
独自の社内システム「YTMS」
二杉:
物語コーポレーションは8期連続増収増益、2年前には東証一部に上場されました。2013年6月の決算では225億の売上、グループであるフランチャイズの店舗数も含めると380億の外食チェーンになってきていますね。この好調の要因について、どのようにお考えですか?

物語コーポレーションが展開している外食事業
加治社長:
外食には三つの大きな力があると思っていまして、一つは業態開発力です。業態や商品を開発する力ですね。メニューやマーチャンダイジング、そういったものを常に開発、改善する力が必要だと思っています。
もう一つは店舗開発力です。いい立地を見つけて、交渉して、少しでも有利な条件で物件を獲得していく。この力が非常に大きいと思います。
そして人材力です。いくらいい業態ができて、いい立地が見つかっても、いい店長がそこにいなければ、お店は継続的に繁栄していけません。この業態開発力、店舗開発力、そして人材、この三つがうまく回って、初めて継続的な成長ができるのではないかと思っています。
そういう意味で私たちは比較的そこがうまくいき、15年続いたデフレマインドのちょうど中間あたりから、ずっと8期連続増収できたのだと思います。
二杉:
私も長くお付き合いをさせていただいている中で御社を客観的に見ていまして、焼肉とラーメンという2業態で100店舗を超えるという、非常に稀有なことをやってのけられた企業であると思います。
通常チェーンというのは、だいいたい一つの業態は大きくすることができても、二つ三つとなるとなかなか難しかったりします。そのあたりの業態開発がうまくいっているポイントとコツはどこにあるのでしょうか。
加治社長:
二つあると思っていまして、一つは現会長であり創業者の小林佳雄の天才的な能力(笑)

創業者である代表取締役会長・CEO 小林佳雄
(左から4人目)を囲んで。
二杉:
なるほど(笑)
加治社長:
小林はすべてに対する論理性、それからセンス、この二つが突出しています。そのもとに商品開発部門、あるいはメニューのデザインをする専門家、そういった分野のプロが集まって、かなり時間をかけて開発をしていきます。今回「ゆず庵」という業態を開発しましたけれど、これには一年半くらい時間をかけました。毎週のように皆で集まって、店名を決めるのも300くらい案を出しまして。最後に小林が「名前だけは俺に決めさせてくれ」と(笑)。
すべてのことに対して、皆が案を出し合って、その中から、なぜこの名前がいいのかと話し合って、お互い競争し合います。ですから本当に箸一本、ユニフォームのシャツ一枚を決めるのにも、何度も話し合って侃侃諤諤(かんかんがくがく)とやります。これを社内では「YTMS」=「寄ってたかってみんなでするシステム」と言っています。小林という総合プロデューサーのもとに、それぞれのプロの専門家が集まって、毎週のようにYTMSをやっていくという(笑)。ですから決してポッ!といいアイデアが浮かんで、誰か凄い人がパパッとやっちゃうということではなくて、かなり時間と手間をかけています。
二杉:
なるほど。小林会長とは私も以前、対談させていただいたことがあります。論理性もセンスもお持ちの方です。こんなカリスマがいると、普通はいろいろなことが鶴の一声で決まっていくのかな?という印象を持ちますが、そうではないと。
新卒と中途の採用比率は同じ
二杉:
私が特にお付き合いさせていただいている開発本部は、新卒の方も多いですね。その人たちが最終的にはプロになっていくというところを傍で見ていて、すごい仕組みだなと感じています。新卒を、それぞれの専門分野のプロに育てていく過程でのコツなどはありますか?
加治社長:
そうですね。新卒をプロパー、そして中途採用をキャリアというふうに呼んでいます。これをひと言でいうと雑種化です。プロパーだけでは、そのプロパーに対して教える人がいないわけです。社内のやり方は教えることができるけれども、我々が戦っているのは社外や競合相手。そして今では同じ飲食業界だけでなく違う業種との競合になっています。飲食業界というのは常に身近な競合にさらされていますから、やはりいろいろなアイデアが入ってこないといけません。ですからキャリアの方々をプロパーと同じぐらいの数で入れていくことがとても重要だと思っています。
キャリアだけにすれば、若い人たちがいっぱい集まりますから、そのぶん幹部が少なくて会社としては人件費を抑えられえるというメリットがあるかもしれません。しかしそれでは次の成長ができないと考えています。プロパーとキャリアをどうやって融合させていくか。そして有能なキャリアの方々にプロパーをいろいろと指導してもらう。その中でプロパーを、例えば抜擢したりしながら融合を図っていくと。
二杉:
なるほど。そのあたりの人材が業態を作っていくというところが、うまく独特の雑種文化というものを形成しながらできていっていると。
経営理念は「Smile&Sexy」
加治社長:
先ほど二杉さんから、「小林というカリスマがいたら、その人の言うように決まっていくのではないか」というお話がありましたけれど、そういう開発力を磨く一方で人材力というのがあって、この人材力の基本になっているのが経営理念です。この経営理念が「Smile&Sexy」です。物語コーポレーションという名前もそれと連動しているんですけども、Smile&Sexyっていうのは、その字の通り「笑顔」。セクシーというのは「自分らしさ」「表現する」とかそういう意味なのですが、とにかく自分の思っていること、やりたいこと、感じたことを、常に表現すると。これを一番大事にしています。
二杉:
そうですね。本社に掲げられている額縁の中に、「人間味豊かに反応しよう」というスローガンがあって、楽しいときは喜べ、腹が立ったら怒れと(笑)。このあたりがすごくユニークだなと思っています。「個」を大事にされるという企業文化は、根底にはどういったお考えがあるのか興味深いです。御社の採用ホームページを見ていますと、自分らしく表現していいんだよ、ですとか、自分らしさが表現できない人は物語には居てもらっちゃ困る、くらいの印象を受けます。個を大事にする理由、そのあたりはどのようにお考えですか?

