新規事業開発のコンサルティングをさせていただく中で、よくいただく質問として、「リソース投入をどう考えるべき?」というものがあります。
無限のリソース(お金や時間)があれば困らないですが、現実的には有限、それも不足感がある中でのリソース配分をしないといけません。場合によっては新規事業をストップするという、撤退についての決断をする必要があるケースもあります。
本コラムでは新規事業を成功に導くために、その開発の流れに沿ってどのようなことを考えるべきなのか、実例を踏まえてお伝えさせて頂きます。
①事業案検討段階:必要リソースを洗い出す
新規事業の失敗は、実は「事業案検討段階」から始まっているケースが少なくありません。このフェーズで最も重要なのは、「この事業を進めるために、何がどれだけ必要なのか」をできる限り具体化することです。
この段階で実行に必要なリソースの洗い出しが不十分なまま次のフェーズに進んでしまいますと、結果として、立ち上げ段階で「想定していなかった工数がかかる」「社内にできる人がいない」といった問題が噴出します。
この段階で整理すべきリソースは、分かりやすいところではお金や推進の人数です。
他には、店舗ビジネスの場合は適した土地が見つからないことがボトルネックになるケースもありますし、BtoBビジネスであれば「営業できる人材がいない」「既存顧客に提案しづらい」といった制約が、事業推進の大きな足かせになることもあります。
これらの洗い出しにおいては机の前で考えることも必要ですが、類似の先行事例を調査することが一番手っ取りケースが多いです。
類似の先行事例を調査して、各フェーズでどのようなリソースを使っているか?いまいち伸びていないとしたら、どのようなリソースがボトルネックになっているのか?をしっかり調査します。
それによって、事業案の検討段階からそれを前提にした検討が可能になり、「この事業は本当に今やるべきか」「今の自社で取り組めるか」という現実的な判断が可能になります。
ベンチマーク調査でのヒアリング例
ヒアリング項目例 | ヒアリング内容 | |
|---|---|---|
| カネ | 初期投資額 | ✓ システム開発費、設備投資費、物件取得費はいくらかかったか? |
| 運転資金とその構造 | ✓ 月次の固定費(人件費、家賃、システム保守費)と変動費(原価、広告宣伝費)の比率はどうなっているか? ※金額だけでなく、その構造(どういうときに金額が増えるか?)の把握も必要 | |
| 収益指標 | ✓ 1顧客(または1店舗)あたりの獲得コスト(CPA/CAC)と、そこから得られる生涯価値(LTV)はいくらか? ✓ 黒字化するために必要な最低顧客数や稼働率はどの程度か? | |
| 撤退基準 | ✓ 事業開始時にどのような基準を设けていたか? ✓ いまから振り返って適切な設定であったか? | |
| ヒト | 立ち上げ期(0→1)の要員体制 | ✓ 専任担当者は何名いたか(兼任で回せたか、専任必要だったか)? ✓ プロジェクトリーダーにはどのようなスキルセット(業界経験、技術知识、営業力など)が求められたか? |
| 拡大期(1→10)の増員計画 | ✓ 顾客数や店舗数が増えるにつれて、どの部門(営業、CS、開発、事務)の人員をどう増やしたか? ✓ 「ボトルネック人材」の特定:成长を阻害したのは「どの職種」の採用難・育成難だったか? | |
| 外部パートナーの活用 | ✓ 自社で賄えない機能をどこに外注したか(コールセンター、物流、システム保守など)とその費用感 | |
| モノ | 立地・物件条件 | ✓ 成功している店舗の具体的な商圏条件(人口、交通量、競合状況)は何かって? ✓ 出店に適した物件のスペックと市場での希少性はどうか? |
| システム | ✓ 事業運営に必須となるシステム機能は何か。パッケージ製品で代用可能か、スクラッチ開発が必要か? ✓ 技術的な参入障壁(特許、特殊な製造設備)はあるか? | |
| 情報 | 外部環境データの取得先 | ✓ 経営管理において、外部要因の把握としてどのような指標をみているか? ✓ 定期的に購入しているデータはあるか? |
