【インタビュアー】株式会社 船井総合研究所 ライン統括本部 ウェブマーケティングユニット 宮井 亜紗子
【インタビュイー】アディッシュ株式会社 杉之原氏
今回は、アディッシュの杉之原さんが、女性活躍のために社内の取り組みとしてどのように取り組んできたのか、実例をご紹介していただきたいと思います。
アディッシュ株式会社について
アディッシュは2014年10月に設立した会社です。
ですから、まだ、設立後6〜7年の会社です。
会社を設立してから最初の5年間は会社の土台・制度・ミッション・ビジョンを作ってきました。
2020年からが第2ステージだと私は思っています。
なぜなら、2020年に、制度などを整備して働きやすい環境を作ることと女性がリーダーシップを担うことは、なかなか相関していないことに気づいたからです。
それで、2027年に向けて管理職の女性のパーセンテージを引き上げていく計画を立てたのが2020年です。
相関がないと気がついたきっかけは?
今後の組織体制を考えていくときに、ふと、「あれ、女性いないね」みたいな話になったのがきっかけです。
自分の中で冷静に従業員に何%女性がいるかを算出し、その上位職はと言うように役職ごとのパーセンテージを算出したら数字が壊れていることに気が付きました。
アディッシュは従業員の6割が女性ですが、1階層上がると女性比率が6割から2割以下に落ちるんです。
これを、「1段目の梯子が壊れている」というふうに表現されることが多いですが、うちも梯子が壊れていると冷静に気づきました。
5年間、一人一人が働き方キャリアを自ら作る会社にしたいという人事のミッションを掲げて走ってきましたが、それとリーダーシップの構造がマッチしてないことに気づかざるを得ない瞬間でした。
STEP1:一人一人が自分の働き方キャリアを形作れる会社を作る
アディッシュの最初の働きやすさ、「一人一人が自分の働き方キャリアを形作れる会社を作るフェーズ」をSTEP1と呼んでおり、そのSTEP1を作るために大事にした観点が二つあります。
大事にした二つの観点
一つ目に世の中的にもあったほうがいい制度をいろいろ作りました。
例えば、
・自分がこの仕事をやってみたいと思ったら手を挙げられる制度
・自分で休みをコントロールするために時間給の制度
など、細かいメンテナンスをしていきました。
二つ目は経営層が口出しするのではなく、ボトムアップで動ける会社にしていきたかったので、働き方検討委員会を作っています。
最初のSTEP1は制度の設計と働き方検討委員会による議題が経営会議に上がってくるボトムアップ中心でやっています。
一人ひとりが働き方やキャリアを作る会社を作りたいというビジョンを掲げることはトップダウンという進め方でSTEP1に取り組んでいました。
結果として、いろいろな女性を切り口にしたアワードでアディッシュを選んでいただくことが多くなりました。
女性を切り口に社内の制度を作るということはしてこなかったんですけれども、「アディッシュって、女性が活躍しているよね」みたいなslackでそういうコメントが男性から流れたりとかしているので、そういう意味ではリーダー層に女性がいるかどうかはさておき、特段性別というところでは分け隔てなく働ける環境作りができてきていると思っています。
STEP2:女性をリーダーシップ層に引き上げていく機会設計
現在は昨年打ち出したSTEP2として、リーダーシップ層に女性がいない現状、私たちは多面的に意思決定ができる経営層なんだろうかという問いの下、「女性を引き上げていく機会設計」を2027年までの7年間かけて向き合っていっています。
STEP3に向けて
その先、2027年以降は、ダイバーシティ&インクルージョンに行けたらいいと思っています。
アディッシュは社員の10%ぐらいが外国籍のメンバーですから、そういうメンバーが経営層にいるほうが、グローバルカンパニーとして世界に対しても価値を発揮していけると思います。
あと、職能で細かく見ていくと、
・テクノロジーとかエンジニアの領域は女性が少ない
・営業は女性が少ない
という観点もあります。
ですので、2027年以降は男女とは別の切り口で議論を発展していけるようにSTEP3と名付けて進めましょうという全体像でやっています。
STEP2ではどのようなことをされていますか?
まずは、STEP1、2、3があって、2030年にはSTEP3の経営層になっているように進んでいきたいという大きな議論を取締役会で行いました。
その中の2027年までに管理職に占める女性の割合を現在の14%から30%にしていきたいです。
人数換算しても倍増計画になりますので、それをアディッシュの株主の皆様あるいは社会に対してもということでIR資料にも2027年に30%を目指していきますという大きな方針を開示したのが、この1年の動きになります。
トップダウンの動き
社員も伴って動いていかなければならないのは、各社様と同じところにはなるのですが、まず、STEP2として、7年かけて育成していきたい。
男女関わらず、育成していきたい人たちの洗い出しが必要だと思っています。
ここからはまだできていないことではあるのですが、洗い出した男女比率やその比率に何か課題があるのであれば、育成計画や採用計画を見直しも含めて見える化と次回アクションを立てていくのが、ここ1,2年でやっていかなければならないところだと思います。
これがトップダウンの動きです。
ボトムアップの動き
ボトムアップの動きですと、先ほどご紹介した働き方委員会の中から、ダイバーシティ&インクルージョンチームが生まれました。
自発的にメンバーが議論する場にも、ダイバーシティ&インクルージョンという観点が生まれてきているので、このボトムアップの動きからでも提案が上がってくるでしょうし、STEP1で埋め込んだトップダウンとボトムアップの動きが、少しずつSTEP2でも出てきている状況です。
育成していきたい人たちのピックアップはどのような観点で考えていますか?
