出店戦略の基本的な考え方
商圏のホントの形
出店戦略の基本的な考え方をお伝えさせていただきます。 まず一つ、商圏の本当の形をつかみましょう、という話です。
ど真ん中に自店を置いて、半径3km~5kmの同心円状の範囲で設定する商圏ですが、
一般的には商圏の境界を左の図のように引きたくなります。
しかし実際に店舗を出店しながらチラシのレスポンスとか、来客のレスポンスを見ていると、
実際にはなぜか右のような、自店を中心にして、片側に広がり、
端っこに自店がある形の商圏になるケースが結構あります。
これはケースバイケースで、北から南のほうにとか西から東のほうにとか
マーケティングの定説というものはあるのですが、正直出店してみないと実際のところは分からないのです。
ですから最初店を作ってから3カ月から半年ぐらいはテスト期間として、
いろいろなパターンでチラシをまいてみて、一番レスポンスの強い所に偏らせて販促していくのが
出店後に行う営業の基本の一つです。
あまり当初の先入観にこだわって
「うちはこういうふうに商圏設定したから、こういうふうに販促していくんだ」と
こだわらないほうがいいというのが1点目です。
商圏の分断要因と心理的要素
先ほどのお話の前提条件として「商圏特性を知識として知っておきましょう」というのが二つ目のお話になります。
◇物理的分断要因としては
・「川や線路」などの分断要因
・「高低差」も要チェック
・バスルート・バス時刻表は要チェック(バス会社が一番、商圏を研究している?)
◇心理的分断要因としては
・合併前の市区町村(役場出張所が名残として存在する)
・電話番号の市内局番は同じ商圏エリアと見なされやすい
・郵便番号の下二桁は同じ商圏エリアと見なされやすい
◇人口の割には売り上げが取れない……というケースとしては
・年齢構成は当然のことながら、地場の産業構造に大きく影響する
・エリア特性は深く理解する
港町、宿場町、農家、工業地帯、旧ベッドタウン、新興ベッドタウン、オフィス街……では「お金の使い方」が大きく違う
・都市部であれば鉄道沿線が「何沿線」なのか
(1)物理的分断要因
これは商圏の本にもよく書いてありますが、一つは物理的な分断要因があります。
川とか線路のような所は分断要因になりますので、
近くても大きな道路を渡ってまではなかなか人が来ないとか、
大きな川があって橋を渡らなければならない所は、当然分断要因となります。
それと、もう一つ見ないといけない点は、地域の高低差です。
やはり人というのは、低い所から高い所に行くのに抵抗感がありますので、
結構距離は近く、川を渡っているわけでもないけれど「なかなかこのエリアからは来ない」という場合は
土地に高低差があったりしますので、
そして自店が坂の下にあるのか、坂の上にあるのかは重要です。
これは昔からよく小売店舗で言われていることなのですが、
「坂の上にお店を作るな」と言われていましたので、高低差も調査する必要があります。
それともう一つ大事なのはバスルートです。
世の中で一番小さい商圏、小商圏の商圏分析をしているのは、バス会社です。
乗降客の状況を見て、バスの運行本数を増やすとか減らすとか、
バス停をちょっと減らすとか、増やすとかの判断を日々しているわけです。
ですからバスルートに乗っている商圏は、ある程度人の動きがあるのかなというところがわかりますし、
バスルートに乗っていない商圏は、これから過疎化も進んで行くのかな等と判断できます。
バスの時刻表も3時間に1本しか来ないとか、
結構僻地っぽいけれど1時間に3本ぐらいバスが来ているという現地の状況を見ると
何かしら人の流れができているかどうかという判断もつきますので、
こういったところもチェックする必要があります。
(2)心理的分断要因
■合併前の市区町村から見る商圏
また、市区町村合併が盛んに行われていた時期がありました。
それにより、何々市とか何々区とか何々町とかという定義が、昔とは変わっています。
でも そこに住んでいる人からすると、元々別の市とか別の町だったわけですから、
現在の市区町村と実際の商圏は別であるケースが存在します。
ですから今の合併したあとの地図だけを見てもなかなか実態が見えません。
私どもがよくやる手段としては20年ぐらい前の地図を持ってきて、
元々そこの町がどのように分断されていたのか、合併前の分断を見ていきます。
もう少し手っ取り早い方法としては、出張所の役場を確認することです。
