【講師】株式会社 船井総合研究所 財務・IPO支援部 マネージャー 谷 翔太
【講師】株式会社 船井総合研究所 財務・IPO支援部 兼島 菜緒
今回は、経営者が取り組むべき財務対策についてお話をさせていただきます。
財務戦略方針ととるべき財務対策
財務面で対応していくためには、どのようなことをすべきかというと
・まさかへの備えを十分にしておくこと
・仕入力・投資力を高めること
・利益や資金の管理力を高めること
この3つが大きな2022年の財務戦略の方針として必要になってきています。
具体的に何をしたらいいのか、取るべき財務対策として5つ挙げます。
・引き続き現預金は厚めに持つ
・戦略的に投資を進める
・金融機関取引を見直す
・経営管理力を高める
・補助金・助成金を活用する
財務の基本スキルを身につける
「対策はわかったけど、実際にやり切れるか不安」という経営者の方も多いと思います。
ですから、財務対策の実行力を上げるために、財務の基本スキルをしっかり身につける必要があります。
財務の基本スキルとは
・決算書が読める
・事業計画が作成できる
・資金繰り表が作成できる
・正しい資金調達の方法を知っている
・キャッシュフロー強化の手法を知っている
などが挙げられます。
資金繰り表をつくるメリット
資金繰り表とは、損益計算書や貸借対照表からは把握ができない「お金の流れ」を表すことができるものです。
資金繰り表がないと何が問題なのかというと、お金の流れが読めないことです。
例えば、資金繰り表がない状態だと、入金遅れ等が発生して、固定費の支払いや借入の返済ができなくなってしまうという事案が出てきます。
ですが、しっかりと資金繰り表を作成していると、借入を行い資金ショートを前もって防ぐことが可能となります。
さらに、資金繰り表がないと最適な投資のタイミングや投資の金額というのが不明瞭なまま進んでしまいがちですが、資金繰り表があると自社に最適な投資のタイミングや投資額を可視化することができます。
また、PLやBSの管理はしているけれど成長できないというような企業が資金繰り表を作成すると、お金の流れをつかむことが可能になりますので、中長期的な成長も可能となってきます。
よくある悩み
よくお聞きする社長の「お金」の悩みとして、以下のようなものが挙げられます。
例えば、「損益計算書で利益が出続けているのに、会社のお金は減り続けている」という企業の場合。
借入金の返済は、損益計算書には計上されていません。
ですので、損益計算書だけでは、会社に残っているお金を把握することができなくなってしまうため、しっかりと資金繰り表を作成することが重要となります。
また、「建物を購入したいけど、購入しても今後の資金繰りが大丈夫なのかわからない」という悩みを抱えている方もいるかと思います。
資金繰り表を作成していれば、半年後や1年後まで資金繰りが予測可能となるので、しっかりと資金繰り表を作成した上で、投資の判断をするというのが重要なポイントとなります。
資金繰り表の構造
資金繰り表は、損益計算書と貸借対照表の両方の要素から成り立っています。
経常収支というのが、いわゆる営業の中での入出金のデータを表す数値です。
まず売上と原価に関わる項目に関しての数値入力において注意いただきたいのが、例えば入金の場合、1月の入金イコール1月のP/Lの売上とは限りません。1月に入金されている額というのが1月の入金額になりますので、実際に入金されている額を記載してください。
また、出金も同様で、1月の出金がイコール1月のP/Lの原価ではありません。
ですので、1月に実際に支払いをした額というのが1月の出金となるというような形になります。
資金繰り表では、どちらもP/Lに計上されている額ではなくて、入出金がされた実際の金額が入るということがポイントとなっています。
続いて、販管費項目に関してですが、販管費については先程とは少し違い、当月のP/Lの販管費の額がそのまま入るような形になります。
ここで注意いただきたいのが減価償却費ですが、こちらは実際に支払いを行なっていない費用になるため、減価償却費分はプラスしてください。
経常収入と経常支出、それぞれ代表的なものを挙げます。
経常収入
・売上や売掛金の回収
・受取手形の入金
・前受金の入金
・その他入金
経常支出
・現金仕入
・買掛金支払い
・支払手形決済
・未払金支払い、給与、経費
などが含まれます。
続いて、経常外収支、財務収支についてお伝えします。
経常外収支
形状外収支は、先程とは逆で、営業とは関わりのない入出金のことを示しています。例えば固定資産の購入費用や、支払利息、保険の解約返戻金などが含まれます。
財務収支
財務収支に関しては、金融機関からの借入を主に示しています。
資金繰り表の作り方
資金繰り表は簡単に言うと、予定表×実績表です。