社員のみなさん。経営理念を日々実践し、取り組んでいる。
加治社長:
このプロジェクトがうまくいったらハッピー、あるいは昇進したらハッピー、給料がちょっと上がったらハッピー。そうかもしれません。では給料が上がらなかったら、それは不幸なの?と。プロジェクトが失敗したら、そのことは不幸になってしまうの?ということになりますよね。仕事の成果と、会社の成長と、個人の幸福感。これをどうやって一緒にするかというと、結局、プロジェクトがうまくい くとか、給料が上がるかとか、誰かがコケて自分が上がるかとか(笑)。そういうことではなくて、最終的には自分が考えて、自分が言ったことを実行できた時に、自信がついて幸福になるとか、自分が提案したアイデアに向かって努力をして、みんなを巻きこんで、そしてうまく行ったら、これはすごく自信になると。そういうことの積み重ねだと思うんですね。
二杉:
なるほど。成果によってハッピーになったりネガティブになったりということではなくて、成果とは別の次元で、自分らしく意思決定をしたり行動すること自体に幸福感があると。そしてそれがエネルギーになるということですね。個々の幸福感の延長線上に会社の成長や成功もあると。
あと、業態開発のところでいうと、物語さんは原理原則というところを大事にされていますね。
加治社長:
業態は、どの立地にどの規模で、誰をターゲットにして、いくらで何を提供するかという、このバランスが一番重要だと考えていて、これらはすべて原理原則だと思っています。
都心の繁華街で商売をする時の原理原則、私たちの場合は郊外のロードサイドの大型店という特徴の中で業態開発をしています。これにはそれぞれ原理原則がありますから、まずはその通りにやる。その上でセンスや開発というものが生かされていくと思うのです。
その原理原則をいつも、例えば船井総研さん、あるいはデザインの先生など、外部のプロの方々に教わりながらやっています。これは創業時から現在までそうなのですが、常に外部のブレーンの方々にいろいろ学びながら、常に原理原則に引き戻してもらいながら、その中でアイデアを出していっています。
【株式会社物語コーポレーション 経営理念】

