◆開催日時:2020年10月8日(木)
◆講師:船井総合研究所 前田 宣彦
◆演題:「30 分で分かる初めてのIPO」
【講師】株式会社船井総合研究所 シニアコンサルタント 前田 宣彦(以下:前田)
【質問者】FCR 会員ビジネスユニット 井上 真莉奈(以下:井上)
はじめに
井上:第1講座は「30分で分かる初めてのIPO」をテーマにお送りいたします。まずは、そもそもIPOとはどういう意味なのかをご説明いたします。
IPOとは
前田:本日は船井総研の前田が講師を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。それではIPOについてご説明いたします。
IPOとは英語で Initial Public Offering の略になります。
日本語では新規公開株式や新規上場株式という意味になります。
各証券取引所の上場企業数
前田:日本の上場企業は4,000社あると言われておりますが、市場は有名な東京証券取引所だけではなく地方市場として札幌や名古屋、福岡に証券取引所がございます。
新規上場企業数の推移
前田:こちらのページは2011年以降にIPOした企業数の推移でございますが、ここ5年は毎年90社前後の会社が上場しています。
井上:年間90社以上の会社が新たに上場企業になるわけですね。2018年にはメルカリが上場したことが話題になりました。
業績が良い大企業が上場できるイメージがありますが、実際のところはどのような企業が上場していますか。
新規上場企業の売上高及び経常利益~新規上場企業売上高の推移2016年~2020年~
前田:こちらは最近5年間の新規上場企業の売上高のまとめです。株式市場にも様々な種類があります。
大企業向けの東証一部から成長企業向けの東証マザーズまで市場によって会社の規模も様々です。数字の単位が100万円となっていますが、東証一部に上場する企業の売上高は数千億円規模の会社もありますが、マザーズ市場の場合ですと新規上場企業の売上高の中間値は過去5年間を通じて20億円前後となっております。
マザーズ市場の場合でも売上高100億円を超える企業もありますが、最小で売り上げ水準が1億円や2億円の企業様も上場をはたしております。
前田:こちらのページには経常利益に関するデータがございます。マザーズでは同じように過去5年で経常利益の中間値が大体1.5億円から2億円裕福になっておりまして、中には赤字の会社でも上場を果たしているという状況でございます。
2020年新規上場企業の経常利益分析
前田:もう少し詳しく2020年を見ます。マザーズでは先ほど経常利益が1.5億円から2億円と言いましたが、2020年の上場企業全体で見ると93社中経常利益が2億円未満の企業は44社と実に半数近くを占めております。
さらに27社は経常利益1億円未満で上場している状況です。
井上:幅広い業績の企業が上場していますね。
経常利益2億円未満の新規上場企業分析
前田:経常利益2億円未満の会社の上場先はマザーズ市場やジャスダック市場、福岡、札幌、名古屋などの地方の証券取引所も結構上場先となっております。
本社が東京以外にある会社の場合は地方市場をターゲットにする場合も少なくありません。
企業規模に応じて自社に合った最適な市場を選択することが大事と考えております。
2020年新規上場企業の社長の年代
前田:少し話は変わりますが、参考までに2020年にIPOをした企業の社長の年齢の分布です。
平均年齢が50歳です。マザーズ市場だけ見ても平均年齢が47歳と恐らく皆様方がイメージされている例えばベンチャー企業の経営者の年齢層よりも比較的高いのではないかと考えております。
2020年新規上場企業のうち経営者が60歳以上の企業
前田:こちらは六十歳以上の方が社長を務める会社を絞り込んだリストになりますが、93社中の16社が上場しています。
80歳台の社長さんの会社も上場されています。このように一部の報道やイメージとは異なり実にさまざまな会社が上場されていることはご理解いただければと思います。
各証券取引所の上場企業数
井上:ところで、先ほどのグラフに出ていたTOKYOPROMarket市場はどういった市場なのかご説明をお願いいたします。
前田:TOKYOPROMarketは東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの市場です。こちらは金融商品取引法で定められている特定投資家の方や金融機関が取引可能な市場となっております。
対して一般の個人投資家の方は売買ができない市場になりますので、プロ向けのメディアには載るケースが多いですが、一般の投資家にはそれほど認知されておらず知名度が低いと指摘されてきました。
しかし最近では上場企業数が増加傾向にあります。例えば最近ではLINEの元社長の森川様が社長を務めるCチャンネルという動画メディアの会社が昨年TOKYOPROMarketに上場したことが話題となっています。
TOKYO PRO Market新規上場企業数の推移
前田:こちらのページは2012年以降にTOKYOPROMarketに上場した会社の企業数の推移でございます。
こちらの図からわかるように年々、新規上場起業数が増加しておりまして2020年には全41社中その1/4にあたる10社が1年間で上場している状況です。
新規上場企業の売上高及び経常利益~新規上場企業経常利益の推移2016年~2020年~
前田:こちらは最近5年間のTOKYOPROMarketに上場した企業の売上高のまとめです。