| ノウハウの取得 | ✓ 事業をより成長させるために、外部から定期的にノウハウを取得するルートがあるか? | |
②事業計画フェーズ:撤退基準を設定する
こうして事業案検討段階で必要リソースを洗い出していくと、多くの企業で共通して見えてくるのが、「この事業は想定以上にリソースを食う可能性がある」という現実です。そして同時に、「どこまでなら許容できるのか」「どの時点で見切るべきなのか」という問いが、避けて通れないものとして浮かび上がってきます。
そこで重要になるのが、事業計画フェーズにおける撤退基準の設定です。
ある程度事業化が見えたフェーズで、事業計画を策定します。そこで基本的には撤退基準も設定すべきと考えます。
企業によってはあえて撤退基準を設定しないケースもありますが、よっぽど経営トップが直接関わっているケース以外には撤退基準を設けた方が良いと考えています。
特に問題になりやすいのが、「成果が出ていないことは分かっているが、明確な撤退基準がないため、誰も止める判断を下せない」という状態です。
事業担当者としては、「もう少し続ければ兆しが見えるかもしれない」と考えますし、経営側も「せっかく立ち上げたのだから」と判断を先送りしがちです。その結果、事業は成長もしなければ、きれいに終わることもないまま、組織の中に残り続けてしまいます。
だからこそ事業計画フェーズでは、「どこまでやるのか」だけでなく、「どこで止めるのか」を同時に決めておく必要があります。
撤退基準とは売上や利益といった最終成果だけを指すものではありません。
また「いつ」判断するかも重要です。これは数値計画を組む際に、事業のフェーズごとにKPIを設定しますが、それと密接にリンクします。
【ケース】
テスト販売の結果、広告で5000人にリーチしたら計20万円の注文につながるとの結果が出ていたが、事業化後に5000人にリーチしても5万円分の注文しか入らず、これでは広告の費用対効果を考えると事業として成立しないので、撤退の決断を下した。
このような事業では、広告費を考えてもペイするだけの反響・受注があることを前提に数値計画を組み、反響率をKPIとして設定して現場ではその反響率を達成できる広告作成に取り組むことになりますが、ある程度期間が経ってもそのKPIが達成できない場合は事業としての勝ち筋が見えないので撤退する、と予め決めておくことが、リソースの出血を抑える意味で重要です。
事業フェーズ別に見るKPIと撤退判断基準の関係
③事業立ち上げフェーズ:経営トップの時間を使う
撤退基準を定め事業計画が固まったとしても、それだけで新規事業が自走し始めるわけではありません。むしろ本当の意味で難易度が上がるのは、この事業立ち上げフェーズからです。
この段階で多くの企業が直面する課題は、「判断が遅れること」「決めきれないこと」です。新規事業は既存事業とは異なり、前例や社内ルールが整っていません。
そのため現場レベルでは判断できない論点も次々と発生します。
たとえば、
- 既存事業と価格やターゲットが競合しないか
- 想定していなかった顧客層から引き合いが来たが、受けてよいのか
- 当初の計画から外れるが、追加投資をすべきか
こうした判断をすべて現場に委ねると事業は確実に止まります。
加えて推進者も様々なトラブルが次から次へと起こることで、精神的にも不安になりがちです。
そこで決定的に重要になるのが、経営トップの時間を使うことです。
ここで言う「時間を使う」とは、日常業務の合間に報告を受けることではありません。
新規事業に関する重要な意思決定に、優先的に関与するという意味です。
また時間を使うことでコミットする姿勢を推進メンバー・既存事業メンバーに示すことは、新規事業推進メンバーにとっても精神的な支えになります。
いかがでしょうか。船井総研では、上記各フェーズで貴社の事業の成功をサポートするコンサルティングを実施しております。ぜひ以下より無料経営相談のお問い合わせをお待ちしております。
![]() | 執筆者: プロジェクトマネジメント部 マネージング・ディレクター 内田 洋平 うちだ ようへい |

