【インタビュイー】アディッシュ株式会社 代表取締役 杉之原 明子 (以下:杉之原)
【インタビュアー】株式会社 船井総合研究所 WEBマーケティングユニット
シニアプロフェッショナル 宮井 亜紗子(以下:宮井)
皆様の会社は女性活躍が進んでいますか?
そもそも女性活躍とは、一体どういうことなのでしょうか?
日本は海外に比べ、会社の意思決定層の女性比率は非常に低くなっています。
これは女性活躍の問題に留まりません。
自社の競争力にも関わる大きな問題に発展してきます。
今回は日本の課題である、女性活躍の取り組みについてご紹介します。
インタビューイ紹介 ~アディッシュ株式会社~
杉之原
アディッシュ株式会社は、インターネット上で人と人との「つながる」から起きる課題を解決するミッションを掲げた会社です。
2014年に設立されました。
2020年に上場し、0から管理部を作り内部統制を行い、社会的にも信頼のおいていただける体制作りをしてきました。
私自身は、一直線にキャリアを歩んできました。
そのためあまり男女の属性の違いで物事を見ていませんでした。
一方、会社の未来の体制を考えた時、
「自分の後ろに女性がいない」ことに気付き始めました。
ダイバーシティ&インクルージョンはまだまだ勉強中です。
色々な施策を実践しています。
勉強中の今だからこそ自分の言葉で伝えられることもあります。
なぜベンチャー企業で女性活躍に注力するのか?
宮井
杉之原様の取り組みで、
「ベンチャー企業の意思決定層のジェンダーギャップを無くす」
があります。
「ベンチャー企業」と入れているのはなぜでしょうか?
杉之原
理由は2点です。
1点目は、私が長年ベンチャー領域でキャリアを歩んできたからです。
特にITベンチャー企業は、
・風通しの良い職場
・職位も関係なく、お客様に価値提供
という価値観が強くあります。
しかし、フラットだからこそ、ジェンダーギャップを認識しづらい特徴があります。
このベンチャー企業において、ダイバーシティ&インクルージョンを掲げるために活動しています。
2点目は、ベンチャー企業は社会的な潮流から少し遠いからです。
大企業は今、女性活躍の情報発信をきちんと行っています。
施策も打っているところもあります。
社会的責任の観点からの動きは大企業が進んでいます。
ベンチャー企業でこのような議論を起こすためには、
「どのようにするべきか?」
を模索していく2つの意味合いがあります。
なぜ女性活躍に取り組む必要があるのか?
杉之原
今は女性活躍に関する法律も施行されています。
女性も働きやすく、特に仕事をしたい人が誰でも働ける世の中を目指しています。
その中で、男性や女性という属性で見た時、女性が社会に進出してきました。
しかし、課題として
・働きやすい状況なのか
・リーダーシップを取れるような機会を貰えているのか
という視点で経営を見ていく段階になりました。
宮井
我々の母親世代からも女性進出はありました。
今のほうが潮流や声や必然性が強くなっていると感じますか?
杉之原
過去を踏まえると、女性が男性と同じように働く流れの中で就業率は上がってきています。
また、女性が社会で働くことは当たり前になってきました。
一方で、
「男性優位で作られたこの構造がなかなかフィットしない」
といった課題が大きくなってきています。
社会に進出するところから、次の段階に進んでいます。
今は、構造を疑い、「女性活躍」を再定義しに行く、というような違いがあります。
宮井
我々の先輩世代はパワフルで、ある程度の型にハマって活躍してきた女性が凄く多かったです。
最近はその型が必ずしも1つではないと感じる部分が増えてきています。
杉之原
マーケティングのプロダクトライフサイクルに似ています。
製品は成長期にアーリーマジョリティからその次へと普及が進みます。
女性活躍も、より多くの人が働けるように、と考え方が進んできています。
・きちんとリーダーシップを持てる
・1人1人が自分たちに合った方法で働ける
といったように、構造を見直していく時期に進みました。
宮井
まさにその次のボリュームゾーンが入れないですからね。
1つの枠で女性が働かないといけないと、枠にはまった人にしか活躍の機会がありません。
杉之原
特に日本の重点課題と呼ばれる領域は3つあります。
①管理職のパーセンテージが低い
②賃金格差
③育児や介護など、無償のケア労働が考慮されない・されていない構造
非正規雇用の女性が多いことが、コロナ禍でもあらわになりました。
結果、賃金格差が発生しています。
この3点がそもそもある前提で、会議などで議論できると良いです。
女性活躍を進めていかない企業はどんなデメリットが今後考えられるのか?
