最近、「顧客からサステナビリティ・ESG調査票やアンケート」について、ご相談を頂くことが多くなっております。
「質問項目に書かれていることは、殆ど取り組めていないけど、どのように回答すべきか?」
「取引に影響はするのだろうか?」「今後も増えてくるならば、どのような準備をすべきなのか?」
昨年まではグローバル企業からのESG調査票が多かった印象でしたが、今年は製造業を中心に裾野は拡がってきた印象です。特に多かったのは、欧州系製造業や半導体関連でしたが、グローバルに商品展開をしている企業は、軒並みといったところです。
ESG調査票といっても様々な種類があり、Environment(E)の環境についてだけのこともあれば、Social(S)の社会、Governance(G)の企業統治も含まれているものもあります。深さも様々で、100を超える質問もあれば、回答後に監査訪問があるケースもありました。そして、EcoVadis等の外部評価機関を活用した調査も多く聞かれます。
先ず、冒頭の質問について、お答えいたします。今後はグローバル企業に限らずアンケートや調査票は増えていきます。そして取引への影響はゼロではありません。
これらの背景については、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に開示基準を公開したことでの影響は大きく存在しています。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に沿った日本版となりますが、昨年まで議論が進んでいたプライム企業全ての開示基準ではなく、段階的な対象となり、先ずは時価総額3兆円以上のプライム企業が2027年3月が開示、2028年1兆円以上、2029年5000億以上と拡がり、最終的には全てのプライム企業へと拡げていきます。
一見、自社には関係が無いように見えるかもしれませんが、自社の顧客にその対象が含まれていると、それが影響されるようになっていきます。特に気候変動分野では、SCOPE3の開示が求められることとなり、これまで開示対象企業が二次データ、つまり金額に応じた原単位で計算したデータから、実際の一次データを必要としていくようになっていきます。
そして一次データを仕入先のサプライヤーから取得するだけでなく、一緒にGHG削減をしていくことを求めていくようになります。
これに対応出来ないとなれば、それは取引への影響は否定できなくなります。
SSBJ基準だけでなく、ESG評価機関の影響も多くあります。ESG評価機関はESGの要素をどの程度考慮して事業活動を行っているかを評価し、その結果を投資家などのステークホルダーに提供する機関で、FTSE、MSCI、S&P GLOBAL CSA、SUSTAINALYTICS等があり、各機関にて独自に定められた評価基準があります。そして、業種別にも重視されるものが異なっており、リスクマネジメントを含めた評価にもなっております。それは自社だけでなく、サプライチェーンも含めた評価項目も多くあり、その取り組みとしてサプライヤーエンゲージメントを求めるようにもなっております。
例えば気候変動・脱炭素では、GHG排出量(scope1,23)、GHG排出原単位、GHG削減目標、GHGオフセット量、エネルギー使用量(再エネ内訳)、再エネ導入目標、GHG削減貢献量、製品ライフサイクルCO2排出量、等となります。
SOCIAでは、これまで各社が取り組んできた人事労務での数値から、更に上乗せされた数値の開示が求められ、また人権には人権デューデリジェンスや、調達にはサプライヤーエンゲージメントが課されているものも多くあります。
表題の「もし、顧客からESG調査票が届いたら・・・?」について、これは先ず光栄なことと捉えてください。「面倒なものが来た」「また、手間の掛かることか・・・」ではなく、貴社を大事なサプライヤーと捉えたからのものでもあります。そして取引に影響することならば、出来ない他社と差別化するチャンスでもあります。サプライヤーエンゲージメントはサプライチェーン間の対話でもあり、単なる仕入先のひとつではなく、一緒に成長をする不可欠の存在であることが前提となります。所謂「お客様は神様です」の時代から、共生のパートナーとして顧客が認めている時となっております。だからこそ、それに応えることは信頼の為にも不可欠となっていきます。
具体的な取り組みとして、何をしていくべきか?
先ず、先のSSBJ基準対応として、気候変動要素は準備を進めて頂ければと存じます。GHG算定では少なくともSCOPE1,2は当たり前のように算定をして、勿論目標と削減を進めることは不可欠にもなっていくでしょう。SやGも取り組むことは多いのですが、全てを直ぐにやる必要はありません。先ずは顧客が求めること、その優先事項を見極めて頂ければと思います。その上で自社が出来ること、それを顧客と対話していくことが重要でもあります。
ESG調査票は、手間の掛かる雑務ではなく、顧客企業が自社を認めてくれた結果と捉えて、顧客に応えるべき優先的取組事項の改善を進めて頂ければと思います。
