2022年電子帳簿法改正で中小企業はどのような対応が必要なのか
【日時】
【インタビュイー】株式会社 リベロ・コンサルティング
代表/税理士 武内俊介(以下:武内)
【インタビュアー】株式会社 船井総合研究所 ライン統括本部
WEBマーケティングユニット 宮井亜紗子(以下:宮井)
宮井:今回は電子帳簿保存法改正、中小企業の経理は何をしたらいいのというテーマで、株式会社リベロ・コンサルティングの代表であり税理士でもある武内俊介先生にお話をお伺いさせて頂きたいと思います。武内先生、よろしくお願いします。
武内:よろしくお願いします。
電子帳簿保存法とその歴史
宮井:2022年に電子帳簿保存法が抜本的に改正されるということですが、電子帳簿保存法とはどのようなものなのでしょうか。
武内:電子帳簿保存法自体は、結構歴史が古く最初は1998年に制定された法律です。
今から20年以上前で時代背景を考えると、クラウドもiPhoneもまだない時代です。
企業に会計システム等が入り始めた時期で、法人税という法律の中では「帳簿や書類は紙で保管しなさい」という規定がされていました。
基本的に7年や9年等対応によって保存期間が違いますが、数年間は必ず保存してください「紙で」ということが大原則でした。
大企業だと紙で保存するのは膨大な量になるので、それを当時はフロッピーやマイクロフィルム等で保存することで場所を縮小化できるよう、例外的な措置として取り入れられたものが電子帳簿保存法です。
2005年のe-文書法の制定
時代が変わっていく中で、時代に合わなくなってきたことと、その後スキャナー等が登場してきたので、2005年にe-文書法の制定に伴い電子帳簿保存法で、領収書や請求書をスキャンした物で保存しても構わないということが追加されました。
帳簿やファイルに綴じていたものをマイクロフィルムに保存するかたちから領収書・請求書をスキャンし電子データで保存するところに法律のメインが移っていきました。
2005年は結構前なので今までなぜそうではなかったのかという気がしますが、スキャンする機械はこれ以上でなければならないとか、領収書が発行されてから何日以内にスキャンしなければいけないという事務的要件が非常に厳しく、中小企業が対応しようという気になれませんでした。
逆に電子で保存するために手間が増えるような法律でした。
また、税務署に「電子帳簿保存法に対応しますよ」という申請を出して、何かあった時に調査を受けて対応しなければいけないハードルが高かったのでほとんど導入している企業はない状態でした。
宮井:2005年まで?
武内:2005年の改正後、最近までそのような感じでした。
だから、「あれうちの会社電子じゃないよ」というのは当然なんです。
対応しようにも法律を読んで「ちょっとこれは…だったら紙で保存しておく」と中小企業はなるという感じです。
私も電子帳簿保存法という名前からすると全部電子でいいのかと思いますが、意外にハードル高く、中小企業さんに相談された時は「多分手間の方が増えるので、引き続き不本意だと思うが紙で保存してください」とアドバイスを最近までしていました。
宮井:そういうことだったんですね。
2017年からデジカメやスマホがOKに
武内:流れが変わってきたのが2017年頃に、デジカメやスマホもOKになりました。
2017年までスキャンしか駄目、でデジカメが駄目だったということがびっくりですが、
どうしても法律は後から追加されていくものなので、ようやく2017年にスマホがOKになりました。
2020年の改正とキャッシュレス決済
これでも申請手続きや事務的要件等のハードルが高く、まだ大変でしたが、2020年の改正で今度はキャッシュレス決済が広まったタイミングで「キャッシュレスなのにレシートを保存する、これは無駄ではないか」という話も出てきてきました。
ようやくクレジットカード、Suica、paypay等で払ったものはそのデータを会計システムに取り込めば領収書はいらないということになりました。
宮井:昨年ですよね。
武内:昨年ようやくなりました。
これは、キャッシュレスを政府が広めるということも2019年から20年くらいにあり、その流れでこうなりました。
結局電子的に保存できるかどうかではなく、法律に求められているハードルが高かったものが下がり、ようやく中小企業も含めて「これなら取り入れてみようか」というものがこの改正の歴史です。
電子帳簿保存法自体は古くからありますが、特にこの2020年改正の注目度が高いというのはやはりその内容によるところが大きいかと思います。
宮井:ぐっとハードルが下がっているわけですね。
2022年の電子帳簿法改正と電子データ保存
電子データで保存しなければいけなくなる
武内:特にこの2022年改正で一番大きいのは電子データ、PDFも電子データだと思うのですが、それで受け取った物は電子データで保存できる、というより保存しなければいけないというふうに法律が大きく変わったところが大きいと思います。
宮井:今度は「保存しなければいけない」になったということなのですね。
武内:当然ながら昔からできている法律なので法人税等というのは紙で保存することが大原則ですが、例外的に電子で保存を認めてあげるというスタンスでした。
ただ今は、メールのPDFでのやり取り等は普通になってきている、むしろ郵送より早いのでそちらのほうが増えてきている企業もあると思います。
