【インタビュアー】株式会社 船井総合研究所 WEBマーケティングユニット
シニアプロフェッショナル 宮井 亜紗子（以下：宮井）
【インタビュイー】株式会社 船井総合研究所 ECチーム チーフコンサルタント
森本 結佳（以下：森本）
DX（デジタルトランスフォーメーション。以下DX）
成功を阻む4つの壁をテーマに、中小企業がDXを推進するためのポイントをお伝えします。
なぜDXに苦戦する企業が多いのか？
宮井
今、多くの企業がDXに取り組もうとしています。
しかし、なかなか思うように進まず苦戦している企業が多いようです。
DXの推進を多くご支援する森本さんから見て、なぜDXに苦戦する企業が多いのかを教えてください。
森本
多くの企業がDXに苦戦する理由は、4つ挙げられます。
・目的の欠如
・全体最適視点の欠如
・システムバラバラ問題
・DX推進の中心人物の不在
それを、DXの成功を阻む4つの壁と呼んでいます。
DXの成功を阻む4つの壁
森本
第1の壁、「目的の欠如」では、ツール導入が先行しているケースです。
DXをする目的がなく、DXそのものの本質的な目的がない状態です。
第2の壁が「全体最適視点の欠如」です。
部分最適発想では、会社全体のDXの成功を阻んでしまいます。
そして、全体最適視点が欠如した時、第3の壁にぶち当たります。
これを第3の壁「システムバラバラ問題」と呼んでいます。
データ同士が連携していないため、新たなシステムを入れたことで、同じような情報をあちこちで入れる必要が出て、却って非効率敵になってしまうことです。
最後の第4の壁は、体制面の課題です。
DXを推進する中心人物が不在の中で、DXを成功させようとすると苦戦します。
目的は「人時生産性の向上」
宮井
DXを推進したい想いが先行し、目的から見失う企業も多そうです。
ご支援先では、どういう目的を持っているケースが多いですか。
森本
一言で表すと、「人時生産性の向上」に尽きます。
ただ、その取り組みは具体的には、2つに分けられます。
1つ目が、売上をアップさせる“攻めのDX”です。
営業や、お客様との関係管理です。
それに対し、業務効率を改善する“守りのDX”です。
宮井
売上アップのための“攻めのDX”か、業務効率の改善のための“守りのDX”か、あるいは両方進めるかを選択するわけですね。
いずれにしても、「このDXは何のために行っているのか」を常に意識しながら進めないと、道を外れてしまうということですね。
森本
はい。その通りです。
デジタル化の設計図
宮井
ステップ2「全体最適の視点での設計」について質問です。
全体最適の視点を持つために、具体的にどうすれば良いでしょうか。
森本
デジタル化した自社の状態を、少し俯瞰的に整理するところから始めるのが良いです。
それを未来の自社の設計図、“デジタル化の設計図”と呼んでいます。
自社の業務プロセスを、大まかに「集客・営業」、「本業」、「管理」の3つに分けて整理します。
本業とは、受注した後の生産活動や販売活動のことです。
分けた上で、流れに沿って導入すべきデジタルツールを整理します。
データがバラバラにならないように、連携も意識することが重要です。
下図が、デジタル化された自社の少し未来の設計図のイメージです。
最上段は、「実現したい目的・DXによってなし得たいゴール」です。
それをKGIと言います。
宮井
売上アップや、業務効率化、などがKGIですね。
森本
その通りです。
ただし、できるだけ定量的に表現することが重要です。
数値に、人時生産性、売上、粗利、業務の効率化の意味で正味営業時間、をKGIに挙げているケースもあります。
※正味営業時間：実際にお客様と接した時間など、売上や粗利等に貢献している時間
宮井
少し未来とは大体何年後をイメージしたら良いでしょうか。
森本
大体3年が目安です。
宮井
このプロセスに落とし込み、プロセスごとにKPIを立て、KPI達成のために必要なデジタルツールを検討するのでしょうか。
