
塗装の指導員から会社経営者へ
小平:
昨年の第3回船井総研グレートカンパニーアワードでは、働く社員が誇りを感じる会社賞を贈呈させていただきました。社員が誇りを持てる仕組み作りをされており、リピーターであるお客さまにも支持されています。
数字の実績は、自動車の販売が一拠点で約2400台、車検は一拠点7300台、板金塗装の入庫は一拠点で2300台、そのほか保険においても非常に優秀な成績をおさめられていて、それぞれの部門が日本一クラスでいらっしゃいます。
板金塗装からスタートされ、自動車販売や車検整備、そのあと保険にも参入されましたが、きっかけは、どのようなものでしたか?
市橋社長:
もともと県の職業訓練校で塗装の指導員をしていました。その後、両親の希望もあって商売を始めることになり、塗装業をすることにしました。塗装にはいろいろな種類がありますが、これからの時代は自動車関係が一番良いだろうと思いまして。そこで生徒だった二人に声をかけて、板金塗装業を始めました。
はじめは下請け仕事としてディーラーの板金塗装をしていました。しかし事業を大きく広げていこうとすると、やはり販売をやり、それには整備もやり、ということで間口を広げていかないといけないと気づきまして。後に保険事業も始めました。
小平:
保険はフランチャイズで始められたのですよね。そのような加盟も柔軟に取り入れられていらっしゃいますが、そのあたりはいかがですか?

サンアイ自動車株式会社
代表取締役社長 市橋 正孝氏
市橋社長:
なにしろ塗装のことしか分かりませんでしたので、必要な資格を取りながら一つずつ開拓していきました。そこで、商いというよりは学ぼうと思い、車検のフランチャイズに入りました。3年ぐらいして車検というものが分かってきた頃に、現在の速太郎車検のフランチャイズを教えていただきました。
小平:
ひとつ成功する形を見つけられたら、一気に伸びていかれている印象を受けます。これはやはり質の高い社員さんが多いことがいえると思います。そのような質の高い社員さんを育成してこられた過程で、「心の勉強」という言葉をよくおっしゃられていますね。
市橋社長:
経営に関しては素人でしたので、悩むことも多く、社員の人たちと気持ちが通じないということもありました。そんな時、私の友達を通じてNPO法人にほん燦クラブの青木盛栄先生をご紹介いただきました。先生の言葉で印象的だったのが「あなたと社員さんとの関係は、社長と社員として月給で結びついてるか、心で結びついてるか、どちらかな?」というものです。 当然ながら給料で繋がっていると思いましたので、そう答えると「それは心が通じとらん証拠だぞ!」といわれまして。そこからいろいろと勉強させていただきました。
自主性のある社員が育つ環境
小平:
社内でも頻繁に勉強会をされているそうですが、それについて伊藤専務、教えていただけますか?
伊藤専務:
にほん燦クラブには平成2年に加入をして、今年で23年になります。月に一回、全社員が参加する社内勉強会を行っています。このほか、愛知県春日井地区の中で勉強会に加盟している会社さんと共に、月に一度、地域の公民館で勉強会をしています。
市橋社長:
そこで教えていただくことは、すべてが新しく感じられました。この世の中は全部、自然の摂理の中でできていると。最も基本的な生命という視点からも教えていただきました。
親があって自分がある。そして会社には社長があって社員がある。反対にも一緒だと。社員の人たちがいて、社長という立場をさせてもらえるのだと。それをきっかけに、物事に対してのありがたさに、だんだんと気づけるようになりました。
小平:
そのような勉強会を頻繁にされていると、中には嫌がられる社員さんもいらっしゃるように思うのですが。知世子さん、いかがですか?
知世子さん:
そうですね(笑)。始まった当初は、やはりそのような堅苦しいものは嫌だということで会社を去っていかれる方もいました。その一方で、社内の雰囲気がいいですとか、働く人たちの人柄がいいといってくださる方もいらっしゃって。20数年やってきたことで、いい会社ができてきたと思います。
今では社内勉強会は、運営・テーマ・グループ分けなど、すべて社員たちで行っています。少し前にあったテーマですと「義務感でする仕事と使命感でする仕事との違い」ですとか(笑)。なんだか難しいテーマですが、社員さんたちが自ら率先して決めてくれています。