杉之原
ケースバイケースなので、一概には表現し辛いです。
当社を含め、自分事としている領域で、最終的には選ばれなくなってしまいます。
何が選ばれなくなるかは、2点あります。
1点目は働くメンバーに選ばれなくなります。
そもそも働き手が少なくなる中で、色々な人に活躍してもらわないと会社も回りません。
そこに対応できないと、採用市場から選ばれなくなります。
2点目はプロダクトが選ばれなくなります。
日本は女性活躍の面では、まだまだ後進国です。
「なんで女性活躍なの」みたいな問いから始まっています。
しかし世界は、ダイバーシティ&インクルージョンの観点を、プロダクトにどのように埋め込んでいくかと考えています。
そうすると、世界から日本という国が選ばれなくなります。
また、国内でも自社のプロダクトがそのような観点を持って作ることができないならば、選ばれないものを作ってしまうことになります。
人とプロダクトが選ばれなくなる考えです。
宮井
人に選ばれなくなるという点で、経営者と採用の話で
「今まで通り活躍できる層だけ来てもらえばいい」
と思われている方がまだ多いです。
本当に採用で「そのような人を惹き付けられているの?」というと
今まで通り活躍できる人たちは、より良い会社に入社する方が増えてきています。
「実際に入ってこなくなっているのではないか」
という現実に目を向けられていないことが、中小企業で起こっています。
プロダクトの観点でも、意思決定する場に女性がいないため
プロダクトに関わらず、マーケティングでも不適切な表現が結構あります。
またそれを止める人がいないことを目にします。
それは選ばれなくなるところもあれば、いわゆる
・炎上リスク
・評価が下がるリスク
に繋がります。
女性に限らず多様性の視点を入れていくのは本当に重要です。
杉之原
特に2021年、東京オリンピック周辺で様々なニュースがありました。
社会の価値観が変わっていく中で、自分の組織あるいは自分自身の価値観が変わらないことの経営リスクは良い事例が多くあります。
やはり同質性の中から新しいイノベーションが起きるのかが1つ目の問いです。
2つ目は、社会にフィットしない文脈で発信をすることで、炎上を含むリスクが発生することです。
この2点が2021年の学びです。
10年前を思い返すと、全く違います。
10年前は許されていたことが許されなくなっていることも非常に多くあります。
これからの女性活躍はどう定義すべきか?
杉之原
女性活躍推進法は、女性が活躍できる場を充実させ、仕事と生活が両立できる体制づくりを企業に求めた法律です。
私自身の解釈では、1人1人が自分の人生にリーダーシップを持っている状態が目指したい像です。
そのリーダーシップを持つ範囲の中に
・会社の中で責任を持つというリーダーシップ
・家庭の中で自分なりにポートフォリオを組み、リーダーシップを持って家庭を運営する
ような、自分の人生にリーダーシップを持つというのが前提で考えています。
宮井
リーダーシップを自分の中で持つことは、経営者としては、会社との折り合いをどうつけてもらうかが難しいですね。
経営者目線で見た時の女性活躍はどのように考えたらいいのか?
杉之原
男性女性関係ないと言いがちですが、同じです。
特に私が注力している意思決定層に女性が少ないという課題を見た時に、何でこうなったのかを考えます。
おそらく、自分に似た人を引き上げていくという現象があると考えています。
海外では「mini me」文化と言います。
自分のminiを引き上げるという意味合いです。
恐らく男性はそのようにして、自分が優秀だと思う人を引き上げてきたのでしょう。
そのため上位層、特に取締役会に男性しかいない場合、続きます。
いくら従業員層に女性がいても、職位が上がると男性が多くなる現象が起きます。
男性上司だと男性の部下が目に入って機会を与えていきがちなのです。
しかし、そこを
属性に捉われてないかと自分自身を見る
スキルを持っている男女関わらずきちんと意識的に引き上げていく
という、上位層の目を養うことが大変重要になります。
宮井
営業が得意な上司は、営業が得意な部下が活躍していると捉えがちです。
「活躍」は営業だけではありません。
他にも色々な分野で活躍している人がいて、それがないと成り立たないところにまできちんと目を広げて活躍の定義する必要があります。
そうでないと、「mini me」ばかりになってしまいます。
杉之原
よく言われているのが出張の打診で、子供を持つ女性社員に良かれと思って出張の打診をしない話があります。
自分の中で良かれと思ったところに無意識のバイアスが潜んでいたり、女性の活躍の場を上位レイヤーが潰している現象はよく起きます。
宮井
私も若手の頃に「女性だから土日出社しなくていい」と言われました。
今は、ラッキーくらいに考えますが、当時は男性に負けられないと思い、
「私の可能性を潰さないでください。」
と言ってしまい、反省しました。
優しさと活躍の場を奪うのは紙一重ですよね。
杉之原
その通りです。
そこに「mini me」現象がある時、非常に不幸です。
やはり土日に働ける男性が出世していく、大きい機会を得ていく構造になります。
そのようなことを意識すると、自分の一挙一動が気になってしまいます。
宮井
私も男性よりも女性を少しケアし過ぎてしまうところがあります。
男女関わらず意識は一緒だと思います。
なぜ女性活躍が進まないのか?
