
「会宝」に込められた思い
立原:
船井財団が主催する「グレートカンパニーアワード」にて、2014年、『勇気ある社会貢献チャレンジ賞』を受賞された、会宝産業株式会社の近藤典彦社長にお話を伺います。まずは会宝産業株式会社の事業についてお聞かせください。
近藤会長:
私どもの事業は自動車のリサイクル業ですね。以前は自動車の解体屋さんと言われたのですが、そこから始まってリサイクル業になって、これからは静脈産業を作り上げようとしています。
立原:
静脈産業といいますと。
近藤会長:
人間の体は、動脈と静脈が循環することにより健康な体が作られていると思うんですね。我々の産業においても動脈産業と静脈産業があります。動脈産業というのは要するにメーカー側。これまでの資本主義経済の中で、新しいものをたくさん作ってきたと。ところが、その要らなくなったものをどうするかという静脈産業がしっかり構築されなかったために、いろんな気象環境を起こしてきたと思うんです。人間の体でいえば病気みたいなものですよね。だから動脈と静脈がきれいな循環をするような仕組みを作れば、地球環境は良くなるのではないかと。これを循環させることで豊かな体ができるのと一緒で、社会ももっと豊かになっていくんじゃないかなという思いがあります。

グレートカンパニーアワード2014 授賞式の様子
立原:
なるほど。会宝という社名に込められた思いもおありですよね。
近藤会長:
まず「会宝」というのは、会う宝と書きます。まずは、社員の人がいかに豊かになるか、社員たちが宝に会えるような会社を作ろうと。2つ目に、初めてお会いする人を宝のように扱おう。つまり、ご縁を大切にしようということですよね。3つ目は、字は違うんですけどオープンな会社、「解放」していく会社を作っていこうと。つまり正直でフェアな会社、これをテーマにして会宝産業としました。
立原:
ありがとうございます。自動車リサイクル業という業界の中で、会宝産業は輸出先が73カ国あります。これは日本の中でもトップクラスじゃないかなと思います。また、私自身も中古ビジネスをやっている中でいうと、やはり品質の不明確さというところがある中で、中古エンジンで性能評価制度を導入したというのも世界で初めてですよね。
近藤会長:
そうですね、これは世界で初めてだと思います。
立原:
そういうトップクラスになる中で、ほかの会社さんがやらなかったり、できなかったりというような、多くの取り組みや新しい対策をされていたかと思うんですが。
近藤会長:
私が自動車リサイクル業をやって45年になります。22歳から始めたんですが、その頃は正直、ただ単に自動車を解体してお金にすればいいと。けれども現在になると、それだけではいけない。この地球上には11億台くらい自動車が走っているそうです。いかに地下資源を守り、地上資源を有効活用するかというような仕事に変化してきているなと思います。
立原:
収益性だけでなく社会性のところまで視点が上がったのは、どのようなきっかけですか?

