宮井:今回は、社会保険労務士法人 とうかい 代表の久野先生に、
「意外と社長の皆さんが知らないお得な公的制度」をご紹介いただきたいと思います。
公的制度1:経営者の労災の特別加入
久野:一つ目が「労災の特別加入」です。
宮井さんは労災に入っていますか。
宮井:入っています。
久野:入っていますよね。
従業員の方は入っていると思います。
しかし、実は社長も会社があまり大きくなければ入ることができます。
そして、私は社長も労災に入った方が良いとお勧めしています。
宮井:入られてないケースが多いのでしょうか。
久野:はい、全然入っていません。
例えば、金融・保険業、不動産、小売など社員50人以下であれば労災に入ることができます。
ですが、意外と入っていません。
宮井:入っていないのは知らないからですか。
久野:知らないのと、もう一つ理由があります。
「労働保険事務組合」の名前を聞いたことがありますか。
宮井:聞いたことだけはあります。
久野:非常に不思議な制度ですが、社長は労災に個人で入ることはできません。
労働保険事務組合か社労士事務所に委託しなければ入れないので、意外と社労士業界の中でもお勧めしているところが多いわけではないのです。
しかし、ものすごく補償が厚いので、私自身は加入したほうがいいと思っております。
ですから、お客様に地道に加入を勧めています
宮井:どれくらいの補償の厚さですか。
労災の補償の厚さ
久野:まず、従業員の労災から説明させていただきます。
従業員の労災の場合は、怪我をしたら従業員の平均給与を計算してその8割など決まった額を月々保証してくれます。
経営者の場合は経営者自身が自分で日額を選びます。
例えば、最高額の2万円の場合は2万円で全ての給付を計算していくかたちになります。
ですから、休業補償を貰う場合は1日1万6,000円が貰えます。
年金が貰える場合もありますが、例えば社長が重い障害を負った場合には生涯お金を貰えます。
結構大きいですよね。
宮井:大きいです。
久野:313日×2万円で計算するので、約600万円の年金をずっと貰える制度です。
宮井:日額の設定によって支払う保険料は変わってくるということですね。
久野:そうですね。
宮井:ちなみに今見られている経営者の方で「いや、俺は大丈夫だよ」と思われている方も居ると思うのですが、実際の活用事例はありますか。
労災特別加入の活用事例
久野:これはあくまでも経営者の労災加入なので、基本的には従業員と似ています。
元々の国の趣旨として中小企業の経営者で意外と現場に入っている方用のものですから、現場での事故や通勤中の事故がポイントになります。
そして、中小企業の社長は結構現場が好きなので、現場での作業中に手を切ったなどの軽いものが多いです。
宮井:基本的には皆さん入った方がいいけれども、特に現場に入っている方にはマストで入っていただきたい制度ということですね。
久野:そうですね。
宮井:分かりました。
次に二つ目の制度について教えていただければと思います。
公的制度2:経営セーフティ共済
久野:「経営セーフティー共済」という名前の制度に入っておくと良いというお話です。
宮井:こちらはどのような制度なのでしょうか。
久野:この制度には法人で加入するのですが、経営セーフティー共済は取引先が突然潰れた時のためにお金を積み立てていく制度です。
月額5,000円から20万円の範囲で金額を決めて地道に積み立てていきます。
この制度の使用例としては、取引先が潰れてしまった場合、資金繰りが急にきつくなりますので、その時に国に預けているお金の10倍まですぐに融資してもらえる制度です。
例えば200万円預けていると2,000万円まで融資をしてくれます。
宮井:条件なく融資を受けられるのですね。
久野:経営セーフティー共済は連鎖倒産から会社を守るための制度なので、倒産が理由ならすぐに資金を融資してくれます。
最大800万円まで積み立てることができるため、800万円積み立てておくことをお勧めします。
この状態は会社に800万円貯金があるのと同じです。
この積立の面白いところは倒産時の保険の側面も一つあるのですが、積み立てを解約することもできるところです。
解約すると800万円が戻ってきますので設備投資などに回すこともできますし、経営セーフティー共済へ入り直すこともできます。
最大800万円しか枠が無いですが、毎月20万円ずつ貯めていく場合、その20万円は経費扱いになるので、無税で800万円までお金を積むことができます。
宮井:凄いですね。
それはやらない手はないですね。
久野:商工会議所や取引先の銀行に言えば対応してくれますし、税理士さんも勧めてくれて、対応してくれています。
ですが、話を聞いていると「それはやっていなかった」ということもありますので、一応チェックした方が良いかも知れないです。
一つ面白いのは、皆さん掛けていることを忘れてしまうことがある、ということです。
宮井:毎年20万円ずつ掛けていって、800万円まで掛けた時に、もう一回掛け直すのがベストなのですか。
久野:そうですね。
満期がきたときに投資したいものがあればかけ直して積み直す方が良いと思います。
税理士さんの話では「800万円を退職金に当てた方がいいよ」とのことです。
無税で積み立てたお金なので、退職金として吐き出すといいのではないかという提案もあるのですが、積み立て直せる制度なので、800万円貯まったら取崩して投資に変えるほうが会社としては伸びる可能性が高いので、貯まってから使うサイクルで出口としては退職金が良いと思います。
宮井:凄く良いアイデアなので、皆さんにやっていただきたいです。
久野:お願いします。
宮井:それでは、三つ目の公的制度をお願いします。
公的制度3:選択制の企業型確定拠出年金
