◆開催日時:2020年12月10日(木)
◆講師:船井総合研究所 中野 宏俊
◆演題:「M&Aの仕組と手順」
はじめに
第3講座を始めさせていただきたいと思います。
第3講座は「業界別M&Aの相場と企業価値算定方法」につきまして引き続き金融M&A支援部M&Aグループの中野よりお送りさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
1.M&Aにおいて検討すべき課題
M&Aを検討するということは主に売り手側のイメージになります。売り手側がM&Aを検討するときには大きく分けて二つの課題がございます。
課題の一つ目が収入面の課題です。自身やご家族がちゃんと生活して行けるのかという生活資金の問題です。
二つ目はM&A後にご自身とご子息のポストはどうなるのかということです。もちろん金銭的な部分も関係があります。
活費についてはちゃんとポストについて報酬を得ることもありますし、逆に今までライフワークとしてやっていたものがなくなると非常に寂しさがありますので、ポストを準備しなければいけません。
特にご子息には長い人生がありますので、そういったポジショニングが大事になります。
主に収入面の課題がございますが、こちらについての考え方としてその下の矢印に行きますとM&Aによって今後必要な生活資金を確保しましょうということになります。確保の方法は株式の譲渡対価です。
まずは株を売ることがM&Aの一般的なものになりますので、その対価として生活資金を得ることになります。
オーナー社長の場合は役員を継続してらっしゃいますので、役員退職金としてご自身が受け取るとことになります。
これは税効果も活用できますので非常に良い活用法だと思いますが、これは一括で受け取るパターンです。
これと合わせて先ほど申し上げたご自身のポストも関係してきます。
役員報酬として定期的に収入を得ていくことも一つの交渉材料として使えますので、それを踏まえて収入面の課題で自分はどうしたいのか、いくらぐらい欲しいのかを解決していかなければいけません。
一方で、会社運営面の課題を右側の列に書いてありますが、買い手がしっかり従業員や取引先、お客様を引き継いでくれるのかの問題やご先祖様やご自身がその心底苦労されて作り上げた会社は子供のような存在だとよく伺いますが、会社を任せて大丈夫な相手じゃないといけないということになります。
この場合M&Aの条件設定を事前にしておかなければいけませんが、そのためには自社のビジネスモデルの情報をしっかり整理しておくことがコロナ禍においては買い手が1番注目されていますので、急に共倒れにならないために買い手は資本力のある企業様になると思いますが、そのためには自社の企業価値がいくらなのかを把握しなければ、これら二つの課題の解決が難しいと思われます。
ですので、ご自身のこれからの収入面を解決しつつ相手を選ぶ際には企業価値を自身である程度算定していきたいということになります。
2.企業価値の構成要素
これは中小企業のM&Aの場合は大体算定方法が決まっておりますので、今日はこちらを解説していきたいと思っております。
皆様お手元に自社の決算書をご準備いただいて私の話を聞きながら整理していただけると、ご理解いただきやすいと思いますのでよろしくお願いします。
企業価値の計算には三つの構成要素がございます。左側の時価純資産からご説明させていただきます。
これは貸借対照表から計算されるものになります。
流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産などの会社の財産と借金を差し引いた時価換算額が一つの構成要素となっています。
次に正常収益力についてご説明いたします。
弊社でもEBITDAと表現しますが1年間にキャッシュをどれだけ産めるか、つまりは会社の収益力のことを言います。
これを計算するときには減価償却費の加算や私的費用の加算、役員報酬額の調整などをしてEBITDAを計算します。
これに乗じるのが業界マルチプルです。第1講座で宇都宮の方からマルチプルについてざっくりとご説明させていただきましたが、マルチプルも企業価値を決める非常に大事なポイントになってきます。
計算式としては時価純資産額とEBITDAに業界倍率を掛け合わせたものを足したものが企業価値になります。
3.貸借対照表の構成
詳しく見ていくために貸借対照表は何かについて説明します。
簡潔に申し上げますと決算時の会社の財務状況を表す表です。
左に資産の部ということで、先ほど申し上げた流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産とグループ順に並んでいます。
これは左にも書いていますが、会社の財産を上から現金化しやすい順番で並べています。
ですので、資産の部の1番上の流動資産のグループでは1番上に現金がきます。
一方で右側に負債と純資産の部がありますが、資産の合計と負債と純資産を足した合計額は一致します。
つまり、右側の表は財産の調達方法を表す表になっています。
なので、例えば借金をして財産を集めてきた場合は集めた財産分が負債の部になります。
純資産は資本金の額に今まで稼いできた利益を足したものになります。