数字の単位が100万円と大きな数字になっていますが、TOKYOPROMarketでも売上規模の大きな会社が年々増加傾向にあるのでこのようになっています。
前田:続きまして経常利益の推移です。経常利益につきましても先ほど売上高でご説明しましたが、年々売上規模の大きな会社の上場が増えてきています。
TOKYO PRO Market 上場企業の経常利益分析
前田:こちらはTOKYOPROMarket全体の41社の経常利益に関するデータです。90%以上の会社が上場時の経常利益2億円未満で4社に1社は経常利益が1億円未満で上場している点も特徴です。
井上:TOKYOPROMarketのご説明ありがとうございます。上場企業と言っても赤字で上場している会社や経営者が六十歳以上でしている企業もあり、必ずしも世間でイメージされている大企業やベンチャー企業だけが愛用しているわけではないということがわかりました。
IPOの目的
井上:次にIPOの目的についてご説明をお願いいたします。
前田:上場企業になる目的は大きく分けて四つあると思っています。それぞれをご説明させていただきます。会社の資金調達、事業規模の拡大、個人資産形成、事業承継が主な理由になります。
まずは、資金調達についてご説明いたします。
上場時に新株を発行することによって市場から直接的に資金調達をすることが可能になります。
上場することによって監査法人の監査を受けることで会社の信用力がアップして、銀行からの借り入れも上場前に比べて有利になると言われています。
事業拡大も目的の一つになります。
上場企業になると知名度と信用力が上がりますので、取引の拡大や人材の採用といった点で有利になると言われています。
個人資産の増加も非常に重要なポイントになります。
理由としては、創業者の方が行ってきた努力が報われ、個人資産が増加することが我が国のベンチャー精神の健全な発達に重要だと言われているからです。
また持株会やストックオプションを導入している場合には会社の成長が従業員の皆様方の個人資産の増加によってモチベーションアップにつながります。
最後に事業承継についてご説明いたします。
上場によって後継者候補を広く集めることができますし、株式譲渡の手続きの簡素化や納税費用の確保にも有利に働くと言われています。
井上:経営者がIPOを目指す目的は様々なものがありますね。
IPOのメリット
井上:次に会社が上場したときのメリットのご説明をお願いいたします。
前田:先ほどのIPOの目的と一部重なるところがありますが、メリットについてご説明いたします。
主に三つ挙げております。まずは上場する準備過程でのメリットです。
会社の組織体制の強化になります。例えば予算管理だけを見ても厳格な管理が求められますので、仮に結果として上場しなかったとしても企業の成長につながることは間違いありません。そういった意味で経営基盤の強化につながることが一つ目の理由です。
二つ目は知名度アップと信用力の向上です。
知名度と信用度の上昇は事業拡大に直結します。特に地方企業の場合は地元で上場している会社自体が少ないので、上場の効果が顕著になると言われています。
三つ目に上場企業としての安心感が人材の採用や持株会のインセンティブになり、人材の採用に有利に働きモチベーションがアップし、人材定着率の向上につながると言われております。
井上:IPOには様々なメリットがあることは分かりました。
IPOのデメリット
井上:逆に上場のデメリットはありますでしょうか。もしあればご説明をお願いいたします。
前田:デメリットと言いますか、上場によるコストの増加と理解しております。
上場すると当然ですが一般の株主が増えることになりますので、決算発表や事業計画の公表というかたちで株主に対する対応の手間が増えます。
そうすると例えば親族だけで経営してきたオーナー企業とは異なる配慮が求められます。
上場の準備や上場したあとに上場を維持するための費用も問題になります。監査法人の監査を受ける必要がありますので、監査の報酬も必要となりますし、株主総会を開催するための準備も必要になります。
このような上場企業特有の費用も必要になってきます。
またリスク管理の問題も発生します。上場企業は広く一般の方からお金を集めている立場ですので、大きく注目を集めてしまいますので高い倫理観が求められます。
従いまして何らかのトラブルが起きた場合には大きく報道されますのでマイナスの影響も大きくなります。
従ってそういったことがないように普段から従業員の研修や品質管理などの努力がより一層求められます。
井上:上場することで手間が増えることもあるかと思いますが、例えばコンプライアンスなどは上場していない企業でも意識しなければならない項目だと思います。
そういう意味では上場準備を通じて会社の経営基盤が強化されて成長に繋がるという側面もあるのではないでしょうか。
前田:上場することは先ほど申し上げたとおり、事業の成長に繋がる大きなメリットがありますし、社内の体制整備や従業員教育を行うことが中長期的に会社の成長にプラスになるということは間違いありません。
そういった意味で大きな視点でみれば確かにコストやリスクなどの問題もありますが、それよりも会社の成長によるメリットの方が間違いなく大きいと考えております。
IPOにかかわる関係機関
井上:IPOを目指すにあたり特に留意が必要な事項について見ていきたいと思います。
具体的には関係機関とスケジュールがありますが、まずは関係機関から・・・
※ セミナーの講演録と当日使用したテキストをダウンロードいただけます。