではありません。変化の激しい時代を生き抜き、100億、300億と事業規模を拡大しようとする中堅企業にこそ必要な成長戦略です。
1. 経営トップの役割転換: 現場執行を任せ、トップは「未来の戦略」と「重要な意思決定」に集中する。
2. ポートフォリオ管理: 収益性と成長性で事業を見極め、資源を成長分野へ集中させる。
3. 本部機能と人材育成: グループ本部を司令塔化し、次世代の経営人材を組織的に育成・登用する。
これらの仕組みを構築することで、貴社の企業価値は飛躍的に向上するはずです。
当社では、グループ経営体制への移行支援から、事業ポートフォリオ戦略の策定、グループ経営人材の育成プログラムまで、中堅企業の成長ステージに合わせた一貫したコンサルティングを提供しています。
「自社に最適なグループ体制はどうあるべきか」「多角化を進めたいが任せられる人材がいない」といったお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。
貴社の持続的成長を実現するための「羅針盤」を、共に描きましょう。