教わったことを、とにかくやってみる

とにかく教わったこと、いいと思ったことは
試してみるのが社風。
二杉:
私も毎月、開発本部の方々のミーティングに同席させていただいていますが、すごく感じるのは、質問上手だなぁというところです(笑)。みなさん、コンサルタント使い方というか、引き出し方、質問がすごく上手ですよね。
加治社長:
どうでしょう(笑)。とにかく教わったこと、いいと思ったことを試してみるんです。せっかく教わっても、自分がやらないと次の質問ができないですよね。教わったことを一ヵ月の間にいろいろ試して、うまくいけばそれは報告になるし、ちょっと迷ってる時には次の質問になっていくと思うんですね。ですから教わったことをまず行動して、自分なりに噛み砕いて、より深いところに到達していこうという気持ちがすごく強いように思います。すると質問がより具体的になっていくので、そういうふうに感じていただけるのでしょうか。
二杉:
外食チェーンが行う型にはまったPDCAの回し方ではなくて、フランクな雰囲気の中で、しっかりとPDCAを回されているというのが、物語さんの組織でユニークなところかな?というふうに感じています。
加治社長:
それは多分、Smile&Sexyのセクシーの部分ではないでしょうか。例えば皆がAだと言っているからBとは言いづらいな、とかあるじゃないですか(笑)。一個のことを決めていかなきゃいけない時に、10人いて9人がAでも、自分がBだと思ったら自分はBがいいと思うと。なぜかというと、こういう理由だ!というふうにやっていくわけです。そうすると、自分はCだ!と言う人も出てくるわけです。これが非常に重要なことで、言いづらいから言わないのではなくて、思ったらやっぱり出していく。9対1だったのが、1の人の意見をやってみようと決まることもあります。ですから普通のPDCAではなくて、一ヵ月後には少し違うことになっている、ということはよくありますね。
毎月行う入社式、バースデーメール…社内での取り組み
二杉:
新卒と中途採用の採用比率は同じくらいというお話がありましたが。他社でキャリアを積まれた超プロの方たちと新卒の方、その親和性について、どう配慮されていますか?

毎月行われる入社式
加治社長:
企業文化ともいえるかと思いますが、具体的な施策としては60項目ぐらい行っています。例えば毎月のように入社式をしていますね。
二杉:
ほう!それはすごい。
加治社長:
キャリアの方々に対しても、きちんと入社式を行います。それはひとりでも。全役員が参加してお迎えしますよ。
このほかにも、誕生日にはWEBの中で、全社発信でおめでとうメールをしています。例えばAさんがBさんの誕生日に「誕生日おめでとう!」とメールを送る時に、Bさんだけでなく全社員に一斉送信すると。すると離れている人でも「今日はBさんの誕生日なんだ!」とわかりますよね。ですから誰かの誕生日を、常に全社員がわかる環境になっています。
二杉:
いま正社員数が500名を超えていますよね。ということは毎日が誰かの誕生日で、メールが行き交うと。すごいですね。
加治社長:
そうですね(笑)いろいろなメッセージが書かれていますから、そういうのを読んでみると、その人の人となりが見えてきますよね。あるいは文章力とか。ですから新しく入った人も、どんな表現をする会社で、どんな人たちがいるのか、そういうのがよくわかると思います。
あとは、入社して3~4ヵ月経ったときに行う一泊二日の「結び研修」ですね。これはプロパー(新卒)とキャリア(中途)が一緒に行います。そこでまた新しい出会いがありますね。
このほか毎週月曜日に四元中継朝礼も行っています。愛知・豊橋の本社、東京、上海、それから九州のオフィスですね。この四次元中継朝礼は1時間ぐらいやります。
二杉:
1時間ですか!
加治社長:
はい。そこでいろいろな意見が出てセッションになりますから、そういったものに触れるだけでも環境に早く慣れていくというか、理解が深まるのではないかと思います。
二杉:
こうしてさまざまな取り組みをお聞きしていますと、すごくコミュニケーションを取ることを大切にされていて、中でも「個」をとても重視されていますね。そういったコミュニケーションを取る時間は、一見、非効率に見えるかもしれませんが、それを続けることによって、やはり強い組織になりますし一体感が生まれますね。そちらを優先されているということですね。