近藤会長:
13年前に、私に初孫が生まれました。本当にかわいいんです。その子ができたときに、多くの環境問題が出てきている中で、本当にこのままでいいのかなと。今では孫が5人います。このかわいい孫たちが大人になった時に、我々のような豊かな生活が、この子もできるだろうかと。我々は高度経済成長下の中で豊かな生活を謳歌した分だけ、その自然に付加をかけてきた。その後始末をしなきゃいけないなと。原発もそうですけど、我々は豊かさを優先して後始末できないものを作ってしまった。だから人間の体と一緒で、後始末をする静脈が必要だろうと。
自動車リサイクル業は車の要らなくなったものをビジネスとして扱っているわけですが、今後は本当の、その循環をする社会システムにまで影響を与えるような産業にしていきたい。子どもたちに本当に豊かな社会を残していこうということから、自動車リサイクル業を静脈産業にまでもってきたいなという気持ちになったんです。
自動車リサイクル業起業の原点
立原:
社長は書籍も出されていて、その中でもお孫さんがきっかけになったとありました。ほかにも過去を振り返ってみて、ここが原点だなという出来事はあったんでしょうか。

近藤会長:
そうですね。私の父親は味噌こうじ業をしていて、私も継ぐつもりでいたんです。だけど勉強があまり好きではなくて。また、男一人で生まれたものですから、ちょっとわがままだったんですね。それを父親が見て、これではまずい、世間を見て来いということで、東京の江戸川に出ました。そこで自動車リサイクル業に目覚めたんです。
父親は私が東京に出て3年後に脳梗塞で倒れ、帰ってきてくれと。その時、私は父親に「跡継ぎしません。なにも要らないです」と言ったんです。なぜかというと、親父の作り上げてきたものを貰っても、私はきっと無くすだろうなという思いがあったんです。それから、もし万が一、私がそれで成功したとしても、その財産があったから伸びたんだろうって言われるのが、ちょっと自分の中には悔しい思いもあって。じゃあもうゼロから全部自分の責任でやろうと、22歳の時に自動車リサイクル業をやり始めたんです。
立原:
早いですよね。
近藤会長:
あんまりよく分かっていなかったですね、その時は。一つのビジネスをしながらお金儲けができたらしいいし、金沢には片町っていう繁華街があるんですが、片町でお酒を飲んで遊べたらいいなっていうくらいの考えでしたね。
立原:
そうでしたか。ゼロから起業されたわけですが、手に職をつける仕事ですよね。そのモデルになる人、社長のメンターといいますか、師匠がいたのですか?
近藤会長:
メンターといえるのは、32、3の頃に出会った浄土真宗のお坊さんですね。その方とご縁がございましていろいろお話をしていく中で、いろんな世界、我々が目にしていない世界のことも話をしてくれて。お話すればするほど引き込まれていくんですね。この人は私の知らないことをいっぱい知っているし、この人といたら自分も豊かになるだろうなと。要するに、心が豊かになるだろうな、考え方が豊かになるだろうなということで、お付き合いしたわけですね。実はその方が会宝産業という社名も作ってくれたんです。
立原:
そうなんですか。
近藤会長:
はい。もう亡くなられて27年くらいになりますけどね。
立原:
船井総研の言葉に「素直」がありますが、社長はまさに、自分にないものや好奇心が強いようにお見受けします。すっと素直に入りやすいという性格なんでしょうか。
近藤会長:
自分では素直だとは思っているんですけど、ひねくれている部分もありますよ。だからどっちかわかりませんが、振り返ってみますと、素直な気持ちでやってきたから今があるんじゃないかなというふうには思いますね。

立原:
そこは揺るがないところですよね。社長の書物を読んでいると、二宮尊徳や八田与一の話が出てきますね。それを話だけでなく、行動に移しているなとすごく感じます。そういう意識で新しい情報を入れているんですか?
近藤会長:
やはり人間は成長するために生まれてきているんじゃないのかなと思うんです。だから、先ほどのお坊さんの話もそうですけども、自分の知らないことを多く知ることによって、自分を成長させたいという思いが私は強いんだろうと思います。だから、知らないことに常に興味を持つ。船井さんとのお付き合いの中でいえば、舩井幸雄先生も、あっちの世界という話をされますね。そういう興味を持っていましたね。
立原:
常に一歩先というか、見えないところに思考がいくのも、そういう精神からきているんですね。
社員が生涯働ける会社に
近藤会長:
うちの社員にも時々言うんです。頭で考えることは重要だけど、頭だけで考えていくとリスクだけが出てきて堂々巡りになって、結果的にやらないことになると。でも一歩前に出てみると、いろんな問題は起きるけれども、それは前に進んでいるということなんですね。
その結果、自分が成長したり、いろんな人達との交流が図れたりするんですよね。だから人間という肉体がある以上は、行動するということが凄く大事。そこに大きな答えがあるような気がするんです。
立原:
まずは行動すると。それは会宝産業が業界において一歩進んでいることからもわかりますね。
もう一つ、社員に対しての話も伺いたいのですが。船井財団が主催する「グレートカンパニーアワード」にて、2014年、『勇気ある社会貢献チャレンジ賞』を受賞されましたが、社員の目線から見た会社の考え方や社長の思い、収益、給料、そういったギャップを埋めるのは、どうされているんですか?
