〇はじめに
今回の記事では、
・「日本におけるDXの時流」
・《DXの本質と推進のポイント》
についてお話をさせていただければと思います。
〇DXとは
それでは早速本題に入らせていただきますが、
DX(デジタルトランスフォーメーション)は
新聞やニュースなどで耳にしない日はないですが、
この思想はスウェーデンの大学教授が提唱した考え方になります。
この思想の定義は
「ITの浸透が人の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
というものになります。
このようにかなり大まかにはなっていますので、
こちらをよくかみ砕いて自社の経営に落とし込んでいただく際には注意が必要です。
〇経済産業省のDXの定義
経済産業省も定義を出しておりますので見ていきたいと思います。
内容としては
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、
顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、
業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
となっていますが、国が出している定義は分かりにくくなるのが常です。
そこで、重要なポイントを個別に少し抜粋しておりますが、
一つ目は
・顧客視点で有益な価値を創造するためのビジョンを経営者が経営方針として明確にすることです。
DXは顧客体験として顧客が価値のある体験や新しい体験をすることが大事になりますので、そのためにビジョンの明確化が必要になります。
二つ目は
・号令をかけるだけでなく、ビジネスモデル・業務プロセスを明確にした仕組みを構築することです。
DXはビジネスモデルや業務がデジタル技術によって変わっていくことなので、定義をしなおして構築していく必要があります。
三つ目は
・①リアルタイムデータ②迅速な変化対応・適応③部門を超えた全社最適化をITツールを活用した状態で満たすことです。
それぞれ個別に解説させていただきます。
①はリアルタイムでデータを活用できるか否かということです。
②は迅速な対応や適応ができなければ変化の激しい昨今では生き残ることができませんので、変化に対応できるように柔軟な仕組みをつくる必要があります。
③の部門を超えた全社最適化は本当に大事なことで、部門ごとに様々なシステムが入ってしまうと、部分最適にはなりますが、全体最適になりませんのでそこには注意する必要があります。
そして、「DX推進に必要な経営体制と仕組み」と「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築」についても経済産業省から指標が出ていますので、参考にしていただければと思います。
この二つの中でも特に「DX推進に必要な経営体制と仕組み」は定性的な指標として、経営者のビジョンや経営トップのコミットメント、仕組みとしてはマインドセットや企業文化、
推進やサポート体制、人材育成や確保、そして、企業への落とし込みが枠組みとしては必要だと思います。
そして、取り組みのPDCAを回していかなければならないので、定量的指標を見ながら成果をみて改善をしていく必要があります。
右側のITシステムの構築に関しましては、やはりITを活用してDXを実現していくので、
システムに求められる要素やデータの活用方法などに対するロードマップを作成していかなくてはいけませんし、体制を含めたガバナンスの面もしっかりしなければいけません。
この辺りは国が出している指標の中でも参考にできると考えています。
〇DX推進習熟度の定義
そして、DXの推進という意味で、どのようなレベルであればDXを推進していると言えるのかですが、こちらも基準が出ていまして、恐らくレベル0の未着手はさすがに少ないと思いますが、レベル1のデジタル戦略に対して全体最適の施策はないけれども、部門ごとのように散発している状況がまだまだ多いと思います。
こちら徐々にレベルを上げていかなければいけませんが、まずはレベル1を目指していただいて、レベル2で会社の戦略に基づいて進めていただいて、レベル3では部門横断的に進めていただいて、レベル4の会社戦略に基づく持続的実施を目指していただきたいです。
レベル5はUNIQLOのような企業のレベルになりますが、グローバル市場におけるデジタル企業ということですが、まずはレベル4を目指していただきたいです。
〇海外のDX事情
DXの時流という意味で国の話をしましたが、基本的に日本のDXは遅れていると言われています。
では海外のDXはどうなのかということと、実際になぜ日本のDXは遅れているのかについてお話をさせていただきます。
実際に海外のDXは進んでいます。
