近年、中国、韓国、台湾といった東アジアの海外企業が、日本市場への進出を加速させています。その背景には、中国に次ぐ巨大な市場規模という明白な理由に加え、日本で成功した海外企業の事例が非常に多く、それらが大きな事業規模へと成長しているという魅力的な事実があります。海外企業にとって、日本市場は単なる販路拡大の場ではなく、自社のブランドを世界へ羽ばたかせるための重要な足がかりとなっているのです。
この成功事例の代表格として、真っ先に挙げられるのが韓国コスメでしょう。多くの韓国コスメ企業は、日本市場の攻略に向けて、周到に練られたマーケティング戦略を展開し、圧倒的な存在感を確立しました。彼らの戦略を紐解くことで、日本市場における新たな消費行動が見えてきます。
若年層がトレンドを動かす「世代間クチコミ消費」のメカニズム
韓国コスメの日本での成功は、特定の世代に焦点を当てた独自のマーケティング戦略に起因します。
1.好感度と発信力の高い若年層を起点とする戦略
韓国コスメ企業は、日頃から韓国の文化やエンターテインメントに触れ、高い好感度を持つ10~20代の若年層を最も重要なターゲットとしています。この世代はSNSでの情報発信が非常に活発であり、彼らに支持されることが、そのまま製品の評判を拡大させる鍵となります。インフルエンサーマーケティングなどを駆使し、若年層の間で自社製品への良いクチコミを戦略的に獲得・拡散させていくのです。
2.オフラインでのクチコミが広がる波及効果
SNSで拡散された情報に興味を持った30代以上の世代は、すぐに飛びつくわけではありません。彼女たちが最終的に購入を決めるのは、信頼性の高い「オフラインでのクチコミ」、具体的には職場での同僚との会話や、親子間の会話がきっかけとなることが多いのです。若年層と繋がりのある30代以上のユーザーが、そうした日常の会話を通じて製品の良さを知り、実際に使い始める。私たちは世代を超えてクチコミが連鎖していくこの購買行動を「世代間クチコミ消費」と呼んでいます。
【図】世代間クチコミ消費(概略)
こうした消費行動の変化をチャンスに変えるマーケティング活動は、韓国企業だけではなく中国や台湾の企業にも広がりつつあります。
日本の生産年齢人口は、団塊ジュニア世代をピークに若い世代ほど少なくなっているため、多くの日本企業は、どうしても若年層を軽視しがちです。しかし、トレンドの源流は今も昔も若年層にあり、SNSによって情報が瞬時に、かつ広範囲に拡散される現代においては、人口構成比の大小に関係なく、若年層が持つ影響力はむしろ増していると言えるでしょう。
日本の“お家芸”にも迫る「世代間クチコミ消費」の脅威
この「世代間クチコミ消費」は、今や韓国コスメのような特定のジャンルに留まりません。なんと、日本の食卓に深く根付いた袋麺市場にもその影響が広がっています。
日経トレンドの記事によると、20代の袋麺売上個数ランキングで、長年日本の定番であった「サッポロ一番」を抑え、韓国の「辛ラーメン」が堂々の1位と2位を独占したという驚くべきデータが報じられました。
【表】袋麺の売上個数ランキング
これは、若年層が辛ラーメンをさまざまな食材や調味料でアレンジし、そのユニークなレシピや美味しさをSNSに積極的に投稿した結果です。彼らの投稿を通じて、辛ラーメンは単なる韓国のインスタント麺ではなく、「自分好みにカスタマイズして楽しむ袋麺」として、日本の食文化に自然に溶け込んでいったのです。それは、企業が海外販路を開拓する際に最も重要だとされてきたローカライズの具体策が「アレンジメントによるクチコミの獲得だった」と、長年悩み続けたことが一気に晴れるかのような発見でした。
これまで日本の“お家芸”とされてきたジャンルであっても、この世代間クチコミ消費という新たな潮流を理解し、対応しなければ、海外企業の前に牙城を崩される時代が到来しています。海外企業の日本進出が今後ますます活発化する中で、この新しい消費行動をいかにマーケティング戦略に取り入れていくかが、日本企業にとって喫緊の課題となるでしょう。
我々は、越境EC研究会という勉強会を運営しております。
日本企業が海外で販路開拓する際に競合になるのは、海外企業です。
海外企業のマーケティング手法を知ることは、日本企業が海外で事業を成功させるためにも、日本市場で海外企業に対応するためにも大切ことだと考えております。
越境EC研究会では、世代間クチコミ消費などの最新の海外マーケティングトレンドを、研究会会員企業の方々に共有させていただいております。
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皆様のご参加を心よりお待ちしております。
執筆者: 価値向上支援本部 ディレクター 大山 広倫 おおやま ひろみち |