【講師】株式会社 船井総合研究所 中西叶、草深大貴、鈴木浩史
シェアアップのためには資金需要が発生する
日本の人口は2020年から2050年にかけて3000万人減少するということが予想されています。
縮小していく国内市場の中で、もし何もしなければ市場規模につられて市場シェアも縮小してしまうので、自社のシェアも縮小していく可能性が高いです。
シェアアップしていくためには事業規模の拡大が必要になっていくのですが、事業規模の拡大にはどうしても資金が必要になってきます。
例えば、
・事業規模拡大のために店舗数を増やす
・人材を採用する
・製造業であれば自社の工場を建設していく
・広告宣伝費を増加させて認知度を高める
という戦略でシェアアップするという方法が考えられます。
しかしいずれの施策においても資金需要が発生します。
金融機関の活用がうまくない企業とは
金融機関の活用がうまくない企業には、融資がなかなか出ないということが課題としてあります。
例えば、融資があれば成長スピードを加速させることができるとわかっていても、融資額を増やせないといった現実があります。
また、同じような条件にも関わらず、融資額を最大限引き出せる企業とそうでない企業というのが、残念ながら存在します。
融資を最大限引き出す方法を知ることで、競合よりも優位になることができます。
融資を引き出せない企業の4つの特徴
・融資金額を伸ばすために様々な銀行から融資を受けている
・取引のバランスは気にせず、とにかく貸してくれる銀行から融資を受けている
・利益が黒字なのに、なぜか銀行が融資額を増やしてくれない
・決算書を銀行に言われるがままに提出している
このような企業に関しては、なかなか融資を引き出せていないのではないかと思います。
メインバンクを選定し資金調達に成功した事例企業の取り組みポイント
まず一つ目のポイントとして、金融機関取引を俯瞰して自社を最も評価してくれてる金融機関やメインバンクとの取引を深めることが非常に重要です。
金融機関の融資取引のマップを整理して、どこが自社を最も評価しているのかというところを、信用残高で見て分析していくことが重要になります。
二つ目のポイントとしては、金融機関との取引を深めるためにはウィンウィンの取引関係が必要であるということです。
融資の残高だけに目を配るのではなく、預金もしっかり見るということも重要になります。最近では「採算」ということが金融機関にとっても重要な要素になってきているので、
・売り上げの入金をどこの口座で行っているか
・振り込みはどこの口座に行っているか
・社長の個人取引(カードや投資信託等)をどこの金融機関で行っているのか
というところも非常に重要になってきます。
それらを分析して金融機関との取引を深めていくことが重要です。
三つ目のポイントが、金融機関が知りたい情報を押さえて資料を作成し、金融機関に自社のことを理解してもらうということです。
金融機関は担当者だけでなく、様々な方が審査に関わります。
ですから、しっかりと自社のことを理解してもらうためには「書面にする」ということが非常に重要になります。
つまり、作成した事業計画や、今後の取引店舗等に関して、しっかりと資料化して提出することが重要になってきますし、金融機関に自社のことを理解してもらうために事業計画を作成して、今後の展望を示していくことが重要になってきます。
今回のケースでは、借り入れの増加に伴い債務償還年数が悪化したことがポイントになっていました。
もし、このように課題が明白であれば、そこをしっかりと改善していくということを事業計画で説明して、自社のことを理解してもらうことが重要になります。
融資が悪化する2つの背景
融資が悪化した原因としては
・借入総額の増加による銀行格付けの悪化
・メインバンク不在による間違った取引バランスの展開で、金融機関内での採算の悪化
この2点が背景として存在しています。
背景1:銀行格付けの悪化
まず、借入総額の増加による銀行格付けの悪化による融資停滞の要因を解説します。
借り入れの総額が少しずつ増えていったことにより、銀行格付けの三つの指標の中の一つである、償還年数が悪化しました。
そのため、せいで銀行格付けの悪化が起きました。
銀行格付けの悪化が起きると、融資額を増やすことはできないので、融資が停滞したと考えられます。
背景2:金融機関内での採算の悪化
二つ目の要因は、メインバンクの不在による間違った取引バランスの展開で、金融機関内での採算の悪化が起こったことです。
今回のトピックの中でメインバンクと採算の悪化という二つの重要な言葉が出てきました。
本来、メインバンクが取引を集中的に確保して安定的な支援をすることで、各銀行に対して安心感を与えないといけなかったのですが、メインバンクがいなかったことによって、間違ったバランスの取引が展開され、金融機関内で採算が悪化していました。
メインバンクがなかったために、本来支援をするべき銀行が動けず、結果、全行がお見合いした形になり融資が停滞しました。
金融機関対策の事例
そこで、金融機関宛の対策を、A社の場合、3つ実施いたしました。
1. 事業計画の策定と提出。そして、金融機関とその今後のビジョンを共有したということ。
2. 融資取引状況の整理をすることで、メインバンクとなりうる金融機関を選定したということ。
3. 銀行取引一覧表にて取引の再配分の可視化をしたということ。
1.事業計画の策定と提出
規模感のあった金融機関を選ぶべし!と記載していますが、こちらの表(動画内08:08参照)は、売り上げ規模に対しての金融機関の適正なポジショニングとなります。