それはなぜかと言いますと、海外ではOMO的発想というのがありまして、OMOというのはOnline Merges with Offlineの略称になります。
要するにオンラインとオフラインの融合です。
しかし、オンラインとオフラインの融合と聞くと皆様は円が重なる図を想像して、オンラインとオフラインにおいて重なる領域があることを想像すると思いますが、そうではなくて大前提としてオンラインがあって、オンラインの中にオフラインが入っているわけです。
ですので、オンライン前提でビジネスを組み立てる動きが海外では先行しています。
日本ではリアルがまだまだ優先されています。
しかし、徐々にではありますがOMO的発想が進んできています。
例えば、海外のグレートカンパニー視察セミナーで出てきた、アメリカのワービーパーカーというメガネ店では、店舗で物品の購入ができません。
店舗はあくまでも試着や相談などの消極的な位置づけで、決済は全てオンラインになっています。
このようにオンライン前提でビジネスモデルが組まれていて、一部リアルもあるというイメージです。
中国のアリババグループが展開している「フーマー」というスーパーも同様で、一つだけ現金対応のレジがありますが、決済は基本オンラインで宅配も手掛けています。
このように3年ほど前から海外では、この状況ですので今ではさらに進化していると思いますが、日本と違うのはオンラインが大前提で、オフラインはおまけ程度のイメージだということです。
そして、システム導入の面でも、日本と海外では考え方が違っています。
例えば、欧米などを見てみますと、システムに業務を合わせていくという側面がありますので、システムをなるべくカスタマイズせずに業務をシステムに合わせていくことで、業務改革にもつなげていくという発想ですが、日本の会社の場合は、業務にシステムを合わせてしまいます。
これを行ってしまうとなかなかシステムの良さを引き出せませんし、業務改革もできませんので、日本がシステム導入の面で遅れているのは、この考え方も影響していると思います。
最後に欧米と日本の決定的な違いですが、それはエンジニアの皆様がどこに所属しているかです。
欧米企業の場合は、自社でエンジニアを抱えていて迅速に改善や変更を行えますが、日本ではシステム会社にエンジニアを外注している企業が多いです。
今後はスピーディーな改善や変更ができなければDXの推進がなかなか上手く行きませんので、皆様もこれから先、エンジニアの採用や教育は必ず行う必要があると思います。
このような状況なので少し遅れていますが、これから徐々に変えていきたいと考えています。
〇日本の先進DX事例紹介―老舗和洋菓子店「AI来客予測」
こちらの事例は福井にあります老舗の和洋菓子店になります。
老舗の和洋菓子店さんは、なかなかAIや最新テクノロジーなどとは縁遠いイメージがあると思いますが、AIを使って来客予測をしています。
最適なシフト管理や食材発注量の調整を行っています。
そして、AIに何を読み込ませているかと言いますと、過去の客数データや気象情報、イベント情報などを入れることで日々の来客数を予測してくれるので、それを基にシフトの最適化しております。
そのおかげでしっかりと休みが取れるようになりましたし、およその来客数が分かれば食材の仕入れ量も調整でき、食品廃棄を減らすことができますので、活用しています。
来客予測についてはカレンダーに月間の来客予測をしております。
今までは勘と経験で大まかに行っていましたが、来客予測を活用することで、最適なシフト管理ができるようになっています。
そして、時間帯別の来客予測もできるようになっています。
こちらの的中率は93%となっておりますが、こちらが分かると追加発注をする手間などがなく前日にまとめて発注ができ、廃棄ロスも削減できますので活用している会社が増えています。
なので、これからは中小企業といえどもAIやデジタルを活用して経営の効率化や業績アップにつなげていくことができると思います。
〇DXは目的ではなく手段である
DXをする際に失敗しないポイントについてご説明させていただきます。
これはよくある話ですが、
DXは手段であって目的ではないということです。
DXすることを目的にしてしまうと失敗してしまいます。
よくある相談としては使用ツールのご相談ですが、それは使用する会社によるとしか言えません。
失敗してしまう会社はこのような相談が多いのですが、本来は実現したいことに対して、
このようなKPIを取っていきたいという思想に対して、それならこのツールがおすすめですというような、あくまでもDXは手段なので目的を明確化する必要があるというのが一つ目です。
〇DX推進の失敗事例
そして、よくある失敗事例としては、
部門ごとにバラバラのシステムが入っていることがあります。