近藤会長:
やっぱり家族的な付き合いをするということが、私はとても大事な気がするんです。社員の誕生日がありますと、ケーキを皆の前で贈るんですね。それが10年続いているかな。どんどんケーキの量が増えてくるんですけどね(笑)。それと同時に、お花も贈ります。男性社員でしたら奥様に、独身の方でしたらお母さんに贈るんです。
今ではお客様の生年月日を調べてお花を贈るということをやっていたり、身内がどんどんどんどん増えています。そういう一人ひとりを気遣ってあげるというか、気にしてあげるということを、ずっと続けていますね。

立原:
なるほど。ビジネスから社会的なシステムにしていこうというのは事業内容にありましたけど、社員にもビジネスだけの付き合いではなくて、家庭にも手を差し伸べるような関係性を築いているんですね。
近藤会長:
そうそう、親子や兄弟関係みたいな。他人だとあんまり気にならないんですけど、身内は気になるじゃないですか。そういう関係性でいることによって、みんなやりがいを感じてくれるんじゃないかな。
今、私がやっていることは、生涯働ける会社をつくろうと。私は67歳になりましたけど、60歳を過ぎると仕事のない人もいらっしゃるんです。するとストレスがないせいもあって、だんだん老けていくんですね。逆にあんまり大きなストレスは良くないですけど、我々は仕事してると、やっぱり常に小さなストレスがあるわけですよね。それによって頭の活性化も図れるし。働こうとするから健康で元気でいられますし、働けるってことはすばらしいと思うのです。だから、いくつになっても働ける会社を作ろうと。
今は少子高齢化ですから、我々のような60を過ぎた人って戦力じゃないですか。それから、日本では高齢者が増えて、医療費がどんどんどんどん高くなって、使われている。それは健康で元気なら要らないわけですよね。予防医学じゃないけど、自分に健康管理する力があれば病人にならないですし、医療費もかからない。かからなかった分を若い人たちに使ってあげることができれば、もっと日本の国は、私は良くなっていくんじゃないかなと思うんです。
立原:
会社を通して産業を作るというビジネスモデルだけでなく、会社の「あり方」というところまで考えられているということですね。
近藤会長:
儲けるためにキリのないことをやっていたって、地球っていうのは有限の星なんですよね。だったら、その循環する仕組みを作れば、いくらやったっていいと思うんですよ。でも、モノを売るばかりで後のことを考えたことがない、お金儲けがあればいいということではだめ。売った後始末もちゃんとできることで常に循環していく。
資源があるとすれば、地下資源を守る、今まで出てきた地上資源をいかに有効に使いながら循環していくかということを考えていくような社会ができれば、もっと今までと違う豊かさが生まれてくるんじゃないかなと思います。
他人に対して何ができるか?を考える
立原:
経営者は皆さんかなり勉強されていますし、おのずとこうすべきというのはどっかにあると思うんです。でも、自分が生きる使命というか役割というと、なかなか気づけないことが多いのかなと思うんです。近藤社長はどういうタイミングで気づき、自分をシフトできたんでしょうか。
近藤会長:
これは私のメンターから受けた死生観です。人間は生まれてきて、いつか死ぬわけですよね。ともすれば、この現実が幻かもしれないわけです。生まれてきて親から無償の愛を受けて育ち、私も子どもを授かり無償の愛をもって育ててきました。こういう一つの流れがあるわけですよね。
その流れの中で、生きている間に、ほかの人にも何ができるかと考えるようになったんです。日本の言葉にあるように、まさに利他の精神です。人のために何ができるか。その結果、自分がよくなっていると。このことは母親にも教わりましたね。
昔、たらいで洗濯している時に、たらいの中の泡を集めてみなさいと言うんです。一生懸命、自分の体のほうに泡を引こうとするわけね。ところがそれをやると、来たと思ったら全部出ていくんですね。それを見て母親は「それでは集まらないんだよ。向こうにこの泡をあげるようにしなさい」と言うわけ。そうすると、脇から自分のほうに帰ってくるんです。子どもの頃はあまり意味がわからなくても、大人になって、あーなるほど、まず人に与えることから始まって、自分のところに帰ってくるんだなと。
誰かの言葉が頭の中にいっぱい残って、必要なときに出て、行動を起こすんじゃないかな。だから学ぶということがいかに大切かってことですよね。
立原:
したことが返ってくるということ、まさに循環社会を作っていく根源でもありますね。今、会宝産業という会社を通して、どうやってそこを作り上げていますか?
