〇はじめに
どうやら新型コロナウイルスの経済的な影響により、中小企業に関する融資の状況が大きく変わってきているようです。
市況は悪化しているにも関わらず、融資で資金が充足している企業が増えています。
しかし、それはあくまで目先の調達でしかなくコロナが収まったアフターコロナに本当の恐怖が待っていると言えます。
特にもともと立て直しが必要だった企業は今すぐにでも自社を再建していかなければいけません。
今回の記事では再建に向けた戦略とその具体的な方法を事例を交えてご紹介していますので是非ご覧ください。
〇企業が知るべき「再建」の戦略とは?
今回お伝えしたい、企業が知るべき「再建」、あるいは融資見直しの戦略とはいったい何なのか。
それは三つのポイントに集約されると思います。
一つ目は、企業再建に必要な「基本情報」を正しく整備できるかという点です。
まず、自社の現状をリファイナンスのマップを作ることによって即座に把握していくことが重要です。
そして自社のことがよくわかっていない、つまり「材料が何が入っているかわからない闇鍋に箸をつっこんで食べる」これぐらい怖いことをやってしまわないように、しっかりと基本情報を正しく整備できるかどうか。
これらが必要な戦略であることをお伝えしたいと思います。
二つ目は、現在の金融取引は今借りてどうなったかではなく「出口戦略」を考えられるかどうかという点です。
ここまで借りられるだけ借りる、とにかく制度融資を使って資金繰りを回すというところが大事な市況から、いよいよその後を対策しているかどうかというところが大事な局面に入ってきました。
コロナウイルスの関連融資というのは据置融資になっていまして、そう簡単に返済が始まる事はなく1年、2年、3年、最大5年まで返済がない融資になっています。
なので、そう困る事はないように見えますが、例えば仮に3年後コロナウイルスが完全になくなって終息した事を過程したとしても、その3年後にコロナウイルス関連の融資の返済が始まり業績が悪いからこの融資リスケジュールしたいと思っても、3年後は金融機関にとってはコロナ市況ではありません。
つまり、「コロナウイルスだからしょうがないですね」と言ってリスケジュールに応じてくれる可能性はほ、ぼゼロに近いという事を危機感を持たなければいけないということです。
三つ目は、「いま」融資見直しの最後のチャンスが来ているという点です。
今、借入しやすいのは「ノーリスクの制度融資」だけであり、実は金融機関と本来ひざを突き合わせて打ち合わせて借りていくべきプロパー融資というのは非常に受けにくい環境になってきており、その傾向はより激しくなっています。
むしろノーリスクの制度融資を受けた後、なかなか金融機関としっかりと打ち合わせをしていないというような、金融機関との取引が希薄になっていないかどうかをもう一度再確認していただきたいと思います。
改めて今回は、これらの重要な再建の融資見直しの3ポイントに関して、自社で把握すべき「ポイント」を確認した後に実際に筆者が体験した二つの「事例」を用いて、融資見直しに至った道筋をなぞりながら、お伝えしてまいりたいと思います。
〇リファイナンス事例
リファイナンスマップの対策事例として、実際に現場に入っていく中で経験した2つの事例について解説していきたいと思います。
【事例①】過去の債務超過が問題化したA社
まず最初にご紹介するのは、年商2億円ぐらいの運送業のA社さんの事例です。
A社さんは運送業で業歴が40年以上、社長も2代目に交代したばかりの状態でした。
前社長の放漫経営で債務超過状態となっていました。
交代をした社長さんは非常に真面目で毎年利益を出す努力をされていました。
初代社長として経営されていた方が若干放漫経営というか、浪費されていまして、そのせいで債務超過状態になっていましたが、資金繰りは回っていたので、一応企業としては長年経営してこられた企業様でした。
しかし、コロナの影響で飲食業向け、コンビニ向けの定期配送がなくなり、業績がわずかに悪化したことで、その期間のP/Lがマイナスになりました。
すると突然、今まで債務超過でも取引されていた金融機関さんとのセッションが上手く進まなくなってしまったのです。
この問題に対して我々は4か月かけて、A社の社長様と「融資が出ない状態から融資が出る状態へと切り替えていくこと」を一緒に取り組みました。
A社さんの事例は過去の財務的問題をメインバンクを作りながら解消していくことで、最終的には調達に成功し、過去の負債もしっかり解消した事例です。
A社の社長さんからは当時「いきなり銀行がですね・・・」ということでお話をいただきました。
「これまでも損益状況は良く、今まで銀行に何も言われなかったのだけど、なんで急に言われだしたんだ・・・」