予定表というのが、入金と出金の予定というのを記入していて、会社にいつ、いくらお金があるのかを把握できるものになっています。こうすることで、お金がなくなるタイミングが予測できるので、突然の資金繰りショートを防ぐことが可能となります。
さらに、実績表に関しては、いつ・何が・どのように変化して数字が増減したのかということを月単位で把握できるものとなっています。予定表との誤差というところから経営の改善に活用できます。
予定表に関しては、基本的にP/Lの計画から引用して入力し、実績表に関しては、実際に出てきた月次の試算表の数字というのを入力します。
では、資金繰り表の作成の中で、どのような順番で記入すればいいのかというところですが、下記の①番から⑤番のような形で入力するのがよいとされています。
①現預金残高
②損益計算書(P/L)の販管費
③月々の借入の返済額・借入額
④売上・原価にかかわる入金・支払
⑤その他の入金・出金
なぜこの順番で入力するかというと、入力がしやすい項目から順番に入力していく形になっているので、このような順番になっています。
資金繰り表の活用の仕方
資金繰り表を活用できることとして、大きく2つ挙げられます。
1つは、金融機関に提出を求められた際にすぐに提出ができるというような状態です。
融資の打診をした際に、金融機関から資金繰り表を求められることが多くなってきています。
コロナの融資が始まってから資金繰りを重要視する金融機関が増えてきているので、「資金繰り表を提出してください」という要望を受けたことのある会社もあるかと思います。前もって自社で作成しておけば、すぐに提出できるというような形になります。
もう1つは、資金繰り表を活用して自社の財務の管理を行なうことが可能になります。
突然の資金ショートを防いだり、調達戦略というのを立てるために資金繰りの管理をすることは非常に重要です。
持続的成長のための財務サイクル
持続的成長のための財務サイクルについて、説明していきます。
持続的成長を実現するために財務面で取り組まないといけないこととは、
・予算・事業計画の策定
・予実管理
・決算対策
・決算説明
・資金調達
です。これらの取り組みをぐるぐると回し続けることが、持続的成長のために財務が取らないといけないサイクルです。
予算・事業計画策定
B/S、P/L、資金繰りキャッシュフロー、これらの予算と計画を作りましょう。この1年の会社の取り組みや目標をきちんと数字に落とし込むというのが、財務、持続的成長を実現していくためのスタートになります。
その上で、作った予算や事業計画の実現可能性をしっかり高めていくために、月次ベースで計画に対して実績がどうだったかという検証をしっかりとやっていきましょう。
計画の進捗を月次できちんと管理することで、目標達成の実現性を高めることができるということです。かつ、この予実管理をすることで、決算の着地予測というのができるようになります。そうすると、例えば今月以降いくらぐらい使っていこうかというような判断をしたいときに、いくら使ったら今期の決算着地はこうなる、利益はこれぐらい残るといったことが見える化されるので、非常に判断がしやすくなります。
決算対策
決算対策というのは、ただ単に節税対策ということではなく、きちんと来年以降も必要な資金を調達できる、必要な投資ができる財務を作っていくということになります。なので、決算の1年前、まず計画策定の段階できちんとゴール設定をしましょう。要は、今期どれぐらいの利益を出すかというゴール設定です。
その上で、予実管理をしながら毎月着地予測をしていき、決算の1カ月前ぐらいに、直前の対策としてきちんと適切な評価をされるための決算書を作成していきます。
年間でスケジュールを立てて、決算書対策を行なって、資金調達がより柔軟、自由、よりやりたいようにできるような環境を作るというのがこの決算対策の目的になります。
決算説明(金融機関・社内)
決算ができあがったら、きちんとその決算の内容を金融機関や社内に報告します。特に金融機関の報告で注意しないといけない点は、現状の報告だけではなくて、それを踏まえて今後どういうことをやっていくのかというビジョンもしっかり伝えていくということです。
資金調達
決算の説明もした上で、いざ今期必要な資金をしっかり調達していこうということですが、ここで重要なのが、必要になってから資金調達をするということを脱却していかなければ、ちゃんと必要な投資ができないということです。
事業成長していく時は、どうしても事業が成長してキャッシュが生まれる前に、費用・キャッシュが先行して出ていってしまいます。成長すればするほど、キャッシュが不足するということがよく起こります。なので、1年間で必要となる資金を年度初めに固めて調達してしまうという先手の資金調達を行なっていくことで、安定した成長や投資を実現することができます。
これらの5つの財務対策のサイクルをしっかり回していただくことが、ぜひ皆さんに実行していただきたいことです。