そういうものに原則的な対応を変えました。
つまりPDFが原本であればそれをわざわざ紙にする必要はない、「紙にしてはいけません」という内容に変わってきたのは大きな法律的なスタンスだと思います。
昨今の「脱ハンコ」であったり「ペーパーレス」の流れを受けて無駄に紙を保存するようなことをやめるといった主旨の改正になっています。
「紙」のデータの取り扱いについて
宮井:電子データで受け取った物を紙にしてそれを活用するのは、もう完全にNGだということなんですね。
武内:そうですね。
これまで電子帳簿保存法にどう書いてあったかというと、電子データで受け取った物、これが原本の郵送が無い状態です。
これは例外的に紙に印刷し保存したことで原本と同じように扱うことを認めるという書き方をしていましたが、「例外的に認める」が今回なくなりました。
法律的な内容というよりは電子データも原本として認めていいというスタンスに変わったと思えば前向きです。
ただ今まで紙に保存して良かったものが駄目になったと言えば後ろ向きに捉えられるのですが、今でもペーパーレス対応を原則としている企業にとっては、むしろこちらのほうがスタンダードで問題はないかと思います。
宮井:そのような点が改正されると企業としては実際どのような対応を取っていくことになるのでしょうか。
武内:紙については、「原本」という考え方が勿論あると思います。
例えば、ハンコが押してあるものや、一枚ある「紙」これが原本であとは複製ですということです。
電子データに関しては基本的に原本という考え方はなくて、コピーや複製することはそれほど難しくないというところで、法律的には領収書が無限に複製されると困るといったことや、原本でない物を勝手に持ってきては困るという、疑心暗鬼的なところで駄目だったのですが、そういうことが起き得ないなというところが見えてきました。
今は二つの方法で電子データを原本扱いする方法が認められています。
タイムスタンプについて
一つは、タイムスタンプです。
いつ誰が保存したのかということを電子的に証明する「電子のハンコ」です。
PDF等に付与して保存することにより、いつ保存したのかはここで証明されます。
電子データについてると原本扱い、証憑書類としていいことになります。
ただこのタイムスタンプは中小企業にとって導入することは簡単ではありません。
中小企業が使っているシステムにタイムスタンプを付与できる物は基本的にはないので、これをやるとすると、タイムスタンプが付与できるシステムを作ったり等新しい物を入れないといけないというハードルがありました。
今回の改正によりタイムスタンプに代替できる条件が出ました。
それが、
電子データを保存した日程等がしっかりと記録されて且つ、削除するときちんと記録が残る等「改竄が不可能な状況」であることで、取引日や金額というもので検索した時にすぐに書類が取り出せるような状態で保存されていれば良いですということに大幅に改正されました。
タイムスタンプと言うと面倒くさいなという考えがあったが、システムに保存して削除しても履歴が残ることや、日時を勝手にいじることができないと担保され、且つすぐに出せることが担保できればOKと大幅に緩和されました。
そのため、システムを何とかしなければいけないというハードルが下がったかと思います。
クラウド会計について
宮井:今クラウドのシステムが結構でてきていますが、基本的にはそういう機能が付いているということですか。
武内:所謂クラウド会計と呼ばれてるもので、領収書や請求書を添付できるシステムが増えていますが、使って頂くと分かると思いますが、ファイルを「添付しました」「保存しました」「何月何日 誰」というデータが記録されるのですが、これらは当然こちら側で勝手に変えることができませんし、もし削除するとログが残るのでこの要件を満たしていると考えられます。
取引日時や金額はPDFの中に入っていますが、セットで仕訳の情報を入力すると思うのですが、検索すればこのファイルが出てくる状態になります。
とはいえ、実際これによる税務調査がない状態なので、現状は「おそらくそれでいいだろう」という感じではあります。
このような形で保存していれば問題ないので、既にそういう対応をしている中小企業にとっては新しく何かをする必要なく、今までのクラウドシステムを使って基本的に要件が満たせると考えて良いのではないかと思います。
宮井:逆にクラウド会計を使っていない中小企業の場合には、もしかしたらそのシステムを変える必要もありますか。
武内:クラウド会計を使っていない場合だと、Googleドライブ等のクラウドストレージに保存した上で、各管理表のようなExcelのファイルで表を作ったり、ファイル名を工夫して対応していくことになるかと思います。
正直、クラウド会計はそれほど中小企業にとって高い物ではないと思うので、これを機に導入を検討する方が自然なのかなと思います。
どうしてもそこが難しいのであれば、今あるシステムやファイルサーバーの中できちんと記録を残していくことをお勧めします。
悪いことしてないですよというのであれば、必要以上に恐れることはないので、法律の趣旨に通して考えるならば、真っ当に対応していくことで、概ね用件が満たせるのではないかと考えます。
宮井:その他で中小企業でボトルネックになりそうなことはどのようなことがありそうでしょうか。
電子帳簿法改正に乗じてクラウド会計の導入を!