市役所は統合しても旧市役所を支所とか役場という形で残しているケースが多く、
出張所の役場がある所は別商圏であることの名残が残っているということですので、そういうところも確認する必要があります。
■電話番号の市外局番、郵便番号の下二桁から見る商圏
また、電話番号の市外局番が同じとか、郵便番号の下二桁が同じといったケースは同じ商圏と見なされやすいので、
そのあたりの電話番号を見ながら同じエリアなのかどうなのかとか、どこの商圏と同一なのかも見ていく必要があります。
店舗へ来られる方からしても、例えば地元の自分の所の市外局番とは違う場合、
郵便番号も自分たちの住んでいる所と違う郵便番号だった場合は
「これは領域外なんだ」とか「遠い店じゃないかな」と心理的に思うケースがありますので、
そういったところも併せて見ていきます。
■地場の産業構造の影響を受ける商圏
結構よくあるのが、人口がいる割にはなかなかそこで商売がやりにくいというケースです。
どういったところから起きるかというと、年齢構成は当然ながら、地場の産業構造が大きく影響するということです。
ご存じの方も多くいらっしゃると思いますが、元々大きなメーカーさんの工場があったけれども、
そこの工場が海外移転したので地場の経済が沈み気味だとか、
外国人の方々がたくさん住んでいたのですが、工場がなくなったのでそういった方の人数も減ったとか、
地場の産業構造が商圏に大きく影響します。
■エリア特性から考える商圏
それと、昔からよく言うエリア特性の把握も重要です。
昔から残っている港町なのか、宿場町なのか農家なのか工業地帯なのか、
いわゆる古いベッドタウンなのか、新興のベッドタウンなのかによって、
そこに住んでいる方の気質に、若干の影響があります。
港町の商圏について現在でも言われることとしては、漁師さんが元から多く「宵越しのお金は持たない」という方が多い地域で、
その日得た収入はその日に使ってしまおうということで
比較的人口あたりの飲食店の店舗数が多かったり、飲食への支出が多かったりという地域性があるというケースがあります。
ですので、そういったところも見極めながら出店戦略を考えないといけないのです。
■高齢者の生活範囲から考える商圏
それと 高齢者を顧客とする業種の場合にお考えいただきたいことが、高齢者は交通弱者であるということです。
※交通弱者とは、公共の交通手段が限られている地域に住んでいたり、自家用車両がなく移動手段の選択肢が少なかったりする人を指します。
これからどんどん高齢化とともに交通弱者の方が増えてきます。
日本全国、交通弱者が大半になってきます。
そういったときに、交通弱者の方々が、どういう行動をとるのか、どのあたりまで移動できるのかを知る必要があります。
よく経営者様には「そこの場所で一週間車のない生活をしてみて下さい」とお伝えしています。
そうすると、移動にあたり何が不便で何が便利だとか「やっぱりバス停の近くじゃないとだめ」とか
交通手段が限られている方にとってそこがどんな地域なのが見えてきます。
そういった調査・分析の仕方も商圏を考える一つポイントになるかなと思います。
「定量的な」いい立地とは
(1)「いい立地」とは
皆さんいい立地に店を出したいとか店舗を出したいとおっしゃいますが、
「いい立地」という定義を考えたとき、
「販促コストと家賃コストはトレードオフの関係にある」ということをご理解頂きたいです。
結局、営業利益というベースで見れば業態さえきちんとできていれば、大きく変わるものではないのですが、
場所によって立地が悪ければ販促費をかけて、ある程度強制的に集客をしていけば売上が立ちます。
「立地が良くない」ということは「家賃が安い」ということでもありますから、
家賃が安くて家賃比率が低く、販促比率が高い場所となります。
逆に立地がよい場合は放っておいても人が来るわけですから、販促費をかけなくてもいいので、
家賃は高いけれども、販促費は低いというトレードオフの関係にあるのです。
場所が良くないのに販促費をかけたくないというのは、そもそもナンセンスです。
家賃にコストをかけるか販促にコストをかけるか、どっちかしかないわけです。
逆に言えば立地がいいのに無駄に販促費をかけているのも、二重に経費がかかることになるので、
これも絶対やってはいけないことです。
そこを見極めて自社は家賃にお金をかけていって集客をしていくのか、
自社は販促費にお金をかけて集客をしていくのかというところをきちんと方針・戦略を決めていかないといけません。
