金融機関(貸す側)の視点での事例解説
第一講座ではA社の事例で、借りる側の視点、企業側の視点からの解説をご紹介させていただきましたが、第二講座では金融機関側の視点、貸す側の視点から解説をさせていただければと思います。
講座の構成としましては2点あります。一つ目が「事例における金融機関の動きとその背景とは」で、二つ目が「事例における重要ポイントの整理」となっております。「事例における金融機関の動きとその背景とは」と言いますと、A社の事例に対して金融機関は特徴的な動きをしていたと思います。元金融機関にいた私からその背景について解説させていただければと思います。
そして最後は、事例における重要ポイントの整理ということで、今回の事例において金融機関の背景も踏まえて今後取っていくべきアクションについてお話をさせていただければと思います。
事例における金融機関の動きとその背景とは
そうしましたら、一つ目「事例における金融機関の動きとその背景とは」ということで進めさせていただきます。
まずは簡単にA社事例のおさらい、全体像の把握をしていただければと思います。A社という黒字の企業がありました。その企業が銀行団に対して融資の依頼をしたというのが事例の冒頭になります。黒字であったのにも関わらず銀行団からの回答はバツ、ノーといった結果が返ってきました。
そののち、金融機関宛ての対策を講じたことで融資に関しては丸、調達ができたというのが簡単なA社の全体の流れになります。
その中で注目するべきポイントが2点あります。一つ目が銀行ポジションの整理、メインバンクの選定ということで右側にある銀行団、信用金庫X、信用金庫Y、地方銀行X、地方銀行Y、政府系金融機関ということでジャンル分けをしていますが、それぞれメイン、準メイン、それ以外ということで銀行団を整理した形になっております。その中で今回のケースでいきますと、信用金庫Xがメインバンクとして据えられたわけです。
二つ目が事業計画の提出となっております。また、この事業計画も形式がP/L、B/S、キャッシュフローということで財務3表そろったものに加えまして、追加要素として3ヶ年の計画、単年度の計画ではなくて3ヶ年の計画と、店舗別の収支状況ということでA社の場合は整骨院を行っていた会社だと思います。それぞれの店舗別の収支の状況を据えた事業計画を提出したというのが、このA社事例の二つのポイントとなっております。
このA社の事例での分岐点というものがあると思います。それは「なぜ、融資があるタイミングで停滞したのか。なぜ、事業計画の提出とメインバンクの選定を行うことで融資を受けることが出来たのか。」で、この2点が大きなA社事例の分岐点になると考えられます。
この2点について、金融機関側の目線でその背景を解説させていただきたいと思います。
金融機関の動きの背景解説
そうしましたら、一つ目についてお話します。当初は元々は問題なく融資を受けることができていたA社でした。下に業績推移として表を記載させていただいていますが、直近の業績でいきますと2021年3月期、売上が2億5,000万、利益が500万としっかり黒字を確保しています。過去4期のトラックを見ても取引金融機関を増やしながら融資の総額を順々に増加させていただきました。一番情報が古い2018年3月期では融資額が3,000万だったものが、2021年の3月期では2億2,000万まで増えている状況です。
しっかり資金を調達して、その資金を使って売上を増やして利益を稼ぐ、成長軌道へ乗せているA社というイメージです。
それが、あるタイミング、表の赤囲いをしていますが2021年の3月期のタイミングで停滞したというのがA社の事例でした。はたから見ると順調に融資をこれまで受けてきて少しずつ成長も数字に現れてきたタイミングで、なぜこのタイミングで融資が停滞したのかということが一つ考えれるかと思います。
その背景としては大きく二つ考えられます。一つ目が借入総額の増加による銀行格付けの悪化、二つ目がメインバンク不在による間違った取引バランスの展開で金融機関内での採算の悪化です。この2点が大きく背景として存在しています。
一つ目、借入総額の増加による、銀行格付の悪化による融資停滞の要因を解説させていただきたいと思います。
そもそも簡単に「銀行格付とは」という話をさせていただきます。銀行格付は昔からあるものなので、ある程度メジャーな手法ではあるかなと思いますが、少しお付き合いいただければと思います。銀行格付とは銀行内での取引先を設定する評価指標となっております。
金融機関によって少し特徴はありますが、今現在画面にある六つの区分がされておりますが、基本的にこの六つの区分に関して言うと、金融機関は皆同じ指標を使っているだろうと思います。その中でも企業が融資を迅速かつ十分に受けようと思うと、今図で赤囲いされている正常先に少なくとも属してないといけないというのが銀行格付の特徴になります。
この銀行格付とは何で決まってくるのかということですが、この右の表3点が主な要素となってきます。そもそも銀行格付とは、今どの金融機関もある程度オートマチックにシステム化されて算出されるものではありますが、この三つに関して言うとどの金融機関も絶対に注視している指標になるので、この三つに対して対策をしていくというのが有効になってきます。
一つ目が実態利益です。こちらに関して言うと決算書上の経常利益、当期利益といった利益ではなくて、実際の事業から出る利益というイメージです。例えば保険解約益や、一期だけで発生しうる利益、不動産を売ったときに出た利益、特別利益とかをイメージしてもらえれば大丈夫です。そういった一過性の損益を省いた、事業から生み出した純なる利益が、黒字なのか赤字なのかというのを金融機関は見ています。
二つ目が実態純資産です。こちらも先ほどの実態利益と少し似ている形で、決算書上の純資産額から銀行が指標によってマイナス評価をした資産額を差し引いた金額、銀行ルールに則って設定した実態純資産の金額はプラスなのかマイナスなのかということになります。
三つ目が償還年数です。銀行が返すべきだと認識している有利子負債、借入金を事業が生み出すキャッシュフローで何年で返す力があるのか、この力が10年から15年以内に収まっていないと左の表の赤囲い、正常先に入ることができないというのが銀行格付の特徴となってきます。
今回のA社の事例でいきますと、償還年数がおそらくヒットした結果、銀行格付の悪化というものを及ぼしたのだと想定されるわけです。
そうしましたら、銀行格付けが悪化した場合、どのような影響があるのかということをご説明させていただきます。今ご覧いただいている表は、格付とその決裁権限のイメージという表になります。決裁権限とは融資案件の決裁を取る権限がどこに所属するのかというのをイメージしていただければと思います。
その権限で所属するのが、表の、部長から始まり役員会で終わる縦の行になります。そして格付がAから始まりGで終わり、横に連なっているものが格付になります。その中の金額が融資の決裁できる金額と思っていただければと思います。ですので、正常先のA、一番右にあるAと、支店の部長の権限というものをクロスさせて合わせると1億の金額が出てくると思います。この1億というのはトータルでその企業に対して1億までなら部長が「決裁OK」と言えばお金を出せるという表になっております。ここから何が伝えたいかと言いますと、格付けが上がるほど、Aに近づくほど、部長が融資できる金額、支店長が融資できる金額が増えますし、プラスアルファ権限が変わるほど、融資難易度が上がるということです。
部長が1億出せていたので、次は1億を超えて支店長に決裁をしていただきたい、その場合、部長から支店長に権限が変わるわけですが、変わるほど審査の難易度が上がることになります。今回のA社の事例では、格付けが上がるのではなくて下がっているということが見受けられるので、恐らくですが融資のできる金額は増えないということが想定されます。
また、権限が変わる要素としてのちほど説明しますが、その要素もそろっていないということで、A社に対して融資できる金額は増えなかったのだろうというのが想定されます。
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