武内:必要以上に恐れる必要がないという話をしましたが、逆にこれを機にそれを煽ろうという動きも色々なところで起こっています。
例えば先程の、電子データを受け取ってしまうと色々な検索ができるようになるとか、そういうことが求められるので「郵送に戻しましょう」という逆行するアドバイスをする方もいます。
もしくはこれに乗じて、電子データを保存するためにうちのシステム導入しないと対応できませんよなどの少し煽り気味に販売を進めようという事例も聞きます。
確かに全部を紙にしてしまえば管理は楽ですが、それは勿体ないなと思っています。
今までとやり方は変わるかもしれませんが、折角の機会ですので、どうすれば対応できるか考えていただいた方が、これからの世の中の流れ的にも良いのではないかなと思います。
顧問税理士さんに相談することや、どうしても不安な場合は担当地区の税務署にご相談をいただければ丁寧に教えていただけると思います。
電子で折角受け取った物を郵送に戻すことなく、うまいこと対応してくれるといいのかと思います。
宮井:紙に戻そうと考えてる人もまだいるのですね。
武内:紙に戻そうというよりは、処理が二系統に分かれたり複雑になるということを嫌がるような動きに見えます。
処理が二系統と言うのは、一部は郵送で来ます、一部はメールや添付で来ます、ということをどちらかに寄せたいと思うということです。
宮井:そういうことですね。
武内:電子対応ができずに郵送しか対応してくれない企業がまだまだある中で、この企業を電子対応してもらうよりは電子対応してくれている企業を郵送に変えるほうが楽ということで、分かるのですけど、勿体ないというか本末転倒だなという気がしてます。
宮井:これから間違いなく電子対応が主流になっていく中で、紙のほうに合わせてしまって、もう一回電子対応になりかねないですからね、今後を考えると。
武内:税理士側も高齢化が進んでいることも影響しているのかと思います。
紙の保存が原則という中で税理士をしてきた方々にとっては、急に電子で保存しなさいと言われても対応が難しいこともあるかと思います。
また、良く耳にするのが、紙の場合、封筒にガサッと入れて税理士さんに渡すだけで済んだでいたものが、電子になるとファイル名を変えて書類をExcel表に打ち込んでとなるので、「面倒くさい」ということになってしまいます。
そういう立場も確かにあるかとは思いますので、残念なことにならないようにしたいと思います。
宮井:今は過渡期だからこそ整理の仕方も会社内でルールが決まっていないこともありますので、大変に感じられるかもしれないですけど、頑張ってもらいたいところですね。
デジタル化は業務を見直すきっかけになる
武内:例えばLayerXさんはそういう動きを懸念して、中小企業であれば無料で電子帳簿保存法対応のシステム解放しますという動きも出てきています。
おそらく郵送に戻そうということは誰も望んでいませんが、色々な判断でそういうところが起きないようにしようという措置は、多分LayerXさんだけではなく他の事業者さんも対応すると思います。
そういった情報をうまくキャッチアップしていただいて、本当に電子対応というものを進めるてほしいです。
且つ、私としてお願いしたいことは、これをきっかけに今までのやり方が本当に最適だったのか見直すきっかけにしてもらえればと思っています。
例えば、先程の封筒にガサッと入れて渡すというようなことが昔からあります。
それは分かりますが、果たしてそれが自社にとっていいことなのか、税理士側からするとガサッと送られてくる、そうすると処理に時間が掛かるのです。
月次決算などはできれば毎月10日やそれくらいで終らせたいのですが、そもそも封筒がガサッと送られてくるのが10日前後だとすると税理士のほうで処理するためにそれを整理して日付順に並び変えてというように結局時間が掛かってしまいます。
そのようなことで余分な手間が掛かかることで顧問料に跳ね返ってしまっていたり、経営判断になる数字が出るのが遅れたり等の相応のデメリットはお互いに被っているはずです。
この機会に電子化すると「顧問料もっと見直してもらえませんか」とか「その日数もっと短くできませんか」等の話ができると建設的ですし、そのために少し手間が増えるような気がしますが、こちらの手間は減るのではないですかというような話で事務処理の効率化の見直しのきっかけになると双方ハッピーなのかと思います。
今までのやり方が楽だった現状維持のほうが楽というのは分からなくはないのですが、折角ハンコがなくり紙がなくなっているのに、またここで郵送が登場するということは本当に多分税務当局としてもやってほしくないことだと思います。
この辺も税務調査がきてみないと分かりませんが、少し不備があったからといって「その青色申告を取り消しますよ」とか「税金を多めに課せられますよ」といった厳しい対応は取らないと思います。
法律が電子化のほうに寄せようとしているので、今までのやり方を見直すきっかけだと思ってもらい、少し手間はかかりますが電子的な保存をし、そうすれば事務的に効率化もできますし、社長に対して「これを機にクラウド会計入れましょう」ということが経理の方としてできると非常に良いのではないかと思います。
宮井:確かに武内先生のおっしゃる通りデジタル化は業務を見直さないといけないというので二の足を踏んでしまいますが、業務を見直すきっかけと思っていただいて、ぜひ導入してもらいたいとお話しを聞いていて思いました。
武内先生、今日は参考になるお話、どうもありがとうございました。
武内:どうもありがとうございました。