入社式で祝辞を述べる加治氏
加治社長:
そうですね。人間関係は一度崩れたら構築するのに何倍もの時間とエネルギーがかかりますよね。ですから壊れないための努力をずっと継続していくことで、それらは身につきますし、文化や風土になっていきますから。そこは手間というよりも重要な投資といえますね。
二杉:
なるほど。優先順位が高いということですね。
私も他のチェーン企業さんともお付き合いをさせていただいていますが、多店舗化していく上でいうとなかなか難しく、省略されやすい部分だと思います。
加治社長:
そうですね。目に見えないし、形に現れませんし。仮にそれがなくても店舗と業態があって物件があれば、売上は立ちますからね。
「何をやりたいか」よりも「どう生きたいか」
二杉:
人材の育成という部分で、物語コーポレーションさんは新卒を採用する力が抜群だなというふうに見ています。そのあたりの考え方ですとか手法などあれば、お聞かせいただけますか?

小林会長が開催する意思決定セミナー
加治社長:
いま抜群とおっしゃっていただきましたけれども、決して抜群でもなくてですね(笑)
飲食業全般にいえるのは、やはり他の産業に比べて、決して人気業種とはいえません。どちらかといえば初めからこの業界を志して来るのではなく、仕方なくという場合もあると思います。
就職活動をする中で物語コーポレーションと出会って、これはちょっと違うぞと。なんだこれは?!ということで興味を持つ人がとても多いです。自分の言いたいこと、思っていることを言っていいんだよと。そうしないとダメよという会社はあまりないでしょうし。そういうところに興味を持ってくれる人が多いですね。物語コーポレーションという社名もそうですし、「Smile&Sexy」という経営理念。なんだそれはと(笑)
二杉:
なるほど。飲食業というジャンルを超えて、自分らしく仕事をしたりキャリアを積んでいく。そのフィールドが、たまたま外食をしている会社だと。そういう感覚なのでしょうね。
加治社長:
「何をやりたいか」というよりも、「どう生きたいか」という、そこの琴線に触れて入る人が多いですね。入ったらたまたま焼肉屋だったとか、たまたまラーメンだったっていう(笑)別にラーメン屋をしたくて入社したわけではなくて、物語コーポレーションでなら自分は開発型のプロフェッショナルになれるのではないか、自分は言いたいこと、あるいは考えていることが実現して、人を動かせられるようなリーダーシップが身につくのではないか。そういったことを期待して入ってきてくれる人が多いですね。自分の目的と会社の理念が合致して入ってきていますから、比較的早い時期からいろいろなことを言ったりやったりする人が多いです。若いリーダーが生まれやすい環境ではあると思いますね。
二杉:
最初の会社説明会のセミナーで意思決定から逃げるなというお話しをされるとお聞きしたことがありますが。なぜその話を最初の段階でされるのですか?
加治社長:
会長の小林佳雄が毎回行っている、2時間半にわたる意思決定セミナーという名物セミナーがありまして(笑)今では他の企業さん、あるいは自衛隊、学校などいろいろなところからセミナーの依頼があります。
冒頭に言いましたように、与件に振り回されて自分が幸せか不幸かということではなくて、自分が与件を作っていく、自分が与件になっていくというのが、個人の幸せへの第一歩といいますか根本だと思うんですね。無意識に何かを生きるのではなくて、なんでも意識的に一つひとつのことを決定して生きていく。無意識な人生ではなく、意識のある人生、それを選ぼうというススメですね。
二杉:
なるほど。
加治社長:
日本は平和で経済力もあるので、無意識に生きていてもなんとなく生きていける社会ですよね。そうではなくて、例えばネクタイにしても時計にしてもペンにしても、一つひとつ意思決定をしながら生活をしていく。それが仕事にもつながるし、普段の生活にもつながる。そういう生き方をしようというメッセージだと思います。
発信することで覚悟を決める