アディッシュは、人材未来会議という会議体があり、年に2回すべてのメンバーがどういうタレントを持っていてどういう価値観で働いていて、どんな仕事をしてきたのかを経営層で眺める時間というのを設けています。
この人材未来会議で、この人にこういう機会設計をしていったらいいという話をこれまでもしてきているので、2027年までは男女という属性を含めて会議を運営していきたいと思っています。
結局、女性活躍、外国人活躍と言っても、そこに具体的な人がいないと凄いふんわりとした対策がいっぱい上がっていますが、「この人を引き上げるためには何が足りないか」という観点ならより具体的な対策が出てきます。
結局、女性と一括りにしてもそれぞれ問題が違うと感じていて、一人一人に聞かないとその問題が本当に何が問題なのか分からない。
・子育てで時間が取れない
・将来が見えない
というように、ボトルネックになってる部分が全然違うと思うので、そこを明確にしない限り、そして経営層もそれを聞かない限りは、分からない部分です。
目に見えないものや、肌感のないものに対して施策を打ち、しかも、男性が会議をしているみたいなカオスな構造になりやすいです。
現状取り組む中で、女性活躍に関する疑問や反対意見は出ていますか?
昨年、取締役会で今後の取組の方針を議論する前に、社内外問わずSTEP1からSTEP3までの話をさせてもらいました。
いろいろと意見を聞く中で印象的だったのは、女性のメンバー層からの意見です。
「経営層に女性は必要なんでしょうか」
「別に管理職になりたいわけはないので、STEP1から3の話も、あまり、自分事として聞くことができません」
のように、女性が意思決定に関わっていくということに対してイメージが持てないという意見が挙がりました。
それは、ロールモデルも多いわけではないので当たり前かとも思いました。
男性からは、
「女性活躍をしたら業績が上がるのか」
「女性の役員比率を上げていくということは、男性の役員比率を下げていくという計画を立てることですか」
「女性だけという属性を切り出して取り組んでいくのには、何か違和感があります」
のような意見をいただくことが多かったです。
どのように、対応される予定ですか?
女性メンバーからの意見に対して
まず、女性に管理職になりたいかどうか聞くのをやめようと思いました。
管理職になりたいか、なりたくないかを問うその質問自体がとても愚問だと思っています。
何故なら、ロールモデルがいない中で、管理職というよくわからないものになりたいかどうか問うというのは、凄い酷なことだと思ったからです。
それよりも機会設計を行い、いろいろと仕事を任せていく中で、あとから「あなたがやっているその仕事を部長というんですよ」という順番が良いと判断しました。
男性経営者が仮に「女性がなりたくないと言っている」と言われたときに、私は「機会設計をした後にそれを言ってください」と回答したいです。
「女性活躍が業績向上につながるのか」に対して
長期的に見たときに業績につながることを信じています。
データ等を見ると役員層に女性の比率が高い会社の業績が良いなどの論文もありますが、自分が冷静に思うと、やはり業績が良い時もあれば悪い時もあるのが、会社経営だと思っています。
それよりは、選ばれない会社になってしまうほうが強い危機感としては思っているので、今のステージは、女性という属性ですけれども、一人一人が自分の価値観を発揮しながら働いていける会社を作ることで社会によりフィットするプロダクトを発表することができるのではないか。
それによって業績にもいい影響が出るのではないかと自分事として信じています。
女性役員を増やすということは男性役員を減らすということ?について
冷静に考えると、何年も同じ経営者がいて、経営層が全員同じなのは、企業リスクだと感じています。
そういう面でダイバーシティ&インクルージョンの観点とかを埋め込んでいける経営層に変わっていきたいと思うはずです。
そこの属性が男女なのか、或いはスキルマトリックス的に、役員の得意領域をメンテナンスしていくための領域もあるなど、私としてはどのようなかたちでもいいのですが、会社が変わっていく過程の中で経営層も変わっていきますし、男女比率も変わっていく中で女性を意識的に増やして多面的に意思決定をしていける会社になりたいという意味だと思うと返答しました。
宮井:ありがとうございます。
杉之原さんのお話を聞いていて、やはり自分で会社として、女性活躍を具体的に進めている方の話だったので、机上の空論ではなく、具体的なやり方にまで落とし込まれていたので、すごく勉強になりました。