(2)定量的ないい立地とは
■交通について
もう一つ定量的ないい立地とか、いろいろありますけども、
商圏人口が多いとか、通行客数が多いとか、あとは店の間口が広いとか、
多層階の場合はエレベーター・エスカレーターまでの距離が近いとかです。
よく言うのですが、車通りが多い所はよくあるのですが、多すぎてもだめなんです。
車の量が1万台を超えてくるとやはり車のスピードもそれだけ上がってくるということですから、
入りにくさも出てきますので、8000台ぐらいがまあまあいいぐらいかと。
いわゆる店頭の車の走行スピードが、大体30kmから40kmくらいが、まあまあ適切かと思われます。
よく言う
「交差点の立地はよくないですよ」とか「交差点は渋滞しますから」
「も交差点と交差点の間はスピードが出るからだめですよ」
「交差点の手前は比較的減速するので店に入りやすい」等よく言われる項目もありますので、
郊外店の場合は、車がその地域をどれぐらいのスピードで走っているのかもポイントになります。
■看板の視認性について
徒歩で行くようなお店の場合は、50メートル先からの看板等の視認性が重要です。
看板というのは、どんな商売でも集客には非常に重要になりますので、
50メートル離れたところから、そのお店の存在が分かるか、見えるかどうかは判断軸になります。
立地が悪く看板が出せない所は避けるべきです。
その点を見極める必要があります。
「定性的な」いい立地とは
(1)その場所を他の人にカンタンに説明できる
定性的ないい立地というのも私たちも長年の経験則上ありまして、
一番大事なのは、その場所を簡単に説明できるかどうかということです。
よくお客さんが
「なかなか店の場所が分からなかったわ」とか
「何かちょっと聞いても分かりにくくてやっとたどり着いたわ」というのは、
立地が良くないということです。
例えば地元の人に説明するときに、
「市役所の前の赤い建物」とか、
「国道170号線のドンキさんの横」、
「駅の南口から出てすぐ前の煉瓦色の建物」など、ランドマークになるような建物だったり、
人に説明がしやすい、迷わずに来ることができる場所であることは、結構大事です。
このポイントは見落としがちです。
よく私どもが一緒に物件を見に行くときに「どの物件がいいですか」と経営者さんに聞くのですが、
「私が初めてこの場所に来たとしたらここの場所をどう説明しますか」という質問に対して
「いやー ちょっとああだこうだ」と説明が長かったら、
「この場所はやめましょう」とお伝えします。
簡単に説明できる場所はいい場所なので、
定性的にはそういったところが判断のポイントになります。
(2)住所表記がシンプル
それと住所表記がシンプルな場所というのも大事です。
「何々市 何々町 何丁目の何の何」という普通の住所表記です。
今はGoogle MapとかYahoo!地図とか見て来られるのでしょうけれども、
やはり住所表記がシンプルであればあるほど「そんなにややこしい場所じゃないんだ」と思われやすいです。
長い住所がだめというわけではないのですが、
お客さんからすると住所表記がシンプルかどうかというところは
行こうと思うかどうかのポイントになります。
要は地元に住んでいる方やある程度離れた所から来た方が、
シンプルに行きやすいかどうかという点が重要なのです。
(3)居抜きで賃借する場合に注意すること
■前の前の借主くらいまでは追いかける
もう一つ定性的ないい立地の続きということで、「居抜き」です。
今、出店の場合はオフィスビルでも商業ビルでも居抜きのケースが大半だと思いますが、
大事なのは、前の前の借主ぐらいまで追いかけることです。
前の借主は大体分かるのですが、その前の借主が誰だったのか、どんな商売をやっていたのか、
どれくらいの期間いたのかというのは、結構大事です。
一見場所が良さそうに見えて、実際は良くない物件というのは結構あったりします。
そういった物件は過去に何度もテナントが変わっているケースがあります。
何度もテナントが変わっているということは、何か理由があるわけです。
何か重大な事故が起きたわけではなくて、
精神的なものか、気が悪いのか、地元の人からすると動線が悪いのか等というケースがありますが、
過去に誰が借りていたのか、どんな人が借りていたのか、
どれくらいの期間借りていたのか、なぜそこから退店したのかを確認します。
あそこの場所だけは、前はラーメン屋だったのが、コンビニになって、何になってと、