理念に共感する人が集まり、お互いに高めあって成長しあう。
二杉:
当社も数年前に、社長が今の高嶋に変わるタイミングで「明日のグレートカンパニーをつくる」というスローガンを入れました。グレートカンパニーはひと言でいうと「いい会社」ですが、規模さえ大きければいいというのではなくて、質も伴ったいい会社というのをイメージとして持っていただけたらと思います。それを掲げることによって、では自分たちも質を伴った人間性の高い、いい会社になれているのか?ということが問われますので。発信することで覚悟がかわりますよね。
加治社長:
そうですね、名前こそコンセプトですね。でもグレートカンパニーってすごくいい響きですね。グレートって感動を感じるときに使う言葉ですから。よほどの覚悟がないと言えないですよね。
実はそれはすごく大事です。先ほどコミュニケーションでWEBを使うと言いましたけれど、WEBの中で社員が宣言したり明言したりするんです。それは決まったルールがあるわけではなくて、本人がそうと思った時に、自分は今こう思った!宣言したい!と皆に発信していいのです。これはすごく意味があって、それを読んだ人もすごく触発されますし、新入社員の時、あんなに情けなかったやつが2年経ってこんなにも成長するんだと、その当時の上司が反応したり。何よりも本人が全社員に明言するわけですから、やらざるを得なくなるわけですよね(笑)自分をやらざるを得ない状況に追い込むこと、向こう傷を恐れないで明言することの重要性ってありますね。
二杉:
そのとおりですね。今後ますますフランチャイズの加盟店さんも増えて、理念に共感する人が集まってこられて、発展していかれるのだろうなというふうにワクワクしています。
加治社長:
ありがとうございます。そうなるようにがんばっていきたいと思います。
外部の企業から物語コーポレーションへ
二杉:
加治社長は創業者の小林会長から社長を承継されましたが、以前は外部の会社におられたのですよね。物語さんはとても個性のある外食企業だと思います。その中で、どう会社を伸ばしていこうですとか、心がけられていること、または苦労をしたよ、ということなどはありますか?

創業者 小林会長の開発力を継承することが重要だと感じている。
加治社長:
そうですね。僕は、物語コーポレーションは昔から知っていました。小林会長とは20数年来の業界の先輩と後輩という仲で、尊敬する経営者ですし、物語コーポレーションの社内報もずっと送ってもらっていましたから「社外物語人」くらいの気持ちでいました。そういう意味では物語のファンだったひとりなのです。
実際に入ってきて一番初めに思ったのは、とにかく物語コーポレーションの社員すべての人が、小林佳雄が大好きで、崇拝して、尊敬しているし、大好きなんです。その後に入ってきた人間ですから、誰だ!?と(笑)しかも外部からですからね。いくら小林佳雄が指名したからといって、ハンパなやつじゃ許さないぞ!みたいなね(笑)それくらい物語に対するロイヤリティーが強い人たちですから、一日も早く自分を理解してもらうことが大事だなと思って、そういう気持ちで来ました。
いま2年半経ちましたが、気をつけていることが3つあります。ひとつは、小林佳雄の天才的な開発力、これをどう組織的につくっていくか。これは非常に重要だと思っています。いわゆる、開発力の継承ですね。それから「Smile&Sexy」という経営理念をはじめとする60数年間にわたって積み上げてきた企業文化、風土。これを薄めることなく、むしろ力にして活かしていけるかどうか。これにチャレンジすると。最後にリーダーシップのスタイルです。基本的にはすべてをオープンにして皆で話し合いをして、議論を尽くして、その中でのリーダーシップを確立するというスタイルですね。
二杉:
なるほど。先ほど加治社長がおっしゃっていた、自分をまず開示するというところで、御社のひとつの企業の風土の中で大事にされている「自己開示」というキーワードがありますね。自己開示をなぜ大事にするのかというところを、少しお話いただけますか。
加治社長:
はい。例えば10年間一緒に隣同士にいても、仕事はできるんですね。あまりしゃべらなくても。そういう会社はいっぱいあると思うんですよ。でも、自分が何を考えて、何を思っているか、なぜそう思ったのかということをお互いに常に開示していたら、3日も経てば相手のことをよく理解し合えると思うんですね。そのためにも自己開示はすごく重要だと思っています。これがないと、例えば夫婦でいうと熟年離婚とか、そういうふうになってしまうと思うんですよね。
他人でも、違う人種でも、お互いに自己開示をすることによって、違うことが理解できる。なぜ違うかということが理解できれば、それに対してまた対応することができる。多様性をどうやって重要視していくことができるか。それが本当の力になっていくと思います。
店舗開発のプロたち
二杉:
ありがとうございます。
次に、加治社長がキーワードで挙げられていた2つ目の店舗開発に関してお聞かせください。

