【英語教室】コロナでも増収増益の秘密は「理念」にあった
新型コロナウイルスの感染拡大で、緊急事態宣言下では学校も閉鎖された2020年。「人が集まる」業態は大打撃を受け、今も緊急事態宣言の影響から復活できていない企業が多々ある。
そのような状況でも、増収増益を実現した英語教室が兵庫県にある。「国際日本人の育成」を志向する株式会社AIEがそのような成果を手にできたのには、「経営理念とその浸透に注力する地道な取り組み」が大きかったという。どういうことか、話を聞いた。
「自社の卒業生しか採用しない」徹底したリクルーティング
AIEは1981年に創業の、もともとは日本人の米国留学生の現地サポートを行う団体を母体にスタートした企業だ。
当時の米国で問題になっていた「日本人の留学成功率の低さを改善する」ことを目的に誕生した。
せっかく海外の大学に留学しても、言語面での苦労や現地での生活にうまく適応できず授業についていけなくなってしまいドロップアウト、その後滞在ビザが切れても不法滞在者として現地に居ついてしまう日本人がたくさんいて、それが社会問題化しつつあった。
日本でも現在「消えた留学生」といった形で日本に留学した新興国の学生がドロップアウトし不法労働者化する問題が起きているが、
かつては日本人も米国で同じような問題の種になっていた。
彼ら彼女らを「留学できるだけの能力がなかった」と切り捨てるのではなく、留学生をサポートする環境や体制を通じて、ドロップアウトしないように、しっかり学習することができる場を整えることを目的に設立されたのが、AIE(Academy of International Education)だ。
英語はもちろん、海外の文化的な差異を理解し、現地で生き残っていくためのサポートプログラムを提供する、それが同社の原点で、
その後日本でも英語学習塾の形で開講している。
AIEの代表、橋本隆志氏は語る。
「提供する教育がそれだけ特色の強いものなので、提供する者も、その内容はもちろん、背景にある思想まで理解している必要があると考え、3年前に私が社長に就任以降は、正社員の条件を『同プログラムの経験者であること』としています。
当社のサービスを良いものという共通の価値観・考え方を持った人間が働いていることが、私たちの特徴かもしれません。
また、それだけの共通項を持ったメンバーであっても、より深いレベルで大事なことを共有できるよう、経営理念やビジョン、創業期の想いを共有・浸透・一体化を促すことに常日頃から力を注いでいます。
創業期からの逸話や設立に込めた創業者の想いなどは、長らく口伝のみで共有されていましたが、私はそれらの言葉を冊子として可視化しました。目に見えない思いも、文字として見える形にして、浸透の一助に用いています」
新型コロナ禍で一気に推進した2つの取り組み
このように従業員で徹底して同じ価値観を共有することが、新型コロナウイルスの感染拡大時にポジティブに働いた。2020年2月、コロナの事態が深刻になるなかで、同社はコロナが拡大すると考え、様々な決断をしていく。
「その後に緊急事態宣言が発令され学校も休校になったことを考えると、この時期に決断・対応できていなかったら、手遅れになっていたでしょう」
橋本氏は語る。様々な決定については、社内で議論をしたのではなく、橋本氏が社員に対し「考えたんだが、こうしたい」と案を出し、それを社員で創意工夫しながら進めていった形だという。
コロナが収まるか、拡大するかもまだわからない時期だったが、社内には大きな反対や抵抗もなく、スムーズなシフトができたという。
「移行がすんなりできたのは、同じ価値観を共有するメンバーを採用し、理念の共有を日頃から行っていたからこそだと、強く感じました。
今回のような緊急時にこそ、理念・価値観のもとで一枚岩になれることで組織としての強さが発揮されるのだと感じました」
同社が迅速に行ったのは、オンライン授業へのシフトだ。それまで、授業とは教室に集まって行うもの、と考えていたため、オンラインへの準備は一切していなかった。
それでも春にはオンライン授業を実施できるよう、授業の内容や設備、テキストのデジタルデータ化、教師へのオンライン授業の研修などを一気に推進した。
「生徒が教室にいない状態でも提供する教育の水準を落とさないことを一義に据え、全社が一丸となって取り組みました。 それでも、完全移行できるようになるまでに3か月程度を要しています。在籍している幅広い年齢層向けのテキストを全てデジタルデータ化するだけでも、少なくない時間がかかりました」(橋本氏)