様々な業務があると思いますが、それぞれに適したシステムを導入してしまうと、それぞれのシステムがつながっていなかったり、それぞれのシステムに入力しなければいけなかったりの問題が出てきますので、なるべくシステムは統合するのがいいと思います。
そして、RPAを導入する際には、全体設計をきちんと行ってから導入しなければ混乱してしまいますので、その辺りも注意して行っていただきたいです。
〇ここまでのまとめ
本日お話をさせていただきましたが、船井総研ではDXにおいて三つの要素が大事であると考えています。
①にこれは当たり前ですが、業務の効率化です。
そのために紙からデジタルに移行していただきたいです。
②が新しい価値の創造です。
これはCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上でそのためには顧客体験と顧客体験の価値向上をDXしていくことで狙っていく必要があります。
③は業績の向上です。
業績が上がらなければ意味がありませんので、業績を上げていくわけですが、特に人時生産性というキーワードを使っていますが、これを分かりやすく言いますと1時間当たりの粗利になります。
こちらを、デジタルを活用することによって上げていくことが大事で、これら三つが揃っていなければDXとは言えないと考えています。
〇DX を進める上での壁
DX を進める上で壁も存在していると考えていまして、今回の講座の中でもいくつか出てきましたが、
①は全体最適の視点で相談できる方がなかなかいないことです。
これはシステムや業務のことが分かっている方がいなければいけませんが、なかなかそのような方はいません。
そのような方がいないので部門ごとにバラバラのシステムが導入されてしまいます。
これは②システムやデータが連携していないことにつながります。
③はデジタル化を推進する中心人物がいないことです。
特に中小企業だとその傾向が顕著です。
そして、最後の④ですが、目的があいまいなまま進めてしまうことです。
目的があいまいだと失敗しやすいです。
この辺りの課題をしっかりとクリアしていく必要があると考えています。
〇DXの目的
続いてDXの目的ですが
これは会社ごとに違うと思います。
ですが船井総研では
少なくともスライドに記載の三つは目的として、定めておきたいと考えています。
①は先ほどもありましたが人時生産性の向上です。
これはいかに少ない労働時間で、最大の粗利を稼ぐかというテーマです。
これはこれからの日本企業全てにとって、重要なテーマだと考えています。
こちらをしっかりと測定して、しっかりと上げていくことにチャレンジしていただきたいです。
続いて②がリアルタイム経営です。
皆様の今の経営状況が、お手元のスマホで、一目で分かるようになり意思決定も速くなりますので、そのような状況にしていただきたいです。
②ができますと③のデータドリブン経営につながるのですが、データドリブン経営ということで、勘と経験ももちろん大事ですが、データにも基づいた経営をしていただきたいです。
〇DXする上で忘れてはならない視点
そして、よくある失敗事例としては、
部門ごとにバラバラのシステムが入っていることがあります。
様々な業務があると思いますが、それぞれに適したシステムを導入してしまうと、それぞれのシステムがつながっていなかったり、それぞれのシステムに入力しなければいけなかったりの問題が出てきますので、なるべくシステムは統合するのがいいと思います。
〇DX推進の失敗事例
そして、DXする上で忘れてはならない視点を、もう一度改めてお伝えさせていただきますが、
①は粗利を上げること
②は総労働時間を減らすこと
です。
この2点を忘れないでいただきたいです。
こちらをしっかりと意識しておくと成果が出せますので意識していただきたいです。
イメージとして人時生産性を3年かけて1.5倍にしたい場合には、粗利を1.2倍にして
総労働時間を0.8にすると実現できます。
そのような発想で人時生産性をデジタルを活用してあげていただきたいです。
そして、粗利を上げるという観点で考えた際にLTV(生涯顧客価値)を上げるための案やVIP客にきちんと対応しさらなる利益を生める仕組みになっているか否かなどの視点で考えていただきたいです。
そして、総労働時間ですが、時間と手間がかかっている業務は何なのか、資料作成と集計が自動化できないか、ある時期の残業時間をシステム活用することで、なくすことができないかなどの視点で考えていただければと思います。
今回はデジタルの大きな時流についてお話をして、注意すべきポイントについてお話をさせていただきましたが、経営に役立つDXをしていただきたいので、このような視点を頭の隅にでも置いていただければと思います。
ご清読いただきましてありがとうございました。