M&Aのメリット・デメリットの理解
まずM&A自体のそもそものメリット・デメリットについて改めて理解していただければと思います。これは自社のM&Aを行う目的がぶれるとそもそも何のためにやっているのかの部分が最後の最後に課題化してしまって結局M&Aに至らなかったり、あまりいい形に終わらなかったりすることがありますので、いい着地ができるためにもメリット・デメリットを見ていただいて、その上で目的を明確化していただければと思います。
まずは左側の列の買い手のメリットから触れていきたいと思いますけれども、買い手のメリットとしては既に営業している事業を買うことで一気に拠点展開が進められることでございます。これがM&Aの買い手における最大のメリットになります。やはり回収期間にも着目されますので、あまりにも投資回収が遅れてしまうことになるのであれば当然やめたほうがいいなどの決断も必要になるわけです。なのでメリットがあるのであればぜひ進めていただければと思います。
続いては管理コストの一元化により収益力アップが見込める点ですが、拠点展開が広がっていけば、管理コストも一元化できますので個々で管理していたことをシステム化するなりしてコストを抑えることも期待できると思われます。また、拠点展開をして、例えばホールディングス会社になるなどしますと外部信用力が向上しますので、金融機関が柔軟に融資をしやすくなる利点もありますので資金調達が容易になり、総合的に会社の質が上がりますのでいろいろなメリットが享受できます。
一方でデメリットとしてはやはりシナジー効果をよくおっしゃられる方もいますが、漠然としたシナジー効果は期待できないです。漠然としたシナジー効果は一緒になって偶然生まれることもあるかもしれませんが、基本的に期待できないと考えるのが無難でございます。なのでここは押さえておかなければいけないですが、例えばシナジーで何が期待できるのかについてですが、例えばM&A先の企業の仕入れ先を自社の仕入れ先の非常に単価の安い業者に切り替えると明らかに仕入れ原価を削減できるなど、一緒になる瞬間に明らかにシナジー効果があるのであれば、それは認めていいと思いますけれども、ただ漠然とシナジー効果を期待するのはやめたほうがいいです。
また、高値での買収がいい会社の譲渡であるほど買い手が集中し、入札になることも多々ございます。そうなると通常の相場観よりも高値を出さなければならなくなりますので。投資回収が遅れてしまいます。一般的なM&Aの投資回収は7年回収を基本として考えていただければと思います。
そして、その下、回収後に従業員・得意先の離散が起こる可能性がありますので、これがやはり買い手が一番懸念しなければならないことだと思います。これは買ったあとに従業員が全くいなくなってしまうと何を買ったのか分かりませんし、そこで活動していただくスタッフがいなくて、自社から送り込むスタッフもいなければ、本当に大損してしまいますので、ここに関してはしっかり売り手のオーナー社長から譲渡が実行されたと同時にしっかり従業員にも説明していただいて安心を求めるために個人面談等々もしっかりやっていただいて、その上で買い手として改めて個人面談をしっかり行って安心して、一緒に頑張っていく由の説明をしていくことによって限りなく防げますけれども、大量離散を起こさせないように、手を抜かないようにしなければならない点でございます。
続いて売り手のメリットですけれども、売り手のメリットとしては当然株式や事業の対価としてでお金を得ることができることです。中小企業の株式は親族内承継で引き継ぐと税金が掛かります。株は今もう株券は無いですけれども利益を出していけば価値が上がるだけで「税負担が非常に心配」と相談される方もいらっしゃいますが、ここがお金になりますので、今までの業歴の流れの中で培った資産を現金化できる非常にいいメリットだと思います。これが親族内であれば現金化できないですし、従業員承継で受け継いだサラリーマン個人が資金調達するのは非常に難しいので値引きせざるを得ないなどのケースがあります。ですので、やはり第三者にM&Aすると価値もつきますし、その際にしっかりした相手を選ぶことができることが最大のメリットだと思います。
続いて会社が残って資本力が増大することで大きな成長が見込めるという観点もあります。やはり自社単独での成長のスピードと比べまして、例えば上場企業と組んでいくことになりますと当然資本力やいろいろな総合力が増します。ですので今までのスピード感の十倍ぐらいの速さでいろいろなことが進んでいき拠点展開も進みますので、非常にいい成長が望めますので成長を目的としたM&Aの譲渡も事例としてはございます。
