環境リサイクル/資源/解体
立原:船井財団が主催する「グレートカンパニーアワード」にて、2014年、『勇気ある社会貢献チャレンジ賞』を受賞された、会宝産業株式会社の近藤典彦社長にお話を伺います。まずは会宝産業株式会社の事業についてお聞かせください。
近藤会長:私どもの事業は自動車のリサイクル業ですね。以前は自動車の解体屋さんと言われたのですが、そこから始まってリサイクル業になって、これからは静脈産業を作り上げようとしています。
立原:静脈産業といいますと。
近藤会長:人間の体は、動脈と静脈が循環することにより健康な体が作られていると思うんですね。我々の産業においても動脈産業と静脈産業があります。動脈産業というのは要するにメーカー側。これまでの資本主義経済の中で、新しいものをたくさん作ってきたと。ところが、その要らなくなったものをどうするかという静脈産業がしっかり構築されなかったために、いろんな気象環境を起こしてきたと思うんです。人間の体でいえば病気みたいなものですよね。だから動脈と静脈がきれいな循環をするような仕組みを作れば、地球環境は良くなるのではないかと。これを循環させることで豊かな体ができるのと一緒で、社会ももっと豊かになっていくんじゃないかなという思いがあります。
立原:なるほど。会宝という社名に込められた思いもおありですよね。
近藤会長:まず「会宝」というのは、会う宝と書きます。まずは、社員の人がいかに豊かになるか、社員たちが宝に会えるような会社を作ろうと。2つ目に、初めてお会いする人を宝のように扱おう。つまり、ご縁を大切にしようということですよね。3つ目は、字は違うんですけどオープンな会社、「解放」していく会社を作っていこうと。つまり正直でフェアな会社、これをテーマにして会宝産業としました。
立原:ありがとうございます。自動車リサイクル業という業界の中で、会宝産業は輸出先が73カ国あります。これは日本の中でもトップクラスじゃないかなと思います。
また、私自身も中古ビジネスをやっている中でいうと、やはり品質の不明確さというところがある中で、中古エンジンで性能評価制度を導入したというのも世界で初めてですよね。
近藤会長:そうですね、これは世界で初めてだと思います。
立原:そういうトップクラスになる中で、ほかの会社さんがやらなかったり、できなかったりというような、多くの取り組みや新しい対策をされていたかと思うんですが。
近藤会長:私が自動車リサイクル業をやって45年になります。22歳から始めたんですが、その頃は正直、ただ単に自動車を解体してお金にすればいいと。けれども現在になると、それだけではいけない。この地球上には11億台くらい自動車が走っているそうです。いかに地下資源を守り、地上資源を有効活用するかというような仕事に変化してきているなと思います。
立原:収益性だけでなく社会性のところまで視点が上がったのは、どのようなきっかけですか?
近藤会長:13年前に、私に初孫が生まれました。本当にかわいいんです。その子ができたときに、多くの環境問題が出てきている中で、本当にこのままでいいのかなと。今では孫が5人います。このかわいい孫たちが大人になった時に、我々のような豊かな生活が、この子もできるだろうかと。我々は高度経済成長下の中で豊かな生活を謳歌した分だけ、その自然に付加をかけてきた。その後始末をしなきゃいけないなと。原発もそうですけど、我々は豊かさを優先して後始末できないものを作ってしまった。だから人間の体と一緒で、後始末をする静脈が必要だろうと。
自動車リサイクル業は車の要らなくなったものをビジネスとして扱っているわけですが、今後は本当の、その循環をする社会システムにまで影響を与えるような産業にしていきたい。子どもたちに本当に豊かな社会を残していこうということから、自動車リサイクル業を静脈産業にまでもってきたいなという気持ちになったんです。
立原:社長は書籍も出されていて、その中でもお孫さんがきっかけになったとありました。ほかにも過去を振り返ってみて、ここが原点だなという出来事はあったんでしょうか。
近藤会長:そうですね。私の父親は味噌こうじ業をしていて、私も継ぐつもりでいたんです。だけど勉強があまり好きではなくて。また、男一人で生まれたものですから、ちょっとわがままだったんですね。それを父親が見て、これではまずい、世間を見て来いということで、東京の江戸川に出ました。そこで自動車リサイクル業に目覚めたんです。
父親は私が東京に出て3年後に脳梗塞で倒れ、帰ってきてくれと。その時、私は父親に「跡継ぎしません。なにも要らないです」と言ったんです。なぜかというと、親父の作り上げてきたものを貰っても、私はきっと無くすだろうなという思いがあったんです。それから、もし万が一、私がそれで成功したとしても、その財産があったから伸びたんだろうって言われるのが、ちょっと自分の中には悔しい思いもあって。じゃあもうゼロから全部自分の責任でやろうと、22歳の時に自動車リサイクル業をやり始めたんです。
立原:早いですよね。
近藤会長:あんまりよく分かっていなかったですね、その時は。一つのビジネスをしながらお金儲けができたらしいいし、金沢には片町っていう繁華街があるんですが、片町でお酒を飲んで遊べたらいいなっていうくらいの考えでしたね。
立原:そうでしたか。ゼロから起業されたわけですが、手に職をつける仕事ですよね。そのモデルになる人、社長のメンターといいますか、師匠がいたのですか?