杉之原
女性活躍が進まないボトルネックは、経営層にあります。
これまでの自分の勝ちパターンを土台に、取締役会や経営会議が次の意思決定をしていくという集合体になっています。
自分たちの価値観や、日本の価値観、法律などは過去のものをベースに作られています。
これまでの自分たちが最もボトルネックです。
構造的に先述の「mini me」現象が起こる発端は経営層です。
女性活躍や色々な価値観を持つ人たちへの多様性が進まないボトルネックです。
その価値観を変えていくには、1つは自分たちが変わることです。
・これまで会社を作ってきた人たち(組織)の価値観が変わっていく
・プロダクトが変わっていく
ということを諦めたくないなという気持ちが1つあります。
自分はどうやって変わるのだろうと思った時は何かしらの経験、
・女性の部下だけに囲まれて、何かプロジェクトを進める経験
・自分自身が介護なり育児をするという経験
などは1例です。
女性活躍が進まないもう1つの原因は、
女性活躍だけではなく、SDGsなども1つ1つ抽象度が高いため自分事にならないことです。
何となく「どういうものなのか」を知ることはできます。
しかし、自発的な理解を待つと、どうしても時差が発生します。
今日明日で人は変わらない、自分も経験しないというのがあります。
その時差を自分たちが認識し、変わっていくことが重要です
加えて、新陳代謝、企業では副業を解禁して外との境界線を低くし、イノベーションが起きやすくする流れがあります。
そのような人の新陳代謝や、スキル・外の価値観が自社に入るように意識して設計することが自分達が変わるきっかけになり得ます。
宮井
船井総研の話ですが、3児の父が数多く在籍しています。
その方たちは育児の意識が驚くほど高いです。
もちろん1児や2児の父でも、育児に携わって意識変化をした方はいます。
その人たちも2児までは、あまり意識変化がなく、3児から変わる場合があります。
3児になると、自分がどうしても育児に関与せざるを得ない状況になるためです。
女性が、今ハンデに思う、「育児をしながら仕事」を自分も受けます。
そうすると今のままの働き方が無理だと理解できます。
「これを女性がやっているんだ」と、より自分事として体験しています。
しかも船井総研は、マネージャー層にそのような方がいます。
経験は、もの凄い大きな意識変化を起こすと感じています。
杉之原
ぜひ男性が語っていただけると心強いです。
この領域は、女性が先頭に立って旗を振る構図になることが多いです。
しかし、女性による女性のためという構図になると、重たくなってしまいます。
なぜなら、社会は男性で回っているところがあるからです。
価値観の内面的な変化が起きている男性の表現は、やはり男性に通じやすいです。
また、そのような声が組織全体や社会に伝わるようになると、より良い環境になります。
具体的にはどのようなステップで取り組むべきか?
杉之原
前提として、やはり自分なりの解釈を持つことです。
男性・女性という属性だけでなく、色々な価値観を持つ人たちが働きやすい社会を作っていくというのが大きな動きだと思います。
その中で、自分をどのように表現するかを特に経営層は、1人1人が表現できるような自分の原体験と結び付けて語れるようになってほしいのが大前提です。
その後に着手しやすいところで、自社の制度や土台が誰もが使いやすいか、メンテナンスしていくことです。
まとめると働きやすさです。
経営層など上層部は、現場の従業員の意見を積極的に吸い上げます。
それをもとに意思決定していくボトムアップの動きが必要です。
もう1つは、
・中期経営計画にどのように入れているか
・それが年間計画に落ちてきているのか
このトップダウンの動きと、働きやすさのボトムアップの動きの両面でアクションしていくと次のヒントが見えてきます。
宮井
年間計画にまで落とし込めている企業は少ないです。
どうしても売上計画にばかりに目がいきがちです。
しかし、そこまで落とし込まないとなかなかアクションに繋がりません。
ぜひ多くの企業に取り組んで頂きたいです。
他にも、最新の業績アップ事例を踏まえて、事業に役立つ情報を発信していく予定です。
楽しみにしていてください。