三つ目は代表者保証・自宅担保が外れることです、これは金融機関から借入金を借りる際にオーナー社長個人が連帯保証人になっておりますので、そこが譲渡と同時に代表者保証や連帯保証人が外れます。ご自宅も担保に入れていらっしゃる方もいらっしゃると思いますが、今後は第三者に株式を譲ることになりますので、基本的には自宅担保は外れることになります。
また、従業員の雇用が維持できるという観点から見ても、自社単独で行くよりも自社よりも当然規模が大きい会社と組むのが普通ですので、財務力の安心感があると雇用が維持できますし、さらに言えば拠点が増えていき出世するポストも増えることになりますので、非常に従業員にとっても魅力はあると思います。ただ、従業員も売られた感覚は急に説明されたら皆さん不安になります。こういったメリットについては売り手のオーナー社長がしっかり説明してあげなければ、伝わらない部分ですのでここは注意していただければと思います。
続いてデメリットですが、売り手のデメリットとしては自社の議決権がなくなることでございます。第三者への株式譲渡、M&Aにつきましては基本的には3分の2以上の株式を譲ることになりますので、議決権の消失はどうしても起きますけれども上場企業でイメージしていただきたいですが、やはり上場企業の株主と経営者は違うと思います。所有と経営が分離されていることでいい成長のバランスが保たれている、会社を私物化しない感覚です。そういう意味では自社の議決権はなくなるけれども、例えばそこに社長として残る、株式は譲るけれどもそこの代表取締役で留任することになれば、一緒に協力して成長していくことができますので、ここに関しては親会社になる買い手と相談しながら進めていくイメージを持っていただければと思います。決して後ろ向きなイメージだけではないです。
続いて、想定していた金額で売れないことは当然ながらあります。相場感が等の事情はありますが、やはり買い手の事情にも左右されますので、起きる時は起きます。また、売却条件を受け入れてもらえない可能性もありますが、これはタイミングもありますので後程触れていきたいと思います。あとはやはり長年ライフワークとして経営者をやってきた方が引退される、譲渡して少し引き継ぎ期間を持った後に引退されることを予定している場合は経営から外れる寂しさや虚無感にどうしても不安が譲渡の直前に起き始めます。これは事前にセカンドライフで何を楽しむべきなのか、次は何をやるかをイメージしていただくと軽減できると思いますし、会社に会長職として残る、顧問として残るなどいろいろな方法がありますし、体力的な面では徐々にフェードアウトする方法もありますので、一気にやめる必要はないことも少し補足として入れておきます。
M&A交渉は短期決戦
そして、M&Aにつきましては売り手の心理としては落ち着いてゆっくりじっくり進めたいと皆さん思われることだと思います。これはもう十中八九そうだと思いますが、ただ我々も冷静に考えてみますと、M&Aにおける交渉は売り手にとって長くなればなるほどリスクになります。これについて少しご説明しますが、それぞれの区分においてメリット・デメリットがありまして、長期交渉は売り手のオーナー個人にとっては当然メリットとしては安心しながら進められる、自分でちゃんと理解しながら進められるのはあると思いますが、長くなればなるほどデメリットの買い手の温度感の低下が目立ってしまいます。買い手としては、M&Aの情報を見た瞬間に買いたいと思い交渉を進めて、大体のスケジュール感を掴むわけですが、交渉がずっとゆっくり進んでしまうと、買い手としては違う投資案件や違う新規事業などに目が移ってしまい、そもそも時間を買うためにM&Aをするはずなのに案待ちになってしまいます。
その次です。外部環境としては経営成績が好転した場合、長い目で見て長期交渉をしていって経営成績が非常に良い場合、これは当初提示した譲渡希望額、譲渡条件についてよりも当然数字が良くなっているので、値上げ交渉はできるわけです。あくまで交渉なので増額される可能性はありますが、基本的に買い手はそれを嫌がります。なので成立しないことのほうが多いと捉えていただきたいです。
一方でデメリットとしては逆に外部環境が変化して自社の業績が下がったことです。例えばコロナによって葬儀単価が一気に下がった、葬儀件数が減ったなどで売上が激減してしまったことも聞いておりますけれども、そういったときに決算書が出てしまうと当然、買い手目線の企業価値が下がってしまい確実に減額交渉をされます。好転した場合は一応要求を飲んでもらえる可能性はありますが、業績が下がった場合は減額交渉をされる可能性が非常に高いので注意が必要です。
また・・・