【インタビュアー】株式会社船井総合研究所 取締役専務執行役員 出口恭平
【インタビュイー】株式会社サイバーエージェント 代表取締役 藤田晋氏
はじめに
今回は、株式会社サイバーエージェント代表取締役藤田氏にご登壇いただいた弊社主催のセミナーより抜粋してお送りします。
ポイントは
・逃げない
・一度体験してみる
他にもDXについての見解や人材育成などについてもお話いただいています。
ターニングポイントは「逃げなかったこと」
船井総研のお客様も営業出身の経営者の方が多くて、自社商品を作りたいというのは皆さん想いとしてはおありなのですけれども、なかなかそこまで我慢して投資ができないというようなこともあるようなのですが。
その気持ち、本当に僕は痛いぐらいわかります。営業だと毎月数字を上げながらキャッシュフローを回していると思うので、やっぱり目先のことを優先しがちになっちゃって商材を作るのが後回しになってしまいがちです。
僕はそれを完全に組織を分けて、文化も分けたというか、そういう形で立ち上げていきました。
やっぱり営業出身で会社を作っているので、営業部門を率いる方が得意だったし好きだったので、プロジェクトの方は専門性が高い人に任せればいいというふうな考え方をしていました。
ですが、社運をかけてやってきたような事業を社長が人任せにするというのは間違いだったとある日気がついて、得手不得手関係なく、一番覚悟と責任がある社長である自分がやるべきだということで、営業部門の方を人に任せて、プロダクト部門を見始めました。
そのときには責任者だった方に退いていただいて、ご自身が担当されたということですが、それはなかなか勇気がいる決断だったのではないですか?
それが一番のターニングポイントで、一番の成功要因だと思っています。任せていた担当役員が悪かったというわけでは決してないのですが、全員変えて最後は自分がしっかり責任を持つ体制に切り替えました。
それは非常に胃が痛いし、心苦しい仕事だったのですけど、やはり長い目で見ると、それをやったからみんなに覚悟が伝わってちゃんと成功に導けたと思います。
その際はかなり細かいところまで、社長ご自身が見られるという形で進められたのですか?
そうですね、幹部が3人いてやっていたのですけれど、僕がやるようになってからはその3人とも他に移動してもらいました。
例えば出てくるプロダクトが使いづらいとなっても、出てきた後だともう1回作り直しになってしまうし間に合わないので、一緒に作っているプロセスを見ながら、ちゃんと使いやすいように変えてくというのをやっていました。
特に僕はプログラマーでも技術者でもないので細かい技術のことがどうしてもわからないのですけど、やっぱり技術がわからないから技術者に任せっぱなしとか、デザインがわからないから任せるというのが一番駄目だと思っています。わからないなりに技術者の言うことをしっかり聞いて、正しい方向に導く努力をしなければいけないと、簡単に言えば「逃げちゃいけない」ということになります。
元々営業の方を見られていたというところから、メディア事業の方を直接見られるようになって、何か変わったこととかございますか?
いやもう全然変わってしまいます。うちの社内でも営業やってプロダクト側に変わると、少し言葉が悪いのですが、ハンマーで頭を3回ぐらい叩かないと切り替わらないですよね。
やっぱりお客様がこう言っているという方を一番優先してやっている仕事と、とにかくユーザーに使いやすくて良いものを作る、とにかくプロダクトのクオリティを上げるということではかなり価値観が違うので、社長自らそういう姿勢を見せることが一番会社の中のカルチャーを変えるというか、考え方を変えるので。
細かいところへのこだわりというのを見せていったのですけれど、僕自身もすっかり変わりました。
企業のトップが一度体験してみる
DXするというのは誤解が生じやすいのですが、なんかプログラミングが難しそうとか、ITリテラシーが高くないとできなそうとか思われるのですけど、全然そんなことなくて。
普通に新しいものを、ちゃんと使っていれば、これはこういうふうに世の中が変わるのか、ここをこうすれば便利になるのだってわかったら、細かい技術なんてわからなくてもそんな高度な技術を使うようなことはめったに起きないので。
最近で言うと、デジタル庁の上層部の人がメールしか使わなかったのが、ZoomとかTeamsのようなオンライン会議ツールやビジネスチャットのSlackを使うようになったって言っていたのですが、それって最初はなんとなく新しい物面倒くさそうっていう心理的なハードルがあっても、別に使ってみれば全然簡単じゃないですか。ああいうのをしっかり、企業のトップが使っていれば、どこをどうすればDXが進むのかっていう勘所はすぐつかめると思うのですよね。
例えばeコマースとか、服とかはサイズがわからないからネットで売れないのではないかとか言う人がいるのですけど、言う前に1回買ってみたり、自分で体験したりしてみたら、勘所がわかる。別に技術がどうこうっていうのは関係なくて、僕も全然技術者じゃないですけど会社ちゃんと大きくしていますから。一番駄目なのは、新しいものをやらないってことですね。
それはやっぱりトップがそういうスタンスでいるのが大事ということでしょうか?