小平:
仕事に取り組む心のあり方や、人生への向き合い方などを大事にして勉強会をされていると。これは素晴らしいことですね。社長は、社員さんたちとコミュニケーションを取るうえで、気をつけていらっしゃることはありますか?
市橋社長:
たとえば食事会を通して皆と雰囲気のいい中で語り合うような機会もありますが、つねに社員の人たちの後ろ盾、後ろ押しをしていけるような気持ちを心がけています。
先日、こんなことがありました。社員の人たちが、私の知らないうちにお客さまやお取引先にゴルフコンペの声かけをしていまして。のちに40人以上が参加されるという報告を受けたものですから、これは私も行かなくてはと(笑)。プレーはしませんでしたので背広姿でしたが、7時前に現地に行きまして、参加された皆さまにお礼の言葉だけでもと思い、お声がけさせていただきました。
小平:
そのような企画も社員さん自らが積極的にされているのですね。
市橋社長:
はい。会社のこと、社長の立場、本当にいろいろなことを考えてくれています。ですから私があれこれ細かくいうこともないような、そういうムードになっていますね。
採用のポイントは「明るい人」

船井総研 小平 勝也
小平:
そのような質の高い社員さんが多いサンアイ自動車さんですが、採用にはかなり気を使われているのではないでしょうか。採用基準はどのようなものですか?
伊藤専務:
採用に関しては、市橋社長から「こういう人を採ってほしい」というような要望はありません。どんな方が入社しても、このサンアイイズムの中で正しい物事の考え方を学んでくれるだろうと思っています。一つ挙げるとするならば、「明るい人」ということでしょうか。
小平:
明るい方を採用すれば、あとは人が育つ環境ができていると。
伊藤専務:
そういえますね。
小平:
明るい人を採用されるというお話ですが、それだけでは技術的な面で成長スピードの遅い社員さんや、成果が出にくい社員さんもでてくると思うのですが。そのような場合は、どのようなケアをされているのでしょうか。
市橋社長:
はい。人間は人それぞれ、必ずいいものを持っています。成長だけをとらえれば、早い人もいればゆっくりじっくりというタイプの人もいる。植物でもそうでしょう。植えたらすぐに芽が出るものもあれば、十年経ってやっと実をつけるものもある。というところから自然の法則で考えると、やはり我慢して、それを待つ。そこは愛情で見る。これをまず私たちは基本にしています。
小平:
なるほど(笑)。社長のお考えがそうだということですね。
伊藤専務:
社長はその時の結果をすぐに求めず、時を待つというタイプです。
例えば車が売れない社員がいたとして、それに対して社長は、「売ってくれ」とは決して言いません。「きっとそれは何か君にとっていい教えがあるんだなぁ」と(笑)。大きな愛で包み込み、全てプラス発想にとらえているようです。社員からすれば、社長からそんなことを言ってもらえるとは思ってもいないものですから、自然と頑張り、翌月には結果が出ています。そんな姿をまた周りの社員が見ますので、それはそれでいい効果をもたらしているようです。
知世子さん:
社長に「なぜ君はこんなに売れないのか」と言われた人は、おそらく一人もいないのではないかと思います。それはサボっていいという意味ではなくて、前向きで一生懸命頑張っていれば、結果は必ず出てくるということです。売れるだけが全てではなく、売れる人の周りをサポートする役も同じぐらい大切なことだと伝えています。
小平:
人より少しスピードが遅いだけだと。たとえ売れなくても一歩一歩成長していることが大事だと。そのような感じでしょうか。

市橋社長:
そうですね。このような表現が正しいのか分かりませんが、社員はかわいいというひと言に尽きます。たとえば新しく入った社員は純粋そのものという感じですし。思わず褒め言葉が出てきますよ。
本当に毎日が幸せでいっぱいですね。こういう中に居させてもらうだけで、これ以上の贅沢はあるだろうかと。本当にそんなふうに思いますね。
怒ったことがない社長