「保証協会付融資ですら難しいなんて、いったい、今までのうちの何がそんなに悪かったのかわからない」
「既存で取引をしている金融機関がコロナ禍になってまったく来なくなった。もしかして、このままだと融資を切られるのでは・・・」
とモヤモヤがつきませんでした。
これはどういうことかと言いますと、A社は社長交代後、財務課題があることは認識していましたが、急激な金融市況の変化によってそれが顕在化してきて、その変化に追いつけず、金融取引に課題を抱えたということです。
この時に我々が社長に伝えた言葉は4点です。
1.過去の遺産を特定するためにリファイナンスマップを作ること
2.保証協会やメインバンクの説明もマップを使って行うことの重要性
3.金融機関の「立ち位置」をマップをを把握したうえで交渉をしていくこと
4.金融機関が結局何を欲していて、どんな情報だと喜ぶのかというところを理解すること
まず取り組んだのは、リファイナンスマップです。
特に財務デューデリジェンスが付いているリファイナンスマップを作成していくことから作業がスタートしました。
これは、自社の決算書の中に潜んでいる
・換金性の高いもの、低いもの、
・実は利益と認められていないもの(黒字決算だけれどもよく見ると赤字だよねと判定されてしまうもの)
・実は数字には関係ないけれども貴社の価値として評価されているもの
こうしたものを把握して仕訳していくことで、コロナ下で重要となるはずの「融資見直しに必要な素地」を整備、可視化する作業を実施していったというような内容のものです。
これは、リファイナンスマップの中でも一番複雑な内容になっているものとして一カ月間をかけて資料を回収し、納品まで進めていきました。
A社は金融取引を急激に悪化させた企業でしたので、その原因を特に徹底的に精査する必要がありましたので、かなり詳細に調査を進めました。
すると、やはりリファイナンスマップを使ったことによるA社の「穴」というものが見えてまいりました。
A社は社長交代後、次第に明朗な会計、つまりしっかりと試算表を作ったり、決算書をきちんと作ったりすることをしていたわけですが、過去放漫経営時代の「負の遺産いわゆる不良資産」がB/Sに残っており、金融機関の心象が元々コロナウイルス関係なく悪かったということが発覚しました。
そこにコロナが乗じてしまったことによって、A社が全く金融取引がうまくいかないといった事態が発生していることがわかりました。
銀行と保証協会に対して、こうしたマップを作ったことにより、
・正確にどこがまずくてどのように認識をしているのか
・今後どういうふうにそれをなくしていくのか
といったところの説明を行い、書面でその資料が出たこともあり、最終的に、銀行、保証協会共にコロナ危機対応融資に応諾してくれたといったような事例でございます。
こちらの事例は、とにかくマップの深掘りをして、原因を明確に特定したことがポイントだったと思います。
過去の会計ミスを説明して共有をすること、そして今後の展望をしっかりと解説したことにより、コロナ禍でも金融機関の窓口はどこが一番融資を出してくれて、どこがなかなか融資を出してくれなくて、しっかりと説明すると一体どこが一番なのか、というところを整理することに移行しました。
さらに、新規の金融機関もこのときに営業に来ており、新規金融機関も活用した「まっさら」での融資取引もこのマップを使うことによって達成することができました。
本来はこうした粉飾に近いようなミスがある会社は、なかなか新規の金融機関が融資を出すということはありません。
しかし、既存の金融機関もこうした新規の金融機関の融資を出したという事実を見たことによって、さらなる追加融資にも応じてくれる環境を作ることができました。
これは、新規の金融機関だけに寄って、メインの金融機関をおろそかにしたわけではありません。
メイン行へは何が欲しいのか、このマップを使って話し合いをすることができたので入金、出金取引情報もメイン行に提供することで、金融機関に入金や出金の情報をその金融機関の講座でやってもらうことによって、義手的な保全を与えることができたので安心感を持ってもらうことができました。
そして、最終的には自社の資金繰りを金融機関に理解させるきっかけにもなったというような非常に良い取引を調整することができた事例だったかと思います。
リファイナンスアップがいかに原因を特定するためにまず重要なのかというところがわかった好事例だったかと思います。
【事例②】黒字倒産もあり得たB社の抜本「再建」
2つ目の事例として、次はもう少し規模観の大きな企業の事例をお伝えしたいと思います。
年商約30億円、従業員100人程度の規模感としては大きめの請負住宅の販売業、つまり製造販売業の会社の事例です。