店舗開発は百戦錬磨の精鋭部隊で構成されている。
加治社長:
店舗開発だけは、本当にプロでなければできません。現在、店舗開発で部員が8人くらいいますけれども、プロパーはひとりもいません。
二杉:
なるほど。そうでしたか。
加治社長:
大手のファミリーレストランやファーストフードで百戦錬磨やってこられた方々が活躍する部署になっています。ですから平均年齢も高いですしね。車でどこを走っていても、「ここにはこんな大家さんがいます」と、頭の中にすべての情報が入っているような本当のプロです。
本来ならばそういった人たちは組織的に浮いてしまいそうなイメージですが、とても親和性が高くて、誰を見ても物語人といいますか、そんな人たちの集まりになっていますね。そして、営業や他部署とのリレーションシップがうまくいっているということが非常に大きいと思います。
店舗開発は確かに物件ありきで、目標が明確です。何軒開発するといったら、もうそれがそのまま成果に現れますから。物件を取ったあと売上がどうなっていくのか、そういったことに対する責任感が非常に強い人たちが多いです。ですから店舗開発したはいいけど全然売れないじゃないかとか、というよくある話が、全くないですね。つまりはずれない。
FCオーナー向け勉強会「清正会」

全社イベント物語ファミリーコンベンションの様子。
FCオーナーはもちろん、その家族も参加する。
二杉:
もうひとつ、物語さんのビジネスのあり方として、フランチャイズ本部をされていますね。私も3年前に、加盟店オーナーさん向けの勉強会でセミナーをさせていただいたことがありました。そのときにユニークだなと思ったのが、オーナー会の名称「清正会(セイセイカイ)」です。清く正しい会と書きますよね。このあたり、フランチャイズ本部としての考え方、あり方について、特別な考えをお持ちなのでしょうか。
加治社長:
最初、小林はFC事業のことをとても疑っていたんです。自分が責任を取らず、アイデアがうまく行った時に人にやらせる、それは虚業でないかと。初めはそう思っていたようですが、1号店をやってくれたのが、ずっと長くお付き合いさせていただいていて、現在もお願いしている問屋さんでした。ぜひこの焼肉事業を自分たちもやりたいということで一緒になって作っていったところうまくいって、とても喜んでいただいて。では2号店3号店やろうかということで、その会社にとってはひとつの大きな事業の柱になったのです。
そういう経過を見て、これは虚業ではなくて人の役に経つビジネスだというふうに考え直して、FC事業をしっかりとやっていくことになりました。
我々は常に、実業としておやりになっている加盟店さんにとって役に立つ本部でなくてはいけないと、そういうことから「清く正しいFC本部の会」ということで象徴的な呼び方をしています。
清正会では、儲かるフォーマットを常に改善をしています。飲食業界はすごく激しいですから、一回開発したフォーマットがずっと永続的に残るわけではないんですね。特許を取れるわけではないし、真似もされます。今年流行った商品が来年もというわけにはいきませんから、常に儲かるフォーマットにし続けなければいけません。
次に、直営と同じレベルでの指導です。店舗運営力を直営と同じレベルでやっていただくためには指導力がなければいけないし、指導力が発揮できる仕組みでなければいけないということで、私たちの場合はひとりのマネージャーが直営もフランチャイズも両方見ることにしています。
二杉:
ユニークですよね。
加治社長:
