100億企業化を実現する上での組織戦略は、企業の持続的成長を阻害する根本的な課題、すなわち「経営者の直接管理の限界」を解決し、組織体制と内部統制を強化することに集約されます。多くの企業は年商10億円から30億円、創業15年から20年を迎える時期に「踊り場」に差し掛かり、ここで組織構造を転換できるかどうかが、その後の成長と衰退の分かれ道となります。この踊り場を最短で乗り越え、持続的な成長を実現するために経営者が解決すべき核心的な課題と、それに伴う必要な組織戦略について、お話をさせて頂きます。
間接管理経営への転換
経営者の直接的な管理体制が限界を迎えると、業績の鈍化、生産性の低下、離職の増加、不正の多発、俗人的な組織運営、マネジメント人材の不足、利益率の低下といった、多様で特定し難い潜在的な経営課題が発生します。間接管理経営とは、経営者が事業責任者、人事責任者、財務責任者の兼任を止め、経営者が直接管理しなくても持続的に成長できている状態を実現することです。
この転換を実現するための組織戦略の核は、経営チームの組成です。経営者は、事業成長投資から経営チーム作りへの投資へと時間配分を転換させなければなりません。経営チームには、それぞれの領域について経営者よりも詳しく、経営判断に影響力を持つ専任の責任者が必要となります。
阻害要因を取り除く専門部署の組成
100億企業化を阻害する要因を取り除き、成長を加速させるためには、特に以下の4つの専門機能を組織内に組成することが有益です。
1. 強い人事部(人事責任者)の組成
規模拡大に伴い、採用数増、離職対処数、人材の質向上、人材育成の早期化、キャリア多様化といった重要テーマの多様化と高度化と共に、労務コストのコントロールも経営に影響を与えるレベルに拡大していきます。
【解決策と必要機能】
① 計画採用・計画育成への転換:中長期経営計画と連動した人事KPI(KGI/KPI)の導入。
② 採用戦略の強化:採用専門者と組織開発専門者の設置、現場若手エース人材の採用工程への投入。
③ 育成・定着の標準化:ノウハウ・思想の可視化/言語化と階級別研修の実施、PMVV(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュ ー)の制定。
④ 組織管理の強化:人事権の人事部への移管、SGSスコア(持続的成長スコア)に基づいた人事権ルールの策定、採用管理KPIやエンゲージメントKPIのBI化(DX)。
2. 強い財務部(財務責任者)の組成
正確な利益把握/数字把握、予測収支による投資、投資判断に必要な高精度の財務計画、金融機関との交渉が成長の阻害要因となります。財務部が解決すべき主要課題は、無借金経営への固執による投資不足、資金調達基準の不明確さ、経営者の銀行交渉業務への時間割き過ぎといった現象を防ぐことが必要になります。
【解決策と必要機能】
① 中長期成長戦略の策定:単年~3年計画から5年~10年の中長期成長戦略を描くこと。
② 投資財務への転換:100億企業化に必要な投資額を明確にし、金融機関以外(メザニン、IPO、補助金)からの資金調達の選択肢を増やすこと。
③ 多行取引の構築:20行強の多行取引が可能な財務体制構築とメインバンクの変更検討。
④ 管理精度の向上:部門ごとの財務情報の客観的・横断的な提示、原価・経費管理のBI化。
3. 経営企画部の組成:成長促進機能
経営企画部は、全社戦略としての中長期経営計画の策定・提示、成長促進を担当します。指示待ちの増加、実行スピードの鈍化、業績低迷の原因特定不能といった課題を解決します。
【解決策と必要機能】
① 戦略・方針の理解度向上:全社戦略としての中長期経営計画の策定・提示、見せ方の精度向上。
② 業績管理の徹底:業績に影響する行動要因・先行要因の数値化・可視化、業績管理KGI/KPIの導入。
③ 実行体制の整備:職務分掌の半期再定義制度の導入による業務責任範囲の最適化、部門別経営会議の導入。
④ 新規事業R&Dの推進:新規事業R&D会議の導入、モデル企業調査と外部有識者とのチーム組成。
4.経営管理部の組成:内部統制機能の昇華
経営管理部は、いわゆる総務機能を昇華させ、内部統制機能を持たせて経営管理を行います。これは経済産業省が提唱する「特定中堅企業者」の要件を満たす水準(長期視点での経営戦略、外部・内部環境分析に基づく事業計画、定量目標と適正な経営管理体制の整備)を目指します。
【解決策と必要機能】
① 組織体制の明確化:組織図の定期更新、月次定時取締役会の設置、社内会議体の整備。
② 権限の整理:規程による業務分掌の明確化、職務権限表による職務権限の明記と適切な権限移譲。
③ 経営ルールの整備:稟議制度の導入、予算統制の実施、社内規程の整備(労務管理、コンプライアンス対応)。
以上は組織変革の観点の一部となりますが、100億企業化に向けた組織戦略は、間接管理経営への転換を最終目標とし、そのために人事部、財務部、経営企画部、経営管理部といった専門機能を持つ経営チームを組成し、長期的な計画(10年ロードマップ)に基づき、組織体制と内部統制のルールを整備していくことで、100億企業化に前進することができます。
組織変革の事例が豊富にありますので、是非、ご相談ください。
執筆者: アカウントパートナー推進部 マネージング・ディレクター 鈴木 圭介 すずき けいすけ |
100億企業化に向けた成長の踊り場を最短にする5つの施策とは?