森本
その通りです。
宮井
プロセスを考える時、前工程と後工程、どちらから考えることが多いですか。
森本
前工程から考えていくことが多いです。
つまりマーケティングの集客部分から考えていきます。
その後の流れは、大まかに集客→営業→本業→集金→管理です。
最後の管理DXに至るところまでの一連の流れを、大体8つ、多くて10以内にプロセスを整理することがおすすめです。
導入前段階から全体最適視点
宮井
3つ目の壁の「システムバラバラ問題」について質問です。
日本の中小企業によくある問題だと思います。
個別に業務デジタル化を進めた結果、システムが上手に連携せず、業務プロセスが全く改善しないことが起こり得ます。
そのような課題は、どのようにすれば改善・予防できますか。
森本
デジタルツールの導入前段階で、全体最適の視点で設計をすることです。
その上で、デジタルツールの選定の基準になるべく
・今使われているシステムとの連携の相性
・将来拡張することが可能なシステムか
・今後導入しようと考えているシステムとの連携の相性
・連携の機能は標準で備わっているか
・開発して連携させた実績はあるか
などを確認することが重要です。
カスタマイズは最小限
宮井
DXにお金をかけられる会社ほど、過度なシステムカスタマイズで、身動きが取れなくなる会社が多い印象を受けます。
システムのカスタマイズと、カスタマイズは最小限にして今あるシステムを使う、はどちらが良いでしょうか。
森本
これからのトレンドは圧倒的に
「カスタマイズは最小限にして今あるシステムを使う」です。
大手では、カスタマイズ後のメンテナンスも可能です。
それは、業務が変わる度に、さらにカスタマイズを繰り返していく体力があるためです。
しかし中小企業では、毎回コストが嵩むと、システム導入による効率化で生み出した利益を、次の一手ではなく、メンテナンス保守費用を掛けて続ける悪循環に陥ってしまいます。
そのため、カスタマイズは最小限に留めた上で導入するのがおすすめです。
DX人材に必要な3つのスキル
宮井
4つの壁の最難関は、DX人材の確保だと思います。
そもそも、DX人材に求められるスキルはどのようなものかを教えてください。
森本
DX人材に必要なスキルは3つです。
①自社の課題を把握し、ゴール設定ができるスキル
欠かせないのが、自社のことを、特に自社の課題を理解していることです。
その上で、「どうすればこの課題が解決した」と言えるか、ゴール設定が必須です。
②課題解決に最適なツールの選定＆簡易的なカスタマイズスキル
課題解決に役立つ最適なツールの導入や、その選定に関わり、ツールを提供者とコミュニケーションができることが重要です。
さらに、導入後、メンテナンスを自社内でできるように、簡単なカスタマイズや、設定の変更程度ができるぐらいのスキルは求められます。
➂ツールの運用ルールを浸透できるスキル
現場の生産性をアップさせることに繋がるツールの使いこなし方、つまり、ツールの運用ルールを現場に提案できるスキルもも求められます。
宮井
DX人材に求められるスキルは、1人の方が持ち合わせているべきですか。
それとも、別々のスキルを複数に持っていても良いのでしょうか。
森本
理想は、DXの旗振り役となる1人が3つの素養を備えていることです。
ただし、全ての3つの項目すべてに必ずしも精通している必要はありません。
例えば、専門家に相談した上で、自社にとって最適な方法を判断できれば大丈夫です。
実際に自社内に取り入れる上で、自分の言葉で説明できる程度の理解があれば、必ずしもツールの専門家である必要はありません。
宮井
DX推進に当たって、色々な壁が立ちはだかると思います。
しかし、DXの流れは今後止まりません。
DX是非克服して頂けると嬉しいです。
他にも、最新の業績アップ事例を踏まえて、事業に役立つ情報を発信していく予定です。
楽しみにしていてください。