サンアイ自動車株式会社
代表取締役社長 市橋 正孝氏
小平:
ほかの会社さんで市橋社長のことをご紹介すると、みなさん驚かれる話があります。社長ご自身が、一度も怒ったことがなく、怒鳴ったこともないというお話しです。
市橋社長:
そうですね。そんなに人を憎むような理由もないですし(一同笑い)自分がまだまだ至らないのに、人さまを憎んだり嫌ったりすることは大きな間違いではないかと思います。やはり、まずは自分がどこまで相手に愛情を示せるか、まず自分自身をきちんと見つめた上でなくてはね。怒らないということを意識しているわけではなくて、自然とそういう気持ちになっていますね。
小平:
疑うわけではないですが、専務、本当ですか(笑)。
伊藤専務:
はい(笑)。社長は相手が自分に合わせてほしいというタイプではなくて、相手に合わせていくタイプですから、基本、腹を立てたりすることがないのでしょうね。まるで絶滅危惧種のような方です(一同笑い)。人は、自分に合わせてほしいという思いが強ければ強いほど、それが怒りに変わっていくのではないかと思いますが、社長の根本的な発想のもとに、そういった感覚が無いのではないかと。
小平:
知世子さん、ご家庭でも同じなのですか?
知世子さん:
そうですね。娘の私でも、生まれてこのかた45年、一度も怒られたことがありません(笑)。それは自分が親になってみて、すごく不思議なことだと分かりました。
怒らないというのは、干渉しないということではなくて、なにかを言いたい時には、ゆっくりと言葉を噛みしめるように、説得しながら話します。ですから急に感情に任せて言葉を発して怒られるということは、本当に生まれてこのかた一度もないです。
市橋社長:
やはり自分自身も人の仲間の端くれですので、まずは人を尊敬するという気持ちが大切ではないかと。人はみんな平等で、それは大人でも子供でも一緒なのだという、そんな気持ちで接しています。それと自分の性格上、相手に怒ることで人間関係が壊れるというふうにはなりたくないという想いがありますので、尊敬の念に重点を置くようにしています。
人はみな平等 愛情を持って人と接する
小平:
なるほど。そういえば社長は、新しい建物を建てたり改築をする際に、取引業者さんとあまり値段の交渉をされないとお聞きしたのですが。やはりそれもそういった心からなのでしょうか?そして、お車を購入されたお客さまも、買わずに帰られるお客さまも、同じようにお見送りをされるそうですね。
市橋社長:
にほん燦クラブには平成2年に加入をして、今年で23年になります。月に一回、全社員が参加する社内勉強会を行っています。このほか、愛知県春日井地区の中で勉強会に加盟している会社さんと共に、月に一度、地域の公民館で勉強会をしています。
市橋社長:
もともとは私も、損得や自分の都合でものを判断することも多かったです。けれどもだんだんと、これは人間が余分な意識をいっぱいくっつけてきたなあと思いまして(笑)。変な我を取らないといけないと。
お客さまはもちろんのこと、社員の人も、出入りしていただく業者さんにも、みなさん同じような気持ちで接しています。長年たってみると、今ではそれが信用に繋がったり、あるいは会社の信頼度のようなものに変わってきているのではないかと思います。またその姿を社員の人も見てくれているのかな、というふうに感じますね。
知世子さん:
社長は本当に、例えばお客さまのお子さまに対してでも「いらっしゃいませ。こんにちは」と同じように挨拶をします。そんな姿を社員さんも見ていますので、いいお手本になっているのだと思います。
お客さまにいい態度をするのは当たり前のことですけれど、業者さんにも同じように接しているおかげでしょうか、社内でお客さま感謝デーのイベントをした際に は、業者さんがたくさん応援に来て下さいました。当時うちの社員が50名ぐらいだった時に、全部で100名になるぐらい、みなさん助けて下さいました。そ んないい雰囲気にもなっています。
小平:
おそらく、この対談を見ている方は気になっていると思うのですが、やはり会社経営ですので、数字が追いつかない時、成果が出ない時もあると思いますが。そういう時はどうされているのですか?
市橋社長:
やはり、まず原因を知るということが大事ですね。悪いという以上は、必ずどこかに原 因があると。例えば社員さんとの関係だったとすれば、その社員の人にどこまで愛情が示せたか。人間にとって、やはり愛情が一番大事なことですよ。我が子 だって同じことです。愛情のない親子は、必ずどうかなっていきますよね。そういう根本的な部分の意識改革をしない限り、いつまでたっても解決しないですよね。