近藤会長:
先にも申しましたように、リサイクル業で静脈産業のひとつのモデルをつくらなきゃいけないと思っています。今、73カ国で付き合いありますが、そのうち47カ国ぐらい私は歩いています。そんな国々を回っていると、日本の豊かさが見えてきます。豊かなことはいいことだけど、それゆえに足りないところが出てくるし、そこに甘えてしまう。
だけど発展途上国に行きますと、みんな明日の飯をどうしようかって生きることに必死なんです。豊かさは大事だけど、それに感謝をしつつ他人に対して何ができるかっていうことを考えれば、もっと豊かな社会ができるんじゃないかと思うんです。
立原:
その豊かさを、自動車リサイクルの中で描いていらっしゃると。


(写真左)みずから出向いて輸出先を広げている。ケニアにて。(写真右)ナイジェリアにて。
社員と一緒に喜ぶという社風
近藤会長:
リサイクル業で静脈産業のひとつのモデルをつくることが課題です。まずできることとしては、社員教育をしっかりするということ。特に大事なことは5Sです。整理整頓清潔清掃しつけ。私はしつけには、ちょっとうるさいです。
それから、発展途上国のこともお話しましたが、日本がこれだけ豊かになった過程には、ひどい公害問題も起こした。それが今、現実に途上国の中にはあるわけです。そういった日本が失敗したことを教えてあげて、そして新しいことを取り入れていく、いらなくなったことをちゃんと処理する。この2つの方法を教えてあげることが必要かなと思うんです。
これはある意味で社員にしつけをするのと似ていて、しつけという言葉が正しいかはわかりませんが、そういうことをお伝えすることかなと思っています。
立原:
確かに、会社にお伺いした時の挨拶はピカ一ですね。
近藤会長:
ありがとうございます。
立原:
必ず全員立ってくださいますし、ほぼ揃っていますよね。している作業は皆さん違うのに、立って挨拶すると。工場の方も一緒ですよね。
近藤会長:
私も凄いなと思うのは、例えばフォークリフトに乗っていても、フォークリフトを止めて、そこから降りて目を見て挨拶してくれるんですよ。私が見ていても感動するんです。
立原:
やらされてる感がないですよね。あの浸透度は本当に不思議です。そして工場はむちゃくちゃ綺麗ですよね。あれも社長の提案で?