B社は地場ではトップ層に入る住宅販売業さんで、ここ4年ぐらいで急成長により一気にトップ5レベルまで拡大をしてきた企業さんでした。
東京地区やその他の地区に支店を出店することや積極的な人材採用もあって、その間に発生したコストによって借入金も増えていました。
しかしながら、こうした急成長によってバックオフィスの業務が追いつかなくなりました。
売上は確かに4年間で2倍になりましたが、そのせいでバックオフィスが進まず、試算表も出ず、企業が今どのような採算状況になっているのか、どのような資金繰りの状況になっているのかあまりわからない状況が発生してしまいました。
その様な中でもブレーキを踏まずにどんどんアクセルを踏み込んでしまったことにより、採算がみるみるうちに悪化し、資金繰りに窮するような事態に陥ってしまいました。
そんな中、私がこのB社の社長さんと打ち合わせをしていく中で、スケジュールとして、リファイナンスマップで内部をしっかり調べた後に、社外の金融機関とのやり取りだけではなく、社内の組織再編や経営業務・財政業務の内製化の部分もしっかりマップで特定し進めていきました。
その結果、リファイナンスマップを社内外で活用でき、融資継続はもちろんのこと、社内の組織再編や数字に対する意識改善にも繋げることができました。
過去の事業計画から「実現できる計画を出してください」等、次々に電話がかかってくるのですが、中々その電話に対して正確に答えるだけのバックオフィスの業務が整っていない。
さらにコロナウイルスも発生して泣きっ面に蜂、という状況が発生していたわけです。
売上や棟数をとにかく伸ばしていくことを中心に動いていたので、営業帳票は見るが決算や試算表は気にしたことがなく、どういう状況になっているかは頭の中にそもそもなかったといいます。
さらにはコロナ影響で来店数が一気に落ち込み、毎月の借入金返済でジワジワと現預金が無くなっていく可能性もあるので、とにかくまずどうなっているのかを知りたいといったような話でした。
B社は、急拡大で金融機関取引も10行近くなっており、各金融機関から言われたい放題で、そして方針も全く見えないといったような結構八方ふさがりに近いような状態に陥っていたかと思います。
この時私が社長にお伝えしたことは、A社と同じように4点になっています。
1.金融機関が求める資料をマップと共に整備していくこと
2.営業帳票以外に「何が」社内に転がっているのか、何が社内に準備されているのかというところをチェックすること
3.「誰が」マップを作る中で計数を管理して、責任を持つのかを明確にすること
4.各方面、社内外の金融機関なのか、社員なのか幹部なのか、「強弱をつけて」できあがった情報を活用できること
これは、
「相手(金融機関)をしっかり知ることはもちろんのこと、己(自社)を知るためにも重要な戦法としてリファイナンスマップがあるんだよ」
ということに繋がる内容かと思います。
今回のリファイナンスマップは金融機関向けだけではありません。
リファイナンスマップを作るための素地を整えるために、社内向けにもしっかりと活動をしていかなければいけない状況でした。
なので、まずは我々が実地調査に入る中で社長とリファイナンスマップを作る前段階で、どこで何を作って最終的な数字の判断を出来る試算表はどのような流れで出来ていくのか、というところの調査に入っていきました。
例えば、B社では営業部長がエクセルで案件進捗表を作り、各現場リーダーがスプレッドシートで施工管理表を作っています。
それを集約し経理部長が会計ソフトに試算表のデータを打ち込んでいき、最終的にその数字を元に社長が資金調達をするべきなのか、投資をしても大丈夫か、そしてどれぐらいの損害が出たのかをチェックしていました。
そういった流れがわからなかったので、それを可視化し、無駄な作業を排除していくことを進めていきました。
つまり、試算表というのは会社内(冷蔵庫の中)からできあがる料理と同じようなことだということでイメージをしていただければと思います。
カレーを作るときも、まずは冷蔵庫を開けて、にんじん、玉ねぎ、お肉などを取り出すと思いますが、こういった物があるからカレーができるというふうに話が進んでいく訳です。
試算表もそれと全く同じで、試算表を作るためにはまず材料に何があって、その材料は賞味期限切れになっていないかどうかといったような事も確認していかなければいけない訳です。
いつ、誰が、どんな作業で仕上げているのかを一覧化することによって、その遅れを特定することにB社は成功しました。
その中で二重作業も排除し、B社の試算表は最大で月末締め、4カ月後まで遅れていたのが、最終的には月末締め翌15日まで早期化することに成功しました。