近藤会長:メンターといえるのは、32、3の頃に出会った浄土真宗のお坊さんですね。その方とご縁がございましていろいろお話をしていく中で、いろんな世界、我々が目にしていない世界のことも話をしてくれて。お話すればするほど引き込まれていくんですね。この人は私の知らないことをいっぱい知っているし、この人といたら自分も豊かになるだろうなと。要するに、心が豊かになるだろうな、考え方が豊かになるだろうなということで、お付き合いしたわけですね。実はその方が会宝産業という社名も作ってくれたんです。
立原:そうなんですか。
近藤会長:はい。もう亡くなられて27年くらいになりますけどね。
立原:船井総研の言葉に「素直」がありますが、社長はまさに、自分にないものや好奇心が強いようにお見受けします。すっと素直に入りやすいという性格なんでしょうか。
近藤会長:自分では素直だとは思っているんですけど、ひねくれている部分もありますよ。だからどっちかわかりませんが、振り返ってみますと、素直な気持ちでやってきたから今があるんじゃないかなというふうには思いますね。
立原:そこは揺るがないところですよね。 社長の書物を読んでいると、二宮尊徳や八田与一の話が出てきますね。それを話だけでなく、行動に移しているなとすごく感じます。そういう意識で新しい情報を入れているんですか?
近藤会長:やはり人間は成長するために生まれてきているんじゃないのかなと思うんです。だから、先ほどのお坊さんの話もそうですけども、自分の知らないことを多く知ることによって、自分を成長させたいという思いが私は強いんだろうと思います。だから、知らないことに常に興味を持つ。船井さんとのお付き合いの中でいえば、舩井幸雄先生も、あっちの世界という話をされますね。そういう興味を持っていましたね。
立原:常に一歩先というか、見えないところに思考がいくのも、そういう精神からきているんですね。
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近藤典彦(こんどう・のりひこ)氏 会宝産業株式会社 代表取締役会長 設立:1969年(昭和44年)5月 所在地:石川県金沢市東蚊爪町1丁目25番地 事業内容:自動車リサイクル、中古自動車部品輸出、販売 http://kaihosangyo.jp/ ※ 企業プロフィールは、受賞当時(2014.8)のものです。 |
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立原崇雅(たてはら・たかまさ) 株式会社船井総合研究所 流通・サービス業を中心に一貫して即時業績アップをテーマとしたコンサルティングに従事。年商1,500万円~1兆円以上の大手電鉄CVSや大手空港売店の活性化プロジェクトの経験を経て、オートビジネスチームに所属。自動車販売ディーラーをはじめ、自動車整備・自動車部品商、新品カー用品店、中古パーツ関連、バイク用品店に至るまで、業績アップのお手伝いをしている。特に現場調査からの、具体的な施策立案を得意にしている。「答えは現場にあり!」を信条に毎日現場へと足を運んでいる。社長の想いを軸に、最短距離で達成できる具体的な施策が経営者から好評を得ている。 |