その純資産と負債の割合が一目でわかる表になっております。
なので、前提として表の仕組みをご理解いただければと思います。
4.資産の簡易評価算定
次はしっかりと決算書から評価をしていくところになります。
ただ、いきなり厳密な評価をするのはなかなか大変ですので、まずは簡易評価をしていきたいと思います。
お手元の決算書をご覧になられながら一緒に行ってみていただければと思います。
まず、左側の流動資産のグループになります。決算書の名目でいうと現金預金や売掛金、棚卸資産や在庫などが入っていると思います。この場合の現金預金は当然お金ですので、100%で評価します。
そのほかの科目の売掛金や棚卸資産は回収できないリスクが多少なりとも存在しますので、大体80%で評価をしてみていただければと思います。
評価をもうちょっと詳しくやりたい場合は売掛金、未収入金、受取手形の中で焦げ付いて回収できないものは0評価をしていただいて、あと棚卸資産の中で不良在庫になっている物や1年間全く売れてない物については0評価でしていただきながら決済していただくといいと思います。
ただ、そうすると結構、時間もかかりますのでやっぱりざっくりやる場合は8割評価でいいと思います。
次に有形固定資産のグループです。有形固定資産は土地、建物や機械、車両、器具、備品などが入っております。
これは土地、建物については60%評価になっていますが、これは不動産リスクを考慮していますけれども、土地、建物の値下がりに関してはなかなか読み切れないところがありますし、買った物を買った額で売ることはなかなかできず、いずれにしても価値が目減りするケースが非常に多いので土地、建物は6割評価になります。
業界によっては、土地、建物を別な業界や業種に活かすための転用ができないパターンもあって、そもそも評価にならない可能性もありますので6割評価にしておくのが無難です。それ以外の科目につきましては、一通り価値が付いて、中古で売却できる可能性もありますので8割評価となります。
そして、より詳しく計算したい場合ですけども、特に不動産の土地に関しては固定資産税評価額という固定資産税の切符がくると思いますけれども、その裏面に評価額が記載されています。
そのほかには路線価を計算するという方法もございます。
建物につきましても固定資産税評価額を参考にする方法や、不動産の鑑定士に依頼して鑑定書を作って鑑定額を使うという方法もございます。
そのほかの機械や車両については中古相場を調べていただくのが良いです。
次に無形固定資産についてですけれども、これは特許券やソフトウェア、電話加入権などの物体としての形がない資産になります。
これらは一律で8割評価にさせていただいております。
これを1個、1個評価していくのは結構難しいです。
詳しく計算したい場合は特許と権利に関しては本当に評価が難しいのでやっぱりそれを得意とする特許事務所に依頼をするのが1番ベストだと思います。
電話加入権についてですが、昔は価値が付きましたが、今は本当に0評価というか1本1,000円とかになってきますので、電話回線が多い場合に電話加入権を価値として見出してしまうと後々で評価を下げられてしまいますので、ここについては自分で厳密に評価をしていくのが良いと思います。
ざっくりやる場合は8割で大丈夫です。
次に投資その他の資産についてです。
保険積立金や投資有価証券、ゴルフ会員権などがありますが、これらも8割評価になりますが、保険積立金に関しましては解約返戻金がございますが、1番多いケースとしては生命保険の保険積立金だと思いますが、今解約したときに返ってくる金額が積立金の額と大きく違うことが多々ございますので、気になる方は各生命保険会社に問い合わせて仮に今やめたらいくら戻ってくるのかを確認していただきたいと思います。
他の有価証券につきましては上場会社については現状の株価を参照します。
ゴルフ会員権は非常に難しいですが、相場額がある程度決まっていますので、相場を鑑みて計算するとより細かくは計算できますが、1個、1個やっていると本当に時間がかかってしまいますので、そこは専門家に任せた方がいいかもしれませんが、まずは一律8割評価でざっくりやってくださいということです。
5.資産の簡易評価算定
今までの話を整理してみますと例えば決算書を見たときに現金預金、その他流動資産、土地、建物、その他有形固定資産などの項目があったときに現預金が1,500万でその他の流動資産が3,000万あったとして、ほかにいろいろと数字が入って資産の合計が1億8,000万だったとします。
その金額に先ほど申し上げた評価割合を掛け合わせるとそれぞれが右側の評価額になります。
そうすると1億8,000万の簿価だったものが時価評価だと1億3,300万くらいになります。
結構びっくりされる方もいますが現金化できないものの評価が下がるのは当然あり得ることですので、事前にしっかりと評価を行っていただく必要があります。
6.負債の簡易評価算定
一方で、今度は負債を簡易評価していきたいと思います。
負債の部につきましては・・・
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