よく店が変わる場所があると思いますが、そういった所は結構安い家賃で賃貸に出て来て
「うちだったら絶対できる」と「他が商売下手だったんだ」と思って、そこに出店したりするんです。
そしてその結果、経営が失敗したりします。
やはり「ツキ」も大事なので、ツキのある場所に出店しないといけません。
■特定の業種のクセがついた場所での出店
それと、特定の業種のクセがついた場所での出店というケースも要注意です。
例えば10年以上ラーメン屋が経営していた場所ですと、
やはりラーメン屋のクセというか印象がついてしまっていますので、
なかなか違う商売をやっても軌道に乗りません。
むしろ逆に、元々ラーメン屋があった場所に別のラーメン屋さんが入る場合は、
元々のお客さんも取り込めますからメリットがあるのですが、
違う商売をやるときは前のクセがなかなか抜けないので、出店に苦労したりします。
そういったところも見極める必要があるのかなと思います。
ビジネスモデルの強さと立地の関係
■競合が多くてもお客さんが多い場所の方が良いスタートダッシュが切れる
結局、ビジネスモデルが強ければ、絶対的な認知度や知名度があるため、放っておいてもお客さんが来てくれます。
口コミで来てくれる場合は、別に立地にこだわる必要はありません。
ただ、ここで考えておかないといけないのはビジネスモデルが確立していないケースの場合に、
競合が多い場所では勝てないと思って、
競合がいない場所に出店しようとしてしまいがちだということです。
確かにこれは一つの考え方としてありなのですが、絶対に正しいかというと意外とそうではありません。
競合がないということは、そこに1店舗がポツンとあったとしても、
お客様は1店舗の力だけでは集まりにくいために、
なかなか軌道に乗るまでに時間がかかるのです。
むしろある程度競合がある所のほうがお客さんはそこに足が向いているわけですし、
既存の競合よりいいお店を作ればお客さんを取れるわけですから、
意外と「競合他社が全くない無風状態の商圏は有利だ」ということはなかったりします。
過去の出店の成功例、失敗例を見ていくと商圏が小さくて無風状態の所に出店するのと、
商圏が大きくて競合がひしめき合っている所に出店するのと
どちらの成功確率が高いかといったら、間違いなく後者です。
大商圏で競合がひしめき合っている所のほうが、すでにお客さんがそこに来ておられるわけですから、
そこで差別化していけばいいわけなので、そっちのほうがいい。
競合がない所で小商圏の場合、ゼロからお客さんを作っていいかないといけないですし、
そこのお客さんを全部取ったとしてもたかが知れてる売上にしかなりませんので、
そういったところの兼ね合いを見ていく必要があります。
■戦略的な優先順位としては
2. 「強いビジネスモデル」×「弱い立地」で独占する
3. 「弱いビジネスモデル」×「強い立地」で時間をかけて一番化していく
4. 「弱いビジネスモデル」×「弱い立地」はやってはいけない
自社として絶対的に勝てる強いビジネスモデルがあり、強い立地に出せる力もあるというケースの場合。
ビジネスモデルができているということは売上が立つということですから、
多少高い家賃でも勝負できる場合は、後発でもいいのです。
後発でも一番化が可能ですから、むしろ様子を見て後発で、後から「よっこいしょ」と出て行っても十分間に合うということです。
後発でも一番化するということが、強いビジネスモデルを持っている場合の一番のメリットだと思います。
また、強いビジネスモデルがあって弱い立地で独占をする、これも一つの戦略です。
ただし 先ほど言いましたように考えないといけないのは、独占したときの売上がいくらなのかという点です。
独占しても大して売上が上がらないのであれば、そこまで小さな商圏に出るべきではないということです。
しかし自社のビジネスモデルがそこまで確立しておらず、
一番企業、二番企業と比べるとちょっと弱い場合は、やはり強い立地に出ないといけません。
ビジネスモデルが弱いのに弱い立地でやるのは、絶対やってはいけないパターンです。
弱いビジネスモデルだから立地に寄りかかって強い立地で勝負する。
徐々にその中で自社のビジネスモデルを磨いていって、
時間をかけて一番化していくことを考えていかないといけない。
こういうふうに、自社のビジネスモデルの強さと立地という関係性は見ていかないといけません。
出店戦略の基本的な考え方ということで、以上とさせて頂きます。