通常でしたら、直営は直営、フランチャイズはフランチャイズと分けますけれども、分けないでしています。それから何でも情報開示していき、隠さないということですね。この情報は直営だけでFCには言わないというのではなくて、すべて開示ができるようにする。そのためにもマネージャーが両方見るようにしています。
それと非常に重要なのがクイックレスポンス。直営だけだと、現場の声や現場から何か要望が上がっても、途中で立ち消えになってしまうことがよくあると思うんですね。たぶん私たちも、どんなに人材力開発力といっていても、組織のヒエラルキーはどうしても出てきますから、下から情報が上がってくるようになるのは、だんだん会社が大きくなるにつれて難しくなると思います。フランチャイズというのはそれがまったくありませんから、真摯に一つひとつ検討して、しかも早く応えなければいけません。これは我々自身を鍛えることにもなります。
二杉:
なるほど。清正会のときに感じたのが、FCさんとお付き合いすることによって、身内だけだとなあなあになってしまうようなところも、襟を正すというか、そういった部分がすごくあるのかなと思いました。
加治社長:
この効果は本当に大きいと思っています。逆にいうと、この効果を最大限大きくしようという意図も小林の中にはあったものですから、清正会のやり方も、我々が緊張しなければならないような仕組みになっています。

海外進出 これからの物語コーポレーション
二杉:
最後になりますが。上海のほうにも進出されましたね。海外も含めた今後のチャレンジについて、どんなふうにお考えですか?
加治社長:
中国の業態開発には2年かかりました。「鍋源(なべげん)」という業態ですが、これは上海の独資でやった会社で、おかげさまで2号店まで出ました。国内の物語コーポレーションのいいところを移植して、中国で働く方々もハッピーになれるような会社作りを目指していきます。
中国の方々は非常に優秀で、先ほどの自己開示や意思決定、こういったことに長けている方がとても多いです。もともとリーダーシップのある方がたくさんいるんですよ。そういった人たちと、日本の社員をもっとミックスして、お互いに刺激を与えあうような関係性でいたいと思っています。

「中国における中国人のための中国人によるお店」をコンセプトに火鍋と寿司の食べ放題『鍋源(GUO YUAN)』2012年10月上海にOPEN
二杉:
物語さんの企業風土や理念は特異だと思うのですが、言語の壁を越えて、中国の方との土壌や風土とあいまって、これから伝承されていくということでしょうか。
加治社長:
本質的なところで、言語の壁はそんなに大きな壁ではないと思っています。実際に会社を見てもらって働いてもらうということもありますし、中国の方に新卒やプロパーで入った人との交流もありますので、大事な肝となるところは押さえられていると思っています。むしろ日常会話、もっと多くの人と気軽にコミュニケーションしたいという意味では、言語の壁は大きいと思います。そういう意味で会議や朝礼など、大事なセッションには必ず通訳の方にお願いしています。
二杉:
通訳の方は社内に常駐いただいているのですか?
加治社長:
そうです。総経理や副総経理には中国の方もいらっしゃいますので、そういう方は日本語も中国語も両方話せますが。
二杉:
なるほど。今後の中国でのご活躍も楽しみです。今日はたくさんのお話をお聞かせいただきました。ありがとうございました。
加治社長:
ありがとうございました。
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