上からいくと、メガバンクは、売上100億前後の企業をメインの顧客として考えます。
地方銀行は、売上20億から70億の企業を、主な顧客層、メインの顧客層と考えます。
信用金庫と信用組合も売上5億から10億の企業をメインの顧客層として考えているわけです。
この法則から考えると、今回のA社の売上が2億5000万だとすると、売上5億程度の企業を顧客層としている金融機関がちょうどいいということになります。
つまり、信用金庫、信用組合というのが、最も規模感の合う金融機関になるため、今回メインとして据えられた信用金庫X、それに次ぐ準メインの銀行として据えられた信用金庫Yというのが適正な金融機関となるわけです。
地方銀行XとYが金融機関として融資を出さなかった背景には、この適正な規模感ということが影響しております。
地方銀行X、Yの考え方としては、確かにメインバンクが据えられて安心して取引ができる状況ではありますし、銀行の格付けとしても今後良くなることはある程度見据えられていますが、メインの顧客層ではないA社に対して、無理をして融資をしなくてもいいだろうという判断ができてしまうわけです。
つまり、企業から見た大事なポイントとして、しっかり自社の売り上げに見合った地方銀行や信用金庫といった金融機関を選ばないといけないということです。
重要ポイントの整理
今回のA社の事例において、金融機関から見た重要なポイントというのは、以下2点になります。
銀行格付けの改善とメインバンクの存在です。
銀行格付けの改善
銀行格付けの改善とは、事業展望がわかる情報共有をもらうことで、銀行の中での格付け評価を優位に進められる状況ができたということです。
P/L、B/S、キャッシュフロー、それらが連なっている事業計画を金融機関に提出することで、銀行内での格付け評価における三つの重要な指標の一つである償還年数が改善するプランを共有することができます。
そうすると金融機関は、今はあまり償還年数が芳しくないA社でも3年後にはしっかりとした指標を出せる会社になるということが理解できるので、格付けの評価を下げずに維持、または上げる、ということが進められる状況ができます。
事業計画を作って提出することで、金融機関と今後のビジョンを共有し、銀行格付けが改善する。そして、融資が引っ張ることができるということになります。
メインバンクの存在
金融機関との取引バランスを意識することで、自他ともに認めるメインバンクが出現しました。
A社の事例でいきますと、当初は融資残高のシェア的に地銀Xがメインバンクじゃないのかなと思っていたわけですが、これは自他共に認めるというところが欠如していたメインバンクになります。
今回、改めて金融機関をターゲティングすることと取引を集中させるということを用いて、自他共に認めるメインバンクである信用金庫Xを出現させることができました。そして、その信用金庫Xはメインバンクとして、今までよりも採算が改善して、より融資ができる土壌が整いました。
メインバンクというのは企業を経営指導する立場でもありますし、もし何かあった場合率先してアクションを起こすミッションを負っている銀行なので、信用金庫X以外の金融機関からすると、メインバンクの存在というものが安心材料になります。
メインバンクの存在が安心材料となって、他の銀行も追随して融資できる状態になったというのが重要なポイントです。
今回のケースでいくと、融資の取引状況の整理をすることで、本来メインバンクとなり得る金融機関の選定をしました。
そこで浮上してきたのが信用金庫Xであり、実際に今の銀行取引一覧表で確認して、地銀Xに合ったものを、信用金庫Xに集中・再配分しそれを見せました。
これにより、信用金庫Xからみても、メインバンクになっても問題ないという判断ができるわけです。
この金融機関宛て対策の②と③を行って、メインバンクというものを据え置いたことが金融機関から見ても融資をしやすい状況を作ったポイントになります。
成長企業のお金の動き
成長企業のお金の動きとしては、売り上げが上がっていくにつれて必要資金がどんどん増えていくといった形になります。
ですが実際は、一番必要になるタイミングで融資が受けられなくなっていたり、様々な投資により利益率が低下していたりと、実際の資金が必要資金と反比例するような形で進んでいくというのが、中小企業の一般的な資金の流れになってきます。
この資金ギャップを埋めていくために、先行した投資と資金調達の限界という資金ギャップの原因を排除していくことで、必要資金に対してあるべき姿を作り出し、必要資金以上に常にお金を借り入れるまたは、お金が出せる状況を作っていくということが非常に重要になっていきます。
やはり必要なときに必要な条件で借入できる状況を自主的に作ることは非常にポイントとなります。
これから取り組んでいただきたいこと
ステップ1としてまずは現状分析、そして金融機関取引の整理をしてください。
その中で、銀行からの見られ方の確認をしたりですとか、伸ばしやすい金融機関をしっかりと選定していく、まずはここから始めていただきたいと思います。
ステップ2としては金融機関に資金需要を説明するための資料作成です。
そしてそれをもって、ステップ3で金融機関との面談、交渉を進めていただきたいです。
最後に調達を伸ばすためのルール決めということで、金融機関と交渉するだけではなくて、自社ではこういったルールで資金調達をしていきたいという今後の戦略的な財務、そして資金調達戦略を作っていく必要があります。