そして、やっと材料が整って、リファイナンスマップを作るような素地が整い、リファイナンスマップを作っていった訳ですが、さらに財務管理として社内で作ったそのマップをどのように共有していくのかというところにも注力していきました。
財務管理は共有して効果を発揮します。
社長は決算書、試算表の全てを把握することによって、その中身をチェックしていきますが、営業や総務はポイントポイントで数字がわかって、自分が全うする業務がしっかりと推進できるようなところだけわかっていればいい訳です。
例えば営業さんであれば粗利までの数字を営業それぞれのメンバーの個人個人で落とし込みを図れればそれでいい訳ですし、総務の方は会社で使っている販管費を把握することで、削減できるような無駄なコストはないのかどうかを分析することができればいい訳です。
各メンバーにとって「何が、なぜ重要なのか」を定例会議を設けて、変えて使うことによって、難しい数字を一つ一つ説明していくことではなくて、シンプルに各メンバーにとって必要な情報を活用していける状態を作っていきました。
とにかくこうしたリファイナンスマップを作った後、どういうふうに社内外で活用していくのかという点においては、財務管理というのは「机上の空論やお勉強」にならない工夫がとにかく必要だという点が大事です。
従業員向けの指標はシンプルでイメージしやすいものがいいかと思います。
こうしたことができるようになったことで、B社は全体が具体的なKPIを根拠に持つことができ、業務を遂行することができたので、昨対比で約9,000万円費用を削減し、売上を上げることができ、利益を創出することができました。
2つ目の事例では、特に社内でどのように使うかがポイントでした。
・事業計画書を中に盛り込んでリーダー社員以上の全員が見れるような状態すること
・それを社長が管理している体制を作ること
・売上や販管費など、費用、在庫や持っている不動産の明細といったもの、さらにその内容を細分化していくことによって、より具体的に、しかし見る場所によってはシンプルに役割を分担して数字を管理してできるような体制を作ること
などができました。
これも一概にリファイナンスマップが融資を見直すだけの書類ではなく、社内の業務を一連に見直すための物として役立つようなことがわかるかと思います。
今回のポイントは、用途に応じて資料が整備でき、それを運用できたというところです。
もちろん、今回のリファイナンスマップを、対金融機関においては強い根拠や情報のコントロールができるような資料として活躍することができます。
適切な相手(銀行の担当なのか、審査担当なのか、それとも支店長さんなのか)に適切な情報を出すことができますし、結果的にB社さんは社内管理をしっかり進めていったというところが第一義的な取り組みだったにも関わらず、この資料を使って融資圧倒的No.1だったメインバンクの地銀から、15億円もらっていた融資枠をそのまままるごと継続することができたというような効果を得ることもできました。
かつ、対社内向けには、理解を得ることができたり、社員の協力体制を作ることができたり、社員一人一人の責任感の醸成を行うことができるといった効果がありました。
ボンヤリとした会社の全体像を、徹底的にかみ砕くために、まずは現状把握のためのリファイナンスマップづくり、そして必要な情報を必要な分だけ、責任を持たせるだけのさらなる資料整備、というところができたからこそ、B社さんは利益を創出することができたんだというふうに考えています。
つまり、リファイナンスマップから得られる情報は社内だけではなく社外でも使えるというところをお伝えしてきました。
〇まとめ
今回は企業再建に必要な融資見直しというテーマでお伝えさせていただきました。
ポイントは、
・自社の現状をリファイナンスマップという資料によって即座に把握していくこと
・現在の金融取引を「出口戦略」から考えていくということ
・今、金融業界の時流が変わらないうちにやっておくこと
です。
A社の事例では、リファイナンスマップの策定により、直接それを銀行と使ってやり取りをすることによって取引を深めていくことに成功していました。
これによって、融資をまるごと見直すことができ、資金繰りを安定させることに繋がりました。
また、B社の事例では、同じくリファイナンスマップを策定しましたが、その使い方が社外の金融機関だけではなくてm社内の財務管理体制の構築に使うことができたので、業務回復の素地を整え、約9,000万円も約半年間で作り出すことができるくらいしっかりと体制を構築し直すことができました。
リファイナンスマップを作ることで、今、A社・B社共に新たな企業成長を迎えるための準備を整えることができました。