同社が塾とは別に運営している通信制高校で使っていて、買い替える予定だった古い型のiPadを生徒に貸与するなど、すでにあるものを可能な限り活用した。
「その後iPadはしばらく買えない状態になりましたから、ツキも味方しました」
販促・集客に関しても、例年と異なる取り組みを行った。募集を早期化したのだ。業界の生徒募集のピークは3~4月だが、その時期には例年通りの市況ではなくなっている可能性があった。
そこで、「新中一先取り講座」等の早期募集キャンペーンを実施。早めに生徒募集を行ったことで、例年通りの生徒確保に成功。
2020年の生徒数は安定し、業績も増収増益となった。
「全体的に先手先手で動くことができたのも、組織として共通の価値観が通底していることは大きかったと感じています。
オンラインとリアルの授業では、どんなに頑張ってもリアルの授業のほうが質は高くなります。そのため、『オンラインで本当に生徒の満足度が高い授業を提供できるのか?』という声は現場からも上がりました。
今回のコロナ禍で、生徒は教室に通えない事態になりました。確かに『教室での生授業>オンライン授業』ではあっても、『オンライン授業>授業を行わない』です。
どんな形であっても、授業はするべき。オンラインをしないのは、教育の継続の放棄である。教育者が、そんなことをしていいのか?そのような教育者としての原点に立ち返ることで、オンライン授業に否定的だった先生も、考えを変えました。形は違えども、理想とする教育を実現しようという価値観を皆が共通で持っていたからこそ、旧来の価値観を変え、適応できたと感じています。
ただオンラインに移行してもうまくいかない。オンラインの特性を活かした変更とは?
一方で、オンラインの授業には大きな課題もあり、現在同社ではその課題解決に取り組んでいる真っ只中である。
それは、生徒が真面目に授業を聞いていなくても、対面のようにはフォローできないことだ。教室ならば講師が室内を見て回れば、集中力が落ちている生徒はよくわかる。
画面越しでは、なかなか生徒が授業に集中できているかどうかが分かりにくい。
「授業の形は、対面とオンラインで変化させるべき部分もあります。対面のときは“いい授業をする”ことを最重視していましたが、オンラインでは、「生徒に継続的に勉強させる」ことも重要視し、そのようにプログラムも変えていく必要があります。
そのためには授業時間以外の取り組みが重要で、日頃の学習具合を計るようにすべきです。日頃ちゃんと勉強しているかについては、ラインなどのツールを使い、日常的にコミュニケーションを取ることで行動管理するなど、生徒の学習に伴走していくことが大事になります」(橋本氏)
今回のコロナ禍でオンラインに移行したことで、新たなビジネスチャンスにも気づくことができたという。
「今後は、整備できたオンライン教育をより広いエリアに広げていければと思います。これまでの学習塾は、教室に集って授業を行う形でしたから、規模拡大するなら広げたい商圏に教室を増やすしかありませんでした。
オンラインならば拠点をつくらなくても、商圏を広げていけます。当社の授業が評価されれば、遠方からも授業を受けてくれる生徒を集められますから」
同社は「教育のなかにビジネスのセンスを入れていくのが、ここ数年の一番のテーマ」だという。
「『教師は聖職』と言われ、あまり売上や利益を上げようとするのもという声もありますが、教育もビジネスであり、利益を出していかなければなりません。
また、経営が安定すると、教育も安定し、質の良いものを提供できることもわかっています。理念として掲げている教育をしっかり実現していくためにも、ビジネスとしての成長、拡大に力を入れていくのが、今後の目指すことです。
船井総研のコンサルタントの方々には、2017よりご指導いただいています。
その時から会社の数字はV字回復し、現在はなんとか順調に経営できています。理念の大切さに改めて目を向けることの重要性、浸透を図るための取り組みなどについても、教えていただきました。
そのおかげで、コロナ禍においても、業績をわずかですがアップできました。弊社の人間は、船井総研様に足を向けて寝ることはできません」
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