近藤会長:
やっぱりきれいにしようと、挨拶日本一になろうと、世界一キレイな工場を作ろうと。あとは自律と協調なんです。我々の仕事は汚いってイメージがあるわけですね。汚いものを扱うからこそキレイな工場を作ろうと思った。そしてキレイな工場を作ると、荷物を置くにしても、斜め置きしないようになるとかね。そういうことができるようになると、事故率も必然と少なくなると。
うちはあんまり事故っていうのはないんですが、そういう意味においてしつけができていると、身の安全性も考えられるようになる。そうすると働いても楽しくなってくる。そして、きちっとやっているから、お客様にほめられる。ほめられたことは次の日の朝礼で全員に話すわけです。これは「いいね!」報告です。ほめられて嬉しいことを社員に伝えることで、うれしいことの共有化をするわけです。


業界イメージをくつがえすピカピカの工場に中古自動車部品が並ぶ。
立原:
いいコミュニケーションになりますね。プラスの。
近藤会長:
そうなんです。ひと言で情報共有化っていっても、じゃあどうするかといったときに、皆で一緒に喜びましょうという社風をつくってきました。そういうことが今の会社の雰囲気になっているのかなと思いますね。
自分には何ができるか?
立原:
そうすると、静脈産業のモデルになるというお話も、会社もモデルになるっていうところとリンクしていると。
近藤会長:
そうですね。まず世界一のモデル工場を作るということは、モデルがだらしなかったらダメなわけですよね。ですから自分のやっている仕事に対する誇りを持つということなんです。そのことを、みんなが気づき始めたら、会社というのはすごく強くなるんじゃないかなと思います。
立原:
なるほど。まずは自社からですね。外向きの発信もしながらも、内のところから作っているということですね。
近藤会長:
そう。自分たちができないのに、社会貢献できるわけないですよ。だから自らが社内で作り上げ、それをモデルにして社会に出していけば、それを真似する人たちは豊かになっていくわけですから、それが本当の意味での社会貢献かなと思います。
立原:
以前、上京された時に入った車屋さんで、自分にできることから人に尽くせということを学んだとおっしゃっていました。その当時はいかがでしたか?
近藤会長:
私は理不尽な目にいっぱいあいまして、それが反面教師として自分にとってはよかったんですね。当時、四畳半二間に生活していて、私も一緒に住み込んでいました。その社長も私が初めての社員でしたので、何をやっていいかわからないんですよね。私も何をやっていいか分からない。だから毎朝起きて、私は靴を磨いたんです。やることないから。
次に青空駐車場にあった車を水洗いをした。そんなことだったら私はできるじゃないですか。それから会社に行って事務所の掃除をした。次はトイレ掃除。自分は仕事はできないけども、考えてみたらやることっていっぱいあるんです。仕事がないからって突っ立っているということはないわけですよ。
だから私は社員にも、仕事がないなと思ったら掃除することを考えようと。だからうちの社員は仕事が終わったら竹箒を持ってきて、後始末の掃除をしますね。何もできなかったから、何ができるかを考えたんです。
立原:
シンプルですね。
近藤会長:
シンプルイズベストです。
三現主義
立原:
会宝産業では会社を通して何ができるかということを、掃除ひとつにしても、社員も考えて行動に移していると。
近藤会長:
私は小さいものがいくつか固まってつながる方が強いのではないかと思うんです。だから小さい会社がいっぱいできてくるといいなと思います。そして自律と協調ですね。自律は大人ということです。大人は人が困っているところに応援にいける。だから自分がいいと思うことを皆にしてあげればいいんですよ。理屈じゃなく、自分はどうしてあげたいのかを考えること。
たとえ一人でも初めていけば、世の中変わる可能性がある。ヨイショするわけじゃないけど、やっぱり船井さんとお付き合いしながら色んなことを学ばせてもらった。何もわからない22歳の時に会社を始めたけど、船井さんの勉強会に行って、セミナーに出てね、色んなことを学ばせていただいて、少しずつ少しずつ力がついてきたというか、そういうことだと思うんですね。
立原:
一歩の行動の大切さということですね。