めちゃくちゃ大事だと思いますね。仮想通貨とか、NFTのようなものもやっぱり1回はやってみるべきだと思います。
つい最近オンライン診療のアプリで健康診断の結果をフィードバックされるっていうアプリをダウンロードしてみて。最初に登録してみたらちょっと面倒くさいな、Zoomでいいじゃんと思ったのですけど、やっぱりやってみるとオンライン診療というのがどの程度進んでいてどういうものなのかというのがわかりますし、問題点も見えてきます。
そういうところからDXの応用がどこに利くか、何が足りないのか、どこが規制の壁になっているのかということもわかるので。DXと言っても、大事なのはただそれだけなのではないかなと思いますね。
経営者の方が自らプログラミングを学ばなくても、ユーザーとして新しいテクノロジーに触れられるということですね
そういうコンプレックスもあるので突然プログラミングを勉強し始める経営者とかたまにいますけど、それが一番寒いですね。そこは本当にいらないと思います。
ただただ新しいものを使えばいいんです。めちゃくちゃ簡単だということは使ってみればわかるので。
それによって技術者の方とも、対話できるようになってくるというのですね。
そうですね、技術者も僕がプログラムの細かいことをわかっているとは当然思ってないので。その中でやっぱり経営者に伝えなきゃいけないことを自分なりにわかりやすく伝えてくるし、僕も必死にそれを捉えようとしているので、全然会話は成立します。
歴史は元には戻らない
いわゆるデジタルトランスフォーメーションの便利さの恩恵だと思っていて、結局より便利で快適なものに置き換わっていくと絶対に歴史は元には戻らないので、それをまず自分で体験しないと、やっぱりわかんないですよね。
インターネット出始めの頃は、なんとかネットじゃなくてテレビで食い止められないかと思ったのですけれども、それはできるわけがないんですよ。
本当にテレビって日本の社会生活の中ですごく大きな位置を占めているので、テレビが変わっていくというのは社会が大きく変わっていくっていうことの象徴的な事業なのかなと思います。
それはもう言葉にするよりも、自分でそれを使っていたらこれは変わるなっていうのがもう感じられてしまうものだと思いますね。
人材は自前で育てる
しばらく長い間、人材は自前で育てていくという考え方で、経営されてきたというふうにお聞きしていますが、そのあたりについても考え方を教えていただけますでしょうか?
そうですね、インターネット業界の特殊な事情もあるのですけれども、新しすぎてやっぱり買収の対象となるような会社というのはなかなか育っていない上に、日本企業社会っていうのは買収されたら負けみたいな空気がすごくあって。
欧米と同じようにM&Aを推進しようとすると結構もうどうしようもない会社が売りに出ていたり、もしくはめちゃくちゃ高かったりというふうに難しい中で、もう自分たちで作って伸ばした方が早いと。
アイディアは結構ネット業界いくらでも出てくるので、優秀な人材を採用して、その人たちを育成することに注力した方が費用が大きくしやすいということで、これまでの事業はほぼ自前で作ってきたというか、方針でやってきました。
人材育成の中でのこだわりというか、力を入れられてきたことというのはどういうことがございますか?
自分たちで作って伸ばすと同時に、上層部は経営幹部を外から採用せずに自前で育てるという方針も決めました。結局外から取る人ってどこかの会社で社長や役員だったとかそういう人じゃないですか。そういう人を経営幹部として高値で採用するぐらいだったら、自分たちで育てようと。
結局足りないのは経験なので、とりあえず経験させるということに軸足を置いて、もう未熟であっても何かグループ会社を作りたければゼロから作って、新卒でも内定者でも、いいアイディアがあって社長やりたいですって言われたらやってみろと、そういう風にして人を育ててきました。