久野:三つ目は「選択制の企業型確定拠出年金」です。
恐らく船井総研では「企業型の確定拠出年金」でされていると思います。
宮井:私もしています。
久野:そうですよね、大企業はほとんどしています。
そして、中小企業向けの「選択制の企業型確定拠出年金」がありますので、それを凄くお勧めしたいと思っています。
宮井:選択制とはどういうことなのでしょうか。
久野:選択制とは従業員の為にもなりますし、社長の為にもなるのですが、従業員と社長で取り扱いが違います。
従業員の選択制の企業型確定拠出年金
25万円お給料をいただいている人がいて、1万5000円を老後のために貯金している社員の方は割といると思います。
普通に25万円から1万5000円貯金しようと思うと25万から「社会保険・所得税・住民税」など様々なものが引かれた後に貯金していると思います。
「選択制の企業型確定拠出年金」の選択制とは、やりたい人だけやれるという選択と金額を選択できる側面があります。
金額の幅は3,000円から5万5,000円の範囲で、1万5000円を老後の資金に貯めたい場合に給料が25万円であれば1万5,000円を除いた残りの23万5000円に「社会保険・所得税・住民税」が掛かってくる制度です。
宮井:私も積み立てられる限界の金額で積み立てています。
節税の観点で積み立てています。
会社員でできる節税は限られているので、その一つだと思っています。
久野:意識の高い人はやっていると思うのですが、iDeCoなどはあくまでも個人の所得で行います。
ですが、こちらは企業型なので、給料で計算していく結果として、社会保険が少し下がったりするので、そのことも含めて凄くお勧めです。
宮井:会社としても経営者としてもメリットがあるということですか。
久野:確定拠出年金は自分で運用をするので、お金の増減はあると思いますが、授業員の方が会社の仕組みを使って老後の資金を蓄えることは、会社へ働きに来るメリットにもなります。
「うちの会社ってこういう制度があってよかったな」と言ってもらえるのが一番良いポイントだと思うのですが、この制度のもう一つの面白いポイントは、役員の方が積み立てる場合です。
役員の選択制の企業型確定拠出年金
久野:役員の方が積み立てる場合、役員報酬から積み立てると思います。
先ほどの話だと、社長が自分もしようと思った時に、役員報酬から5万5,000円を引いて役員報酬を減らして積み立てるイメージかもしれません。
ですが、役員に関しては、税法の観点から定期同額給与の考え方があって、期の途中で役員報酬を変えてはいけないという原則があります。
ですから、確定拠出年金を算出する時は、役員報酬は変えなくて良いです。
どうするのかというと、3,000円から5万5,000円の範囲で、社長が選択する金額を損金で計上して、社長の確定拠出年金の積立を行います。
つまり社長は毎月老後の資金を貯める名目で、5万5,000円の掛け金を会社の損金で貯めることができます。
これも一つのメリットだと思います。
宮井:儲かっている会社の経営者がこれを取り入れるデメリットは何があるのですか。
選択制の企業型確定拠出年金のデメリット
久野:デメリットの一つは、継続に少しコストがかかることです。
これは制度で国が法律を決めて民間が運営しておりますので、基本的には毎月の事務費や管理料が掛かってきます。
宮井:結構掛かるものなのですか。
久野:月額で1万円から1万5000円と一人当たり何百円の金額になると思いますが、この金額はめちゃくちゃな金額ではないと思っています。
また、一旦始めたら制度としては簡単に止められないという点もあります。
ですが、経営者の方で毎月5万5000円でかけ始めても、金額を下げることは可能です。
最低3000円まで下げることができるので、止められないリスクはありますがリスクが高すぎることはないと思います。
宮井:こちらの制度は社員全員が適用できるのか、それとも適用できる社員さんを区切ることもできるのですか。
久野:様々な制度設計があるので細かいことは相談する形になると思いますが、基本的に選択制なので、やりたい人だけが行うかたちになります。
やりたくない人はやらなくてもいいですが、制度を利用するための条件として会社で厚生年金に加入している必要があります。
宮井:厚生年金に入っている社員さん全員が活用したいとなった時に活用者を絞ることはできるのですか。
久野:それはできないです。
宮井:私自身としては、この制度は凄くありがたいと思っていて、日本人は貯蓄の優先度が高い方も多いのでなかなか進まないと思うのですが、活用したほうがいいですよね。
久野:活用したほうがいいです。
うちの社員も皆活用しています。
社長はお金を貯める方法が様々あると思いますが、従業員の方は選択肢が非常に少なくて、節税などもできません。
日本人の多くの方が投資をしたことがないため、「選択制企業型確定拠出年金」が投資の初めてのステップの方も多いです。
そこで数%の利回りは意外と難しいわけではないことに気が付くと、自分でNISAを始めたり掛け金を増やしたりするので、制度が良いこととは別に、制度をきっかけに社員の意識が変わるのが一番いいと思います。
宮井:そうですよね。
当初私もここまで増えるとは思っていなかったので、お給料だけではないという安心材料にもなると思いました。
久野:実際に労働収入だけで老後の資金を作り切るのは難しくなっています。
本もたくさん出ていますが、従業員が、「お金に働かせる」という感覚を掴むきっかけになると思います。
宮井:そうですね。
是非取り入れて欲しいと、一会社員として思いました。
今回は「経営者の方に取り入れていただきたい三つの公的制度」について、久野先生にお話しいただきました。久野先生どうもありがとうございました。
久野:ありがとうございました。