近藤会長:
そうです。だから旅費がもったいないと出てこない人は、そのチャンスにめぐり合わないわけでしょ。旅費がもったいないと地元を出ずにいたら、インターネットで探したとしても、本当の生の情報は入ってこないです。
立原:
基本は一次情報ですからね。現地に行く、自分で廃車になっている車を見るというのも、すべて一次情報から。
近藤会長:
だから現場・現物・現実主義。三現主義です。私が47カ国の海外に行くのもそれです。お腹を壊すこともいっぱいありますよ。本当に死ぬなと思うこともあるわけ。でも、それは私の身をもって知る生の情報じゃないですか。だからうちの社員にもやりたいことをやらせて、行きたいところへもどんどん行かせる。
昨年入社した女性社員がいるんですが、会宝産業のホームページを見て、自分がやれることがあるといって九州から来てくれた。彼女に何をしたいの?と聞いたら、アフリカのガーナで仕事をしたいと。いいよ、やろうと。実際に今、JICA(国際協力機構)のほうに研修に行っています。やりたいという強い思いを持った人にやらせてあげると、貪欲に取り組んでいきます。無理に上からあれこれ言ってもダメで、やりたいことを進んでやるから身につくんですよね。
立原:
それこそシンプルですよね。
近藤会長:
本当シンプル。難しくないですよ。自分の仕事を通して社会貢献できることがいっぱいあると思うんです。実際は、今までお金儲けのためだけにやっていた。ところが社会貢献をしていくうちに、結果としてお金儲けができている。だからうちの社員には、“儲ける”じゃなくて“儲かる”会社を作ろうって言うんです。お客様が、会宝産業なら儲けてもいいよっていう、儲けさせてくれるビジネスに変えていこうと。そして、その儲かったお金でもって、また社会貢献をしていこう。そういう考え方になれば、世の中は180度、変わる可能性があるよね。
お客様や地元への感謝祭「リサイくるまつり」
立原:
全てをシンプルに捉える。まさに先義後利ですね。ちょうど先日、今年の『リサイくるまつり』のビラを拝見しました。
近藤会長:
今年で4回目ですね。
立原:
金沢という土地で商売されていて、地元への貢献として開催されていますが。そのきっかけは?
近藤会長:
きっかけは子どもたちですね。今はモノ余りでおもちゃがいっぱいあって、要らなくなったらみんな捨ててしまう。海外ではおもちゃが本当に少ない国も多い。だったら捨てるのではなく交換して、誰かの役に立つことを考えようと。
日本に「かえっこくらぶ」っていうNPO法人があるんです。その人たちをお呼びして、子どもたちには、会宝産業におもちゃを持って集まってもらう。そうすると、自分の持っていたものを欲しがる人がいれば、自分が欲しいなと思っていたものもそこにある。リサイクル事業というのはこういうことですよと。
皆さんが乗っている車は将来こうなるんですよ。これは再資源化するんですよ、だから大事に扱ってくださいね、ということをお見せしようと。それからもう一つはお祭りにすることで、社員も楽しめる。焼きそばを作ったり焼き鳥を焼いたりしながら、たくさんのお客様に接客をする。
いろんな人が来ますから、不満を言う人もいらっしゃるわけですよ。それはもう全部勉強になるじゃないですか。 規模も大きくなって、1回目の来場者1,800人から、今年は4,443人になりました。


リサイクルまつりの一大メインイベント「廃車の解体ショー」に、4,000名を超える参加者は大人も子どもも大興奮。
立原:
たった一日でこの人数が参加されるわけですから凄いですよね。
近藤会長:
お祭りにすれば、お客様も社員も楽しい。ビジネスとして啓蒙活動ができるし、願ってもないことでしょう。これを私が主催しているRUMアライアンスというNPO法人で全国展開しようと、今年は4社が同時に始めたんです。
リサイクル業の人がみんなリサイクル祭りをすれば、世の中に自動車のリサイクルが何かということが広がる。子どもたちも理解する。そうすれば大切に車に乗りますし、我々の業界のステータスが上がってきますよね。だからグレーゾーンの仕事ではなくて、まさに動脈産業があって静脈産業があるんです。この循環があるから素晴らしい社会ができると伝えられると。そういう考え方です。
立原:
最初にこれをやろうと思ったときは、何かモデルがあったのですか?