小平:
仕事に取り組む心のあり方や、人生への向き合い方などを大事にして勉強会をされていると。これは素晴らしいことですね。社長は、社員さんたちとコミュニケーションを取るうえで、気をつけていらっしゃることはありますか?
市橋社長:
たとえば食事会を通して皆と雰囲気のいい中で語り合うような機会もありますが、つねに社員の人たちの後ろ盾、後ろ押しをしていけるような気持ちを心がけています。
先日、こんなことがありました。社員の人たちが、私の知らないうちにお客さまやお取引先にゴルフコンペの声かけをしていまして。のちに40人以上が参加されるという報告を受けたものですから、これは私も行かなくてはと(笑)。プレーはしませんでしたので背広姿でしたが、7時前に現地に行きまして、参加された皆さまにお礼の言葉だけでもと思い、お声がけさせていただきました。
小平:
根本を変えようと思うと時間がかかりますよね。経営、いわゆる数字の面でいうと、そんなに悠長なことを言っていられない場面もあるかと思いますが。
市橋社長:
では他に良くなる方法がありますか?と聞かれたらね、無いですよ(笑)。自分の心の中にこの考えを据え付けて、そこから一歩一歩、歩んでいくぞという意識さえしっかり持てば、必ずいい方向へ行くのだと。私はそんなふうに思います。
社員と作りあげた経営理念

とても清潔な整備工場
小平:
なるほど。経営理念の基本理念についてですが、~「人は人の為にあり」の実践~を掲げていらっしゃいますが、これはどういったところからなのですか?
市橋社長:
この経営理念は、社員の人たちと一緒に作りました。解釈や説明が少し難しいのですが…みな自分ひとりがという自己を優先する気持ちでいますが、今ある自分という存在は、必ず相手があってのことだと。だとすれば、人は人のためにありということは、もう生まれながらにしてそれが使命で、人のためになってこそ、自分であると。お互いに全員がそういう形になれたとき、本当の平和がくるよと。そんなメッセージです。
お客様に喜んでいただいたり、幸せになってもらおうという考えをもって接すること、肌で感じる体験が、もっとも大切なことだなと。
伊藤専務:
この経営理念は、どれだけやってもまだ足りないのではないかと思う、非常におもしろくチャレンジしがいのある経営理念です。新入社員が入った時に、私どもの経営理念を説明するときは、非常に誇りに思います。
小平:
説明するとき誇りに思う経営理念。素晴らしいですね!
最後になりますが、社長にとって車屋さんという商売はどんな意味があるのでしょうか。
市橋社長:
人間の欲求はきりがないですから、どのような物で満足いただけるのかは分かりませんけれども(笑)。今の時代は車社会ですから、車を通してお客さまにどれだけ幸せになって喜んでいただけるか、これを追求していこうと思います。私たちは自分が選んできた自動車業ですので、これを大切にしていこうということ、誇りにしていこうということで、経営理念の中には「自動車業に情熱と誇りを持ち」という言葉もあります。
伊藤専務:
仕事を通じて全社員が自己成長できる場所、それがたまたま自動車業だったと、社長にとってはそんな感覚なのかなと思います。
社長が取り組んでいることは、人の心を育てていく人財育成。それを身をもって実践して下さる。我々にとって非常にプラスでありがたい存在だなと感じております。
知世子さん:
仕事のスキルはどんな会社でも学べると思いますが、どんなふうに物事をとらえていけば自分の能力を最大限に引き出せるのかですとか、仕事とは別にそういった学びの場があることは、社員さんたちにも喜ばれているのかなと思います。
市橋社長:
最近私が嬉しく感じるのは、社員さんのご家族の方がニコニコ顔でよくお店に出入りしてくださることです。社長と社員は平行線という言葉があった時代もありましたが、もう今では考えられないことですね。雰囲気よくやれているな、と思います。
小平:
そのあたりが働く社員が誇りを感じるというところなのでしょうね。本当にみなさん楽しそうに仕事をされていますよね。
本日はありがとうございました。

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