100億企業化の成長過程においては、売上の伸び悩み、離職率の増加、不正の発生、マネジメント人材の不足、財務基盤の弱体化、顧客管理の不全といった「成長の踊り場」に直面することが少なくありません。特に、これまでの属人的な経営スタイルから組織的な経営への転換期には、創業期からのメンバーの反発や、社長一人ですべてを管理する限界といった苦労が伴います。また、目先の売上や利益に直結しない、人材育成や内部統制といった中長期的なコスト投資の意思決定に躊躇することもあるでしょう。しかし、この踊り場を最短にし、持続的な成長を実現するためには、以下の5つの経営戦略が不可欠です。
1. 長期的(10年)な事業戦略と新規事業開発に関するロードマップ策定
既存事業の拡大だけでは人口減少の時代に限界があります。踊り場を乗り越え、持続的な2桁成長を目指すためには、複数の事業を地域に特化し展開する地域コングロマリット経営が重要です。そのためには、短期的な3カ年計画だけでなく、10年スパンのロードマップを策定し、その中で新規事業を育成する視点を持つべきです。新規事業は、売上規模が小さくとも、営業利益率が高い(20~30%以上が目安)ビジネスを選ぶことが肝要です。また、自社開発にこだわるのではなく、フランチャイズへの加盟やコンサルタントが推奨するビジネスモデルを活用することで、短期間での黒字化と成功確率の向上が期待できます。地域特性や既存事業とのシナジーを考慮した新規事業の選択も成功の鍵となります。
2. 経営人材の確保と育成
成長の踊り場では、マネジメント人材の不足が顕著になります。この課題を解決するためには、外部からの戦略的な採用(キャリア採用やヘッドハンティング)と、内部からの計画的な育成の両面でアプローチが必要です。特に、CHRO(最高人事責任者)のようなCXOクラスの経営幹部や、中間管理職のマネジメント層を対象とした教育プログラム「ブートキャンプ」を導入し、戦略的思考、ビジョン策定、PDCA管理、メンバーマネジメントといったスキルを体系的に習得させることが重要です。経営人材の育成には5~10年といった長期的な時間軸が必要となるため、早期に着手することが、将来の成長への投資となります。
3. 積極的な財務戦略と資金調達
100億円企業を達成するには、総資産を最低でも70億円以上増加させる大規模な投資が伴います。これを賄うためには、「多行取引」を通じて20以上の金融機関と関係を築き、融資枠を広げることが不可欠です。メガバンクだけでなく、地域金融機関とも積極的に連携し、自社にとっての重要度を高めることが有効です。また、銀行との良好な関係を維持するためには、「デッドIR」として、中間に加えて四半期ごとの決算説明を標準化し、明確な説明資料を用いて自社の財務状況や成長戦略を積極的に開示することが求められます。これにより、資金調達の円滑化と資金繰りの安定化が図れ、攻めの投資を持続できます。
4. 盤石な内部統制と経営システムの構築
属人的な経営から組織経営へ移行するためには、堅牢な内部統制システムの構築が不可欠です。
予算統制:売上から最終利益まで、勘定科目単位で月次予算を策定し、実績との差異をタイムリーに分析・修正できる体制を構築します。これにより、精度の高い経営判断と投資の最適化が可能になります。
組織体制の整備:組織図を明確にし、各部署の役割分担や権限、特に決済権限を明文化し、経営幹部へ適切に委譲します。これにより意思決定の透明性と効率性が向上し、社長の負担を軽減するとともに、業務の重複や不正を防止します。
社内ルールの確立:業務フローやリスク管理、コンプライアンスに関する社内規定を整備し、全従業員、経営トップを含め例外なく適用することで、組織の公平性と規律を保ちます。
5. 明確なビジョンとロードマップの策定
100億円企業への道のりは、経営者だけでなく従業員全員が共有できる明確なビジョンがあってこそ実現可能です。会社の使命(ミッション)、目指す姿(ビジョン)、そして価値観(バリュー)を明確にし、10年、20年先を見据えたロードマップとして具体化することで、従業員のモチベーションを高め、優秀な人材の確保にも繋がります。このロードマップには、既存事業の成長戦略、新規事業計画、人材計画、財務計画、そしてIPOやホールディングス化といった経営システム変革の要素を統合することが重要です。これにより、未来に向けた明確な方向性が示され、成長の踊り場を計画的に乗り越えるための羅針盤となります。
これらの戦略は、相互に関連し合いながら会社の成長を加速させます。今が踊り場と感じているのであれば、それはまさに次の飛躍に向けた再構築の時期です。計画的にこれらの戦略を進めることで、持続的な成長を実現し、100億円企業という目標を達成する確率を上げることが可能となります。
執筆者: アカウントパートナー推進部 マネージング・ディレクター 鈴木 圭介 すずき けいすけ |