近藤会長:
最初は北海道の石上車輌さんがされていたのです。その方もRUMアライアンスのメンバーさんで、そのお話を聞いて、うちもやろうと。だから石上さんは私どもの先生なんです。
立原:
常にアンテナを張っていらっしゃるんですね。
近藤会長:
このほか社内行事として、感謝の集いがあります。これは社員とそのご家族やお客様、お世話になった人たちをお呼びして、いってみればステークホルダーですよね。
一部は決算報告、二部では素晴らしい先生方をお呼びして講演いただき、三部は着席式の懇親会です。なかにはご祝儀を持ってこられる方もいらっしゃるんですけど、一切受け取るなと。会社の心からの感謝を表す場ですから、お金のことは一切気にせず来てくださいと。これは16年続けています。

立原:
今、参加者はどのくらい?
立原:
450人ほどいらっしゃいます。我々のやろうとしていること、そしてお客様へ感謝の気持ちをお伝えする大切な場ですね。
地球は有限の星
立原:
今後、会宝産業が目指すところはどこでしょうか。
近藤会長:
最終的には世界平和だと私は思っています。もう戦争なんてあっちゃいかんですし、それが身内にあったらどうなるの?ということです。
そうならないために、まず何ができるかというと、我々はリサイクル業を通して世の中の後始末をしっかりしようと。そして循環型社会を作るのが私の大きな目的です。それを日本から発信していく。それを日本人ができるということが大事だと思うんです。
立原:
なるほど。
近藤会長:
やっぱり和の心と利他の精神です。だからこれをビジネスの上に乗せていこうと。舩井先生はおっしゃったじゃないですか。資本主義というのは何か、お金だけ、自分だけ、今だけって、まさにそれですよ。だけど地球は有限の星ですから、いつまでもこんなことが続くわけがない。
だから舩井先生がおっしゃったように、では自分の職業として何ができるか。だったら我々はリサイクル事業として73カ国に中古部品を出していきます。中古部品の売りっぱなしはやめましょう。売ったあと、ちゃんと後始末できるようなことをやっていきましょう、それをネットワーク化しましょうと。そうすると教育もできる。
2007年にIRECというインターナショナルリサイクルエデュケーションセンターを金沢に作りました。そしてJICAさんのおかげで、たくさんの外国の方も研修にきています。その人たちがその国に戻って、IRECのような研修センターを作ろう、リサイクル工場を作ろうっていうことで動き出してきているんですね。
こうやって世界に広がっていけば素晴らしい循環型の世界もできるし、平和にもなってくるんじゃないかなと思います。
立原:
そう考えると、会社というのは、やはり社長がやりたいことをやったほうがいいということですね。
近藤会長:
したいことをやればいいんだけど、潰れる会社はたくさんあるじゃないですか。それはやっぱり考え方が間違っているからですよ。だから必要とされる企業になるにはどうするか、それはやっぱり正しいことを考えなければならないし、社会貢献、地球というものを考えていかないと。
目先のお金だけではうまくやっていけないという気がします。 お金は必要ですよ。儲けるなというのではなくて使い方だと思うんです。人のために、世の中のために。その利益をどうやって皆様のところに還元できるか。
立原:
それも一つの循環ですね。
近藤会長:
循環です。儲けさせていただいたということは、その儲けを使ってもっと世の中に貢献しなさいよということです。死ぬとき私は何も持っていけない。そんなことは頭ではわかっているけど、皆、自分が死ぬことを考えていないですよ。
だから、死生観というものをしっかり身に付けることによって、このたった80年か90年の人生を生きるということが素晴らしいんです。この素晴らしいことを世の中にどうお返しするか、これもまた循環です。みんなハッピーになりますよね。
立原:
なるほど。ありがとうございます。会社での自分の役割だけでなく、人のために何ができるのか。このお話からヒントを得ていただけたらいいなと思います。
(了)
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